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【書籍化】転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~  作者: りょうと かえ
対決、悪女対皇女

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25.いなくなった相棒

 翌日、私が起きたのは昼近くになってからだった。


 一歳児の特典はいつまでも寝ていられること。

 目を覚まして一番にソファーを見渡す……そこにモナックはいなかった。


 たまにだけれどモナックは会合で皇宮からいないことがある。

 もちろん帝都の猫ちゃん会合だ。


 ここでモナックは色々な話をするらしい。


(昼からいいでしゅね〜……)


 私も会合に参加したことはあるが、夜にしか寝室を抜け出せない。

 しかも抜け出したところで、周囲を警戒しながらだ。


 昼、太陽の当たるところで思い切りもふもふはできない……。


 もう少し成長したら大手を振って参加できるようになる。

 昼から猫ちゃん会合に参加するのが、私のささやかな夢だった。


 そして身支度を整えて、ソーニャの美味しいご飯を食べたり、玩具(一歳児向けなので、持って振る以外の楽しさがないとても綺麗な棒)で遊ぶ。


 しかし、その日の夕方になってもモナックは寝室に姿を見せなかった。


(……そんなこと、あるでしゅ?)


 モナックの外泊はこれまでもあったけれど、その場合は事前に一言あった。


 ごくりと私は唾を飲み込む。

 もしかして――モナックに何かあったのか。


 夜になり、皆が寝静まってもモナックは戻ってこなかった。

 私に何もなく、外泊は初めてだ。


 まだ周囲はモナックの不在を怪しくは思っていないようだが……胸騒ぎがした私は、夜になって寝室を抜け出して猫ちゃん会合の場に向かった。


 いつもモナックが猫を集めるのは、皇宮の北の公園である。

 芝生がふかふかで、邪魔が入らないからだそうだ。


 もう慣れた道を夜に行く。


(モナック、何もなければいいんでしゅけど……)


 会合場所に行くと、猫が何匹か集まって会議をしていた。

 馴染みの三毛猫ちゃんがいる……。彼女はモナックの右腕のようで、密輸事件の時もいつも手伝ってくれていた。


「ばぶ、あうっ!」


 私が手を振りながら近寄っても、猫ちゃんたちは逃げなかった。

 それどころか大慌てで私に駆け寄ってくる。


「にゃっ! にゃあー!!」

「だぁ……?」


 猫ちゃんが私の服の裾を噛んで引っ張る。今までにない行動だった。


 モナックのことは心配だったが、猫ちゃんの反応も気になる。

 そのまま猫ちゃんに連れられる形で、私は急いで歩いていった。



 猫ちゃんたちが向かっていったのは、方角でいうと東南の方向だった。

 そこには帝国に属するいくつもの建物があるのだが……猫ちゃんに引っ張られた先に私は驚愕した。


 そこは皇宮から少し離れたところにある、薔薇に囲われた豪奢な館。

 グレンダの住まう館だ。猫ちゃんは館に近付くと鳴き声を止めて、隠密行動を促してきた。


 私は頷いて猫ちゃんの先導に従う。

 グレンダの屋敷は厳重な警戒だったが、こちらもスパイ活動はもう慣れたもの。


 所詮、人間の大人を警戒するように仕向けられた警備では私や猫ちゃんを捕捉することはできない。

 館の壁に張り付くと、猫ちゃんはさらに上へ登ろうとしている。


(さらに上へ……でしゅか? これはただごとじゃないでしゅよ)


 壁際の構造は皇宮とほぼ変わらない。まぁ、多分同じ人が同じ頃に作った建物だからだ。

 掴める場所があり、途中には彫像もある。


 よっせよっせと猫ちゃんについて、屋根の上まで来る。


「にゃっ……!」


 鋭く鳴いた三毛猫が屋根をぺしぺしと殴る。ここが重要らしい。


 屋根が薄めのようで、階下からわずかの人の話している音がした。

 全神経と魔力を集中させて、階下で何をしているか私は探ることにした……。



 皇宮の近隣、薔薇に囲われた豪奢な館にグレンダは住んでいた。


「首尾よく行ったのだな」


 グレンダとその父、アルガートは最上階の広々とした一室にいた。


 真珠をあしらった彫像、金と銀のゴブレット、壁にも金糸のタペストリーが並び、家具にも象牙が惜しげもなく使われている。


 この部屋はグレンダとアルガート、信用できる使用人だけが入れる部屋であった。


 部屋の中央でグレンダは得意気になっている。


「ええ、ご覧の通り」


 大理石のテーブルの上には、モナックがいた。


「にゃうーん……」


「ふふっ、そうしていると可愛らしいわね?」


 弱々しい鳴き声の元は、首輪とそれに繋がった魔力の鎖のせいであった。


 グレンダの黒の魔力が凝縮され、身動きが全くできないのだ。

 できるのは、ほんの少し鳴くことだけだった。


「この黒猫めが、散々我らを邪魔してきたのか」


「間違いありませんわ。私たちのお仕事の現場に、必ず猫がいたのですもの」


「無害で無力な猫だと思っていたがな。お前のせいで、どれだけ損をしたことか!」


 アルガートがモナックを平手打ちにしようとする。


 ぎゅっと目をつむったモナックだが、平手打ちを止めたのはグレンダであった。

 アルガートの手首を掴み、平手打ちを制止している。


「お父様、勝手なことは慎んでくださらないかしら」


「グ、グレンダ……」


「精霊猫の力は未知数。下手なことをして結界が解けたら台無しですわ」


 グレンダの目つきが鋭く、恐ろしいものになっていく。

 アルガートは軽く顔をのけぞらして、腕を引いた。


「……わかった。ボルツをそそのかし、古書保管庫からこの魔法を探し出したのはお前だ。お前に任せる」

 グレンダの異様な雰囲気に気圧され、アルガートは息を吐く。


「だが、いつまでもここに置いておく訳にもいかん。手はあるのか」


「もちろん。こんな小汚い猫はこのきらびやかな部屋に合いませんわ。近いうちに……箱詰めにしてヘイラル湖に沈めますわ」


 グレンダが魔力の鎖を持ち上げ、うっとりと呟く。


「精霊猫を害するのは不可能と言うけれど、封印は可能なはず。もう少し時間があれば――この猫を永久に見なくて済むようになりますわ」


「おっ、おお……! それなら安心だ!」


「だからくれぐれも、この部屋に余計な人を入れませんように。お願いしますわね」


 グレンダの指示にアルガートはこくこくと頷く。

 今も部屋には不動の構えの護衛が数人いた。魔法が使える、信頼できる人間だ。


 いつもは館に散らばらせていたり、闇の事業に従事させている腹心たちを、今はこの部屋に集めていたのだ。


「この猫さえいなくなれば、もう俺の事業の障害はない。シェパード王国からいくらでも金が入る……!」


 アルガートの目は金に溺れ、濁っていた。

 ぐふふとアルガートが笑いをこぼす。


「そうすれば、いずれレインめを追い落とすことも……」


「そうですわね。危機に陥ればレイン様も……」


 グレンダが暗い目をして微笑んだ。


「私だけがあの御方を本当に慕っていると、理解してくれるはずですわ」


「なぁーん……」


 弱々しく鳴くモナックに、グレンダは唇の端を釣り上げて微笑んだ。


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