第百二十二話 思わぬ脅威
初投稿から、一年が経過しました!
一年って、ホント短い
硝煙の臭いが漂う広大な平原
レオンは、そこにいた。
「撃てー!」
ダァン… ダァン…
命令と同時に、砲撃音が連続して響く。
数瞬後、数百メートル先を前進する多砲塔戦車へ複数の命中弾を出した。
「敵車両、撃破確認!」
「弱者を嬲り物にする為に配備している兵器など、同等の強者の前では玩具に等しい。」
地面は、各所が黒ずんでおり、黒煙や暗い炎を上げている。
そこは、紛れも無い戦場であった。
「敵機甲戦力は壊滅状態だぞ。一気に畳み掛けよう!」
脇に控えているフェイの言葉に、レオンは頷く。
「よし、今が好機だ!全軍、支配者気取りの馬鹿共を蹴散らすぞ!進めー!」
『うるせー!』
「・・・え?」
突然向けられた罵倒の言葉に、レオンの思考は停止する。
声の主を確認すると、そこにはフェイがいた。
『何、寝惚けてるのよ!?』
訳が分からず呆然としていると、今度はフェイの隣に控えているカレンが口を開く。
「戦場で、寝惚けていられるか!」
再度、向けられた罵倒で我に返り、怒鳴り返す。
『いい加減、黙る・・・!』
「うがあ!」
突如、目の前で火花が飛び散り、強烈な頭痛に襲われる。
『レオン様、早く起きて下さい!』
「起きて・・・?」
スノウの声が聞こえた直後、目の前が真っ白になる。
「・・・フガ?」
・・・ ・・・ ・・・
アルーシ連邦 ラングラード
目を覚ましたレオンは、女子四人に囲まれてお説教タイムに入った。
「お前、マジかよ!?此処まで安眠妨害された事は、今まで無かったぞ!」
フェイは、いたくご立腹である。
「折角、気持ち良く寝付いたのに、台無しよ!」
カレンは、ファイティングポーズを取って怒りの大きさを表現する。
「それに何、支配者気取りの馬鹿共って・・・?夢の中で、正義の味方ごっこでもしてたの・・・?」
シルフィーのストレートな物言いに、レオンは項垂れる。
「あれだけ騒がれてしまったら、周囲の方々にも迷惑です!今後は、宿泊施設の利用は控えた方が良いかも知れませんね。」
尚、利用を控えるべき対象はレオンのみであり、四人は含まれない。
休暇を終え、イウリシア大陸へと戻って来た勇者一行はラングラードから入港し、一泊してから移動する予定となっていた。
その宿泊施設での、レオンの酷い寝相によって齎されたアクシデントは、その後のラングラードの笑い話の一つとして語り継がれ、五人の黒歴史として刻まれる事となる。
レオンは、醜態を晒した事に赤面しつつも、寒気を抑えられなかった。
自身の見た夢があまりにも鮮明であり、あまりにも現実離れした絶望的な光景であったからである。
鉄と炎に覆い尽くされ、空と大地を焦がし、その場に立つ人々を引き裂き、燃やし、砕き、蹂躙する様は、地獄としか言いようの無い光景であった。
(一体、俺の何処から捏造された光景なんだ・・・?)
長い間戦場を駆け回り、多くの死や絶望に直面して来たレオンでさえ、あれ程の光景は見た事が無かった。
全く覚えの無い光景を夢に見た上に、それが寝相として盛大に表に出てしまうなど、異常としか言いようが無い。
言い知れない不気味さを感じつつ、宿泊施設を後にする。
「早く駅まで行きますよ。もう、時間があまりありません。」
「全く、余計な事で余計な時間を使ったわね。」
愚痴を言いつつ、足早に駅へと向かう。
しかし、進めば進む程に大きな人だかりに阻まれてしまい、思う様に進めなくなる。
「何だってこんな時に・・・!」
「これで時間に遅れたら、全部レオンのせい・・・!」
人の波を掻き分け、漸く駅が見えて来る。
『繰り返し、お伝え致します!只今、近海で発生しました事故の影響により、安全が確認されるまで、列車の運行を見合わせております!御理解と御協力を、宜しくお願い致します!運航再開に関しましては、随時ご報告致します!繰り返し・・・』
駅からそんなアナウンスが聞こえて来た事で、五人は足を止める。
「本当に、何だってこんな時に・・・」
「レーオーンー・・・!」
「え、ちょっと・・・それはおかしくないですか?」
やり場の無い憤りに支配された四人は、その捌け口をレオンに定めた。
暫く後、
「それにしても、何が起きたのでしょう?」
「ん、何だい。あんた等、知らないのかい?」
スノウが呟くと、隣にいた中年の女が話し掛ける。
「ええ。宜しければ、教えて頂けませんか?」
「はいよ」
その女が言うには、深夜にボロボロの船が入港したとの事である。
幽霊船と言う訳では無く、アルーシ連邦籍の商船であり、多くの乗員も生存していた。
その船は、インシエント大陸へ向かった船であった事もあり、当初は北セイルモン諸島へ間違って近付いてしまった事で攻撃に晒されたものだと考えられていた。
しかし、乗員は海獣に襲われたと証言した。
幸いにも、付近を遊弋する艦隊の牽制射撃のお陰で致命傷は免れ、どうにか最悪の事態だけは避ける事が出来たとの事であった。
だが、海獣はかなりしつこく追い回して来た様であり、振り切れたかどうかは断言出来ないとも証言した。
聴取を行った者達は誰も真に受ける事は無かったが、万が一にも暁勢力圏の船舶へ被害を及ぼす事があってはならない事もあり、大事を取って警戒態勢を取り始めた。
その煽りを受ける形で、鉄道の民間での使用が一時停止してしまっているのである。
「こんな温暖な地域に海獣が?」
海獣は、極地に近い海域で生息している事もあり、寒冷な地域でのみ生息可能と言う認識が一般的である。
尤も、生態が解明されていない事から、断言は出来ない。
「その船って言うのが今も停泊したまんまでね、皆見に行ってるんだよ。まぁ、中には事情を知らずに駅に向かって、この騒ぎに巻き込まれちまったってのも結構いるけどね。」
そう言いながら、五人を見てニヤける。
「う・・・」
言い淀むしか無かった。
「あらあら」
その様子を見た女は、口に手を当てる。
「レーオーンー・・・!」
「いやだから、何でそうなる!?」
図星を突かれた四人は、その捌け口をレオンに求めた。
暫く後、
「私達も、見に行ってみましょうか。」
四人ともう一人は、港へと向かい始める。
ウウゥゥゥゥゥーーーーーー・・・・
その時、けたたましいサイレンの音が町全体に響き渡った。
『避難警報発令 避難警報発令 只今、町の西より脅威度SSSクラスの生物が接近しています。市民の皆さんは、直ちに避難して下さい。』
この放送により、港の人だかりは蜘蛛の子を散らす様に散開した。
それだけに留まらず、町中が蜂の巣を突いた様な騒ぎとなり、悲鳴が木霊する。
「本当に、何だってこんな時に・・・」
「全部、レオンのせいね。」
「だから、何で全部俺のせいになるんだよ!?」
五人は、西を目指す。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国 東京
「被害は?」
開口一番、東郷は食い気味に問い質す。
「我が国の船舶は、既に5隻が損傷しています。致命傷ではありませんが、少なからず浸水が確認されました。その他の被害は、甚大と言う他はありません。」
現在、世界中が混乱の渦中へと放り込まれていた。
あらゆる海域で海獣が跋扈し、少数ながら複数の大陸で龍が活発に活動を開始しているのである。
暁勢力圏も例外では無く、多数の船舶へ被害が出ている状況となっている。
ただし、耐久性、ダメージコントロール共に他国よりも圧倒的に優れている為、被害は限定的となっている。
しかし、それ以外では甚大な被害が出ており、多数の船舶が撃沈される深刻な事態となっていた。
「攻撃の際には海面へ姿を見せる事が分かっていますが、海獣の攻撃に耐え、且つ有効な攻撃方法を有するのは、暁勢力圏以外ではセンテル帝国とドレイグ王国のみです。」
技術が近代へ達しているアルーシ連邦やピルシー帝国でさえ、現状では力不足と言うのが一般的な見解となっている。
物量戦を挑めば勝てはするが、後が続かない。
それ以外では、攻撃に耐えられない上に有効打も与えられない。
海獣の跳梁を許すのは、当然の流れであった。
「魔力の動きから、全世界で500体以上の海獣が活動を行っていると推測されます。」
「観測は出来てるのか?」
「大丈夫です。今の所はですが・・・」
ボルゴノドルフ大陸から噴き出した魔力は、遂に暁帝国本土に迫る所まで拡散している。
暁勢力圏が観測不能地帯となるのも、時間の問題となっているのである。
「龍はどうなってる?」
確認されている龍は、かつてインシエント大陸で確認された龍と同一の種であると結論された。
纏まった数が確認された事から、大昔に人類と生存競争を争った事は事実であるとも結論された。
「全体で20体程度ですが、暴れ散らしています。ウォルデ大陸とセイキュリー大陸の一部では、龍の排除が確認されました。」
「セイキュリー大陸?」
「ケミの大森林です。他にも2体確認されていますが、まるで対抗出来ていません。」
「暁勢力圏は?」
「インシエント大陸で、1体のみ確認されました。既に、排除は完了しています。」
人類の住処へ直接被害を与えている関係上、龍は海獣よりも深刻な混乱を齎していた。
ウォルデ大陸は、センテル帝国によって自力で対応したが、それ以外ではケミの大森林を除いて海獣と同じく跳梁を許していた。
唯一、イウリシア大陸だけは足止めを実現しているが、最多となる5体の龍が確認されており、戦力を分散せざるを得ず、決定打に欠けている事でジリジリと被害を増しつつあった。
「派遣軍の準備は?」
「一部は完了しており、セイルモン諸島海域へ出撃しています。」
この状況を解決する為に、現状最も余力のある暁帝国軍が主に対処する事となった。
センテル帝国も動くが軍備更新の真っ最中である事もあり、動かせる戦力はそれ程多くない。
「ボルゴノドルフ大陸の動きは?」
「確認出来る範囲では、頻繁に戦力の移動が確認されています。戦力の再編を行っているものと思われます。」
侵攻の為の準備行動と予測されているが、多くの戦力を西へ振り向けている関係上、警戒するしか出来る事は無かった。
「この動きと、海獣と龍の動きに関連性は?」
「不明です。ですが、少し前にボルゴノドルフ大陸より発信されたと思われる魔力が確認されています。」
海獣と龍の活動が活発化する少し前、観測不能地帯から世界中へ電波の様に発信される魔力が確認されていた。
規則性は無く、短期間でその動きも無くなった為、詳細な調査は出来ず仕舞いであった。
「各地に現存する遺跡の位置確認では無いかとも推測されていますが、確証はありません。」
「まぁ、それは後回しだ。連中が動く前に、この騒ぎをどうにかしないといけない。本土の防衛が手薄なせいで防ぎ切れなかったなんて事になったら、目も当てられない。」
開戦へのタイムリミットが確実に近付く中、突発的に発生した騒動によって東郷は焦りの色を濃くする。
・・・ ・・・ ・・・
ズリ領北部
「走れ、走るのだ!」
千人余りが暮らすズリ族のとある村落。
そこは現在、大騒ぎとなっていた。
「これ以上は、行かせん!」
赤竜族の一隊が、村落へ向かおうとする龍へ向かって拳を突き立てる。
ギャオオォォォォォーーーーーー・・・・・・
中戦車並みの防御を誇る龍と言えども、赤竜族の攻撃は堪えた。
苦痛で雄叫びを上げる龍に対し、避難を行っているズリ族の何名かが立ち止まって振り返る。
「止まるでない!少しでも早く、此処から離れるのだ!」
避難誘導を行っている赤竜族の一人が、立ち止まった者を目ざとく見付け、怒鳴り声を上げる。
龍に対応している者達は、現在は足止めに徹している。
これ程の相手を仕留めるとなると、赤竜族と言えども手加減は出来ない。
しかし、本気を出せば一帯が焦土と化してしまう。
その場に留まる者がいれば、消し炭になるのが関の山である。
故に、まだ本気は出せない。
「散開!」
龍が息を大きく吸っている事に気付き、瞬時に散らばる。
ゴオォォォォォォォ・・・・
龍の吐いた炎は、一瞬前まで部隊のいた地点を焼き尽くし、飛び散った火の粉が村落の一部に引火する。
「コイツ・・・!」
その事に気付いた彼等は、怒りを大きくする。
「まだだ!ズリの民の避難が終わるまで、その怒りは閉まっておくのだ!」
どうにか怒りを堪えて肉弾戦に徹するも、その動きは怒りで精彩を欠いていた。
ガキッ!
「ぐおっ!」
遂に一人が龍の一撃を喰らい、吹き飛ばされる。
「ッ!」
「来るぞ!」
ドガッ
「グアッ!」
味方がやられて動揺した隙を突かれ、更に一人がやられる。
「気を抜くな!今暫く耐えるのだ!」
更に一撃が叩き込まれるが、今度は見極めて躱す。
「ズリの民の避難が完了した!排除せよ!」
そこへ、避難誘導係がやって来て報告する。
待ちに待った時がやって来た事で、全員の目がギラつく。
「:@--¥:;@」
「フンッ!」
「こっちだ!」
ある者は呪文を唱え、ある者は大岩を持ち上げ、ある者は足止めに徹する。
「燃え尽きよ!」
魔力が解放され、凄まじい火炎の渦が龍を覆い尽くす。
グガアァァァァァァーーー・・・・
苦痛の咆哮が響き渡り、一帯が焼け焦げるが、表面を焼いただけであった。
「それだけで済むと思うな!」
複数の大岩が、龍へ向けて投げ飛ばされる。
ドグッ ドゴッ メキィッ
大重量大質量の塊を勢いよくぶつけられては、タダでは済まない。
大岩が直撃すると同時に生々しい音が鈍く響き渡り、龍は体勢を崩す。
「トドメだ!」
ダメ押しとばかりに、拳や足が胴体へ食い込む。
グ・・・ガ・・・・・・
「フンッ!」
ドゴッ
意識を保つのが精一杯の状況で、頭部へ踵落としが炸裂した。
ズズウゥゥゥゥゥゥゥゥン
遂に、龍はその身を横たえた。
「手こずらせおって・・・」
そう言いつつ、辺りを見渡す。
有り体に言うと、村は廃墟と化していた。
「族長にどやされなければ良いがな。」
「恐ろしい事を言わんで頂きたい。」
「とにかく、急いで復興させましょう。」
突如として出現した新たな脅威は人々を恐怖へ陥れたが、その脅威の大きさに比して与える被害は偏りがちであり、致命的と呼べる程のものでは無かった。
しかし、無視出来る程度の脅威でも無い為、各国のリソースが大きく削がれていた。
その隙を突き、人類の敵は準備を進める。
最近、暑いせいで寝不足です。




