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第百十七話  情報不足

 突然の異変に、世界はどう対応するのか?

 暁帝国  東京



 此処では、東郷の元にこの国の主立った面々が集まっていた。

「皆も知っての通り、先日の異変によって新大陸が突然出現した。この事について、現状で分かっている限りの事を報告して貰いたい。」

 東郷が言うと、佐藤が立ち上がる。

「では、報告します。出現した大陸ですが、詳細な観測を行った所、セイキュリー大陸で発見された地図に記載されていた大陸と同一である事は確実であると判断します。また、以前から議論の的となっていました、魔力の影とも同一と結論します。更に、大陸の周囲には複数の島がある事も確認済みです。」

 新大陸の東西にはグリーンランド級の島があり、その島や大陸を囲む形で複数の諸島が点在している。

「これまでの経緯から、今回の現象が人為的なものである事は確実と判断しますが、その後の動きが追えない状況にあります。」

 魔力の動きから儀式魔術による現象と結論付けており、その後の魔術的動きを追おうとしていたが、此処で予想もしていなかった障害に直面していた。

「その理由についてなのですが、此方を見て下さい。」

 モニターに、星の裏側の地図が表示される。

 魔力観測衛星の映像であるが、表示される魔力は天気予報の様に複数の色を使い分けてその濃度や属性を判別出来る様にしている。

 しかし、大陸全体がほぼ真っ赤に塗り潰されており、周囲の島も覆い尽くされていた。

「見ての通り、例の現象によって膨大な魔力が空中に拡散しています。これでは、地上の動きは一切観測出来ません。また、この魔力は星全体へと拡散を始めており、遠からず魔力観測衛星は使えなくなります。濃度自体は拡散によって下がって行くと推測されますが、再度観測可能なレベルに落ち着くまでには、年単位の時間が掛かると考えます。」

 暁帝国が今まで優位に立って来た理由の一つは、魔術的動きの監視が出来た事にある。

 魔術を一切扱えない暁帝国にとって、このアドバンテージが失われた事はかなり痛かった。

「この魔力による気候変動なんかは起こって無いのか?」

「空中に、虹の様な光が立ち込めている事が確認されています。天変地異と言う訳では無く、ただ光が立ち込めているだけですが、視認性が著しく損なわれている事から航空機は飛ばせません。この現象により、現状では魔力以外の観測衛星でも詳細が殆ど確認出来ていません。ただ、この現象は既に急速に収まり始めている事も併せて確認されています。恐らくですが、濃度の低下が原因と思われます。」

「画面は真っ赤だが?」

「想定を大きく超える濃度なので、どうしてもこうなってしまいます。詳細に関しては、これから精査して行く事になります。取り敢えず、この現象に関しては時間の問題でしょう。光が収まり次第、大陸の調査を進めます。」

 報告を終え、佐藤は着席する。

「では続きまして、新大陸出現による国防省の動きを報告致します。」

 今度は、山口が立ち上がる。

「この現象が人為的なものである可能性が大との結論から、新大陸には纏まった勢力が存在すると推測されます。そこで保安省との協力の元、東部諸島を中心とする警戒強化を進めております。」

 保安省の傘下にいるのは、警察庁 消防庁 海上保安庁 である。

 戦場に出る事は無いが、武装している事から一通りの戦闘をこなす事は出来る。

 また、軍よりもフットワークが軽く、平時に於いてもそれなりに迅速な対処が可能である。

「具体的には、保安省は機動隊を中心とする重装備の部隊を常駐させ、巡視船を東側海域へ向かわせます。軍部では、潜水艦と地方隊を哨戒に回すと共に、SOSUS網の増設を計画しております。」

 暁帝国の機動隊は、他国では軍隊と呼べる程の重装備となっている。

 大盾を持っている点は地球国家と変わらないものの、全員が短機関銃と警棒を装備しており、遠隔操作式の機関砲を装備する装甲車まで配備している。

 これ以上に重武装な警察組織は、コスタリカ以外に存在しない。

 そして、暁帝国のSOSUS網は本土と各諸島を結ぶ形で配備されている他、スマレースト大陸と硫黄島を結ぶラインにも配備されている。

 EEZ、又は領海侵犯を行う潜水艦戦力がいた場合、直ちに確認が出来る布陣ではあるが、懐へ入り込まれてから気付く布陣であり、事が起こった時には手遅れとなっている危険があった。

「それは分かった。ところで、装備の更新はどうなってる?」

「ミサイルの更新に伴うアップグレードは、間も無く終了致します。歩兵装備に関しましては、まだ四割にも届いておりません。」

 新型の歩兵装備は、技術的難易度の高さから生産性に問題を抱えている。

 元を辿れば先行量産された試験装備であるが、一体化させるだけでもかなりの苦労があり、それに加えて試験装備よりも単純な性能も向上させているのである。

 大規模な量産体制を整えても、そう簡単には行かなかった。

「まぁ、時間を掛ければ解決する問題だから、頑張ってくれとしか言えないな。」

 軍部の報告は終わり、山口は着席する。

「では続きまして、外務省から報告致します。」

 今度は、吉田が立ち上がる。

「例の現象はウォルデ大陸でも確認されていた様でして、世界中が騒ついております。大使館を通し、我が国に対して情報提供を求める声が各地で殺到しており、混乱ぶりが窺えます。」

 新大陸の出現に関し、世界中が独自に情報収集を開始しているが、莫大な魔力が察知された以外は何も分かっていなかった。

 表向きは変化は無いが、有り得ない量の魔力の存在によって異変が間近に迫っていると全員が判断しており、最も力を持っている暁帝国へ落とし所を見出しているのである。

「一応、表向きは丁寧な対応を心掛けている様ですが、此方を疑っている国が多いとの事です。」

「痛くもない腹を探られるのは、気分のいい事じゃ無いな・・・」

「事が事ですから、大使館には口止めをしてあります。ただし、センテル帝国外交部には真実を明かしており、今後の対応を協議中です。近い内に、首脳級同士で顔を合わせる必要があります。」

「そうだな。下手に明かしたら領有権争いとか起きそうだし、面倒事は減らした方がいい。じゃぁ、センテル帝国との調整は頼んだ。」

 吉田は着席する。

「他には、何か報告する事は無いか?」

 東郷が聞くと、一人が手を挙げる。

「水産省ですが、新大陸出現による海洋生物の生態系の変化が懸念されます。調査を進めるべきと判断します。」

「それもそうだな。分かった、準備を進めてくれ。他には何かあるか?」

 静まり返る。

「では、各自仕事に掛かってくれ。解散」

(とんでも無く厄介な事になったな・・・)

 主要国である事が災いし、現状最も矢面に立たされているのが暁帝国である。

 力を持つ国家は、その影響力に見合う責任を望まずとも背負わされてしまうのである。

(何事も無く鎮静化して欲しいな。)

 無駄とは知りつつも、そう祈らずにはいられなかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 モアガル帝国  キヨウ



 此処では、星の裏側で発生した異変を気に掛けつつも、目の前の問題解決に意識を向けていた。

「どうだ、準備は整ったか?」

 ガレベオの問いに対し、臣下は自信たっぷりに答える。

「既に、準備は万端であります。ただ、一つ気になる情報が入っております。」

「気になる情報?」

「はい。国境線で交戦した者の証言によれば、敵軍は銃を使用していたとの事です。」

「何!?」

 銃の存在は、一般的な中小国は殆ど知らない。

「恐らく、第三国を通して存在が知られたのでしょう。一度知られてしまえば、何処かから購入する事も可能でしょう。」

「敵の銃は、マスケットか?」

「鹵獲した所、我が国とは別の国で製造されたマスケットで間違い無いとの事。その質はお世辞にも高いとは言えず、劣化コピーと言える程度の代物との事であります。」

「やはり、情報が何処からか漏れた様だな・・・」

 軍事情報の漏洩は、下手をすれば国の存亡を左右する程の深刻な事態だが、この場の誰も深刻に受け取ってはいなかった。

「丁度良いかも知れんな。アルーシ連邦から輸入した新型と性能比較が出来そうだ。」

「試射した所、既に比較にならないとの評価が出ております。戦局は、これまで以上に圧倒的となるでしょう。」

 最近は、海上戦力ばかりが注目されがちなアルーシ連邦だが、陸上装備の更新も精力的に行っている。

 機関銃の導入によってお役御免となったセンテル帝国のガトリング砲を購入した他、独自に単発式ライフルの開発を成功させていた。

 そのライフルは、暁帝国とセンテル帝国の関係が冷え込んだ時期に構築したガリスレーン大陸とのパイプにより、モアガル帝国に対して大々的な輸出を行うに至り、モアガル帝国で装備されていたマスケットは現在は少数派となっている。

「確か、400メートル先の目標にすらも、かなり高い命中率を叩き出すそうだな。聞いた時は信じられなかったが。」

「この新型に応じた戦術を考案せねばならないでしょう。もし、この新型と相対する事になった場合、旧来の戦列では良い的になってしまいます。」

「それは後で考えるとしよう。それで、出撃させる部隊に配備されておるのか?」

「御安心を。出撃予定の部隊には、既に配備を完了しております。その他の部隊にはまだ行き届いておりませんが、それも時間の問題であります。」

 度々攻撃を受けていたとは思えない程に、モアガル帝国の内情は余裕のあるものであった。

 しかし、その余裕がいつまで続くかに不安を抱いていた。

「ところで、先日の光について何か分かったか?」

「残念ながら・・・」

 首を横に振る臣下に対し、ガレベオは表情を暗くする。

「暁帝国ならば何か知っているかもしれません。現在、大使館へ問い合わせを行っておりますので、もう暫くお待ち下さい。」

 同じ頃、もう一つの主要国でも同じ様な展開が起こっていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  外交部



「では、貴国は関係無いのだな?」

「その通りです。わが国でも詳細は調査中でして、提供出来る情報は多くありません。」

 スマウグは、大陸の裏側の現象について原を呼び出して問い詰めていた。

「それでは、現時点で分かっている事をお聞かせ願いたい。」

 原は、衛星写真を取り出す。

 空中に立ち込める光により不明瞭ではあるが、見た事も無い大陸がある事はハッキリと判別出来る。

「この画像に映っている大陸が、例の現象の後に突然出現したのです。」

「確か、星の裏側には巨大な魔力が確認されているだけであった筈だな?」

「その通りです。推測ですが、その巨大な魔力を利用した儀式魔術の類では無いかと考えています。例の現象の直前に、それらしい動きが確認されました。」

「あれ程の魔力を使う魔術など、聞いた事が無いぞ?」

 センテル帝国では、魔力の機械的利用によって肝心の魔術は衰退している。

 ただし、研究だけは盛んに行われており、特に儀式魔術の研究は盛んである。

 魔術陣の規模も年々拡大の一途を辿っているが、それでもせいぜいテニスコートより少し大きい程度に過ぎない。

「確証はありません。しかし、それ以外に説明のしようがありません。」

「貴国にしては、随分と粗い分析だな。」

「まだ、分析の最中ですので。何か分かり次第、連絡しましょう。」

「この件は、最高幹部に報告しなければならん。宜しいな?」

「勿論です。ですが、公開は控えて下さい。」

 既に、世界中で様々な憶測が飛び交っており、遠からずデマによる混乱が発生する事は目に見えている。

 何処も正確な情報を欲しているが、その正確な情報は未だに何処にも存在しない。

 現状の不確定な情報を大々的に公開すれば、混乱に拍車を掛けるだけでは留まらず、新たな争いの種を生み出しかねなかった。

「急いで政府の意思統一を行おう。今後の対応策を、入念に協議しなければならん。」




 ・・・ ・・・ ・・・




 ドレイグ王国



 新大陸の出現は、環境の変化に敏感な世界中の竜人族をパニックに陥れた。

 出現が済んだ事でひとまずは収まったが、誰もがこのまま終わる訳が無いと考えていた。

「では、今後の対応に関して話し合おう。」

 アンカラゴルが取り仕切る中、その他の代表は不安を露わにするばかりであった。

「族長、何が起きたので御座いましょう?」

「分からん。だが察するに、あの光は西にある大陸の更に西側から発していた様に思う。」

「とするならば、我等と直接関わりが生じるとは思えませぬ。」

「いや、どう転ぶか事か・・・あれ程までに巨大な力は覚えが無い。何が起きても不思議ではあるまい。」

「具体的には?」

「強大な敵の出現か、或いは前例の無い大災害か、そんな所だろう。」

 敵が現れても特に問題は無いが、災害となると赤竜族と言えども対処のしようが無い。

 不安は更に増す。

「族長、若手の反応はあまり宜しくありませぬ。一刻も早く諫める必要があるかと存じます。」

「だが、何が起きたか正確な事は何も分からぬ。諫めるにも、情報が必要だ。」

「でしたら、ウムガルを頼る以外にありませぬ。報告を急がせるが宜しいかと存じます。」

 今更ながら、大使館の設置が如何に重要な判断であったかをこの場の全員が認識した。

「そうだな、報告を急がせるとしよう。皆は、それまでどうにか若手を抑えてくれ。」

「「御意」」

 良い予感はしないが、ドレイグ王国も少しずつ対応する。




 ・・・ ・・・ ・・・




 エイグロス帝国



 この国は、西部地域で異変に最も近い事から、危機感も半端では無かった。

 チェインレスは、閣僚を集めて緊急閣議を開いた。

「内務大臣、国内の様子は?」

「不安がる国民は多いですが、一部で買い占めが発生している以外は表立った混乱は見られません。」

「情報大臣、各国の動きは?」

「把握している限り、我が国と似た様な状況です。何処も、例の現象に関わっている形跡が見られません。」

「技術大臣、あの光の位置に我が国はかなり近いとの事だが?」

「はい。間違い無く、我が国が一番近いでしょう。つまり、事が起これば我が国が真っ先に被害を被る危険が高いと言う事です。」

 真相究明も問題解決も見込みが無く、今出来る事は溜息だけであった。

「どうやら、今出来る事は備えるしか無い様だな・・・産業大臣、外貨は集まったか?」

「順調そのものだ。連中が馬鹿で大助かりだよ。お陰で、転売でも大儲け出来ている。」

 ガリスレーン大陸での政情不安は、もう一つの稼ぎ所となっていた。

 バルファント主導で始まった介入は、政情不安をより増す事へと繋がり、工作を実行する側にとって都合の良い環境が出来上がっていた。

 その状況に付け込み、今度はモアガル帝国が輸入している東部地域の商品の転売を始めているのである。

 同大陸の敵対国は勿論の事、モフルート王国への転売ルートも確立し、高値で売り捌いていた。

「それは良い知らせだ。今の内に、稼いだ金を回収しておいてくれ。それと、在外資産の引き上げも行ってくれ。事が起こってからでは遅いからな。」

「同感だ、すぐに実行する。」

 バルファントの返事は、迷いの無いものであった。

「大蔵大臣、この先は何が起こるか分からん。万が一に備え、緊急時の補正予算案を策定してくれ。」

「了解しました。」

 堅実なエイグロス帝国らしく、着実に有事への足固めを進めて行った。



 地名をどうするか、凄く悩ましいです。

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