第97話 わだかまり
「オッサン、できたって本当か?」
計画まであと3日という所まで迫ったとき、鍛冶場にいるオッサンから呼び出しがかかった。
「うむ。まずヒサオ。お前にはこれじゃ」
そういい、ミスリルでつくった片手剣を渡してくる。
銀光をおしげもなく見せる剣先。重さも手ごろだ。
これを俺が?
「つかっていいのか? 俺だともったいなくない?」
「かまわん。あまりものでつくったようなものだからな」
「聞きたくなかったその言葉!」
とはいうが、出来具合に文句なし! むしろ俺の腕に文句がある!
さらに、オッサンは、ダークエルフ用に弓を作り直した。
「数そろえたみたいだけど、また変なことにならないよな?」
「フン。そんなミスをするか」
といいつつ弓を見れば…あれ?
「オッサン、ミスリルだけにしたのか? 前と色ちがうじゃん」
「ああ、変えた。弓自体はミスリルじゃ。そして弦をオリハルコンの糸に変更した」
「ファっ! え? なに弦って糸? どうやってオリハルコンの糸ってつくれるのよ!」
「そこはほれ、腕じゃよ腕」
腕の問題ですか、そうですか。
深くきくのはやめよう。うん。きっと俺には分からないとんでも理論がでてくるから。
「試作品がああなったのって何が原因だったんだ?」
「あれは、素材の品質がよすぎたんじゃ。まさか、交感力が増しすぎて、最初に接触した精霊の嫉妬をかうとは思わなんだ」
「……ん? 嫉妬?」
どういうことなんすか、それは。
「オッサン、嫉妬ってなによ? 聞き違いしたか?」
「いや、あっとる。元々最初に接触できる精霊というのは、ほとんどが適正精霊じゃ」
「適正精霊……うん、わかった。それで?」
「精霊も生き物じゃ。独占欲というものがある。普通はおこりえんが、相手との相性が抜群だと、そうしたこともおきてしまう」
「独占欲…‥意外に精霊さんて、愛情深いのね」
「まあの。普段はそんなものおきないが、あの試作品のせいで交感力がましてしまった。それが原因で精霊の独占欲が暴走したんじゃろ」
そういうこともあるのかと、できあがった弓を保管術であけた空間にいれていく。ダークエルフの皆様方がお待ちなのだ。
「あとは頼むの。ワシはもう無理じゃ。ヒガンの顔でもみてから寝ることにするわい。もし不都合があれば後日といっておいてくれ」
「ああ、おつかれさま!」
ふらふらとした足取りで鍛冶場をあとにしようとしたが、
「そういえば、ミリアのやつエルフの国にもどったそうじゃぞ?」
「は? なにしてんのあいつ。砦攻めまであと3日だぞ」
「理由はしらんが、腕輪は持っていきおった」
「できたのか。試していた?」
「さぁ? 腕輪をわたしたら、そのままエルフの国にいってくるといって出ていきおったからな」
まいったな。あいつ魔法陣使うのに1日かかるんだろ?
それに、テラーのほうの部隊に配属なわけだし、こっちじゃなくて、ブランギッシュにいなきゃダメなんじゃ?
「わかった。とりあえず、オッサンは休んでくれよ。もうヘロヘロじゃないか」
「すまんの。何かあったらおこしてくれ」
「了解。いいから早く寝ろ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
弓は問題なし。腕輪は……というかミリアのやつどうすんだ?
「仕方がない」
このままにしておくのも不安だったし、魔法陣をつかって転移。
……って、ここ地下室?
部屋と直結するような形で緩やかな階段があるな。
トントントン と、……家かよ。
アグロの魔法陣も地下にあったけど、むこは警備の人たちがいた。でも、こっちは普通の民家じゃね?
誰もいないのかな?
「おーい~」
って声かけてみたけど、返事なしっと。
「むーい」
返事……なんだいまのへんな声は。
「こっち……した……」
ん? ん? と上がってきたばかりの地下室のほうをみると、一人の幼女が……いやエルフの子供か? いたの?
「君……だれ?」
「あ、えっ――…ヒナガ=ヒサオっていいます」
まさか他人の家に繋がっているとは思わなかったな。謝っておこ。
「かってにはいってきてすいません。すぐでていきますんで」
「……君、変……隊長よぶ……ここまつ」
「え? ここまつ? え?」
なんだこの可愛い動物は?
桃色の髪に同じ目の色。本当にまるっとした顔立ちに、完全な幼女体形。
なんとまあ――俺がロリ万歳主義だったらやばかったわ。
つか、変っていわれた! あったばかりの幼女に変って! エルフってSが多いのか!くそ!
……で、ここまつって、ここで待ってろってことか?
――あってた。
ちょっと不安になりかけてた。
金の長髪エルフがきやがった。イケメンだ。ちくせう。
金髪に碧眼のイケメン顔って、ほんと定番すぎて嫌になる。エルフはこんなのばっかりかい。
「人間? ……どういうことだ? この魔法陣は人間の街にはつながってないはずだが……君は誰だ?」
あ、そういえばそんなことが母さんの手記に書かれていたな。そりゃあ驚くか。と、いうか人間扱いされるのが何気に嬉しいね。
「はい。ヒナガ=ヒサオっていいます。アグロから来ました。人間といっても……あの?」
「ヒナガ? ……そんなはずはあり……なんだこの魔力は…」
「あの? もしもし、どうしました?」
なんだよいったい。エルフってのはどうしてこう人を好奇の目でみるかね~
「いや、すまない。それで人間がなぜここに?」
「ハァー」
ようやく話しができそうだ。
「おれミリアっていうやつの仲間なんですけど、こちらにきていませんか?」
「ミリア? 彼女なら今朝早くにきて、城にいったが?」
「城? って、王城?」
「そうだ。何か用件が?」
「ええ、ちょっと……それいつ頃かえってこれそうです?」
これは困った。城って遠いのか? どうでもいいけど、家の外だしてくれないかな? なんかすげぇ警戒されている気がするんだが。
「そうだな……明日には戻ってくるとは思うが、用件なら伝えておくが?」
「明日ですか……」
うーん。どうする……って……
あー 本当に俺って馬鹿だな……
「いえ、それには及びません。ちょっと思い出したことがあるので、戻りますね」
「あ? ああ。それは構わないが、用件は?」
「はい。直接会う必要はなかったのを思い出しました。ではこれで」
そうだよな。携帯で連絡できるの忘れていたわ。帰ってむこうで電話しよ。
「では~」
地下へともどり、魔法陣へのると、
「あ、君、それは結構な魔力を……「え?」」
何がいいたかったのかよくわからないまま、転移してしまった。
――まあ、いいや。宿にもどってミリアに電話しよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『どうしたの? そっちで問題があった?」
「いや、そういうのはないが、オッサンからエルフの国にもどったって聞いてさ」
『うん。それが?』
「それがって……もどってこれるの明日だろ? そのあとテラーのところにいくのか? むこうで作戦の打ち合わせするんだろ?」
『そのことね。大丈夫よ、私は、ヒサオたちと現場までいってから、テラーのほうに合流するから」
「いや、それじゃだめだろ。テラーたちと話あわなくていいのかよ?」
そういえば、イルマはどうするんだ? あいつだって戻らないとだめなんじゃね? フェルマンさんとずっと話してるから、何もいわずにいたけど、流石に気になってきた。
『……ヒサオ、それをいうなら、あなたもじゃない? 一度わだかまりを捨てて話をしてみたら?」
「お、おま! それはお前もじゃないのか!」
『私? 私はもうどうでもいいわ。たぶんジグルドも一緒じゃない?』
「え? そんなわけ…」
『確認はしていないよ。でも、いまのジグルドにとって大事なのは、つれてきた子供を守ることと、カテナっていう人を助けることだけなんじゃない?』
「……」
確かにな。見てる限り、それしか考えていないようにみえる。
『私は、私にしかできないことを思い出してこっちにきてるだけだから。ちゃんと明日にはもどるわ。心配しないで大丈夫よ』
「……わかった。ちゃんと戻ってこいよ」
『ええ、じゃあね』
………つまりテラーのことであれこれ悩んでいたのは、おれだけってことかい。




