第88話 憤慨するイルマ
やられた。
ドヤ顔で、認めようとか言われ、ちょっとした感動を覚えてるスキに、報酬金渡されて、お帰りはあちらとばかりに扉を指さされた。
おだてて>あめあげて>任務よろしくね!
というパターン。
「あぁ――! 何やってんだ俺は!」
そりゃあ、ラーグスのこともあるし、何とかしたいっていう気持ちはあるんだけど、戦争の準備言われても困るわけよ。なにしろっていうんだよ。
というか、これってもしかして、イルマとフェルマンさんに、俺が伝えなきゃならないの?
……腹が痛くなってきた。
まさかこの若さで胃潰瘍とかないよね? こんな世界で手術とかできないよね?
光か水の精霊を予約でもしておくかな……
はぁ― マジかよ。
トボトボと気落ちしながら転移。
ここにくるまで、心配そうに声をかけてくる色々な種族の方々がいました。
豚っぽいのもいたのにはちょっとびっくり。あの人たちの前で豚たべたらどうなるだろ?
そんな馬鹿なことを考えながら街へと戻ると、
「あれ?」
なんかちょっとちがう?
エーラムへいったときは、街の空気が重く感じたけど、今はわずかだけど軽いきがする。
……もしかして。
俺は思い当たることを確認するために集会場へと急いだ。
いたいた。フェルマンさん、まだいてくれた。
「いま戻りました」
「戻ったか。ちょうど良い。見ろ」
いわれずともと、カリスさんをみてみると、金色の目をうっすらと空けている。
「意識がもどったのですか?」
「さきほど少しだけ声をだした。お前が魔王様にかけあってくれたのだろ? 治癒師の人がきて、癒していってくれた」
朗らかな笑顔をみせ、俺に感謝の言葉も付け加えてきた。
聞いてはいたが、それほどすごいのか。純魔族半端ないな。
「そんなに凄いのか。いまは、他の人たちを?」
「いや、もう帰ったはずだ」
「早すぎません!?」
いくらなんでも酷いだろ。まだ怪我人が大勢いるんだぜ。
精霊使いの人たちが回って治しているようだけど、人手はたりないはずだ。
「そう言うな。元々純魔族の方々が使う術は、その多くが自分の寿命を代償につかう。治癒術も同じだ」
「……なるほど」
魔王がいっていたのは、そういうことか。
それで前戦に純魔族の人達を出さないのか。どうりで、こっちで見かけないわけだ。
「しかし、遅かったな。エーラムで何かあったのか?」
「……あったというか、命令されたというか。イルマを探して3人で話ませんか?」
「大事なことのようだな。わかった。イルマなら、治療所のほうにいるはずだ」
俺たちはそのままイルマがいる治癒所のほうへとまわる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
傷をおった殆どの人達はこちらに運ばれているようで、すでに満杯状態。
カリスさんが集会場に運ばれたのは、救助されたとき体のサイズがまだ縮みきっていなかったからだ。
救護隊がかけつけたときには、すでに意識がなかったらしいが、それでもサイズを維持していた。
多くの仲間達を庇うために無意識状態でもがんばったのだろう。皆に慕われているわけだ。
治癒所に運ばれた患者たちは、そこら中に寝かせられていた。すでに布団など満杯で、床上で横になったり、壁に背をつけ座りこんでいるものもいる。
兵士だけではない。住民たちもだ。
「薬とか足りるんですかね?」
「薬草の在庫はあるはずだが、問題は精霊使いだな。いまのところブランギッシュにいた俺たちのみだ」
「そういえば、フェルマンさんは手伝わないんです?」
「……おれは光と水の精霊を感知できなかった」
「そういうこともあるんだ」
全部の精霊を扱えるわけじゃないのか。なんかみんなドカドカ覚えていくから、勘違いしていたよ。
「いたぞ」
大部屋の病室の角で、怒気をあげている虎が一頭。慣れた俺ですら、近づくのを躊躇しそうだ。
「おまえ、病室の雰囲気重くすんなよ」
「……おめぇらか」
俺達を睨みつけてくる。怒気は収まりそうにないな。
「やられて腹立つのはわかるけど、もうちょい抑えろよ」
「……わかっているが、どうしようもねぇ。それよりありゃなんだ? 見えねぇ攻撃が襲ってきたぞ。あんなのは初めてだ。風の魔法だって、ああはならねぇ」
「そうだヒサオ。お前が危惧していたのはアレなのか?」
フェルマンさんも思いだしたようで、聞いてくる。
こんな大勢がいる場所で話せってか? ある意味これ懺悔に近いんだけど?
「おい。知っていること全部話せや」
「わかったから、俺にまで噛みつくな。まあ、なんていうかだな……」
俺が銃と大砲について話をしていくと、だんだん周囲から声が消えてくる。みんな俺達の会話に耳を立てているな。
そういえば、鉄の鉛玉を数発拾っていたな。これもみせたほうがいいか。
「……こんなのが飛んできただけで、俺たちはやられたのか?」
「まあな。小さいからって舐めるなよ?」
「そりゃあ、こんな様になってんだからな」
話しをしていると、だんだんとイルマの怒気がおさまってきた。
「しかしヒサオ。お前の話では火薬とよばれるものが必要なのだろ? そんなものは聞いたことがない」
「それは俺の世界ではの話です。こちらの世界では別名であるのかもしれないし、あるいは別の方法で可能にしたのかもしれない」
そういや大砲の解体分析もしなきゃな。誰かプロいないかな? あと銃もおちてないだろうか? そっちもみておくか。
あっと、その前に、
「あと魔王様からの命令で……」
と、こういう流れで伝えたんだけど、周囲には皆いるわけで、聞き耳たてていたのを忘れていた。
「お、おい。あんな武器を持つ連中とまた戦うのかよ」
「街だってボろボロなのよ」
「怪我がなおったたら、また戦うのかよ、なんだよそれ」
「おかしいじゃない! ここは安全じゃなかったの!」
「魔王様は俺達の命を捨て駒か何かとおもってるんじゃないのか?」
「そうだよ! 増援要請だってされたはずだろ! なんで戦闘中に応援がこなかったんだ! 終わってからきてんじゃねぇよ!」
「そうよ! 魔王様だっていつもエーラムにいてちっともこないじゃない」
「死ねってことだろ……くそ!」
色々不満が飛び交いだした。
それに聞き捨てならないこともでたぞ。
増援要請があった? 魔王は俺が第一報告だといっていたが、どういうことだ?
……この事は、あとでカリスさんにきいてみるか。
「ぐだぐだうるせぇ! おめぇら悔しくねぇのかよ!」
どうするべきかと悩んでいると、イルマが怒鳴りだした。途端不満を挙げる声がとまった。
「おめぇらの作った街をボロボロにされたんだぜ? なんでやりかえそうとしねぇ!」
「お、おい」
「いいから言わせろ」
止めようとする俺を片手で振り払う。こいつ怪我してるんじゃないのかよ。
「おい、おめぇら」
睨みつけた相手は獣人たち。イルマと同じく銃でやられたやつらだ。
「人間に一方的にやられるのは、今までどおりじゃね? それを今更か?」
「託宣にやられるのとは違う!」
「確かに違うな。みえねぇ託宣を相手にするよりは、ずっとやりやすい」
ニヤッと笑みと牙をみせる。こいつのこういう顔はずるいと思う。
「おい、おまえ」
今度は近くにいる羽のある人。翼人というらしい。
「なんだよ!」
「お前らって仲間の敵討ちとか考えねぇの? 魔王が、その許可だしたのがわかんね?」
「え?」
「こっちから攻撃していいんだぜ? いままでなかったよな。俺ならチャンスだと思うぞ」
イルマが言い始めてから、不満の波が静まっていく。
まだ口にしているやつがいるが、その声が周囲に届いていない。イルマのいったことを考えているのだろう。
「イルマさんよ。さっき、託宣よりはやりやすいって言っていたが、実際どうすんだ。ちゃんと考えてんだろうな?」
自分の言葉を無視されたのが腹正しいのか、不満声をあげていた獣人の男がくってかかってきた。
「そりゃ。こいつが考える。俺は実行するだけよ」
ビシっと指さすイルマ……そこで俺か、そうですか。
「「「「「ヒサオ様ならイルマより信用できる」」」」」
……ここでも様? なぜに?




