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第78話 保管術

 魔王の話によれば、俺は常に魔力を垂れ流ししているらしく、普通ならすぐ倒れるらしい。

 たまに魔力制御できない人がいるらしくて、そういう人は自滅して、そのあと制御方法を覚えるらしいけど、俺の場合、気を失うようなことがないわけで…


「つまり魔力制御を教えようがない」


 ということらしい。ふざけんな!


 あとついでに聞いたら、普通、通訳スキルというのは、使うときに切り替えしているらしい。

 これは無意識にやっているレベルらしくて、条件反射的な行為に近いとのこと。

 でも、俺の場合は周囲に影響を与えている。

 切り替えというものが存在しない。せいぜい就寝のときぐらいだ。つまりは異常。

 そもそもこんなスキルを常時解放している時点でおかしくて、それを可能としている魔力の量が異常だといわれた


 魔王に異常者呼ばわりされて、俺の人としての自尊心はボロボロになったわ!


 あと、こんなこと言われた。


「ラーグスのほうは不安だけど、しばらくは大丈夫だろう。だから、君はイルマ君のほうに外交大使としていってね」


「は?」


「だって君、仕事してないでしょ。それを外交大使に抜擢してあげるっていってるの。さぁ、ちゃっちゃと準備して」


「いや暇じゃないですよ! ほら、アグニスっていう人と新しい店構えて金かせぐつもりだし! それに、仲間のこともありますし!」


「新しい店? ちょうどいいじゃないか。イルマ君のところにいって店をやってよ。あと仲間がいるなら、巻き込み……手伝ってもらいなよ」


「今言い直しましたよね! あと俺の店じゃないですから!」


「そのアグニスって人、この国の住人だよね? それなら命令ですむ」


「ちょっと、身勝手すぎません!?」


「だって魔王だもん。身勝手で当然でしょ。あとよろしくね」


 うわ! 開きなおった! しかも今これ子供バージョンだ! ずるい!


「まあ、あそこはちょっと特殊でね」


「まだなんかあるんですか?」


「そういやな顔しないでよ。真面目な話だからさ」


「大使や新しい店の話は、まじめじゃないんですか!」


「それはそれ、これはこれさ」


 あんたもか! まるでイルマだな!

 それで何でも通じると思うなよ! って叫びたいけど我慢。

 いい加減ふてくされた態度をかえないと、やばいな。


「それでなんですか?」


「うん。あそこって南にオズルっていう人間の国があるし、下手したら、アルツとオズルの2国から狙われかねないんだよ」


「え? そんなに近いんですか?」


 オズルのことはしっていたけど、王都がそんなに近かったのか?


「近くはないよ。だからマズイ。王都のほうで託宣が聞こえてしまう。もしイルマ君の村が標的にされたら、兵力の差で危険かもしれない」


「え? でも託宣が少しだけど封印されている土地だって」


「うん。直接戦闘時の託宣効果は落ちるだろうね。でも王都のほうでそれを補ってしまう託宣がでたら、やはり負けてしまう。それにラーグスのこともあるし、できれば外交大使という形でいって、彼を助けくれないか?」


「助けろと言われても……」


 正直俺にどうしろと? と言いたい。戦闘経験だってろくにないぞ。


「直接戦場にでてほしいとはいわないよ。ただ、戦争が起きることを考えて、イルマ君の村の防衛強化と発展をおこなってほしいのさ。君がもてる異世界の知識をつかってね」


「……うーん。じゃあ、やれるだけやってみるって感じでいいです?」


「もちろんだ。それでいいよ。ダメなら、魔族だけでも連れ出して逃げてくれ」


「ハ、ハァ……」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 という話をアグニスさんに俺はしないといけないわけで、宿にかえったその日のうちに、モーリスさんとアグニス夫婦に説明してみた。

 そうすると…


「ま、魔王様の命令っスか!?」


「あ、あなた、これって!」


「ああ、魔王様直営店ってことになるよな! しかも、新天地での!」


「ええ! すごいわ! これいけるわよ!」


「よ、よし。兄貴! いや、ヒサオさん。その命令、お引き受けさせていただきやス!」


 そうか。こういう事になるのかと、自分の常識が違っていることに頭痛を覚えてしまった。


「客人。いつご出立ですか?」


「わりと早くらしいですよ。セグルに飛んでから、そのあと徒歩で村にいきますから」


「早く……では今のうちにこれをお渡ししておきます」


 急にどうしたと思いみていると、服の胸ポケットから手にまきつけるような黒革のリストバンドらしきものを出してきた。


「これをお持ちになってください」


「はぁ? これは?」


「はい。これは本来、こいつらの退職金代わりのものなんですが、客人が持っていた方がいいと言いだしまして。どうか納めてくれませんか?」


「え? どういうことですか? それにこれは何なのです?」


 見ればリストバンドに出っ張りをつけ、中指を入れて使う感じのものだ。バンドの中央部分に緑の宝石がついているが、わりと高そうに見える。


「それは《保管術》というのを使える革バンドでして、けっこうな量のものを側の空間にしまいこんでいられるものです」


「……ってこれ、じゃあ、アイテムBOXじゃ……え?」


 まさかだろ? いや、だって魔王様がつかっていたけど、あれって空間系魔法じゃ? それより以前にそんなことできるものなら高価なものじゃないのか?


「そんなすごいものいいんですか?」


「この2人がそうしたいというのだし、俺はかまいませんよ」


 言われ2人へと目を向けると、


「俺らよりも兄――ヒサオさんのほうが有効利用できるような気がしまして」


「ええ。たまに変わった食材を持ってきてくださることもありますし、その時はお辛そうでした」


「あぁ。まぁ、一人で持つべきものではなかったですからね」


 前にモア・ベアを2匹ばかり倒したことがあって、肉を解体し持って行ったことがあった。きっとそれのことだろう。イルマの精神授業とレベルあげ効果がでてきている。


 アイテムBOXはほしいけど、これどのくらい入るんだろ?

 退職金変わりっていうし、それってかなりのものじゃ。

 あ、鑑定してみよ。



 マジックバンド(保管術)

 腕に巻き付けることで宝石に付与されたスキルが発動するもの。

 宝石そのものは交換可能。

 購入 200万キニス 売却100万キニス

 用途 宝石の付け替えによってスキル発動を可能とするバンド。

 備考 現在、保管術宝石が埋め込まれています。


 保管術について。

 時折現れるレアスキル。

 近くの空間に所持品をいれることができる。

 また、取り出せるのも入れた当人だけとなる。



 200万……いやこれもらったらダメなやつだろ。

 どのくらい入るのか見てみようとしたら、値段に吹いたわ。

 そして、肝心の保有量がどのくらいなのかさっぱり分からない。痒いところに届かないよな……


 これバンドのほうもすごいよな。スキル効果を発動できるってどういう仕組みなんだろ?

 とりあえず返そう。これはもらったら駄目だってことが分かった。


「すいません。こんな高いものを貰うわけにはいきませんのでお返しします」


「客人、それは無粋というものだ」


「そうですよ、ヒサオさん。どうか受け取ってください」


 アグニスさんとモーリスさんに言われるけど、こんなものをもらったら商売がしにくくてならない。あくまでギブアンドテイクでいきたいんだよな。


「いえいえこれは駄目です。むしろこれを売って、店の軍資金にしてはどうですか?」


「そっちは目途がついたんで……あ、じゃあ、こうしやせんか?」


 アグニスさんが名案でも浮かんだような顔をし、自分の考えを言い出した。

 簡単にいえば、俺のアドバイス料への前払い金にするということである。

 契約に基づき支払われる報酬の一部を、これで前払いしておくということなのだろう。


「いや、俺だってそこまでの自信があるわけじゃないんですよ? 前払いにしたって多すぎませんか?」


「そうスか? むしろ、そのくらいの価値はすぐ超えるとおもうんスけど」


 なにいってんだ! って思う。

 ある程度の自信はあったけど、ここまでの価値ってあるのか? もしかして、このくらい価値ある助言をよこせっていう暗黙のプレッシャーをかけてきているとか?

 いやないな。

 この人に限ってそれはない。ゴブリンの表情とかよくわからないけど、そこまで商売慣れしている人には見えない。


「それなら、駄目だった場合のみ返せばよかろう。それに、一度だしたものを返されたとあっては、経営者としての面子がつぶれてしまう。察してやってくれないか?」


「……それは卑怯ですよ、モーリスさん」


「なんとでも」


 ハァ……この人には勝てないな。どうしてこうオーガなのに頭がまわるんだろ。これも経営者経験があるせいかな?

 結局、モーリスさんに押し切られる形で、いただくことになった。


 もちろん前金としてね。凄いプレッシャーだわ。

ヒサオ:ヒャッハー インベントリktkr! これで、かつる!

アグニス:喜んでもらえて光栄っス!

ユリナ:よかったわね、あんた。

モーリス:200万の借金を背負ったともいうがな。

ヒサオ:ヒャハ………

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