第75話 母と同盟と馬鹿
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母のことを説明するまで少しだけ時間がかかった。その間もフェルマンさん達が外で待っているわけで、俺の説明が終わると、魔王が2人を中へといれようとしたが、
「あ、その前に。僕は、世間的に魔王サルガタナスで通しているから、呼ぶ時はそっちで頼むよ。できるだけ本名のほうは出さないでほしい」
思い出したように言われ、コクリと頷いた。
フェルマンさんとイルマが入ってくると、魔王は側にあった空間に手をいれて本を取り出し……あんた、それ……
「アイテムBOX!?」
思わず声に出してしまった…
「びっくりするな~ 急に大声だすもんだから」
「あ、いや。すいません…」
「ヒサオ……魔王様の前で、お前という奴は……」
フェルマンさんにも呆れられた。でも、アイテムBOXだぜ!
俺が荷物持ちとかしていたとき、どれだけ渇望したかわかるか? 牢にぶちこまれてからは、そういうの無くなったけど、あれさえあればな~ って何度思ったことか。
「できれば、こっちで驚いてほしいんだけどね」
そういいながら魔王が手渡してきたのは、一冊の無題の本だった。
薄茶の厚手のカバーを付けられた本を俺がうけとると、
「おそらくは君の母で間違いないよ。ヒナガ=メグミが僕に置いていった彼女自身で書いた手記だ。この一冊しかないから大事にみてくれ」
「今みても?」
「読んでもいいが、全部をみるのは時間がかかるだろうね。なので、最後のページだけみてほしい。それでわかるはずだ」
「最後?」
言われ最後のページをみてみる。
そこには、こう書かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『私はどうやら帰れそうにない。
色々試してみたけど、取り返しのつかない失敗をしてしまった。
もうじき私は処刑されてしまう。
それだけの事をしてしまったし、どのみち私に残された時間はもうわずか。
どんな犠牲を払ってでも帰りたかった。
毎晩夢見る久雄の姿。ちっちゃな手が私を求めてくる。
その手をぎゅっと握ってやると、安心したかのように眠る姿。
私は、あの光景をこの5年もの間夢見てきた。
ほんの2ヶ月。
それしか私は、あの子を……久雄を、抱きしめてやれなかった。
こんな世界に呼ばれやってきて、帰れなくなった。
どんな手段をつかってでも帰ると思ったのが間違いなの?
……いえ。間違ったのは急ぎすぎたこと。
それだって仕方がなかったと今でも思う。
でも、結果的に帰る手段を自分の手でつぶしてしまった。
母さん……早苗母さん……親不孝な娘だけど、久雄をお願いします。
こんな世界で死んでしまう私を許してください。
久雄……もう一度会いたかった……馬鹿な母さんでごめんね』
なんだこれは?
かあさん? ……だよな?
……あれ? かあさん?
かあさんって……なんだっけ?
これが母親?
え?
……だめだ――分からない。
「君、大丈夫かい?」
「おいヒサオ」
「どうし……ああ、こりゃだめだ。ちょっとどいてくれ……しっかりしやがれ!」
バシン!
「いてぇ!」
「よし、目さめたな?」
「あ、ああ。でも、もうちょい加減してほしかった」
「ケッ! それだけ言えりゃあ上等だ」
「思ったより、刺激がつよかったかな? それを渡すのは時期尚早だったかもしれないね」
「あ、いや……ありがとうございます。うまく言えませんが、何かを取り戻せたきがします」
ぎゅっと本を握りめる。
この本は、おれにとって大事なものらしい。どうしても手放せない気持ちでいっぱいになった。
「そうか。ならその本はあげるよ。色々書かれているから大事にしてくれ」
「はい!」
魔王の言葉で、凄く視野が開かれた気がした。
「えーと、とりあえずそっちはいいや。あとは報告まちだ。次は君だね。えーと……ごめん名前もう一度いってくれる?」
「またかよ! イルマだよ」
「ああ、ごめん。そうだったそうだった」
なんか魔王を見ていると、子供というよりボケた爺さんって感じがしてきたな。
「獣人との同盟の件だけど、どういうことだい? 獣人たちが、どれだけ魔族に恨みをかっているかわかってるよね?」
「……もちろんです」
「なら、どうして今更?」
魔王の顔は嫌味を感じさせないものだ。純粋な疑問を向けている。俺もそれには疑問だった。
なんで、獣人たちは魔族領土で住まないのだろう? と以前考えて、イルマに聞いたことがある。だけど、少し考えてみればわかることだ。
互いに恨みつらみが、重なり過ぎている。
魔族領土に住むのは難しいのだろう。
だから、せめて同盟という形にしたいんだろうけど、それだって難しいと思う。
カリスさんは、魔族は他種族に対して広く門をあけているといっていたけど、それだってどこまでのレベルの話なのかわからない。
そんな複雑な事情がある以上、魔王のように、どうして今更? となってしまうのかもしれない。
「……ガキのためっす」
「――え?」
魔王が止まった。いや、俺もとまったし、フェルマンさんも止まった。
なんか空気が凍ったというかなんというか……
「ガキの為だよ! 俺達のように、奴隷のような気持を味合わせたくない! そんだけだ」
「ああ、うん。でも、さっきもいったけど、今までの確執があるのは知っているだろ? それを無視して子供のためといわれてもね~」
「そりゃあ、俺達の世代の問題だろ! まだ、なんもしらねぇガキたちは関係ねぇ! ……あいつらの手には魔族の血がついてねぇ!」
「……」
聞いて俺はおもった。
こいつは良い馬鹿だと。
会談のときも感じたけど、こいつはやりたいことがあれば、それを叶えるために何でもするタイプだ。
たぶん、魔王と会ったらああいって、こういって、それでうまくやろうとか考えていたんだろうとは思うが、全部ふっとんでいるな。
「君、子供っぽいね」
「……自覚はある」
あったのか。でもそれで済む話じゃないよな。
「ハァ――まあ、動機はわかったけど、それだけじゃ無理だよね? それはわかってる?」
「ああ。でも、あんたには、こうした方がいいと思った。ぐだぐだ細かいことを言うより、本気でぶつかったほうがって……すまねぇ」
すまねぇといいつつイルマの目はまっすぐに魔王を見ている。魔王もまた同じだ。
「へー うん。いいね君。そのままでいいよ、君は」
「魔王様? いいのですか、それで?」
フェルマンさんが少し驚き口をはさんでくる。
「うん。まあ、細かい話は部下たちにやらせてもいいと思っているんだ。だけど、相手の気持ちを知っておくのは上の立場の役目じゃないかな? 少なくとも僕はそう思う」
「じゃ、じゃあ!」
「イルマ君、まだ早いよ。僕が君の気持を知っただけだ。同盟をむすぶということは、対等な立場じゃないと成り立たない。僕たち魔族が、君たちと同盟を結ぶ利点はなんだい? そもそもこれから国をつくりたいから支援を望むなんて話であれば、それは同盟じゃなくて、下につくということだ。今の立場と変わらないんじゃないかな?」
「……なんもいいかえせねぇよ」
「じゃあ、どうする気? 何を君たちはくれるんだい?」
「……」
何も言えなくなったが。そりゃあ、気持ちだけで来たような感じだったしな…
「思いつくまでここに居られても困るんだよね。どうする?」
「……俺じゃだめか?」
「「は?」」
俺と魔王が同時にいってしまった。
「魔族が何を望んでいるのか、俺には正直わかんねぇ。だから、それがわかるまで、俺が側にいちゃだめか? 役にたつぜ?」
「いやだめだろそれは!」
いったのは俺だった。つい……
「……おい」
「いや、だめだって。イルマは王になるんだろ? それなのに、その選択はないよ!」
「黙っていろよ。俺にやれるのは、これだけなんだ」
「だけど、それは駄目だって! 仲間のこともあるだろう!」
何でおれはこんな必死なんだ?
自分でもわからないけど、これは駄目だとおもってしまう。
「仲間……ああ、そうか! 別に王は俺じゃなくてもいいんじゃねぇか!」
「「アホ!」」
俺と魔王がまたかぶってしまった。さすが異世界人同士だと気が合う。いや、そうじゃない。
「これはないよ。なんだい、この獣人は? 本気で国づくりがしたいのか?」
「俺もそう思います。最初あったときから、頭がおかしいとは思っていましたけど、ここまでとは……予想以上の馬鹿でした」
「ひでぇえ!」
「「「ひどくない!」」」
今度はフェルマンさんまで!
「だったらどうしろっていうんだ!」
「それを考えるのがお前の仕事だろ! なにしてたんだ、この2ヶ月!」
「おめぇの護衛と訓練」
それを言われると弱い。うん。
「で、でも、考える時間はあっただろ?」
「あったな。だけど、何も思いつかなかった」
だめだこいつ早くなんとかしないと。いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
「あー。うーん」
なぜか俺のほうが必死に考える。
なぜだろ? こいつの国造りなんて正直どうでもいいきがするんだが、なんかほっとけない。
魔族が望んでいるのは、託宣封じだ。それをこいつらが協力するってのは?……だめだ。国造りしたいわけだから、そんな余力はない。
そもそも亜人――いや、魔族か。彼等が長く住むことで託宣封印はできるんだから、協力もくそも……ん?
「魔王様、ちょっと尋ねたいんですけど、新たな土地で託宣封印する場合、どうしてます?」
「え? そりゃすでに封印してある土地の側に、また新しい街をつくるだけだけど?」
「ですよね。それ魔族が住めばいいだけですよね?」
「うん。そうだね。大森林だってもう少しだったはずだよ」
OK。これならいけるはずだ。
「獣人と魔族が混在した街の場合、封印はどうなります?」
「……そういうこと?」
「だめですか?」
「……うーん」
わかってくれたか。
何も魔族だけの街に固執しなくてもいいんだよ。
それに、
「フェルマンさん達も、いつまでもアグロにいられるわけではないですよね?」
「お、おいヒサオ。それはそうだが」
「おい。お前なにいってんだ?」
当事者がわかってない! こいつ、もうやだ!
「ひとつきくけど、どこに国を? いや、まずは村からか? どこにつくるつもりだい?」
魔王が、イルマへと視線を戻し聞いた。まだチャンスはあるな。
「それは、まだ言えねぇよ。同盟くんでねぇし」
「あほ!」
本日2回目のアホがでました。いったのは俺です。
「君も大変そうだね…」
「何故かこうなりました……もうやだ」
魔王にまで同情された…ほんとなんでこんなことに。
「さっきから、何でおめぇが口だしてくるんだよ! てめぇ関係ないじゃねぇか!」
まったくだ! 俺もさっきからそう思ってるよ!
こういう役割って、本当は、テラーと馬野郎の役目じゃないのか? なんであいつらがいないんだよ。くそ! でも乗り掛かった舟だし、これも何かの縁ってやつか! もういい!
「あのな、このままじゃ、お前の国造りは失敗だぞ。わかってるのか? 魔族との同盟が成立しないと先進めないんだろ? だったら腹割って話せよ。さっきいってただろ。魔王様には本気で話さない駄目だとおもったって」
「そりゃそうだけど、ありゃ、俺自身の話で」
「ぐだぐだ煩い! お前らしくないだろ! だいたい話がまとまりかけているのがわからないのか!」
「え?」
「「「やっぱりか!」」」
ほんと、どうしてこうなったという状況になってしまった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イルマに説明するのにそれなりに時間がかかった。
俺がいいたかったのは、魔族と獣人を同じ街に住まわせ、それを守る戦力として獣人をつかったらどうだということだ。
魔族たちが住めば託宣封印が進む。
それはつまり、封印したいだけであって、自分たちの村がどうしても欲しいわけではない。もちろん住処はいるだろうけど。
封印が済んだら次の場所に移住することもあるようだし、その時の開拓と防衛は獣人にまかせればいいんじゃないだろうか?
魔族は封印を。
獣人は住処を。
互いに望むものは別だったんだ。
だったら互いの目的を叶える形で交渉すればよかっただけの話。
これなら対等な立場として同盟が成立するだろう。
問題なのは、これを魔王が受け入れるかどうかだ。
獣人が受け入れるかどうか? そんなの関係ない。
だって、これしか道はないんだから。
できあがった村をひろげていけば街になる。それが増えていけば、国ができあがるだろう。
しかも託宣封印ができた国だ。
これなら、どっちにも利益はでる。
「ま、マジか。そんな手が……」
「むしろ何でいままで考えなかったのか、そっちが不思議だよ!」
ほんとこれだな。
長い歴史のなかで、どうしてこんなことを思いつかなかったんだ?
魔族の方が思いつかなかったのはわかる。敵なんだから。
でも、獣人のほうは歩みよれたはず。
「それでどこにつくるつもりだい?」
「アグロの南につくろかと思っている。あのあたりなら北にアグロ、西にセグルがあるからちょうどい」
確かにと俺はおもった。
アルツからも離れているし、何かあればアグロやセグルから増援を出せる。それに、セグルは農地が豊かと聞いているから食料確保にも役立つはずだ。そもそも、アグロの南はわりといい土地だと聞いているし。
「あそこか……いいね。大森林はもうなくなっちゃし、ちょうどいいかも
「え?」
「魔王様! いまなんと!」
「ああ、君たちは知らないのか。2ヶ月ほど前に、大森林が燃やされたのを」
「……2ヶ月前? 俺達がこっちにきたとき?」
時期的には微妙だが、たぶんそのあたりか? 少なくとも俺達がアグロにいたときはそんな話きいてないし。
「くそ! 人間め! 俺達が住んでいた場所を奪うだけではなく、焼きつくしたのか!」
手を握りしめ激怒するフェルマンさん。この人のこういう顔を見るのは初めてかもしれない。
「おもいきったことするな。それも託宣で?」
「だろうね。意味なんてわからないけどさ」
「託宣にきまっています! くそ!」
「まて! じゃあ、そのままアグロまで攻めてんじゃねぇのか!?」
「「!?」」
俺とフェルマンさんがイルマの言葉に驚く。
そうだよ! 大森林の西にはアグロの街がある。
焼いたということは、アルツからアグロまで壁になるようなものがなくなる。行軍しやすいということだ。
「魔王様、アグロの街は無事なんですか?」
この人が知らないわけがないと尋ねてみる。
「もちろんだよ。もしあそこが攻められているなんて知ったら、僕もこんなことしていない。すぐに兵を派遣している」
返事をきき安堵する俺達。
「イルマ君だったかな? 君の話はわかったし、同盟の内容についてもわかった。方針はそれでいいと思う。あとは互いの部下どうしで細かい話を煮詰めよう」
「え? そ、それじゃあ!」
「ああ。こっちとしても、託宣を封印したいからね。そのために力を貸してくれるなら助かるよ。もちろん封印が完了したあとは、魔族達がそのまま住むか、あるいは別の場所にうつるかは、その時の話になっちゃうけどね」
「それでいい! 俺の考えていた以上だ!」
「場所もいい。そのあたりなら、託宣封印がわずかだがされているはずだ。大森林同様半端な形ではあるけど、人間たちに一方的に蹂躙されることはないと思うよ」
「ああ、それもあって、あそこにしたんだよ。すげぇ! ヒサオ、おめぇのおかげだ! 感謝するぜ!」
俺の手を握りしめ、ぶんぶんふりだす。よっぽど嬉しいのか、目の端に少しだけ涙がついている。
「ああっと待って。いい忘れていた。たぶんカリス爺も言ったと思うけど、僕たち魔族は人間に対して積極的な攻撃をしていない。だから、もし君たちがそのつもりなら……」
「もちろんだ。まずは地盤を固めねぇと戦争だってできやしねぇし、もしその時がきたら、自分たちだけやるぜ」
「それがわかっているならいい。じゃあ、今日の話はここまでかな? 細かい話は、部下どうしにまかせ、移住の話をすすめよう。フェルマン。わかっていると思うが、君たちダークエルフの部族が中心となって参加してもらう。あとヒサオ君。君はしばらくこの街にのこっていてくれ。例の件だ。分かるね?」
「「「はい」」」
魔王の指示に、俺たち3人が元気よく返事をし、謁見の間をでていく。
例の件か……さっきのことだろうな。
まあ、母さんの本のこともきになるし、少し時間がほしかったからちょうどいい。
ペリスさんからの連絡がいつになるかわからないけど、それまでは少し休めるかな?
ヒサオ:あっさり本がゲットできてちょっと拍子ぬけ
イルマ:いいじゃねぇか。望みがかなったんだし。
フェルマン:それがいいが、同盟の件、問題がありそうなきがする。




