第71話 こめ!・・・・こめ?
イルマが眠ったのを確認したあと、コタに電話をした。
フェルマンさんに一言いってから、現状報告と考えていることを話すと、
『いいと思うというか、今更?』
「だって、こっち来てから色々大変だったんだぞ」
『聞く限りだとそうだと思うよ。僕でも同じだったかもしれない』
「だろ! 俺、悪くないだろ!」
『悪いなんていってないよ。でも、こっちは早苗バァちゃんの様子見ているから、どうしてもね』
ってことは、結構マズイのか。電話だと、普通に心配している感じだったけど。
「ごめん。もうちょい心配かけると思う」
『それはいいよ。どうしょうもないし。それに僕と恵子は現状報告しかできないから』
「それだけでも助かるよ」
本気で助かる。
バァちゃんの認識って結構間違ってそうだし、直接連絡しても話がかみあわないきがする。直接声を聞かせたほうが安心してくれるとは思うんだけど、相談してもチグハグな事言われると思うんだよな。
『そういえば、今の話で思い出したけど、味噌汁の作り方教えようか?』
「え? なにコタ。わかるの?」
『味噌汁くらいならできるよ。知らないヒサがおかしいの』
「耳が痛いです。で、どういう手順なんだ?」
『反省してないね? まぁ、いいや。えーとね……』
といった会話をして味噌汁のレシピをゲット!
「サンキュ! これでこっちでも味噌汁飲めるぜ!」
『ヒサ。それ、こっちにあるものを使ったレシピだからね? そっちだとまた違うかもしれないよ。そこのところちゃんと考えてね』
なこと言われ『ハッ!?』となってしまった。
『やっぱり……あ、そろそろかも。ヒサ、僕のほうからは切らないけど、ヒサのほうでも切らないでね。ちょっと実験したい』
「ん? なに言ってるんだ?」
『なんでもいいよ。とりあえず切らないでね。たぶん勝手に切れるから。あと、そっちからの電話は、僕が良いというまで控えて。ちょっと考えたいことがある』
「あ、ああ。それって恵子やバァちゃんにもか?」
『うん。そう。頼……』
プチ……ツ――ツ―――
「あれ? コタ? おい? ……またか?」
いきなり通話がきれた。コタのいったとおりか。前に恵子と話した時もそうだったな。これ何かあるのか? 実験とか言っていたけど…
まぁ、そっちはコタが何か考えているようだし任せよ。
それより味噌汁の作り方どうしよ? 昆布や煮干しってあるのか? ワカメはあったし昆布もあるだろうけど……
ハッ! こっちきてから、豆腐をみたことがない!
豆腐のない味噌汁なんて――ウゥッ…
そんなことをグダグダと1時間近く考えているとトゥルルーと電話が鳴った。コタか。
「お? もしもし」
『よし。つながった。ヒサ、味噌汁の話を覚えてる?』
「ん? ああ。もちろんだ」
『OK。じゃ、聞くけど、僕がいった出汁はなんだい?』
「あ? そりゃ昆布出汁だろ。どうした?」
『これもOK。よしよし。なるほど』
「なんなんだよ。どうしたってんだ?」
『確認だよ確認。僕が味噌汁の説明をしたヒサなのかな? ってね』
「? 何当たり前のこといってんだ?」
『まぁ、そう思うよね』
「……すまん。俺が分かるように説明たのむ」
『悪いけど、たぶん声で説明すると5分すぎちゃう。だから、この件はメールでおくるよ。そっちのほうは大丈夫のようだし』
「なんだ? 5分すぎたらだめなのか?」
『だめというか、たぶんそれが一回でつないでいられる最高通話時間だと思う。恵子のときもそのくらいで電話切れたでしょ?』
「あんまり覚えてないな」
『そう。じゃあ、覚えておいてね。こっちでも、そっちでも、話をしていられる一度の通話時間は5分が限界』
「……そうなるな。で?」
これが分かったからといってなんだ? と考えた俺に、コタは大きなため息をつくという反応をみせた。
『鈍いな。ほんと鈍いよ』
「な、なんだよ」
『もういいよ。これもメールの中にいれておくから。時間がもったいない』
「あ、ああ」
気のせいか怒っていらっしゃる?
『あとは、2年A組の件だけどさ……』
「あ~ うん。それな」
『本当に2年A組だよね? 聞き違いじゃないよね?』
「それは確認した」
『うーん……ということは、その起源の魔族っていうの、元々はこっちの学生だった確立が高いよね?』
「やっぱりそう思うか?」
『だって、名前があからさますぎるよ。まるで見つけてくださいって感じじゃないか』
「そうなんだよな。もしかすると、俺と同じく来てしまった連中じゃないかな~ と思ってる」
『僕もそう思うけど、そこらは確かめるしかないだろうね。当人たちに』
「うん。それは魔王に会って、会せてもらえないか聞いてみる」
『だね。僕も同感だ』
声のトーンが戻ってきたな。怒っているとおもったのは気のせいだったのか?
「今思ったけど、もし日本のどっかの学生達だとしたら、昔の記事にないか? クラスまるごと消えたのなら、でかい話になっているだろうし」
『僕もそう思うんだけど、どうかな? そんな話聞いたことないし……まあ、ちょっと調べてみるよ』
「たのむ。あとバァちゃんのこともな…」
『うん。ああ、そうそう、電話の発信許可のことだけど、それもメールに書いとくよ』
「こっちから電話しないでくれってやつか。わかった。ンじゃ頼むな」
『じゃあ、後何かある?』
「こっちは今のところないな。一応わかったことは全部いったはず」
『OK。じゃあ、きるね。頑張るのはいいけど無理はしないように』
「わかったって。じゃ恵子とバァちゃんにもよろしく」
…プチ……ツ――ツ――――
よし。メールでもまつか。今度はどのくらいかかるかな?
メールがきたのは、俺が眠ったあとだった。5回ぐらいに分けてきたようだ。俺は寝ていたので気づいたのは翌朝になっちまった。読んでようやく、コタが若干怒り気味だった理由もわかった。
『こっちとそっちでは10倍の時間差があるのに、電話での会話は普通にできる。そしてその時間は5分が限界。これをよく考えてみて』
コタが最後におくってきたメールの中にあった一文だ。
先にあったメールには、平行世界の可能性やバタフライ効果とかいうやつ。
よくある、タイムパラドックス的な問題だろうな。
こういった危険性のこともあるが、現時点ではスキル補正? なのかしらないが、通話していた分だけの時間に比例して、再度の通話には時間を必用とするようだ。
あいつ、どんだけ考えているんだよ。頭まわりすぎだろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食時間になる。
案の定、豆腐はなかった。
だけど、その他のものはあった。長ネギとか昆布とかね。
あともう一つ。
ユリナさんに聞いてみたら、彼女は『異世界料理百科』を持っているらしくて、俺なら読めるんじゃないか? って渡してくれた。
結果よめた。
解読スキル先生出番っすって感じだった。なんせ、俺以上に字が汚いんだよ。
「そうそう、これが昆布の出汁についてですね。そのあとにワカメと出し汁を混ぜて、沸騰させて一度火を止めます。味噌はその後かき混ぜて……そうそう」
「これで完成ですか!」
最後に長ネギをいれて、ユリナさんが喜びの声をあげる。
いい匂いだ。これだよこれ。味噌の匂い。
たまらん!
ただ、豆腐がないのが残念。
本には別の具材の名前がのっているんだけど、今ここの宿にはないらしい。
「ええ、一応。足りない具材もあるんで、俺の知っているのとは少し違いますけどね」
「そうですか――それは残念。でも基本は分かりました」
「はい。おれが教えられるのはこの辺までなので、すいません」
「いえいえ! こちらこそ助かりました。あとは私の問題かと思います!」
「頑張ってください」
「ところで、この味噌汁というのは、どんな料理と合いますか?」
「あー まぁ……ご飯関係なら大体合いますよ」
「ご飯? なんでしょうそれは?」
やっぱり分からないのか。知りたくなかった事実だ。
「お米といって、こう小さく…「お米? 米ならありますよ」…そうそうあるんで…………………」
なんかいま、サラッと聞こえた。
耳に手をあて、ゴシゴシしてみる。
聞き違いじゃなかろうな? と思い、
「すいません、お米ですよ? お米があるんですか?」
「ええ。とはいえ、まずいですよ? あれが味噌汁と合うんですか?」
……
……
……神はいた。
「ヒサオさん?」
俺はいま、猛烈に神の存在について確信した。
きっと、哀れに思った神が、俺の為に米を用意してくれていたんだ。
なんということだ。
今日から無神論者をやめよう。
近くに感じられる神にたいして尊敬の念をもって接しなければいけない。
そうこれは、悟りといっていいだろう!
「ビバお米!」
「は、はい?」
「いえ何でも。少し興奮しました。それで米はどこでしょう? アキ〇コマチですか? ササニ〇キですか? あるいはコシヒ〇リ? いえいえ、こうなったらブレ〇ド米でも構いませんよ?」
「あ、あの? なんでしょうそれ?」
「もちろん米の名前です」
「魔法かと思いました……」
ユリナさんが、エプロン姿で俺から距離をとった。
「そんなわけないじゃないですか。それより米はどこですか? 早くみせてください」
ズイズイっとユリナさんへと迫る。彼女の背中が壁にぶつかると、俺は逃がさんとばかりに壁ドンをした。
「あにきぃいいいいい!!」
という叫び声とともに、背中に衝撃が――いたい。
「アッシの嫁になに壁ドンしてくれてんスか! いくら兄貴だからってゆるしませんぜ!」
「い、いや、ちょっと米のこと聞こうとしただけで…‥」
「コメ? コメでなぜに壁ドン? 兄貴、嘘はいけねぇでスぜ?」
全くその通りで、言い返せなくなって、顔が明後日のほうを向いてしまった。
事情を話し理解してもらえると、米を見せてもら……
え、これ?
台所にあるらしくみせてもらったけど、めちゃくちゃ黒い。形は似ているし、脱穀は済んでいる感じだ。なのに真っ黒? なんだこれ?
「これまだ、精米していないですよね?」
「精米?」
「精米っていうのは、米を磨くんですけど……」
「そういうのは聞いたことがないです」
「……ふむ。でもこれ精米したからといって色が変わるとは……ちょっと炊いてもらっていいですか?」
「はい。ちょっとやってみますね」
気持ちいい返事となれた手つきで、米を釜にいれて水を浸し、そのまま――え? 研がないの? すすぎは? え?
脇にあった巻木をカマドにくべて火を焚いて……手作業? 魔法とかないの?
慣れた感じで巻木をいれていくけど、これ火力高すぎじゃ? ずっとこの調子?
10分もしないうちに炊けたらしいけど早すぎない?
「できました。いま盛りますね」
そういって出てきたのは真っ黒い米。おこげの匂いはしないけど、これって黒米とかいうやつ? おれ食べたことも見たこともないから、区別がつかない。
「味噌汁と一緒でいいんですよね?」
「あ、はい……」
俺も食べたことないんで、ちょっとわかりませんとは言えなかった。
でもって、食べてみたら、パサパサ感が半端ない。
しかも味がまったくない。
なんだこれ? ふっくら感もないんですけど? 黒米ってこんな感じなの?
味噌汁を一口……うーん。
だめだろこれ。黒米って食べたことないけど、ここまで不味くは無いと思う。
調理の問題? それともこっちの黒米はこういうもの?
「どうですか?」
「すいません。俺の知っている米とは違いすぎて、味噌汁とはかなり合わないです」
「やっぱりですか~」
「まあ、でも食べれるので、全部いただきますね」
久しぶりの米だし、残したくはなかった。
できれば生卵と醤油がほしいが、贅沢はいうまい。
バババババと食いあげたおれを見て、目を丸くしているゴブリン夫婦。すんません意地汚くて。
タンとご飯が盛られていたサラをテーブルにおくと。
「次は手順を変えてみましょう。あと米の種類はこれだけなんですよね?」
「え、ええ」
「兄貴?」
「さぁ、いきますよ。美味しいご飯は、それだけで正義です」
「は、はぁ?」
「兄貴……なんか頼もしいっス!」
そんな異様な光景をみていた、宿の親父であるモーリスさんが、従業員達に近づくのを禁じていた。
ヒサオ:こめ!
アグニス:なんすか! あにきこわいっス!
ユリナ:(ドキドキドキ)
アグニス:ユリナ、なんで頬を染めてるっスか
ユリナ:ハッ!?




