第70話 精神訓練
昼飯後に、またレベリングをする。
朝のとは違う意味でだけどね。
「だぁあ――!」
「……」
「せい!」
「……はぁ」
「真面目によけろよ!」
「真面目に攻撃しろよ!」
イルマ相手の格闘訓練。
前に剣術覚えたら? って言われたけど、色々言い訳して覚えなかった。でも格闘ならいいじゃないか? と思ったんだ。
だって、これなら俺がその気にならなければ、殺したりできないと思うし。その気になっても殺せないかもしれないけど。
「オラオラオラオラ!」
「オラオラっていうわりに手数でてねぇぞ?」
ペシって俺の拳が叩き落とされた。
「やるな!」
「いや、おめぇが弱いだけだって。なんだその声だけ戦法」
「気合いれてんだよ!」
「気合とか馬鹿だろ?」
「なんで! 気合大事だろ!」
文字通り気合いれて叫んだら、でっかい溜息をつかれた。
「気合ってのは、力を込めるときに使うもんだ。おめぇの拳は、力のかけらもはいっちゃいねぇ。たんに、拳を突き出しているだけ。それで気合をいれてる? 気合の意味を覚えなおしてこいアホンダラ」
「アホ……」
「そもそも、格闘訓練ってのがおかしいんだよ。おめぇ、獣人なめてねぇか?」
「?」
意味がわからず、言葉につまっていると、
「牙もねぇ、爪もねぇ、羽もねぇ、ないないづくしの人間が外敵と戦うために作り出したのが武器や魔法ってやつだ。なのに、てめぇはそれを使わず、持ち前の拳で身を守ろうとしている。それで誰から何を守る気だ?」
説教しているのか笑いものにしているのか、よく分からないけど、こいつなりに考えているんだな~ってのだけは分かった。
「守るって言うか、これは体を動かして身体能力をあげようとしてんだよ」
「運動したいだけなら、てめぇだけでやれよ。俺は俺で、やることがあるんだわ」
「やること? 今は俺の護衛と、謁見許可待ちだけだろ?」
「おめぇばっかだな~ せっかく魔都にきたんだぜ? 獣人がここに来るなんて前代未聞の大事件だ。この機会を逃してなるものか! ってぐらい大事なんだぞ」
ヘラヘラ笑いながら両手を軽くあげていってて、それってつまり、
「観光か!」
「おぅよ! ここならではの特産品を土産に持って帰らないでどうする!」
拳をつきあげ肯定しやがった……
「馬鹿はお前じゃないか! 何しに来たんだよ!」
「それはそれ。これはこれだ」
こ、こんなのが王様になろうとしているとか、獣人大丈夫か? なにがよくてテラー達はこいつと一緒にいるんだろ? って、そういえば、これってチャンスか。
「なぁ、テラーっていうか、お前らってなんで人間たちに従属してたんだ?」
「は? え? なに、いまさらそこ?」
「え?」
俺なにか変なこといったか? 本気でわからないんだが。
「人間達は託宣があるじゃねぇか。あと勇者召喚な。その2つのせいで、俺達獣人はどうやっても、人間達に勝てねぇわけ。だから、服従するしか道がなかった」
と説明するイルマの顔と声から力が抜け落ちているように感じた。あまりしゃべりたくないのかもしれない。
「それって負けるから従っていたってことだろ?」
「負けるっていうより、殺され続けて、それでな…」
「命大事で従ってたってのは分かるんだけど、それでなんで、わざわざ人間領土のほうに住んでいたんだ? 魔族領土に引っ越すとか考えなかったのか?」
これなら託宣だって無効だろ? 勇者召喚だって、あれは魔王相手につかうものじゃないのか? なら、魔族領土のほうに住めば全部解決じゃないの? っておもったんだけど。
「ああ、それか。何が聞きたいのかようやくわかった。最初からそういえよ。おめぇ結構回りくどいだろ?」
爪を俺の顔につきつけいってくる。その爪おってやろうか?
「いいから教えろよ」
イルマの手を払いどけていうと、
「本当にわかんねぇのか……」
さらっと真剣な顔をされ言われた。なんだよいったい?
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもねぇよ。まぁ、教えてやらなくもねぇが、そうだな~」
頬をポリポリ爪でかきながら考えこんでる。なんだよ、いったい?
「よし、こうしよう。俺がいまから、ほんの少しだけ、全力で気迫をこめてやる。それに耐えられたら、教えてやるよ」
「? ほんの少しだけの、全力の気迫ってなに? 言葉の使い方おかしいぞ」
「そこはツッコムな。いいか、やるぞ。構えとけ」
「あ、うん」
っていいながら、俺との距離を少しあけた。だいたい3歩ほどか?
(これって俺を脅すってことだろ? なにがしたいんだ?)
最初からわかっているなら、耐えるも何もないと思うんだが。
「いいか? いくぞ?」
「いつでもいいよ」
「……構えもろくにしねぇか」
不満らしい。しょうがないから、ちょっとだけ構えてみせた。
「いくぞ」
と、イルマがボソっといった。
何も変化はない。あいつはただ立っているだけだ。
(なにがしたいんだ?)
と、ぼけらーと見ていると、急に寒気がはしった。
(え?)
目がイルマへと注がれる。とくにあいつが何かをいたわけではない。精霊憑依すらしていない。ただ、ジーとこっちを見ているだけだ。
(なんだ? あいつの目が……)
鋭く吊り上がった金色の瞳。それは猛獣の目だった。
いままでタメ口を聞いていたが、いまこの場にいる俺とあいつは、エサと狩る者にかわっている。
(や、やばい)
足が震えだす。殺気というやつか?
何か音をだしたわけでもない。手をふりあげているわけでもない。
イルマは何もしていない。
なのに、こいつの体が、徐々にふくれあがっていくのがわかる。
俺の目には、こいつの体が自分に覆いかぶさってくるように見えて……
「ま、まて!」
慌て声をだした瞬間、俺は両手を前にだしてしまっていた。
腰はひけ、後ろに一歩さがってしまう。
その下がった足から力が抜けそうになった。
地面が揺らぐという感覚を味わったのは初めてかもしれない。
「ん。なんだもうか?」
イルマが気を緩めたのがわかった。
膠着していた俺の体から一気に汗がでる。すごく嫌な汗だ。
「ちょっとしかもたねぇか。やっぱり全然だめだ」
「……いまのって、殺気か?」
本気で殺されると思ってしまった。交渉術で契約しているにもかかわらず――なんだこれは?
「まあ、それに近いナニカだな。うまくいえねぇよ」
「ナニカってなんだよ。今のすげぇ……」
怖かったって言えなかった。馬鹿臭いと思うけど、プライドみたいのがあった。
「いっとくが、もし本気だったら、構えもろくにしてねぇお前なんか心臓とまるぞ。スキルで束縛されている俺が、そんなことするわけねぇだろうが」
「理屈はわかるけど。じゃあなんだよ、いまのは」
「だから、殺気に似たナニカだよ。本気の殺気ってのは、相手を動けなくさせる。恐怖で、何かの行動をおこすことを止めちまう。でないと、狩りでつかえねぇ」
「狩り?」
「おれら獣人だぜ? 獣の血がはいってる。野生の狩りってのは、まず相手の行動を束縛しなきゃなんねぇ。逃がさない、吠えさせない、攻撃させない。そんな感じにな」
「……」
なんとなくは分かるが、それと今のとどう違うんだ? 俺には同じようにしかおもえなかった。
「でも、お前は、動けただろ?」
「あれでか!」
「あれでだよ。いったろ。本気で殺気こめたらどうなるか」
「あ、ああ。でもそんなことって」
「できるぞ。たまに訓練中に心臓麻痺で死ぬやつだっているからな」
あっけらかんと、ごく普通にいいやがった。そんなことあるのかよ。
「お前が動けるほどぐらいには、本気で弱めた殺気を込めた。ってそんな感じだ」
「や、ややこしい」
「だからいっただろ? ほんの少しだけ、全力をこめてやるって。手加減するほうが難しいんだぜ」
「言ってたけど、やっぱり言葉が変だ。それで分かれってのが無理あるぞ」
「うっせぇな。理屈で強くなれるとおもうんじゃねぇよ」
言いながら、俺の頭をポカリとたたきやがった。
「俺はガキか」
「どうみてもガキだ」
「んじゃあ、ガキが強くなりたがっているんだから手伝えよ」
言いながら構えた。この訓練はきっと役にたつと思ったからだ。
「ほぅ? なんだ、意味がわかったのか?」
「ああ。早い話が、実践なれしろってことだろ。これは精神力の問題だ」
「……よし、なら付き合ってやる。基礎体力訓練は自分でやりな」
という流れで、俺の午後の訓練は、心の鍛錬に決まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕飯後、次なる鍛錬というか実験。
スキルのことだ。
《極鑑定》と《真通訳》。この2つについても、把握しきれていない。
鑑定についてだけど、以前オッサンの名前を入力して位置を特定したことがあった。
「ってことはだ、俺の鑑定は、誰がどこにいるのか、常に把握しているってことだよな」
机に座り、自分の考えをメモっていく。この羽ペンの使い方もだんだんわかってきた。ただし字が汚いままだけど!
「んー、じゃあ……」
ちょっとミリアの位置を調べようと、念じてみると……おっとでた。
「まぁ、位置がわかっても……ハイ?」
ちょっと信じられない文字がでてきた。
名 前 ミリア=エイド=ドーナ。
位置情報 イガリア西北地方ユミル。オルトナス=エウロパ宅。
2重の意味でびっくりした。
何こんなこともできたのか? ってのと、まだ2日しかたってないのに、オルトナスっていう人の家みつけたの? っていうことだ。
ミリアすごすぎね? あと、俺の鑑定スキルも。
これって鑑定の範疇を超えていないか?
まてまて、じゃ、近場にいる人は……イルマっと。
あぁ、駄目だ。近くにいるやつだと赤い矢印のみか。
じゃあ、オッサンは? ……こっちはこっちで、どこだこれ?
名 前 ジグルド
位置情報 イガリア南西地方 アグロ ― ゼグル 交差街道
まだ、馬で街道かな? 遠いようなこと言っていたし、しょうがないか。
これ、めっちゃ役にたちそうだけど、使い方次第すぎるな。なんで俺が覚えるスキルって、こうクセが強いんだろ?
とりあえず鑑定については新しい使い方がわかったし、何かの時につかうか。
次に《真通訳》だけど…
「どうしよこれ? いまのところ会話に困っていないしな……」
調べようがない気がするんだが?
魔族の言葉もたぶんわかるよね?
今のところ、全種族の言葉が分かるし、これ以上どう進化するつもりだ?
わからないから保留かな……どうせ常に発動しているんだろうから、いつかわかるだろ。
えーと、次は……
そういえば《解読》もか。
これも今のところ常時発動状態みたいなんだけど、読めない字がないから、ランクアップしても意味ない気がするんだよな。たぶん40あたりでランクアップしそうだけど、果たしてどうなることか……
《交渉術》は試したいけど、相手のこともあるし、なによりラーグスの一件があるから、ちょっと怖い。必用な時以外使いたくないけど、ミリアの言う通り正確に把握しておく必要もあると思うしで迷ってしまう。
《通話》はいまのところ助かっているし問題もない。
今日だけで色々勉強になったし、それこみでコタに電話いれて相談にのってもらおう。
まぁ、イルマが寝てからだがな。こいつもうじき寝るだろ。やることないと、すぐ寝るやつだし。
あとは……
ヒサオ:鑑定? いや、位置検索?
コタロウ:GPSかな?
ケイコ:ヒサ君、いつから携帯人間に?
ヒサオ:俺軽そうだな!




