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第65話 時期の到来

 さらに時間がたつ。

 オリジンの名前はヒガンという名前で決まってしまった。

 不満を口にしていた2人も、ヒガンと呼ぶと反応する赤子の様子をみて、あ、これはもうだめだと納得してしまったらしい。


「ヒガンちゃんは今日も元気なのです♪」


「かかさまーだいしゅき」


「!」


 ついに他の言葉も覚えたようだ。

 驚愕と感動を覚えたコリンが、ヒガンの頬にちゅっちゅとキスを連発。


『順調だな』


「ええ。なにより食料的な問題がないのが助かりました」


 ジグルドたちが食べているのは、そのほとんどが肉だ。野菜類も一応とれるのだが数がすくない。今現在、子供が食べられるようなものを与えることができずにいた。


『赤子の状態であれば精霊に近しいままだ。空腹は覚えないだろう。だが自分の足で立つようになれば、この世界のルールに従いだす。そうなれば、普通に食事をとるぞ』


「わかっています。ですが……」


『わかっているならいい。タイミングを間違えるなよ』


「……はい」


 2人の男がなにやらコソコソと話をしているのを見て、コリンが近づいてくる。


「ジグ様、どうしたのです?」


「ん? いや、ここを出る時期を考えていただけだ」


「なるほどなのです。ヒガンにもアグロの街をみせてあげたいのです」


 目じりをさげニコっとした笑みをみせ、その顔にヒガンの小さな手がピタピタとあたる。


「ヒガンもみたいのですよね~」


「かかさまーだいしゅき~」


「! かかさまも、だいしゅきですよ~」


 健やかに育っているヒガン。愛情を惜しみなくあたえる3人。一人は幽霊だが。

 そんな彼らにも別れの時がせまってきていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヒサオやミリアと別れて、早5ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。

 外の情報が一切はいってこないため、アグロの街がどうなっているのか分からないが、そろそろ向かう準備をしなければならない。


「ととさま~ もってきた~」


 そういい、トコトコ歩いてきたのはヒガンである。

 目と同じく、緋色の髪が生えそろった。歯も見えてきて、いくつかの言葉も覚えた。

 最近では空腹を訴えてくるので、豆と肉を混ぜ砕いた粥もどきを与えている。もちろん米はない。


「おお、ヒガンすまぬな」


 そういい持ってきたのは、アポイタカラのインゴットである。

 いまのジグルドは鍛冶場を必用とせず、ただ持つだけで鉱石の温度を自在に操れるようになった。その為、ここにあったいくつかのインゴットをつかい、武具制作に励んでいる。


 カンカンと槌を振るう音がきこえてくる。

 ジグルドの服を手でつかみ、じーとみているヒガン。

 なにが面白いのか、ここ最近はジグルドの鍛冶作業を見ていることが多い。


「うーむ……やはり、この鉱石は、温度調整が難しいの」


 手にもつ青白い鉱石をみて唸り声をあげる。


 アポイタカラは温度に強い性質をもつ。

 それは逆にいえば、温度変化があまりしないということだ。

 高温で熱してもなかなかあがらず。水や油で冷やしても、なかなか下がらず。

 一度上がった熱は冷めないし、あげるのも一苦労という扱いにくい鉱石だ。

 耐火、耐冷性能が強いということになる。


 一度つくってしまえば壊れにくく、ブレス攻撃にも強い。オリハルコンとは違う方向で素晴らしい武具を製造できる素材だった。

 《炎熱操作》の熟練度もあがり、いまではオリハルコンですら自在にできるジグルドであるが、この鉱石だけは自在に扱える自信がなかった。


「ふぅ。今日もだめか。これは、もうしばらく修行がいるな」


 出来上がった板をみていう。

 本来なら胸当てか、自分の小手でもつくろうかとおもっていたのだが、まったく形になっていない。つくるとしたら3、4日かかってしまうだろう。


 ジグルドが、武具制作に勤しむのはいつものことだが、ここ最近はその頻度が高い。

 それはここを出る日が近づいてきたから。

 せっかくある希少鉱石を残していくのはもったいないと、できるかぎり使い、試作品をつくっている。

 結果できたものが、


 ジグルド装備。オリハルコンの盾、アダマンランス。

 コリン装備。オルマリンの肘当て。ミスリルの弓


 といった具合だった。

 まだ、どの装備にも魔力付与はしていない。腕のいい術者がいないからだ。

 残ったオリハルコンとアダマンは全てザックにいれ、その他の鉱石はごく少数のみもっていくことになった。


「ジグ様~ ヒガンがいなく――あ!」


「かかさま~」


 やってきたコリンのもとへと、ヒガンがトコトコと歩いていく。


「心配したのです」


 といい、歩いてきたヒガンを強く抱きしめた。


「ととさまのてちゅだいしてたのです」


「まぁ、もうそういうことを? ヒガンはおりこうなのです」


「わーい」


 抱きしめたまま、その場でくるくると回るコリン。それが楽しいらしく喜ぶヒガン。どうみても親子であった。


「もう、大丈夫そうだな」


 2人がなれ合う光景をみて、ジグルドは決めた。

 聖山をでてアグロの街へ戻る時期がきたのだ。


『きめたか?』


 上空からフワフワと下りてきたユニキスが聞いた。

 ここ数日、彼はあまりジグルド達に干渉してこない。それは分かれの時期が近づいてきたからだ。


「はい。ヒガンの精神も成長してきたようです。いまなら悪意に影響されにくいでしょう」


『元は精霊ゆえの欠点。他者の感情を直接うけてしまう。悪意ともなれば、悲惨なことになりかねない。だが、あそこまで成長すれば影響は少なく済むだろう。なにより、お前たちとの繋がりが優先されているようだしな。とはいえ、油断はするなよ?』


「むろん」


 言われずとも守ると、ジグルドは心の中で誓った。

 コリン、ヒガン、そして自分。

 これは、自分が得ることができないと思いこんでいた光景だ。

 これを守るためなら、大抵のことはしてやると、ジグルドは一人誓っていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 外にでるための準備を始める。

 とはいえ、問題になるのは、でてからなのだが。


「食料も水も十分確保できているが、問題は足だな」


「ヒガンはコリンが背負うので大丈夫なのです」


「ヒガンのことではないが、まあ、背負ってやってくれ」


「はい!」


 すでに戻るための準備として荷造りはすんでいるのだが、問題になるのはでてから、アグロの街までの足だ。

 乗ってきた馬はもういない。あれは聖山についたときに、解放したのだから。


『なんだ、帰りのことを考えていなかったのか?』


「いえ、そうではないのですが……」


 考えというより、聞いた話をアテにしていた。


「ユニキス殿、ここに転移魔法陣はないのですな?」


『転移? そのような便利なものはないぞ』


「やはり……」


 諦めていたとはいえ、それを実際に知るとではやはり違った。


『なんだ? もしかして、爺の世界ではあったのか?』


「はい。ワシの世界では、それをつかって帰ってきたと聞いております」


『そうか。そこは違うのだな』


「ないものは仕方がないでしょう。別の手も考えてありますので」


『ほう? どうするのだ?』


「ここからアグロに向かうのではなく、一度セグルにむかおうかと。あそことアグロは転移魔法陣でつながっておるようですから」


 アグロの街よりセグルという街のほうが近いことは分かっていた。なので、ここの転移魔法陣がなかった場合は、この方法をとろうと考えていた。


『なるほど。まあ、分かった。それでいつここを出ていく?』


「準備ができ……『もしもし、オッサン』……ん?」


 なにか声がした。聞き覚えのある声だったがと、首をふり周囲をみてみる。


『どうした?』


「いや、何か……今のは……ヒサオ?」


 いったい何が? と思うまもなく、再度ヒサオの声が聞こえてくる。


 この後、ジグルドとコリンは、ヒガンをつれ聖山から出る。


 彼らがむかったのは、とある村であった。

ジグルド:おわったの。やれやれじゃ。

コリン:ヒガンちゃんがいるので、もういいのです。

ヒガン:かかさまー ととさまー

3人はそのまま幸せそうに笑みをみせあう。


ヒサオ:「ようやく俺の番だけど………なんだろこの疎外感?」

ミリア:「私よりジグルドのほうが長かった…ちょっとショック」

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