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第36話 イルマの考え

 俺のせいなのか、カリスさんが元の姿に戻った。

 それを切っ掛けに部屋の空気が緩み、護衛さん達も武器を鞘に納めだした。

 イルマ達も戦う姿勢をくずして、その場に座り込んでしまう。


 やる気がなくなった。


 誰も言っていないはずなのに、そんな声が聞こえてくるかのよう。

 どうしてこうなった? と俺が言えることではないが思ってしまう。


「一応聞くが、まだやるか?」


「見て分かれよ」


 カリスさんに、イルマが苛立つ声で言った。


「結局足掻くのは、止めるのかよ」


「うっせぇ! そんな気も失せたよ! てめぇのせいでな!」


 そうだろうな~と思ったが、認めたくない事ってあるよね。


「暴れる気はないじゃろうが、拘束はさせてもらうぞ。おい」


 部下の竜人さん達を呼びつけ、3人を縄で拘束させた。

 その間もブツクサいっていたが、大人しく拘束される気ではあるらしい。


「本来なら、牢にでも連れていく所じゃが、気になる事もある。今この場で、質問させてもらうぞ」


「好きにしろよ」


「無論そうするつもりじゃ。さて……」


 イルマから視線を外し、カリスさんはテラーの前へと歩いていって、


「娘よ。ワシの力を抑えた石は《吸精石(ドレインストーン)》であっておるな?」


「……はい」


「ふむ。砕けたようじゃが、どこで手に入れた。ワシの力を一瞬とはいえ抑え込める石なぞ、そうそうあるまい」


 テラーへとカリスさんが詰め寄ると、うつむいたまま返事をしてみせた。、


「父の形見です」

「名は?」


 即座に質問を追加した所を見ると予想していたのかな?

 テラーが怪訝な顔をしながらも、口を開き答えた。


「ロイド=ウィスパーです」


「ふむ……あれが、どういう石なのか分かっているな?」


「もちろん。所有者の力、あるいは指定対象者の力を著しく弱めるもの」


「……それだけか?」


「? はい? そうですが、まだ何かあったのですか?」


「いや、知らぬなら良い。しかし、あの石を良く使う気になったな。持ち歩くだけでもかなりの疲労を感じたはずだが」


「はい。ですが持ち歩くだけで鍛錬になるので便利でした」


 隠す様子もなく、単純明快に答えているのが良く分かった。

 嘘はついていないようだけど……テラーには一度騙されているからなー…安易に信じられない。

 テラーの返事にカリスさんは、クククとか笑っていて、なんだか怖かった。


「まあ、分かった。さて、次にお前じゃ」


「おう」


 威勢よく返事をするイルマに、カリスさんの眉が窮屈そうに曲がった。


「お主も王を目指すのであれば、なぜこのような愚策を行ったのじゃ? 単なる馬鹿なのか?」


「ば、ばかぁだと!」


「「馬鹿です」」


 他の2人から馬鹿呼ばわり……馬鹿なんだろうな。

 そのあとギャーギャーと3人の間で言葉が飛び交ったが、カリスさんが叱りつけると黙った。

 大人が説教をかました後の子供のように、3人ともがシュンとなって、なんだこれ? という状況となってしまう。


「まあ、ぶっちゃければ、こうでもしないと異世界人が手にはいらねぇと思ったんだよ」


「へ?」


 俺達? そういえば、取引として俺らの保護がどうとかいってたっけ。


「そこのガキも異世界人のようだが、自分の価値を分かっちゃいねぇ」


 なんの事だと、ミリアとオッサンを見るが首を横に振られた。


「はぁ…ガキだけじゃなくて、そっちの2人もか。あんたら、まだこの世界の事をよく教えていないだろ?」


「知らんでも良いことじゃ。彼らが何を思い、何を成すのかは、彼ら自身に任せようと思っておる」


「だからと言って教えなくてもいいってことには、ならねぇんじゃね?」


 は、話が見えない。

 聞いた方がいい気がして口を開きかけたが、ミリアが、


「話を割って悪いけど、この話は私達が帰還できるかどうかに関係ありますか?」


「ないな。これは、この世界が抱えておる問題じゃ」


「そうですか。ならこの話は私達が聞いていいものとは思えません」


「おいおい、そこのガキだけかと思ったら、そっちのエルフ娘「ミリアよ。虎男」…イルマだ。おめぇいい度胸しているな」


「それはどうも。それで何?」


 ミリアが微笑すら浮かべ、イルマを見ている。

 なんだか背筋が寒い。


「おめぇも場の空気ってものを読めよ。これはおめぇらの為でもあるんだぜ? 知りたいだろ、この世界の事を」


「悪いけど、中途半端に知る気はないわ。それに、知ったら無関係でいられなくなるんて良くある話。そうなるよりは、知らない方が良いわね」


「お、おめぇ!」


「厄介事はごめんよ。私は帰りたいだけ。あなたがやろうとした事は、私の邪魔にしかならいないと思う」


 ん?

 ミリアのやつ、こいつが何を言おうとしているのか分かったのか?


「ああ、ほんとに待てよ! 人の話を聞けよ!」


「聞かない。カリスさん宿に帰っていいかしら?」


 イルマの事をサラっと流してカリスさんに目を向けた。


「そうじゃな……」


「おいおいおい、ほんと待てって! お前らが帰りたいのは分かるから、その為にも手を貸せって話なんだぞ!」


 イルマの叫び声が、話の流れを急に変える切っ掛けとなり、俺達は、自分達がまずなすべきことを知る事になった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 人間。獣人。亜人。純魔族。

 大きく分けてこの4つが存在していて、純魔族と亜人は、まとめて魔族と言われている。

 そして、この大陸で行われている戦争は、主に3つ。


 人間VS獣人 人間側が勝つ。

 人間VS魔族 戦場によって異なる(託宣の有無)。

 獣人VS魔族 その時の兵力次第。


 人間と獣人の戦いは、ほぼ人間側が託宣によって有利状態になる為、戦争という形すらとれないことが良くあるらしい。

 人間と魔族の戦いが、それぞれの領土によって異なるのは託宣の有無が理由。

 魔族領土の場合、人間側が獣人を投入するケースもある為、どう転ぶか不明。

 獣人と魔族の場合でいえば、獣人が攻め込まないかぎり魔族が攻撃してくる事はない為、ほとんどが防衛戦となる。これは人間が相手でも一緒だ。なので、拮抗というが、実情をいえば防衛戦で獣人側が諦めるか、勝つかするまで行われるとのこと。


 こうしてみると、魔族側が不利な気がするが、それでもなお、魔族領土を広げているというのだから種族的な地力の差が大きいのだろう。そもそも魔族の敵は託宣そのものなのだから、人間や獣人達とは戦う視点が違う。


 さて、ここまで話をしたイルマが、この状況を覆す為の一手として、俺たち異世界人を欲したわけは、こうだった。


『異世界人が関与すれば託宣は働かない』


 この法則を利用し、異世界人の誰かを戦場に投入し、できれば指揮者の一人として組み込みたいとのこと。


 知ってみれば単純な事だと思う。

 託宣だのみの相手なのだし、その託宣が人間領土でも働かなくなるのであれば、獣人たちが有利となる。場合によっては一方的な勝利すら手に出来るだろう。


「それで? 帰還とどう関係するの?」


 ミリアが先を急かすが、慌てるなと言いつつ話を続けた。


 この世界において異世界人がやってくる事は、歴史的事実として受け入れられていること。勇者召喚という人間側の切り札もあるわけだし当然だろうな。

 であれば、その異世界人に対する研究も行われるわけである。

 その研究の中には、これまた当然、帰還に関することも含まれているらしい。


「今、その研究が一番進んでいるのは人間達だってのが常識になっている」


「つまり、人間達に勝ちその研究成果を手に入れれば早く帰れるって言いたいの?」


「それだけじゃだめだ」


 俺もミリアと同じことを思ったが、話はそれだけではないようだ。

 ここで登場するのが、ヒナガ メグミ。

 俺の母かもしれない人。


 母の名前が出た事によって、俺の表情が固まった。

 イルマの話は、そのだいたいが、すでに聞き知っていた事なので内容をはぶく。問題はエルフが関係した事だ。


 異世界人の研究は人間が一番進んでいる。

 いや、そうだったというべきか。

 150年前メグミがエルフや魔族と手を結んだことによって、どこの勢力が一番進んでいるのか、分からなくなったらしい。

 さらにいえば、


「俺の予想じゃ、どの勢力もしっかりとした帰還方法は分かってねぇ」


「なぜ分かるの?」


「俺はぶっちゃけ魔法に詳しくはねぇ。だが、人間の嘘を見破る眼力はあるつもりだ」


「嘘?」


「召喚された勇者は目的を果たし、無事に元の世界に帰還している……っていわれちゃいるが、あれは十中八九嘘だ」


「え?」


 言われ腕組をほどく。

 ミリアにしてみれば、召喚され、帰還魔法で元の世界に戻った事がある。

 なのにこの世界では戻れていないと言われれば、多少の驚きはあるだろう。


「これでも砦を預かれるだけの地位にはいたんだぜ。研究所の奴らと接触するチャンスは何度かあったんだよ」


 その時に、いくつかの質問をしたらしいが、獣人風情がという態度で返事をされ、まともな情報は得られなかったとの事。

 それでなぜ分かる? と誰もが思ったら、


「異世界研究ってのは、それだけで異世界人が関係するような話だ。つまり託宣が聞こえてこねぇ。だから、もしかしたらと思って脅したら、バッチリ吐きやがった。もろかったぜ~」


 ……ああ、うん。まともに返してくれないから、強引にでたのね。

 託宣がないから、簡単に脅せてしまったとか、そういう感じだろうな。

 でも、本当なのか?


「マジ?」

「大マジ。あいつら、託宣がないとホント判断力がないんだよ」


 予想通りの返事だな。

 マジか……えっと、じゃあ、どういう事になるんだ?


「話が分からなくなったか? 簡単に言うと、勇者召喚した奴らを帰す魔法すら怪しいのに、おめぇらのように、偶発的にきた連中を帰せるとは思えねぇってことな。ここまでは分かるか?」


 得意げに話すイルマに、俺達は、うんうんと頷いた。


「で、エルフ達はと言えば、あいつら元々そういうの興味が無かったから、メグミがくるまで転移系の魔法はほとんど研究されていなかった。つまりスタート地点が人間と違うわけよ」


「もったいぶらずに、もっと簡単に言ってよ!」


「おまえ……」


 俺もミリアに同意なので、先を催促した。


「ずーと研究していた人間たちですら駄目なのに、わずか150年前に、初めて異世界人の協力を得られたエルフ達が、研究を成功させていると思うか?」


 こんなことも分からねぇの? という表情で言われた。悔しいぞ。

 確かにと俺たちは納得した。

 この話が本当なら、エルフの国にわざわざ出向く必要もないのか? とも考えた。


「帰還魔法が存在しない可能性については分かったわ。だからといって、私達が戦争に手を貸す理由はどこにあるの?」

 

 尋ねた瞬間、イルマがニヤっと笑みを浮かべた。ここまで筋書きをつくって喋ったな。


「人間達は駄目。エルフ達も駄目。魔族側は分かんねぇけど、たぶん駄目だろ。でもよ、もし、こいつらを一つにまとめて研究させたらどうなると思う?」


 イルマの言いたいことが分かった瞬間、俺たちは『あっ』という軽く驚く声をあげてしまった。


「1つ1つの勢力が何百年っていう時間をかけて駄目だった事だぜ? お前等だけが頑張ってどうにかなる問題だと思うか? どうしても帰りたいなら国ごと動かせや。じゃなきゃ無理な話だろうが」


 してやったりという気持ちの笑い声が聞こえたが、後に続くミリアの一言で、イルマの声が止まった。


「そこに獣人が出てこないのを情けないと思わないのね、あんたは」

※感想、評価、拡散、ブクマ助かっております!

 https://twitter.com/sudounnikuman

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