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第35話 波乱を含む会談

――アグロの街にある集会所



 それなりに楽しみ、次の日を迎えた。


「何もするなと言われても、ドキドキするな」


「ヒサオは、こういうの初めて?」


「俺の世界でだと、15歳でこういう席に出る事なんてないからな」


 思えば、とんでもない事だと思う。

 聞いた限りだと、和平とか同盟のような話し合いになるのだと思うが、そんな大それた話に俺が出席すること事態、間違っているんじゃないか?


「ほんと平和な世界だったのね」


「俺がいた国は特にね。裏側は知らないけど」


 どうしてこうなったと言いたいぐらいだ。


「きたようだぞ」


 同席していたゼグトさんが声をあげる。


 広い部屋の中には、磨かれた木造のテーブルと椅子が綺麗に並べられており、そこに、いつものメンバーと竜人の護衛が3人いる。

 カリスさんと、その付き添いの護衛さん達は、昨日の獣人達を街の門前まで迎えにいった。出迎えって言うより、不安がる街の住民達を安心させる為だろう。


 その人達が戻ってきたようで、ゼグトさんが足音に敏感に反応したらしい。

 ガチャリと扉が開く音がしてカリス老が入ってくる。

 その跡に、護衛の竜人さん達。

 そして、昨日見たイルマとかいう虎人と――あれ? あいつって……


「待たせてすまねぇ」


 入ってくるなり、虎人が手をあげ言った。

 何かしでかす気配はないが、後ろにいる馬野郎の顔が酷く苛ついているように見える。

 こいつは確か……テラーと一緒に俺達を襲ってきたやつだな。


 まずカリスさんが上座に座り、連れられてきた虎人と馬野郎が席へと案内されたが、馬野郎は座れないようで、虎人の斜め後ろでムスっとしている。


「では始めるとするかの。その前に、自己紹介でも頼む」


「ああ、分かった」


 そういい立ち上がると、虎人が自分と馬野郎の名前を口にしだした。

 俺は鑑定で名前を知っていたから今更なんだけどな。


 虎人の方は、イルマ=イングゥエイ。

 馬野郎の方は、エイヴン=イーリス。


 2人とも前に見た時と比べ、レベルが変わっていない。

 鑑定する度に変わるテラーがやっぱり異常なのだろう。あれは何か仕掛けがあったのかもしれないな。


「でだ、話の方なんだが、ぶっちゃければ、俺達と同盟を結んでほしい」


 ほんとにぶっちゃけたな。直球すぎて唖然としてしまう。


「同盟と言われてもな……。我らの方針は知っておるじゃろ?」


「そりゃあな。あんたら魔族は直接的に人間を攻撃はしない。攻められれば別だが」


「分かっておるなら返事も予想できるはずじゃが? そもそも、お主らは何なのだ? 昨日見たところ、人間の部隊に逆らい、反逆した獣人兵達にしか思えぬ」


「ああ、そういや言ってなかったな。俺達はこれから獣人の国を作るつもりだ」


 イルマの声に、場が騒めいた。

 護衛やら、フェルマンさん達が小声で話し始める。

 そりゃ国を作ると一言で言われても「なにいってんだこいつ?」って思ってしまうんじゃないだろうか。


「建国ときたか。また大きくでおったな」


 カリスさんが白鬚を撫でながらイルマの話を聞いている。耳を貸す気はある様子だ。


「やるからにはでっかくだ。その為には魔族と戦うことは避けたいし、できれば協力もほしい」


「……どこに作るというのだ?」


「同盟が成っていないのに言えるこっちゃねぇだろ」


「なるほど」


 カリスさんが納得したように頷いて見せた。


「カリス老!」

「このようなこと信じるおつもりで?」

「人間に文字どおり尻尾をふっていた連中ですぞ!」

「信用できるわけがない!」


 といった声をだし騒ぎ出す。

 ゼグトさんもその一人だけど、フェルマンさんは黙っていた。

 一番騒いだのは護衛の人々。さすがに黙っていられない様子だ。


「静まれ。誰も信用するとは言っておらん」


 鬱陶しそうに手をふり黙らせた。


「イルマといったな。お前は、この話を魔王様に伝えてほしいのか?」


「ああ、出来ればそうしてほしい」


「まだ建国すら出来ていない戯言を我々の王に伝えろと? 順番が違うのではないか?」


「まあ、そうだろうな。今の俺は単なる反逆者だしな。無茶だと自分でも思うぜ」


 ん? あれ? これって昨日の俺と似てないか?

 オッサンも『それ相応のことを』と言っていたけど、それと似ている気がするな。

 分不相応なことを言っているという点では一緒だと思う。

 俺は黙ったけど、こいつはどうするんだろ?


「そこでだ。俺としては、魔王殿にこの話を持ち込む前に、まず、あんたらと取引がしたい」


「取引? 話が変わり過ぎではないか?」


「変わってねぇよ。魔王殿に話を通してもらう為の取引なんだからよ」

 

 得意げに言い、ガチャリとテーブルに小手を付けた手を置くと身を前に向けた。……って、あれ?

 前に見た時と小手の色合いが微妙に違う。

 心なしか、光沢が増している? 前の時と別物? 

 確かエレメントガントレットとかいうものだったし、テラーの剣と一緒で精霊憑依に使うものなのだろう。武器扱いになるんだろうし交換してきたのかな?

 少し気になったので鑑定して見る。


 レベル66 イルマ=イングゥエイ 

 称   号 精霊闘士

 アイテム  エレメントガントレット

 ステータス 一流精霊闘士

 ス キ ル 精霊憑依 風の心 火の心 『光の心』


 あかーん。

 これは駄目なやつだ。

 こいつ、とっくに光の精霊を憑依させていやがる!


「俺達は話を通してもらいたい。その代りといっちゃなんだが、ここが狙われている理由。つまり異世界人をこっちで保護してやる。これでどうよ? 悪い話じゃないと思うぜ」 


 話は先に進んでいるが、こいついざとなったら、戦闘する気満々じゃねぇか。

 光の精霊憑依で何が出来るのか知らねぇけど嫌な予感しかしない。


「お前は、ワシ等を愚弄する為に、この場にきたのか?」


 嘆息をつき、背もたれに身を任せたカリスさんが言った。

 イルマはといえば、一瞬呆けたが、すぐに口角を緩め嫌な笑みを見せてくる。


「やっぱり読まれたか」


 諦めが早い。

 何がどうなっているのか、俺にはさっぱりだ。


「保護じゃと? お主が欲しいのは、まさしく異世界人そのものじゃろ。保護してやるではなく、保護させてほしいじゃろうが」


 は、話が見えない。

 さっぱり分からないが、イルマが顔を険しく歪めた。


「まあ、そうなると思って、次の手も打ってあるわけよ」


 嫌な笑みのまま、カリスさんと話しをしている最中、椅子の背後にメーターが浮かび見えた。


 見えたもの。

 それはテラーの名前と彼女のHPやMPメーターだった。


「カリスさん! 後ろ!」


 咄嗟に声をあげる。

 オッサンとミリアが俺の声に驚き、カリスさんへと目を向けた。


「む?」


 俺の声に反応し後ろを振り向いた。

 だが、すでに遅くテラーが出現している。

 左手をカリスさんの肩に置き、右手で剣を握りしめ首へと当てた。


「騒がずに。意味が分かりますね?」


「お前、どうやって!」


「ヒサオ。しばらく見ないうちに、ずいぶんと威勢がよくなりましたね」


 威勢もなにも、こいつにやられた恨みを忘れたわけじゃないし、それに怒っているだけだ。

 カリスさんの側にいた護衛の竜人2人は剣を抜いているが、すでにテラーがカリスさんを抑えこんでいる為なのか、それ以上動こうとはしない。


「ふぅ。そこのガキがもう少し早く気づいていたらヤバかったぜ」


 声をあげたのはイルマだ。

 そんな言葉を吐きながら、ツカツカとカリスさんの方へと近づいた。


「まあ、見ての通りだ。竜王カリスの命を預からせてもらった」


「人質か……姑息な真似を。この世界の獣人とは、よほど卑怯なことが好きと見える」


 オッサンが我慢しきれないのか、ムスっとした顔をし言葉を吐いた。


「目的を達成しなければ、何をしても無意味ってもんよ。まあ、姑息だという点については同感だがな」


 そう、言いつつ、カリスさんが座る椅子に片手を置いた。


「さて、あんたらがどうやって魔王と連絡を取っているのか知らねぇが、それを使って俺の言葉を伝えてくれ」


 イルマが室内にいる皆に向かって言うが、誰も動こうとしない。


「おい?」


 反応が薄いことに気付いてイルマが言うと、その隣で座っているカリスさんが、クククっと笑いだす。


「どうした獣人」


「おいおい。この状況が……ああ、もういい。テラー、やっちまえ」


 その声に従うように、テラーが剣をカリスさんの喉に近づけると、


「若造が!!」


 カリスさんの目つきが吊り上がり、鱗が輝きだした。

 体が膨れ上がったように一瞬見えたけど……すぐに収まってしまった。

 青く輝きだした鱗も、元のくすんだものに戻った。


「……これは?」


 困惑した声だった。

 様子がおかしい。護衛の人達の警戒心も上がった気がする。


「さすがは竜王」


 言ったのはテラーだった。

 何かを抑えこんでいるような口調。嫌な予感しかしない。


「なんだ、ギリギリって感じか。あぶねぇ賭けだったぜ」


「貴様は、いつも崖っぷちだろうが。テラー様大丈夫ですか?」


 イルマへと文句をいいながら、エイブンがテラーへと近づいていく。

 最初からこの状態が狙いだった?


「説明してやる義理もねぇから、簡単に言うぞ。見ての通り、爺さんは力を出せねぇ状態だ。いまなら剣で容易く殺せる。てなわけで、魔王との連絡早く頼むわ」


 俺たち3人は当然なにも知らないから動かない。

 護衛の竜人さんたちは、剣を抜いたままどうするべきかと互いに顔を見合わせている。

 フェルマンさんとゼクトさんは、険しい顔をしたまま席に座っていた。


「おいおい。早くしろよ。マジでこの爺さんを殺して、この場から立ち去る選択肢しかなくなっちまうだろうが」


「なるほど。吸精石(ドレインストーン)か」


 カリスさんが顎に手をあて撫でつつ感心したように言う。

 吸精石(ドレインストーン)? なんだそれ?

 テラーが体を一瞬動かした所を見ると、たぶん当たりだろうな。


「よもや、これほどの石がまだあるとは……どれ」


 カリスさんが、無造作にガタリと席を立つ。

 肩に手をおいていたはずの2人の力なぞないかのように。


「お、おい」


「どうして!」


「竜王を舐めるではない、若造ども!!!」


 カリスさんの声が、衝撃波になったかのような錯覚すら覚える。

 気合のはいった声と共に、年老いた竜人の体が一気に変わっていく。

 カリスさんの青い鱗が光沢を増し、体が膨れ上がる。

 一回り、二回りと大きくなると、獣人たちの手がカリスさんの体から離れた。


「テラー!」


「一瞬で石が砕かれた!! 戦うしかない!」


 慌てふためく声。

 その2人の前で、カリスさんの体がさらに大きくなる。

 竜王顕現とかいうスキル名から察ていたが、これは本当に変化するのか。

 竜人形態から、純粋な竜種へと先祖がえりのように変化する光景を目の当たりで見せつけられている。

 天井に角がぶつかったあたりでカリスさんの変化がとまった。


「しゃあねぇ! 『光よわが身を使え!』」


 イルマの声がし、彼の小手が再度光る。

 瞬間、その場にいた3人の姿が掻き消えた。

 メーターが見えているから、光を操作して見えなくしている? そんな所か?

 そんな3人に構わず、カリスさんが咆哮を一つ放った。

 それだけで、イルマたちの姿が見えるようになる。


「精霊が掻き消えた! こいつの前で精霊は無意味ってことかよ!」


 姿を見せたイルマが驚き言う。

 咆哮一つでこれかよ……


「言っている場合か! テラー様!」


「2人とも逃げなさい! 私が足止めをします。竜王! 今しばらく相手を願います!」


「出来る訳、ねぇだろうが!」


「同感です。我らの主たる、あなたに守られるわけにはいかない」


 イルマとエイブンがテラーの左右についた。こいつら主従なのか?


「てめぇと一緒にするな。むしろ今は、俺のほうが主だろうが!」


「ハッ! バカに従う義理などない!」


 テラーを挟んで、2人が言い争いを始めだけど、それにテラーとカリスさんが困惑気味だ。


「……2人とも、状況を考えて」


「ケッ! どうせ悪あがき(・・・)するしかねぇんだ! 最後(・・)ぐらい好きにやってやる!」


 イルマが、サっとテラーの前にでて構えた。

 光沢を帯びていた小手が何の光も示していない。

 こいつが言ったように、カリスさんの咆哮で消え去った?

 でも、それなら別の精霊を憑依させればいい気がするが……ああ、どうせ無駄だと思っているのか。


「足掻くんじゃ無かったのか?」


 なんだか苛ついてしまって疑問の声をあげてしまうと、イルマが俺の方に目を向けてくる。


「お前、足掻くんだろ? それなのに、なんで精霊憑依をしない?」


「あぁ? 文句あるのか? というか、良く分かったな」


 戦闘が止まった状態のまま話をするのもどうかと思うが、カリスさんも手を止めているし、なんとなく言ってしまう。俺どうしたんだろ?


「何となく分かったんだよ。それでどうして足掻くの止めるんだ?」


 自分でも分からないが、どうにも止まらなくなった。

 そんな俺にミリアが、


「ちょっとヒサオ」


「小僧」


 オッサンも同じか。

 2人そろって俺を止めるように手をだしてくる。


「ごめん。ちょっと言わせてほしい」


 俺は軽く手をあげ、出された手を振り払った。


「お前、足掻くんだろ? 足掻けよ。ここまでやったんだ。やれるだけやれよ。その手段もあるのに、どうして止める?」


「なんだお前? 俺がどうしようが関係ねぇだろ。グダグダうるせぇよ」


 イルマが、視線を完全にカリスさんから外し、俺を睨みつけるように言った。


「……結局口だけなのか?」


 意図せずでた言葉で、空気がピシっと固まるような擬音すら出た気がする。


「……てめぇ。自分で何言ってんのか、分かってるだろうな」


「分かんねぇよ。俺だって、何でこんな事言っているのか分かんねぇよ。でも、なんか気に入らない!」


 いつもなら怯むはずの俺が、声をあげ叫んだ。

 心の中に溜まっていた何かが口から出てきている。

 そんな感じだった。


「お前、強いんだろ? テラーだっているし、その馬野郎も強いと思う。戦う手段も仲間もいて、なんでその手段を自分から捨てるようなことするんだよ?」


「捨ててねぇだろ! どこ見てやがる!」


「しらねぇよ! 俺が分かるのは、お前が諦め半分になっていることだけだ!」


「だから何で俺が諦めているって「諦めているから、最後とか言うんだろう!」…」


 口喧嘩する俺達の会話がピタリとそこで止まった。


 イルマを仲間の2人が見る。

 俺を、ミリアとオッサンが見る。


 フェルマンさんやゼグトさん。

 それにカリスさんや護衛の人達は、戦意を失ったかのように構えを解いた。


 イルマという獣人は強いだろうし仲間もいる。

 この場を切り抜けられるだけの力があると思う。

 ならこいつは仲間の元に戻ることだって出来るかもしれない。

 それなのに、その手段を捨てて…


「……ああ、そうか」


 ピンときた。

 ようやく分かった。

 俺がこいつの何に苛ついているのか。

 帰れる手段があるかもしれないのに、それを放棄しているのが俺は嫌なんだ。


 俺とは違う。

 帰れる手段があるかどうかすら分からない俺とは違うこいつに苛立っている。


「おい。なんだ、一人で納得したような顔をしやがって!」


「分かったんだよ。俺は自分で思っていたより帰りたがっている事が。そして、戻れるかもしれないのに、自分から手放そうとしているお前が嫌いだって」


「……マジか?」


 イルマが呆れたような声で言ってくる。

 まさか、こんな状況で、俺の感情をぶつけられるとは思わなかったんだろう。


「異世界人ってのは、こんな状況で、こんな事を言うのか?」


「「一緒にしないで(するな)」」


 2人に言われた……

 ちょっとへこむぞ。

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