第31話 アグロ前での騒動
――翌朝
「早く起きて! 大変なのよ!」
部屋の扉を叩く音とミリアの大声によって、早朝早く起こされてしまった。
部屋から出ていくとミリアばかりではなく、フェルマンさんとコリンも一緒にいた。
「どうしたんだよ、こんな早くに?」
「街の門前に、獣人たちが陣どっているの」
「獣人……って、テラー達? でも、この街は大丈夫なんだろ?」
「そうだけど、そういう事態じゃないの。いいから来て」
何がどう違うのか、さっぱりな俺とオッサンは黙ってついて宿を出た。
「あれよ」
「ん?」
街の出入り口前で人混みができている。
外にテラー達がいるのであれば、危険だと思うのだが、なぜ避難させないのだろう?
「何が一体? ……ちょっとごめん」
人混みをかき分けるように前に出ていく。そして見たのは、
「……え?」
門の外。若干高い平地に、テラーと数名の人間の兵達が縄でグルグルに巻かれ、その彼らを見下すように、虎と思われる獣人の姿があった。
「なにがどうなってんの? テラー達が襲ってきたんじゃないのか? てか、あの虎男誰だよ?」
「私達もサッパリなんだけど、あいつが、街の代表を出せって大声で叫んでいるわ」
なんだそれ? 代表を出せってことは、何か話でもしたいのか?
テラーをよく見ると、縄だけではなく口もタオルらしきもので塞がれている。
人間の方の兵士……ああ、よく見ると、アレって牢屋にいた没落貴族のねぇちゃんじゃないか。名前なんだっけ? えーと……ああ、テレサ=サーカリムだ。鑑定してみてようやく思い出した。後は……
「虎男の後ろに獣人の兵士達がいるけど、これって、どういう状況?」
「そんなの分かるわけないでしょ」
ごもっともです。
ミリアに何も言い返せずに、奇妙な状況を見守る。
これは俺達にどうこうできる状況じゃないな。
テラーの部下と思われる兵達はわりと自由な様だけど、テラー自身は束縛されているし、虎男が反逆でもしたような光景だ。それだったらもしかして、もしかするのかな?
「カリスさんは?」
「俺達も分からん。この状況に気付いたのも、つい先程だからな」
一緒にいたフェルマンさんが困惑した様子で教えてくれた。
と、そんな俺達の会話を途切れさすかのように、周囲が騒めきだす。
何か変化があったのだろうか?
虎男の方に目を向けると、そこに数名の竜人達が空から降りてきた。
「あれって、もしかしてカリスさん?」
7人程の竜人達に守られるように、ご立派な白鬚をもつ竜人カリスさんがいた。
「そのようだな」
「大丈夫なのか? たった7人でさ」
不安に思いフェルマンさんに聞くと、苦笑いを浮かべ一緒にいるゼグトさんをチラりと見た。
「まあ、あのお方なら……なあ、ゼグト」
「ええ。カリス老なら心配はいらないでしょう。むしろ、あの方を怒らせたら、彼らは全滅すると思って間違いないです」
そう言う2人は、まるで悪戯を仕込んだ子供のような表情をしていた。
竜人が7人いるから。
ではなく、カリスさん個人がいるから大丈夫だと言いたいようだけど、あの竜人さんて年寄りじゃないのか? それとも竜人ってのは、見た目で判断したら駄目?
そんな事を考えながら様子を見ていると、虎男とカリスさんが何やら話だす。
遠くて聞こえないから暇だな……。ちょっと失礼して、カリスさんを鑑定してみるか。
レベル78 カリス=アザート
称 号 竜王
アイテム 竜族の衣 オークの杖
ステータス 伝説級竜王
ス キ ル 業火の息 竜王顕現
ヒェ~~~ 竜王って、あの竜王っすか!
もしかして、でっかくなっちゃたりするの?
とりあえず怒らせたらヤバイお方だということは分かった。
しかし、カリスさんで78なのか……。ミリアって確か87だったよな。そりゃ、魔王を2度も倒せるわけだよ。
「なによ?」
「いや、カリスさんってすごいな~と」
「急にどうしたの?」
カリスさんの鑑定結果を耳打ちすると、
「竜王っているんだ……」
ボソっとそんなことを言った。
いたんだね~ そんな竜王と相対している虎男を見てみる。
レベル59 イルマ=イングゥエイ
称 号 精霊闘士
アイテム エレメントガントレット
ステータス 一流精霊闘士
ス キ ル 精霊憑依 風の心 火の心 光の心
あ、はい。
なるほど、この男、テラーの男バージョンみたいなものか。
獣人族って精霊憑依出来るのが多いのかな?
エレメントガントレットって、今つけている小手の事? ちょっと紫っぽいけど、艶があってよく手入れしてある感じがする。
あと気になったのが、光の心ってやつ。
これたぶん、光精霊を憑依できるんだろう。
テラーの闇精霊憑依は、俺の交渉術対策な感じだったし、あれはきっと精神系攻撃にたいして耐性を得るんだろう。光精霊だとどうなるんだ? 気にはなるけど、できれば発動させたくないものだ。
俺がそんなことを考えこんでいると、会話の最中にカリスさんが一瞬こっちを見た。もしかして《鑑定》してるのバレた? そんな感じじゃないけど……まあ、いいか。
2人の会話は聞こえないが、護衛についている竜人さん達の様子がおかしい。カリスさんに何かを訴えているように見えるけど、何を話しているんだろう?
しばらく時間がたった後、カリスさんが帰ってくる。
イルマという虎男は、部下達といっしょに縛られている人々を連れて去っていった。
門前に戻ってきたカリスさんが、ゴホンと一度咳をならし、
「明日、街の集会場で再度会うことにした」
その発言に騒めく皆さん。
そりゃ、敵対しているであろう獣人達を中にいれるというのだから騒ぎにもなるだろう。護衛の人たちの様子がおかしかったのは、コレだったのかもしれない。
「騒ぐのは分かるが、街中に入れるのは数名のみじゃ。それ以外は断じて入れさせん。ワシが確約しよう」
軽く手をあげ声を強めた。それだけで騒ぎが止まる。
この街の住民達は、カリスさんに対して絶対の信頼をおいているのかもしれないな。
それはともかくとして、俺達はどうする?
朝も早いし、まず宿に帰って朝食でもと考えていると、カリスさん達が近付いてきた。
「聞いてのとおり、明日、あやつらと会談を行うことになった」
「はい。ですが、よろしいので?」
「まぁの。話だけでも聞いてみようと思う」
フェルマンさんが応えてくれている。
2人の会話に、俺とミリアはコクコクと頷いた。話し合いで済むならそれでいいだろう。
「ワシが突き付けた、少数での会談は受けたようだが、向こうで言ってきた要求にお主等の参加があった」
といって目を向けたのは俺達3人の方で……
「え?」
「今日の予定は聞いておるが、後でワシの家に来てくれ。明日のことで相談したい」
俺たちが別れるのは、ほんの少し伸びたようだ。
タイミングがいいのか悪いのか……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――アグロから離れた獣人達
カリスとの会話が終わったイルマといえば、自分の部下達と共に、明日の予定を話しつつ馬を進めていた。
「イルマ! テラー様だけでも縄を解いてやってくれ!」
横に走ってきたエイブンが叫び声をあげるが、イルマはウンザリした顔をし部下との会話を中断。
「てめぇもいい加減にしろ!」
「できるか!」
口論を始めようとする2人の側から部下たちが離れていく。
最悪どうなるか何度かの経験で分かっているのだろう。
「き、貴様、あいつ等の前だけではなく、今晩もテラー様を拘束し続けるつもりか! われらの主だぞ!」
「その主様は見事に騙され、利用されただろうが」
「まだ結果はでていない! ジェイド王子ならば…「うぜぇっての」…」
エイブンの言葉を途中で遮り、話を続ける。
「王子とかラーグスとか、どうでもいいんだよ。人間全体が、俺たちを舐め切っている。だから平気で約束をやぶる。それが嫌なら力を見せつけなきゃなんねぇ。簡単な事だろうが」
「イルマ! それでは今までと一緒ではないか!」
力を見せつける。つまりは人間への反乱という意味だろう。
獣人族の反乱行為は今まで何度もあった。
結果だけを言えば、一度も勝てることができず、元の鞘に戻るという繰り返し。そして魔族との戦争に使われていた。文字通り消耗品扱いだ。
「アホか。ちげぇよ」
「何が違うというのだ! 何度となく反逆はあった。それでも人間に勝てた試しがない。託宣があるかぎり我らは勝てないのだ」
エイブンの理屈は、今更の話だった。
ここ人間領土において、人間と獣人が戦えば勝てない。
個々の力は獣人の方が強いのに、託宣がその力の優劣を曲げてしまうのだから。
「どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだな」
「どういう意味だ?」
「明日になれば分かる」
教えてやる必要もないと、それ以上、エイブンを相手にしなかった。
「おまえら、砦から持ってきた酒を飲んでいいぞ。今日は前祝いだ」
イルマの声に、獣人の兵たちが歓喜の声を上げるが、人間達の方はと言えば、恨みがましい目線を向けるている。
「イルマ。貴様何を考えている」
「何をってお前なぁ~ おれは子持ちの親だぞ。考えることは一つだろ」
唐突に家族の話がでて、エイブンの理解が一瞬遅れる。
そう言えば、子供が生まれたばかりとか言っていたが今の話と何の関係が? と考えこんだ。
「子育てに必要な環境を整えてやるのは、オスの役目だろうが。だったら、俺は家族の為にも、安心して暮らせる場所を用意してやるだけだ」
「こ、この反逆行為がか!?」
「いいからお前も飲めよ。そんでもって、黙って俺に任せとけ。テラーはおめぇにやるから」
その声に、エイブンが言葉にならない声を上げ、周囲にいた部下達が笑い声を上げてしまった。




