第28話 元勇者
俺とフェルマンさんの間で妙な空気となった。
混乱し、率直に見知ったばかりの名前を口にしたのがいけなかったのだろう。
「その質問に答える前に聞きたい。なぜ、その2人の名前を知っている?」
「俺が《鑑定》スキルを所持しているのは知っていますよね。それを使い見てみたら、その2人の名前が出てきました。作成者は、オルトナス=エウロパの指導のもと、ヒナガ=メグミによって作られたと」
「……ヒナガ?」
ここで負けては駄目だと、なけなしの気力を立ち上がらせハッキリと答える。その声に、ミリアが反応。俺と同じ名字だという事に気付いたんだろう。
「そういえば使えるんだったな」
思い出したのか、フェルマンさんが顎に手をあて考え込んだ。
「なるほど……しかしその事を聞いてどうするのだ? 魔法陣に興味があるのは、ミリア君の方だったと思うのだが」
教える前に理由を聞く。当然だな。俺だってそうする。
だけど、答えるべきだろうか?
母の名前があるのが気になりました。と、言っていいのだろうか?
そもそも、それを知ってどうしたいんだ俺は?
自分が何をしたいのか、よく分からなくなってきた。
「聞きたいのはヒナガ=メグミの方じゃない?」
やっぱり気付かれていたか。ミリアが横から口をだした。
「……そうか。お前もヒナガだったな。名前に心あたりがあるのか?」
俺への態度を柔和なものへと変え、フェルマンがさん聞いてくるが素直に声が返せない。
知りたいと思う反面、知らない方がいいのでは? という考えも浮かんできて、自分でもどうしたらいいのか分からない。
次第に俺に突き刺さる視線が強くなってきて、我慢しきれなくなった俺は、コクリと頷いて見せた。
「同じ名前に、心あたりがあって、それで……」
若干挙動不審人物のようにキョロキョロと視線を合わせないように顔をふりながら答えてしまう。
「ああ、いい。無理に聞き出す気もない。それに隠さなくてはならない話でもないしな。異世界人である君達にとって、あながち無関係とも言えないだろう」
「え? どういうことです!」
これは嫌な予感。いや、予想? その前に、俺は聞くのが嫌なのか?
「まず先の質問だが、俺はその2人を見たことはない。だが、どういった人物だったのかは聞いている」
そう前置きしてから、フェルマンさんが語りだした。
まず、オルトナス=エウロパについてだ。
この人は当時のエルフ族の術長だったらしく、現在はどうなっているのかは不明。
オルトナスは各地に転移魔法陣を設置した人物らしく、現在でも語り草になることが多いという。
現在エルフ族は、どの国でも中立を守っており、人間と魔族の領土戦争には一切関知しない。
だが、この街に設置された転移魔法陣のように、魔族側にとって有利な状況を作りだす事を意に介さず行うため、エルフ族にとっては頭痛の種だったという噂。俺の中で、この人は偏屈ジジィとなった。まあ、ジジィなのかどうかは知らないけど。
次に、ヒナガ=メグミだ。
まずもって聞いたのが、150年前に勇者召喚された人物との話。
「え? 150年?」
「そうらしい。俺はそのころ子供だった為、よく覚えていない」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
フェルマンさんの歳問題はどうでもよくて……え? 150年前で子供? ああ、まあ、ダークエルフだし、そんなものか? まぁ、それはいいや。
でも、150年前に勇者召喚されたのか……。だったら、母さんじゃないよな。
ここで一気に冷める。
だって、俺の母親が失踪した……。まあ、行方不明とも言えるんだが、それはだいたい15年ぐらい前。
勇者召喚されてきたメグミっていうのは150年前の人物。
時間のズレがありすぎるだろ。
それに、同じ異世界に親子そろって来てしまうとか、どれだけの確立と言えるだろう。
よっぽどの奇跡か、どこかの神様が陰謀を企むでもしなければそんな偶然なんてない。
とりあえずここから先は冷静に聞けたわけだ。
当時の魔王に対して勇者召喚が発動され、やってきのがヒナガ=メグミ。
当初は王の命令どおり、魔王討伐に乗り出したらしいが、魔族領土に入ると逃亡を開始。そのまま単身乗り込んだらしい。……大胆なことするよな。
魔族領土に乗り込んだメグミは、魔王城があるとされる魔都エーラムまで向かった。
そこで、魔王に会おうとしたらしいが、当然拒否られる。
拒否られたメグミは、それでも会おうとして、城のメイドに化ける。人間が城のメイドになれるのか? というツッコミをしたが、なんとかしたのだろう、きっと勇者のスキルか何かで。と返されて、話の先を聞いてみた。
メグミが魔王と会おうとしたのは、どうやら帰還方法の有無を問いただしたかったらしい。
これはその後の彼女の行動が、一貫して帰還目的だった事からの推測とされている。
ここまで聞けば推測は出来たのだけど、彼女と魔王は直接会う事ができ、メグミの目的は達したわけだ。
だが、帰還方法の有無についていえば無かったのかもしれない。
なぜなら、俺達が見ているこの魔法陣は、メグミが転移魔法陣を習得しようとした行為そのものだ。だとしたら、帰還手段をこの魔法陣の先に見出したとしか思えない。
メグミは帰る為に、オルトナスを師と仰ぎ、学び、そして帰還手段を編み出そうとしていた。今のミリアのように。
「それって結局どうなったの? メグミは、帰還方法を編み出せたの?」
理解したミリアがフェルマンさんに詰め寄り聞く。
「それは不明らしい。ある時を境にメグミの噂は途絶えた。あるものは、目的のものを作り出せ、故郷へと帰ったのだと言うし、あるものは、作る事に絶望しエルフの国で眠りについたとも言われている」
「つまり、エルフの国に行けば、分かるってこと?」
「え? ほんと?」
確かに今の話が本当だとしたら、メグミはエルフの国で眠っている可能性がある。
そうでないなら、帰還したという可能性も出てくる。
もちろん、どちらでもない可能性だって高い。
ただ、どっちにしろエルフの国に行く意味はあるな。
「エルフの国に行く方法はあるんですか?」
「あるといえばあるな。目の前に……たぶんだが」
言われ、俺たち全員が床下に描かれた魔法陣を見る。
エーラム。魔都にして魔王が住まう街。
ゼグル。たしか、味噌が作られている魔族領土の街が、こんな名前だったかな?
ユミル。たぶんこれがエルフの国の名前なんだろう。ゲームの中でもエルフ関連で聞いたことあるし。
「それじゃ、エルフの国に行って調べた方がいいのか?」
そう、俺が尋ねたら、フェルマンさんが難しい顔をし首を唸った。
「できれば、エーラムにも足を運んだほうがいいだろう。なにしろ、噂の1つにヒナガ=メグミは当時の魔王と懇意にしていて、自分の手記を残したとされているからな」
「なるほど。それも興味深いわね」
話に惹かれはじめるミリア。すると黙って聞いていたオッサンが、
「ふむ。これはちょうど良いかもしれんな」
「ん? オッサンどうした?」
「この世界でやることが出来てしまってな。ワシはそれを優先したい」
オッサンの言葉に、フェルマンさんが一瞬驚いた顔を浮かべたが、すぐに嬉し気な顔へと変えた。
「それは先の話ですか?」
「ああ。ワシとてドワーフの端くれじゃ。異世界とはいえ、同種の危機ともなれば手助けもしたくなる」
「ありがたい! 本当に助かります!」
2人の。
いや、ゼクトさんと、コリンも含めて4人か。
むしろ俺とミリアだけが知らない話で盛り上がっている。まあ、いいけど、それって聞いたら駄目なのかな?
「じゃあ、こうしない? 私がエルフの国へ。ヒサオは魔都へ。ジグルドはそのやりたいことを……って、ジグルドは、ヒサオがいなくても大丈夫そう?」
「俺がなんで?……ああ、《通訳》か」
「それは大丈夫だ。コリンも一緒じゃ。むしろミリアが大丈夫なのか? エルフの国と言うたが、言葉が通じるかどうか分からんのじゃろ?」
「それなんだけど、この魔法陣は、私が知っているエルフの言葉を使用しているのよ。たぶんジグルドと一緒んじゃないかな? 同種族の言語なら話ができるかもしれないわ」
「うーん。だったら、俺だけ魔都に行ってメグミって人の手記を探すって感じ?」
「そうなるわね。でも、私が一度エルフの国に行って言葉が通じるかどうか確かめてからでもいいと思う。それぐらい大丈夫よね?」
勿論だ。むしろミリアと一緒に行動してもいいだろう。俺一人で魔王に会うとか怖すぎる。そっちが片付いてから、またこの3人が合流して魔都に向かう方がいいんじゃないかな?
そのままを素直に聞いてみる。
「確かにそうなのだけど、いい機会だとも思うのよ。いつまでもヒサオの《通訳》スキルに頼ってばかりだと、私達って別行動できないじゃない。一度離れて、この世界の言葉を学ぶ時間を作ったほうがいいと思うわ」
「……前に言っていた事か」
テラーが言っていた事を思い出したが、なるほど。ミリアも同様の考えだったか。
多少不安を覚えるが、俺も帰還方法を早く知りたいしな。母と同じ名前が出てきたせいか、元の世界にいるバアちゃんのことが気になってきた。俺がいなくなってそろそろ1ヶ月だし、かなり不安になっていると思う。
「エルフの国って中立なのよね? なら、私が行っても大丈夫でしょ?」
「それは問題ないはずだ」
フェルマンさんが強く頷いた。そっちは大丈夫そうだな。
「しかしお前達。魔王様と簡単に会えると思っていないか?」
「……あ」
言われてみればと思った。
ここまで何の疑問ももたずに、ダークエルフ達の世話になってきたけど、この人達って魔族なわけで、自分達の王様と俺達を、簡単に会わせようとするだろうか?
「駄目ですか? 」
「会いに行くのはいい」
良いのか! なんだよ、この流れ! 漫才か!
「ただし、謁見の間で何があっても、俺は責任もたないからな」
あ、はい。
……ミリアと代わりたいと思いました。




