第27話 スキルと母
ミリアの要望で、転移魔法陣のある場所へと移動した。
設置されている場所は街の地下のようで、警備隊によって守られていた。
「ここが?」
案内されたのは警備員の待機所らしく、2人のコブリンが出迎えてくる。
短剣らしきものを腰ベルトにつけたコブリンなんだけど、助けに来てくれた人達の1人かな? 顔の区別がつきづらくて良く分からない。
それはさておき、フェルマンさんが簡単に話をつけると、地下にある部屋へと案内された。
「ここです。使用するのであれば、声をかけてください」
「見るだけなんだよな?」
「そのつもりよ」
隣を歩くミリアに尋ねておく。いきなり転移とかなるのは勘弁してほしい。
「これだが、見て分かるか?」
フェルマンさんが言うのは、部屋の中央に描かれていた魔法陣だ。
部屋の大きさを言えば、10畳分ぐらいの大きさ。その床一面を使って描かれた大きな魔法陣。墨? なのかどうか知らないが……ああ《鑑定》を使ってみよう。
紫炎水。
錬金術で作られた、魔力を込めることのできる魔法水の一種。
購入 1ℓ 1万キニス 売却 1ℓ 5千キニス
用途 武具に付与魔法をつけるのに必須。
魔法陣制作において高い汎用性をもつ。
備考 水に含まれた魔力が発動すると紫に発光し、
それが炎のように見える所からこの名前となった。
ほう……って、あれ? 俺の鑑定能力ってここまで詳しくでたっけ?
植物や料理を見たときは、こんな詳しい説明なかった気がするんだが?
もしかして……と自分のステータスをみてみると、
レベル32 ヒナガ=ヒサオ
称 号 通じるもの。
アイテム 革の軽鎧。携帯電話。
ステータス 2流交渉人
ス キ ル 真通訳、解読、極鑑定、交渉術 通話 等
まてえぇええ――――――ぃ!?
レベルが上がっているのも驚きだが、スキルに期待大のものが追加されているぞ!
《通話》! 《通話》って、あの《通話》ッスカ!
きちゃったんスカ!
ktkr って、やつッスカ!
よっしゃ、早速試すか!
と思い、ポシェットにしまってある携帯を取り出すが、そんな俺を皆がジーッと見つめている。
……君達。視線があついよ。
「な、何かな?」
聞いてみる。分かっちゃいるけど、聞いてみる。
「むしろこっちが聞きたいのだが? 何をそんなに慌てている?」
「ヒサオ、何かあった?」
フェルマンさんとミリアに逆に言われる。他の人達も、同意の視線を送ってらっしゃる。
「う、うん。なんかレベルが上がっていてさ……」
とても隠せる状況ではないし、知ったばかりのことを説明してみる。
「《通話》? 聞いた事もないスキルだな」
「そうなのか?」
「ヒサオ、それってどんなスキルなのか見当つくの?」
「あ、うん。たぶんだけど、電話……って分からないか。この道具って、実は遠くにいる人と会話できるものでさ……」
携帯電話を全員に見せる。一度壊れたけど手にした瞬間、自動修理されたことも話す。
「便利な魔道具じゃな。壊れても直るのであれば、分解し仕組みを学ぶこともできよう。ヒサオ、あとで貸してくれ」
「駄目だって! また直るかどうかわかんねぇし! てか、使えるかどうかわからない状態だから、参考にならないぞ」
「なんじゃ使えんのか? 直ったんじゃろ?」
「そうだけど、この世界に来たら時間が文字バケしてたし、アンテナだって立ってなかった」
「バケ? アンテナ?」
言葉の意味が分からないようで、オッサンが首を傾げてからコリンを見た。
「コリン、知っとるか?」
「まったく分からないのです。ジグ様の心を惹きつける道具ならば、コリンが欲しいのです。下さい」
「やらん!」
この子マジ怖い。一息で『下さい』というセリフまで言い切った。
転移魔法陣が目前にあるのに、まったく無視され、俺のスキルについて話が続くが、ふと思った。
これ誰と通話できるんだ?
ここ異世界。
そして携帯電話を持っている人はこの世界にいない。
んじゃ、元の世界の人達と通話できるとか?
チラっとアンテナをみてみると、しっかりと立っている。
できるんだろうか?
アドレス帳をポチポチいじってみる。
友人が数人と、家の電話番号。学校のも登録済み。
異世界に来てからすでに一か月経っている。
……えーと
やっちゃう?
電話かけちゃう?
通話なんていう意味深なスキルも出ていたし、これたぶんだけど出来ちゃうよね。
だってアンテナだって大丈夫なようだしさ。
もし通じたらどうするんだ?
俺1ヶ月ぐらい家を留守にしてるんだよな。
これ通じたら、それはそれで色々と言われるんじゃ?
ヤ、ヤバイ。
バァちゃんに怒られるだけならいいけど、もし泣かれたら……
と言うか、これ泣かれるパターンだ。
下手したら、あれこ聞かれるし、それの説明もしないといけない。
これ説明できないよね。
この状況を話したら、きっと嘘つき扱いされるよね。
う、うーん…
「ヒサオ、考えるのに時間かかりそうなら、魔法陣の話させてもらっていい?」
「え? あ、そうだった。いいよ」
そういや、魔法陣見に来たんだった。忘れていた。
何気に通訳と鑑定もランクアップしていたから、それで詳しい説明が見れるようになったんだろうな。でも、ステータスは相変わらずのいい加減さ。数値化して欲しいわ。
……ふと思ったけど、俺のレベルが上がったのって、追撃してきた連中をミリアがやっちゃったから? また寄生で上がっちゃったか? ……考えない方がいい気がする。
これはこれとして、ついでに魔法陣も見てみよ。
「ヒサオ。この文字読める?」
見ようとしたら、ミリアに聞かれてしまった。って文字? 鑑定じゃないのか。
チラッと見て、
「発音は出来るけど、意味が分からない」
『エーラム・ユミル・セグル』って書いているのは読めるんだけど、これ呪文か何か?
「ジグルドは?」
後ろで魔法陣を見つめているオッサンに尋ねてみると、黙って首を横にふった。ダメか。
「ミリアは読めるの?」
「ええ。これエルフが使う文字ね。フェルマンさん。これ作ったのってエルフよね?」
「そう聞いているが、作られた時期までは知らないな」
「へー。じゃ、ミリアも、オッサンと同じで、同種族との会話は困らないって事なのかな?」
「かもね。もしかして、ヒサオの《解読》スキルの影響で読めるのかな? って思ったけど、ジグルドは読めないようだし、《解読》スキルはヒサオ個人にしか効果がないようね」
「ああ、そう言う事か」
オッサンや俺に聞いたのは、それを確かめたかったのかと納得。
ミリアって、よくそういう事に頭まわるな。
俺、何も考えてなかったわ。《通話》スキルの事で頭が一杯になってたし。
「それで何か分かった?」
「ええ。この魔法陣は3か所に転移できるみたいね。エーラム・ユミル・セグル。陣の内側に書かれたこの文字って、転移先の場所だと思うわ。フェルマンさん、それで合ってる?」
ミリアが魔法陣の側に腰を下げたまま尋ねると、フェルマンさんが、困惑した顔をしている。間違っているのか?
「ユミル……もなのか? そこの事は聞いていない」
ありゃ、これはどっちが正解だ? いや、簡単だ俺が鑑定すればいいのか。
でもって《鑑定》
転移魔法陣。
キーワードによって行先を変更できる魔法陣。
使用者の魔力を紫炎水に吸収させ行うため、魔力の低い者では発動しない。
また大量の魔力を使うため、扱いには注意を必要とする。
行先は現在セグルとなっており、他にもエーラムとユミルへと行先を変更できる。
作成者は、オルトナス=エウロパの指導のもとヒナガ=メグミによって作られた。
……
え?
いや、え?
なんか……記憶にある名前が……
「ちょっとまて」
混乱した俺が声をだす。
なんで、ここでその名前?
「なに、どうしたの?」
「ヒサオ?」
ミリアとジグルドが俺を心配し声をかけてきた。
「う、うん。ちょっと待って。俺もよく分からないから」
言うことで、皆がさらに俺を不安気に見る。
その気持ちは分かるんだが、ちょっと待ってほしい。
「フェルマンさん。この魔法陣の製作者って誰か分からない?」
ミリアが尋ねそうな事を俺が聞いてみる。
その事に違和感があるのか、フェルマンさんは怪訝な顔をし俺を見つめた。
「どうした? ここに来てから変だぞ」
そりゃ変にもなるだろうと言いたくなったが、それより先に尋ねたい。
「オルトナス=エウロパって誰? あとヒナガ=メグミってのは……この世界の人なのか?」
生後2か月の俺をおいて失踪した母。
その名前を聞かないようになって3年以上たっている。
それがまさか、こんな異世界で聞くとは……
なんなんだこれは?
どうなっていやがる?




