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第268話 建国式

 俺とミリアがブランギッシュに戻ってきてから、数日がたつ。

 その間に、とりあえずは金のインゴットを買って送っておこうかと思ったけど、


『成功したとして、どこに売る気?』


「え? 普通に質屋とか貴金属店に売れば良いじゃないか」


『普通って言うけど、インゴットって数値が刻まれてない? どういう意味なのか調べてないけど、そういうのあるの? あってもこっちと全く違うだろうし怪しまれないかな? それに、ミリアさんの事もあるし妙な真似は控えた方がいい気がする』


「……」


 という、コタ様のアドバイスで保留となりました。

 やっぱりアルフが目覚めてから相談してみよう。


 まぁ、そんな馬鹿な事もしたり、ユリナさんの一番弟子と連絡をとったり、新魔王になったカリスさんの所に顔を見せにいったりとしながら日々を過ごしているうちに、建国式の日がやってきた。


 だが、俺は出席する気が無い!

 見たいのは、街の賑わいなのだ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「まるでカーニバルだな……」


「カーニバル?」


 いつものごとくミリアと一緒に街中を見て回っているが、人々の喧騒がすごい事になっている。

 適当に集めた廃棄物を棒で叩きリズムを刻む人や、それに合わせるように踊りまくる連中。

 中には、上半身裸になっている人もいて、それを見て興奮している連中もいて……いいんだろうか? 良いんだろうな……日本だと絶対捕まるけど。だって、男女関係ないんだもの……


 住人達が浮かれると財布の紐が緩くなる。

 それを見越して商人達が声をだしまくり全品セール中と声をかけているが、どこまで安くなっているか怪しいものだ。セールと称し、実は定額だったなんてことはありえるからな。


 そんな街並みを、天の長衣姿のミリアと一緒に歩き見て回り、時折気になるものを見ては手をだしているわけだが、


「ヒサオ。お城の方、本当に良かったの?」


 朝から何度目かの質問を再度投げかけられた。


「いいんだよ。俺がいったら絶対何か言わされる」


 そういうのは御免こうむりたい。

 何一つ考えていないのに『何か言ってけ!』とか言われても面倒なだけだ。それくらいなら街の中で人込みに紛れミリアと一緒に見て回りたい。


 ……そんな事を考えているのがいけなかったのだろう。


「いましたよエイブン!」


「お任せを!」


「!?」


 テラーとエイブンの声が聞こえ、ビシッ! と背筋を伸ばしてしまう。

 人込みの中からよく見つけたな! と言うか、お前らもイルマの側近だろうが! 俺を探してる暇なんかあるのかよ!


「ミリア、逃げるぞ!」


「え? ちょっとヒサオ!」


 彼女の手を握り走りだす。人込みの中はお手のものだ。おまけに、エイブンの奴は体が大きいから人込みだと―――!?


「甘いですね!」


 テラーに先回りされた! なんて速さだ!


「クッ!」


 人気のない狭い路地に進路変更しようとしたが、そこに殺気が! マズイ!


 シュトトトン!


 逃げ込もうとした脇道の壁に矢が3本突き刺さった。


「ここまでするか!? 誰かに当たったらどうする気だ!」


「あの人も段々常識外れになってきたわね。ヒサオのせい?」


「ちょっとミリアさん!」


 ドサ草に紛れて俺の責任にしないでください。と、思った時のこと、テラーがゆらりとミリアの背後に出現し、彼女の両肩をつかんだ。


「え、私なの!?」


「違いますよ。貴方さえ捕獲すれば、ヒサオは抵抗できませんからね」


「あ、そういう事。……ねぇ、この状況って覚えがあるんだけど?」


 あー…俺も覚えがあるな。2人でアルツの牢屋に入れられ、ミリアを人質にされた時と似ている気がする。


「さて、おとなしく付いてきてもらいましょうか。皆さまがお待ちかねです」


 そう言うテラーの表情からは、影のようなものが一切感じられなかった。

 お前変わったか? ……まぁ良い感じになったからいいけどさ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 やっぱり交渉術を使ってでも逃げ出せばよかったと思う。


「ほれ、早くしろ」


 イルマがせっつく声が背後から聞こえてくる。

 俺は今、城の2階にのぼりきった階段上にいるわけで、集まった人々を見下ろす場所にいる。

 下にいる連中は、すでに祭りモードにはいっていて楽しそうに談話をしながら出された食事を堪能している様子。俺もそっちに混ざりたい。


 まぁ、そんな場所に連れて来られたわけで、一気に皆の注目を集めているわけだが……


「ヒサオ。早くしなければ、美味しい料理にありつけませんよ」


「何でもいいから早く終わらせてよ」


 テラーとミリアが楽しそうな声でいう。

 人質とはなんだったのか? いや、わかっちゃいたけどね。


 仕方がない。ここまで来たら諦めるしかないか。

 深い溜息をついた後、気持ちを引き締めた。


 しかし何を言えばいいんだ?


 ……

 ……


 ああ! 建国式だし、建国に関する事でいいよな!

 なら、あれだ。


「ある馬鹿な男が居ました。そいつは、自分の子供に、嫌な思いをさせたくないだけの気持ちで突っ走りました」


「うぉい!」


 叫ぶ声が聞こえてきたが無視。何かをしようとしてもエイブンとテラーが止めにはいるだろう。


「馬鹿だな~と思ったけど、気づけば、そいつのやりたい事に口を出していました。俺の他にも色々な奴らが手を貸し、今日という日を迎える事になったわけです」


 本当に、あの頃のイルマは馬鹿だったなと思う。

 カリスさんの命を使ってサルガタナス様と連絡をとろうとしたり、その本人と会ったら、王は俺じゃなくても良い。とか言い出して呆れられていたんだから。


「きっかけは、その馬鹿な男の願いでしたけど、ここまでこれたのは皆の力があったからです。だから決して、その馬鹿な男に変な期待をせず、今までどおり(みんな)で国を支えてください」


 馬鹿を連呼するが、イルマは何も言わなくなった。

 どんな顔をしているのか、後ろを振り返って見てみたいけど怖いものがある。殺気は放たれていないので、大丈夫だろう……とは思いたい。

 とりあえず演説中は何もしてこないようだから、続けよう。


「託宣が消え、人間達との争いも終わりました。しかし、種族間の争いがこの先も無いなんてことは誰も言えません。平和というのはちょっとした切っ掛けで崩れます。ある男が願った事で国ができたように、誰か個人の考えで争いも起きる。だから、俺は皆に言い残します」


 疲れてきた。頭に浮かんだ事をいっているだけだが、妙なプレッシャーを感じてしまう。こういうのは嫌なんだよな。手にジワっとした汗をかきながら、これでやめようと最後の言葉を吐いた。


「ここは、あなた方の国です。良くするのも、おかしくしてしまうのも、ここに住む全員が関係者だ。それを……それだけは忘れないでほしい。俺はそう願います」


 上手く言えたかどうか分からないが、全てを言い終えた俺は頭を軽くさげた。

 シーンと黙りこんでいる様子を見る限りで言えば、上手く伝わらなかったのかもしれない。駄目だったかな? と、後ろを振り向いた瞬間、妙な声が聞こえだした。


「……言い残す?」

「あなた方って……ヒサオ様は?」

「言い方がおかしい」

「やっぱりそう思うか?」

「え? どういうこと?」

「おかしいよな?」

「間違えたんじゃ?」

「ああ、そうだよ。きっとそうだよ」


 あ。これは嫌な予感が……

 そういえば、俺とミリアが居なくなることを知っているのって一部の関係者だけだった。

 この場所に連れて来られたのは、建国に関わった重要人物的な扱いからであって、俺が皆と別れるための場じゃない。


「でも、気になる……」

「そうだよな。ここは俺達の国なわけだし」

「ああ、そうだな。確認しようぜ」

「よし!」


 よし! じゃねぇええ! まて、ちょ、ちょっとまって!

 予感が的中しそうな流れを感じて階段の方を見てみると、一歩、また一歩と……


「やばい! ミリア逃げるぞ!」


 これは逃げるしかない!

 ユリナさんが出したマロンカレーを食べたかったが、そんな暇はなさそうだ。

 好評のようでよかったですね! 等と思っている暇はないのだよ!


「え? 私も?」


「一緒にいるっていったろ!」


「こういう時は、遠慮するわ!」


 おま! それはないんじゃ……ってきたぁああ!

 俺が逃げようとしたのが火をつけた結果となり、階下にいた連中が一気になだれ込んできて、もみくちゃにされ……まて! 今、顔をなめられたぞ! 俺の顔は食い物じゃないからな! ……って、そこやめて! 弱いの! あぁああああ!!!!


「イルマ、どうしますか?」


「俺、馬鹿だから知らね」


「お前な……」


 ちょっとそこの偉い人達、傍観していないで助けてよ! あとミリアさん! 腹を抱えて笑っていないで助けて! まて! 記念品とか言って服を脱がそうとするな。せめてボタンにしてくれ! つか、お前ら目的違っているだろう!


 ……うぅ。


国名については後日わかります。

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