第264話 帰還の始まり
あった。
魔法が成功しているのかどうか確かめる手段があった。
それは……
『ヒサ。うまくいったよ。君の部屋に転移されている』
「よし!」
通話相手はもちろんコタ。
朝早くに思いついた事を試し、その結果を教えてもらっているところだ。
帰還魔法と言っているが、実際のところ異世界転移を行う魔法だ。だからこそ、ミリアも俺の世界に行く事ができる。
そう頭を切り替えれば話は単純だった。
俺がいた世界に何かしらの物質を送り込み、それをコタに確認してもらえばいいだけ。
試しに、こちらの金貨を送り込んでみたわけだが、転移先は俺の部屋だという予想通りの結果がでた。
さらに、
『無事だね。金貨の模様も写メの通りだ』
「おぉ! それは嬉しい!」
金貨が大丈夫なら金塊だって持っていける! 所有している財産で金塊を買い占めて持っていくことも……ウヒヒヒヒ――――
「ヒサオ。気持ち悪いぞ」
「あ……」
一緒に実験をしていたオルトナスさんに、嫌悪を露わにした顔で見られてしまった。気を付けよう。
『じゃあ、僕はこのままヒサの部屋で待機しているね。ケイコの事頼むよ』
「ああ。無事到着したら知らせてくれ」
『わかった。じゃあ、切るよ』
「ああ、じゃあな」
ガチャ……ツーツー
よし。あとは、皆を送るだけか。いよいよだな!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
帰還魔法陣というのは、2つの魔法陣で成立する。この点は勇者召喚と同じだ。
使われている墨も同質のものだし、違うのは術式だけ。
いや、現在は魔力結晶から魔力を取り出すための術式もいらないわけだから、この辺りも違うか。
その魔法陣を目の前にし、オルトナスさん共にその時を待つ。
帰還する人と、見送りにくる人。彼等が一緒にやってくるはずだ。
少しの間、オルトナスさんと談話をしながら待っていると、部屋の中に元勇者の2人とフェルマンさんが……あれ? 魔王―…じゃなかったサルガタナス様じゃないのか?
ちょっとした疑問を抱いていると、紺のセーラー服姿の油井さんという人が礼儀正しく頭を下げた。
「よろしくお願いします」
少し遅れ、隣にいた卓さんも習うように頭を下げて同じ事を言ってくる。
俺より年上に見えるな。
中学2年の頃に召喚されたって聞いていたけど……あぁ。そりゃそうか。
召喚された時が中学2年ってだけで、それから結構時間がたってから眠りについていたんだ。着ている学生服は手直しでもしたのか?
「実験も成功しておるので不安がらずにな」
俺が考え込んでいる間に話が進んだようで、オルトナスさんが説明を始めた。
手順は、転移魔法陣とそう変わらない。
違うのは、魔力を流す前に、座標算出用の物質を置くだけ。
その後、俺が魔力を流し起動させ、帰ってもらうっていう順番だ。
一通りの説明が終わると、卓さんが上着にしていた黒い学生服を脱いで、座標算出用の魔法陣の上へと置いた。そして、フェルマンさんへと顔を向ける。
「あとで、この服を和也に渡しておいてください」
「わかりました」
ちょっとした置き土産のつもりだろうか? その気持ちは分かるな。
卓さんが油井さんの隣に戻ると、
「サルガタナス様から伝言を預かっております」
ボソっとフェルマンさんが呟いたのを耳にした。
オルトナスさんにも聞こえたのか、何も言わずに会話が止まるのを待つことにする。
「皆の希望を頼みます。……そう、申しておりました」
「……あの野郎、勘違いしやがって」
「ほんとよ。これは、私達“全員”の希望なのに」
思う事は一緒だったらしく、2人そろって卓さんがもつ学生鞄へと視線を落とした。あの中には、その希望が詰められているのかもしれないな。
……
託される側も辛いよな。
この2人に待っているのは、辛い人生かもしれないけど、上手くいくことを願うしかない。
感傷的な気持ちを抱きながら様子をみていると、2人の目がこっちに向けられる。
「よいかな?」
「はい。頼みます」
「うむ。では、ヒサオ。やってくれ」
軽く頷き、膝をまげて魔法陣に触れると、術式をかたどる光が鼓動するかのように点滅しだす。
「発動します。中へ」
「「はい」」
手を触れたまま2人を中へと誘導。
点滅が激しくなっていき、緑から乳白色へと変わり……
ヒュン!
という音ともに、2人の姿が目の前から消えてしまう。
発動はした。これであとは……
俺が手を離すと、次第に光がおさまっていき、元の夏草のような色へと戻った。
――あっさりだ。
なんの感触もない。
これで本当に帰れたのだろうか? と疑いすらしたくなるがエーラムが言うには、発動さえすれば問題ないらしい。失敗した時どうなるかは、母さんの時と同じ結果になるって話だった。
「気になるか?」
「……えぇ、まぁ」
思っていることがバレタか。
しかし、2人が消えたということはしっかり発動したという事だろう。実験も成功しているし、ちゃんと帰れたはずだ。
……元の世界で上手くやってほしいな……
2人がいなくなると、フェルマンさんがゆっくりと動いて、魔法陣に残された学生服を手にした。
「俺はこれで失礼する。後の事は頼むぞ」
「もちろん」
多少の言葉を交わしフェルマンさんが出ていく。代わってカテナさんとオッサンがやってきた。
そのカテナさんだけど、なんだか、大きめのザックを背負っている。あんなの背負って召喚されたのか? よく無事に回収できたな?
2人が魔法陣を挟み正面へと並び立つと、オルトナスさんが元勇者達に言ったように同じ説明をしだした。
「準備ができたらヒサオに言ってくれ。それで済む」
どうやら、オルトナスさんが説明係で、俺は起動係という立ち位置らしい。だからどうしたという話ではあるが。
「ジグルド。もらっていく」
「うむ。ジンドによろしくな」
カテナさんが背負っていたザックを軽くゆすって言うと、オッサンは一瞬目をつむり言った。
その後、カテナさんは自分の片手斧を、座標算出用の魔法陣の上へとおく。
「ヒサオ。初めていいぞ」
「……っていいの? オッサン、これでお別れになるんじゃ?」
「別れは昨晩のうちに済ませた。やるものも渡したしの。もう言う事はない」
そう言われては何も……って、やるもの?
もしかしてカテナさんが背負っているザックの中身がそれか? ザックもオッサンのもの?
「オッサン。ちょっと聞くけど、なにを渡したの?」
「ぬ? ……気にするな。単なる余りものじゃ」
「……」
なぜ、目をそらした。気になるじゃないか。
俺の力を甘くみるんじゃない!!
――鑑定さんお願いします。
そしてザックの中身が判明。
以下の通りです。
オリハルコンインゴット*6
アダマンタイトインゴット*7
アポイタカラインゴット*10
カスミ*4
……余りものってなんだっけ?
いや、最後のカスミって酒だけどさ!
だけど、それだって蔵元と直接交渉しないと駄目なんじゃなかった? いつのまに入手していたのよ!
……いや、オッサンにツッコムのはよそう。
きっと俺には知らない何かがあるんだ。きっとそうに違いない。
俺が気にしたのは、元の世界に持っていっても、大丈夫なものだろうか? という点。
でも、話を聞く限りだと、この世界とオッサンの世界は近しい場所にあるらしいし、大体のものは大丈夫だろう。……もし、俺がオリハルコンとか持っていったらどうなるんだろう? ……興味があるが、帰還の際問題になるかもしれない。うん、やめよう。
「どうしたヒサオ?」
「あ、いや。わかったよ」
興味本位の考えを止めて魔法陣を起動させる。
カテナさんに声をかけると、躊躇いなく入ってくる。
「ジンドの嫁になるが良い?」
「好きにせい」
「好きにする」
……簡単でいいな。ホント好きにしてくださいよ。
ヒュン
また同じ音がして、カテナさんが帰っていった。どこいっても、あの人なら大丈夫な気がしてならない。あのくらい強くないと生きていけないんだろうな~
オッサンが無造作に斧を拾い上げると、ジーと見つめて、
「……ふん。研ぎ方が甘いわ」
なんだか、オッサンらしくない声を残して立ち去っていった。
――ちょっとだけ背中が小さくなったように見えたよ。
……でもって、今度は、
「ヒサ君よろしく」
ケイコか……って、ちょっと待て!
「ケイコ。その背にもつ風呂敷はなんだ?」
「え?」
学生鞄はいいが、風呂敷包みなんか持ってきていないはずだ。何をいれた?
「え? じゃない。また変なことしていないだろうな?」
「も、もちろんだよ」
……怪しい。こいつもオッサンと同じく顔を逸らしやがった。
鑑定様お願いしますPART2!
……でだ。
世界樹の葉*5
竜人族の鱗*3
竜人族の爪*6
オーガの角*1
……どうやって入手した?
その場で頭を抱えてしまう俺にオルトナスさんが、
「どうした?」
「……すいません、ちょっと時間をください」
これはちゃんと言っておかないといけないと思い、ケイコに近づき色々聞いてみたら、サルガタナス様からお土産としてもらったらしい。
なにしてくれてんのよ、あの人は!
色々怖いので、全部没収な!
泣いても駄目です!




