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第260話 目覚めた元勇者達

 リームの位置を検索してみると……


 名  前 リーム=カイベル。

 位置情報 エーラム城地下。召喚されし者達の間。


 どういうわけか、こんなのが出た。


 これってもしかしなくても、魔王様が人をいれたくないって言っていた場所だよな?……いいのか?


 不安を覚えて、魔王様に通話してみると……原因は俺でした。


 『帰還魔法陣の最終確認を精霊樹に頼んでみる』


 これをペリスさんに言った事が原因で、その為リームに精霊樹近くまで来てもらったらしい。

 ミリアのように世界樹の杖のようなものが無いと、契約者の方からの話しかけは近づくしかないのだろう。なんだか不条理にも思える。


 その精霊樹による最終確認の方についてはこうだった。


『頼んでみたら、すぐに終わったよ。大丈夫そうだね』


 通話の相手はもちろん魔王様。やることが早すぎる。それだけクラスメイト達を帰せる日を待っていたのだろう。

 ついでに、アルフの目覚まし方について尋ねてみると、これについてもリームを通し聞いておいてくれるらしい。


 俺達はともかく、他の皆はいつでも帰れる事に……

 ん? ということは……


「魔王様。もしかして、クラスメイトの2人を目覚めさせるんですか?」


『そういうこと。状況を教えて選択してもらう時間も与えないといけないしね』


「選択?」


『この世界に残るか早めに帰還するか……僕としては帰ってほしいけど、彼等がもつ選択権までは奪えない』


「……帰らないという選択もありえるんですか?」


『可能性はある。考えてもみてくれ。僕達は28名同時に召喚されたんだ。向こうに戻ったら絶対に色々聞かれる。どう話したところで疑われるのは間違いがない。場合によっては帰れなかった僕達の家族から逆恨みすら買うだろう。これを考えたら、どう思う?』


 その考えは一切なかったと、返事を詰まらせてしまう。

 被害者なのに、向こうに戻ったら加害者扱いされる可能性があるのか。証拠らしきものも出ないだろうから、ずっと疑われるだろうな。

 そんな世界に帰りたいのか? と聞かれた、迷いだって出てしまう。


「……やりきれませんね」


『まぁね。そうそうハッピーエンドにはならないさ』


「でも、帰ってほしいんでしょ?」


『当然だ。その為に今まで頑張ってきたのだし』


 そうだよなー…と、魔王様の苦笑じみた声を聞きながら思った。


『まぁ、その為にも僕達は家族に向けた手紙を残してある。筆跡から本人だと分かってくれるかもしれない。それで誤解が解けるかもしれないね』


「なんだ、ちゃんと考えてあるんじゃないですか」


『……ヒサオ。他人事のように言ってるけど、君も考えないと駄目だ。僕のクラスメイトと違って、時間が結構たっているんだろ? どのくらいか分からないけど、周りに説明する内容を考えておくべきだ』


「ウッ!?」


 そ、そうだった。

 いや、しかし、コタがすでに事情を話してくれているだろうし何とかなるか?


『それと、ケイコちゃんだっけ? あの子たちを起こすタイミングは君達に任せるつもりだけど、どうしたい?』


「そう…ですね。わかりました。ミリアやオッサンと相談してみます」


『うん。そうしてくれ。あと魔力は君頼みだから、どうしても君が最後になってしまう。これは大丈夫かな?』


「それは承知しています」


『……そうか。最後まで面倒になってしまって悪いね』


「こっちもケイコ達の事で面倒になっていますから、言わないでください」


『フフ。お互い様か。僕の方が一方的に世話になった気がするけど……いや、やめよう。言い出したらキリがない。ヒサオ。とにかくありがとう』


「……いいえ。こちらこそです」


 その言葉を最後にガチャリときった。


 魔王様の声は、嬉しさと寂しさが同居しているような感じだった。

 長年の望みが叶う。

 それがすぐそこまで来ている。

 それは念願がかなう瞬間であるけれど、同時に元の世界と完全に別れるという事だろう。


 ……魔王様。

 あなたが。

 いえ、あなた達が選んだ道は……


「ヒサオ?」


 声をかけられ、ゆっくりと振り向く。


「……」


 無意識にミリアの肩をつかみ自分へと引き寄せると、彼女は俺を見上げ手を背中へと回してきた。


「大丈夫?」


「……わるい」


 背を軽く叩いてくれた。

 それがなんだか心地よい。

 

 自分にとって大事な何か。

 自分を自分として見てくれる相手。

 そんな人が近くにいてくれるって、こんなに幸せな事なんだな……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――即位式の前夜。


 魔王は待った。

 自分の部屋にある長椅子に座り、その時を待った。

 今、彼の部屋には他に誰もいない。

 いつも護衛としてつき従っている影の姉妹ですら、魔王の元から離れている。


 魔王を見れば体に負担が少なそうな、薄茶のゆったりとした服装。

 その彼が見るのは、長テーブルの上におかれた紐で結ばれた手紙の束。

 これをどう言って渡そうかと、嘆息をつきながら考えこんでいる。


 その魔王が待つ部屋の扉がノックされたのは、空から陽が落ちかけてきたときの事だった。


 「……どうぞ」


 出た言葉は魔王らしからぬものだった。それは相手が誰なのか分かっている為だろう。

 扉が開かれると、予想していた2人が姿をみせた。


 1人は、紺色のセーラー服姿。名前は上岡 油井(かみおか ゆい)

 もう1人は、真黒な学生服姿。名前は時田 卓(ときた すぐる)


「「……」」


 2人ともが黙っていた。

 軽く頭を下げたものの、そのまま立ち尽くしていた。

 なぜなら、そこにいるはずの男がいないから。

 彼と彼女が知る男。村田 和也の姿がどこにもなかったから。


「ひさしぶりだね、卓。それに上岡さん」


 声をかけられ、卓と呼ばれた短髪の少年が前にでた。


「……もしかして」


 驚いたかのように瞳を大きく見開いた。

 後ろにいた背にまで届く黒髪の少女は、驚きを隠すように口に手を当てる。


「2人ともこっちにきて座ってくれないか。夜は長いけど、僕は見ての通り歳をとってしまったんだ。あまり無理をさせないでくれよ」


 見た目は、床に横になっていても不思議ではない老人としての姿。おまけに肌は病人のように青白い。出ている声も歳を感じさせるものだが、その口調は目覚めたばかりの2人にとってみれば聞きなれたもの。扉前で顔を見合わせあった油井と卓は、ゆっくりと和也の前にあった長椅子に腰を掛けた。


「……本当に和也……さん?」


 まだ幼さが残っているような顔をしている油井が、怖がるように尋ねた


「フフ。上岡さん。この通り歳はとったけど、昔どおり君づけでいいよ」


「……できないわよ。そんな姿の人に」


 顔を下に伏せながら、目を和也のほうに向け油井が言う。

 隣にすわっていた野性味を感じさせる卓という少年が、2人のやり取りをみていて、


「……信じられねぇけど、本当に和也か? それに生き残っているのは俺達だけ? ……これドッキリとかじゃねぇよな?」


「まさか。こんな事をしてどうするんだよ。眠る前の記憶はあるんだろ?」


「それは、まぁ……でも、眠りにつく前と色々かわっていて……」


 そう言いつつ、魔王の部屋を見渡した。この部屋からして眠る前と比べ変わっていたのだろう。


「気持ちはわかるよ。僕も目が覚めた時は、そんな気分だった」


「和也く…さんも?」


「上岡さん。無理しなくていいんだよ? 呼び慣れたほうで大丈夫だから」


「……ごめんなさい」


「謝らなくても……」


 緊張がとけていない油井をみた魔王が、ふっと口元を緩めた。


「いや、よそう。好きに呼んでくれていい。その代り、僕も油井ちゃんって呼ばせてもらう」


「お、おい和也」


「なんだよ、卓。いいじゃないか。僕からみれば、油井ちゃんは可愛い孫みたいな歳なんだしさ」


「……そうかもだけどよ」


 納得はできるけど、納得できないといったように、卓の顔が歪んだ。


「それとも何? 卓は油井ちゃんの事が、“まだ”好きなの? それで怒っちゃった?」


「んぁ!?」


「ちょ、ちょっと、和也君!」


 いきなり爆弾発言をかます魔王に、2人ともが口を大きく開けた。


「て、てめぇ! おい和也!」


「なに? 見ての通りの老人の僕に暴力を振るう気?」


「ぐぐっ」


 長椅子から立ち上がりかけた卓が拳を震わせながら魔王を睨むが、その相手はシワだらけの顔で笑顔を見せる。その表情は、卓が知る和也のものと重なって、彼は握った拳から力を抜いた。


「いいから座りなよ。それと上岡さん。今のは冗談だからね? わかってる?」


「……え?」


 頬を赤く染めだしていた油井が、その一言で呆気にとられたかのように表情を変えてしまう。


「あ―…うん。やっぱり君は真面目なままなんだね。君らしいけどさ」


「お前は、かなり変わったな! そんな事言う性格じゃなかっただろ!」


「そりゃぁ、魔王なんてやっていれば、こうもなるさ」


 等といいきり、苦虫をつぶしているような卓の前で軽く笑い声をあげていた。

 声をとめ、呼吸を一つすると、


「さて、昨日の事のように覚えていると思うけど、改めて言わせてもらう。現魔王には状況を話す義務があり、帰還できる者には選択する権利がある……今はその為の時間だ」


 いいながら眼を細め、魔王としての顔を作り出していく。

 和也から魔王へと変化する様子をみた2人は、自分達が記憶している遥か過去の事を思い出していった。

 魔王の前に座る2人が互いに目端を合わせた後、和也にむけ頭を1度倒す。


「では話そうか。途中質問があれば聞いてくれ。あとでまとめて言われても、僕の頭じゃ追い付かないからね」


 本気なのか冗談なのか分からない言葉を含め、自分が覚えている限りの事を話し始める。


 これが最後。

 これが、魔王としての最後の夜。


 そして……


 日本人 村田 和也でいられる最後の夜でもあった。

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