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第253話 背中を押す手

 次なる魔王にカリスさんが選ばれた事。

 そして、世界樹の出現。


 1日で起きた2つの大事件は、エーラムの皆を驚かせる結果になった。

 魔王様からは、皆を驚かせるつもりだったのに自分が驚いてしまったと、愚痴まで言われてしまった。


 俺だって驚いた。

 魔王の交代についてもだけど、世界樹の事もそう。

 塔のようにまっすぐ伸びた大樹になるのは知っていたけど、それってゆっくり成長していくものじゃないのか? と思っていた。

 それがなに? いきなりあんな姿になるの? どういう物理法則だよまったく! って思ってしまうのは当然だろう。


 この事で魔王様に呼ばれて、ミリアが受け答えをしたわけだけど、この時、ミリアが爆弾発言をしてしまう。


それは……


『世界樹は命の力も回復してくれます』


 と、いう事。


 つまり、純魔族達が失った生命力を回復することができるのだ。

 当然のごとながら、ミリアが教えたその時より、世界樹の根元に純魔族達や怪我人が押し寄せる結果になった。

 残念ながら魔王様は無理のようだけどね。あの人の場合は寿命を減らして力をつかっていたわけじゃないから。



 大きな騒動はあったけど、それでも前に比べたら平和な日々だ。

 そんな日々を俺とミリアはブランギッシュに戻らず、エーラムで過ごしている。


 俺の理由は、新たに魔王となるカリスさんの即位式が間近に迫っている為。

 ブランギッシュで待つこともできるけど、俺が使う通話スキルが何かと役に立っているから、終わるまでは城の中に住まわせてもらっている。すでに各族長の名を教えてもらっていて、いつでも通話が可能状態だ。


 ミリアの場合は、世界樹の目を覚ますため。

 世界樹としての姿は見せたけど、まだアルフとの交感が出来ていないらしい。

 リームと一緒に声をかけているようだけど、それでも駄目だという。

 

 まぁ、そんな感じで日常が過ぎているんだけど、結構手持無沙汰になっている。通話が必要であれば呼ばれるだけなので、その時ぐらいしかやることがないんだよな。


 ――でだ。


 城の一室に用意された、俺の部屋で通話を開始。

 相手は……


『時間制限がある通話を暇つぶしに使うのはどうかと思うんだよね』


 コタ様です。

 苛立っているのか、あるいは呆れているのか……たぶん後者かな? そんな声で言われてしまう。


「いいじゃないか。この間、カリスさんの写真おくっただろ?」


『人型じゃ駄目なんだ。人型じゃ……』


「お、おぅ」


 分かっていたけどやっぱりか。

 しょうがない。託宣問題を片づけた功労者がそう言っているのでお願いしますと頼んでみよう。


『それより世界樹の樹液はとれるんだろ? もう帰ってこれるんじゃないの?』


「うん、まぁ、そうなんだけどさ。色々見ておきたいんだ。即位式もだけど、イルマがやる建国式とかさ」


 正確には、イルマではなくて、テラーとエイブンな気がするが。


『そうやっている間に、また問題が起きるとかよくある話だよね?』


「……やめてくれ。もうコリゴリだ。あとは、帰るまでミリ……」


 出かけた言葉を途中で飲み込んでしまう。


『あのさ……』


 心底から呆れた声を出されてしまう。


『気になっているのは式典だけじゃないよね? 薄々気付いていたけど、彼女の事どうするの?』


「……」


『たぶん、ヒサの事だから色々理由つけて何も言ってないんでしょ? だけどそれって、逃げているだけだよ。すごく悪いクセ』


「う、うるさい!」


『うるさくても言うよ。だって、そのままこっちに帰ってきても後悔しているヒサを見るだけになる。いい加減、はっきりさせなよ』


「あのな! 言わない方がいい時だってあるだろうが!」


『それが今だって?』


 ああ、そうだ! って言おうとしたら、


『……ふざけるなよ?』


 ……いきなりコタの口調がガラっと変わった。


『だったら、さっさと帰って来いよ。なにモタモタしてんの? ミリアを急かせよ。できないんだろ? できない理由も分かってんだろ? それで、言わない方がいい? 馬鹿を言うのも大概にしなよ!』


「……」


『そこから帰ってくる為に頑張ったんだろ? だったら、こっちでも頑張れよ!』


「……は?」


『は? じゃないだろ。同じようにこっちでも頑張って、なんとかミリアがいる世界に行く方法を考えろっていってんの!』


「おいおい! そんな方法あるわけないだろ!」


『だったら守田以下だ』


「なっ!?」


 なにいってんだ? と、この時は正直そう思った。

 いつもなら理屈っぽいコタがいきなり俺を守田以下扱い。その意味が分からず混乱しているところに、


『帰りたい世界がある。だから、守田っていう奴は色々利用したんだろ? 恵さんだってヒサに会いたいから色々犠牲にしたんだ。なのに、ヒサはできないの? ミリアへの想いってその程度? だったら、何も言わずに帰ってきたほうがいいね。うん。ヒサのいう通りだったよ。ごめんね軟弱君』


「お、お前。そこまで言うか?」


『言わなきゃわからない馬鹿だからね。それにそんな半端な気持ちじゃ、ミリアに振られて終わるだけのように思えるし……あぁ! 言わないほうが正解か』


「1人で納得するな!」


 徐々にコタの口調が戻ってきた。貯めていたものを吐き出してスッキリしてきたんだろう。だけど、俺の方はまったくスッキリしないぞ!


「煽るだけ煽って、さっさと戻ってこいってか? ふざけんなよ!」


『だったら告白しなよ。結果はわかっているけどさ』


「こ、告白して、もしOKだったらどうすんだよ! 俺達の世界には魔法なんてないんだぞ! 通話だって帰ったら使えないんだ!」


『ないね。でも科学はある。それを学べばいい。ヒサは、異世界があるって分かっているんだ。これは大きいよ。分かっているなら頑張れるじゃないか。しかもそこには好きな人がいるんだよ? なぜ、帰ってきた後に必ず行くからって言えないの? それは、その程度の相手としか考えていないからだろ?』


「違うだろ! 絶対じゃないんだ! そんな事…『言えよ。言って覚悟を決めなよ。死んだつもりで頑張って異世界への扉を開きなよ』……無茶苦茶な」


 そんなのはドラマとか漫画の世界だろ。とか、頭の中でグルグルに考えていると、


『また、言い訳考えてる? はぁー…早く帰ってきたら?』


「……」


 言い訳? ……になるのか?

 コタの言っていることは無茶苦茶すぎるという考えと、どこかでそれを言い訳に使っていることを認めているような自分がいて……何も言葉が出せなくなってきた。


『……まったく。本当にヒサは中途半端だよ』


「中途半端?」


『そうだよ。だけど、そっちの話を聞く限りだとそうでもなかったし。でも、結局同じままか……まぁ、ヒサはヒサのままで、ちょっと安心したかな?』


 トーンが段々と下がる。コタが諦めてきているのが分かる。言うだけ無駄だったとかという気持ちが。


「……本当に言いたい放題だな」


『そりゃぁ、色々困らせられたからね』


 まぁ、そうだな。だったらさ。


「そうか。じゃあ、もっと困らせてやるって言ったらどうする?」


『へぇ~ そうなの? でもヒサがこっちに帰ってきてからの問題なら簡単に処理できそう』


「ほー? 言ったな?」


『言ったよ? それがどうかした?』


「んじゃ、俺が手を貸してくれっていったら、貸してくれるんだな?」


『……』


 返事を少しまったが何も言わなくなった。察したか?


『あ、そろそろ時間だね。じゃぁ』


「あと2分残ってる」


『あ、あれ? おかしいな?』


「で、返事は?」


『……手の空いた時ぐらいなら?』


「あれ? そうなのか? なんだ、おい、さっき言ってたじゃないか。片手でちょいちょいって片づけられるって」


『言ってないよね! そんな事、一言も言ってないよね!』


「俺にはそう聞こえた。だから言ったんだよ」


『暴君!』


 なんとでも言え。煽ったお前が悪い。

 俺は心に蓋をして、帰れる日を待っていたんだぞ。

 毎日安らかに眠れたわけじゃない。

 一度考えだしたら止まらなくなるから、頭の中から追い払っていたんだ。

 それをこいつは……


 ああ、いいよ。分かったよ!

 だけどな……


『ひ、ヒサ? あのね? 結構無茶な事を言ったけど、それは……』


「もし、OKだったら、手伝ってもらうからな? 絶対やってもらうからな? 人手あつめとか、資金集めとか、勉強のほうも当然な!」


『ちょっとまって! 無理だから! ヒサにそこまでの勉強を教えるとか無理だから!』


「その他は出来るのかよ……」


『……あ、切れる。じゃぁ』


「あと1分ある。往生際が悪いぞ」


『……』


 マジで往生際が悪いな。

 なら、切り札を使わせてもらおう。


「お前がケイコの“ため”に、どれだけ頑張ったのか、目が覚めたら俺の口から教えてやるよ。もちろん色々と話を盛ってな……わかるだろ?」


『……それは、逆に言うと』


「頭のいいお前なら分かるだろ?」


『……ヒサなんか振られてしまえ』


「それが返事でいいんだな?」


『わかったよ! 手伝ってやるよ! だから、さっさと振られてきなよ!』


「よし! 言質はとったからな! んじゃな!」


 ガチャ。

 言い切ると同時に通話を切ると……


「ヤバイ……」


 ほぼ調子にのった感じで言い切ってしまったが、段々と体が震えてきた。

 先日も殴られたばかりだというのに、今度は蹴りでも入れられるんじゃ……

 いや、それならまだしも「正気?」とかいう顔で見られたら?

 最悪、無反応で去られたり……


「ヴぁああ―――――――――――!!!」


 メイドさんが毎日頑張ってメイキングしてくれるベッドの上で、ゴロゴロと体を転がし始めてしまった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ガチャ


 久雄の方から電話が切られた。

 それを確認したあと、小太郎の口元が制御を失ったかのように緩みだす。


「ちょろい。ちょろいよヒサ」


 時間は深夜。

 ここで馬鹿笑いをあげたら、またも両親に叱られてしまう為、それだけは堪えたようだ。


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