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第250話 3国の人間達

 戦争が終わった。


 ミリアが魔法陣の処理を行った時点で『彼女』は約束を守り、この世界から手を引いた。

 この事実確認ができるものは誰もいないが、託宣の呪縛から人間達が解放されたのは事実のようだ。


 しかし、傷を負った人間達が、即座に自国へ帰れるわけではない。

 命は助かったものの死者や重症者が多数入る状態で、エーラムから遠く離れた自国への帰路は無理がありすぎた。


 そもそも……


「食料すらほとんど持たずに来たとは……」


 困り果てた声をだしたのはドルナードだった。

 街の外に臨時に作られた仮設テント地に集まっているのは帝国の民たち。

 聞けば軍人だけではなく民間人の姿も確認できたという。今の帝国がどうなっているのか、考えたくもい事だろう。


「陛下。重症者もかなりいます。やはり魔族の手を借りねば、どうにもなりませんよ」


 自国民を前にし一緒に歩いていたトーマが口を挟むと、


「できれば、それは避けたい……避けたいのだが……」


 眼鏡をクイっとあげて、集まっている人々を見つめる。

 数えることすら馬鹿らしくなる人数。列を作らせ並ばせることも困難な状況。いったいどれだけの民がいるのか把握しきれていない。

 そうした人々に対し『重症者は放置。食料は魔族領土にある町を攻め奪う』と言う事を、流石のドルナードも言えずにいた。


「ブロード。何か言い案はないか?」


 共に歩いていた大剣を担ぐ大男に言うが、反応を示す前に、


「いや、無理を言った。訂正しよう。どこからか、皆にいきわたるだけの食料を奪ってこい」


 さらなる無茶を言い出す。


「あのな……」

「分かっている。単なる憂さ晴らしだ」


 鬱になりつつある気持ちを晴らしたかっただけのようだ。彼でもそういう時はあるらしい。

 しばらく3人で歩いていたが、その途中で足を止める。理由はドルナードが嘆息をつき、街の方へと目を向けたから。


「分かった。魔王に話をつけてみる。しかし、あまり長く滞在する気はないぞ。そもそも出来はしまい。トーマついてこい」


「はい」


「お、おい? トーマだけかよ?」


「お前は残れ。俺もお前も離れたら不安が増すはずだ」


「……あぁ…しゃあねぇな。わかったよ。トーマ、しっかりやれよ」


 そういう理由ならばと諦め、トーマの肩をポンと叩いた。




 2人そろって街の中へと入っていくと、そこには不安気な表情を浮かべつつ、人間達が列を作っている。


「なんですこれ?」


「アルツの者達だ。あそこだけは転移ですぐに帰る事が出来るらしい」


「あぁ! なるほど!」


 並ぶ人間達に目を向けていたトーマが、ポンと手をうつ。ドルナードは反応をみせず列の先へと足を進めた。


 すると、その先で大きな声をあげている者達がいる。

 複数のエルフ達が、いくつもの魔法陣の近くに立ち、転移する間際の人間達に簡単な説明を行っているのだろう。

 この転移魔法陣は、戦争終結後に臨時に設置されたもので、アルツの城前に通じているらしい。オルトナスとミリアの苦労を考えると察して余りあるというものだ。


(今なら誰でも転移が可能とは聞いたが、本当らしいな)


 目の前で次々と転移していくアルツ住民たちに目を向けながら思う。


(世界樹が出現すれば大陸全土で同様の事になると言うし利用せぬ手はない。これさえあれば……そのためには、まず……)


 並ぶ人々の横を歩きながら、瞳を怪しく考えていると、突然ドルナードに語りかけたものがいた。


『(陛下。その考えは面白いですな)』


「(……観客でいるのではなかったのか?)」


『(無論観客でいることに変わりはありませんよ。ですが、面白い発想でしたので、つい)』


「(余計な口を挟むな)」


『(これは出過ぎた真似を)』


 内にいるラーグスの楽しむような声に、ドルナードの顔が歪んだ。


『(しかし転移魔法陣を、文明を発展させる礎とお考えですか……国家間を競争させ、魔法と科学が融合した世界を作り出す……フフフ。陛下も偽勇者の世界にあこがれましたかな?)』


「(貴様……いや、ちょうどいい。そこまで言うからには、貴様にも協力をしてもらうとするか)」


『(は? いえ、わたくし等、もはや単なる死人。何一つできはしません)』


「(何を言う。私にヒサオの世界を見せたように、他の連中にも片鱗ぐらい見せられるのではないのか?)」


『(それは無理というもの。誰もが陛下のように耐えられる訳ではありません。私がどうして狂ってしまったのか、お忘れですか?)』


「(片鱗といった。わずかであれば、可能ではないのか? まったくイメージができない連中に伝えるのは骨が折れる)」


『(……わずかばかりのイメージですか……どうなのでしょう? そのような事を考えた事もありません)』


「(ならば考えろ。貴様とて、ヒサオの世界に魅せられたのだろ?)」


『(私が? 何を馬鹿な事を……)』


「(自分で言ったではないか。陛下“も”偽勇者の世界にあこがれたのか、とな)」


『(……それは、単なる言葉のあやです)』


「(そう言って逃げるのか? そもそも、黙していた貴様がこの考えを面白いと感じ、それを口にしてきた時点で認めているようなものだ)」


『(……お人が悪い)』


「(フン。自業自得だ。わかったら、方法を考えろ)」


『(仕方がありませんな。しばしお時間をもらいます)』


「(ああ。時間はたっぷりある……ククク)」


 話をしている間に、自然と笑みが出始めた。

 当人は悪気がないのだが、他人が見ると良からぬことを考えているように見えて仕方がない。悪癖というものは、そうそう治るものではないだろう。本人に治す気もないというのもあるが。


 そうしたドルナードの様子を見ているトーマは慣れたもので、一切口を挟まない。

 また何か悪巧みをしているのだろうと考えるが、それが本当に思う通りになるかどうかは疑問だ。発生する利益は存分に奪い取る魂胆なので、あながち間違いではないが。


 先々の事を夢想しながらも魔王との謁見を果たし、支援要請を申し出る。

 ドルナードはすでに知っていたが、魔王本来の姿をトーマが見たのは初めて。複雑な心情を抱きつつ、2人の王がする交渉話を耳にしていた。


 この時行われた交渉のやりとりについて彼は口にしない。

 だが、その場にいたトーマは、後世に己の感想を残してしまう。

 それは、こうしたもの。


『手腕は見た目どおりの老獪さ。そして、口調は子供と大人が混じったようなもの。誰でもやりづらいよ。どうみても陛下の負け。本人は絶対認めないだろうけどね』


 ……と。

 この言葉を彼が残したと知れたのは本人の死後。

 初代皇帝の側近が、主を貶めるような言葉を残したという例は他にないため、本当にト―マ=ウィスが残した言葉なのか議論が行われることになる。


 しかし、これは未来の話。

 今は、もう少しだけヒサオ達について話を続けよう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日、ヒサオとイルマが城へと呼ばれることになった。


「ブランギッシュにオズルの人間達を転移ですか?」


 即座に言われ、呼ばれた2人が顔を見合わせた。


「帝国に対しての援助は行うけど、さすがにオズルまでは無理だ。かといって見捨てるのも忍びなくてブランギッシュに転移させ、そこから帰ってもらおうかとね」


「……ということは、支援要請があったんですか?」


「あるにはあったけど、代表者すら状況把握ができていない。とにかく助けてくれの一点ばりなんだよ」


「オズルの人間が魔族にですか―…まぁ、分からなくはないですけど」


「そう言う事。で、どうなんだい? そもそもブランギッシュの状況は?」


 と、そこでイルマに目がいく。


「あー…テラーとエイブンが調べてきたが、ほとんど手付かずだったらしいぜ。誰もいなかったから無視されたんじゃねぇのかな?」


「……え? 街に残した食料なんかもかい? 保存食だってあっただろ?」


「みたいだ。俺も、本当なのかどうか自分の耳を疑っちまったよ」


 これにはヒサオも驚いたらしく、報告を受けたと同時にアグニス夫婦に連絡をいれた。今では、いつになったら戻れるのだと催促がくるほどになっている。


「……信じられないね。時間がたっているから色々駄目になっているだろうけど、それでも助かるよ……ヒサオ。君が目にした『彼女』というのは、どういう相手だったんだい? わざと、こういった事を見逃がすような存在なの?」


 尋ねられ思い浮かべるは、一瞬だけみた瞳孔がない人形のような顔。

 その姿だけでは判断がつかないが、多少の会話をした所からすれば、全てを世界そのものに向けているように思えた。それ以外となると……


「たぶん『彼女』はそういう事を考えないと思います。最短距離を歩かせ、手近にある獲物を狩らせていたんじゃないでしょうか?」


「……なんだか、計画的なのか無計画なのか分からない相手だね」


「元々俺達とは違いますからね……少し……いえ、かなり変な感じがしました」


「おめぇからみても、託宣っていうのは変なやつだったのか?」


「……なぜ、おれ“から”見てもなんだ?」


「わかんだろ?」


「分かるが、分かりたくない」


 魔王の前で口論が勃発しそうになったが、


 バン!


 と、いきなり玉座の手すりが叩かれ、2人ともが口をふさいだ。


「君達ね……まぁ、いつもの事だし頼んでいるのは僕だけど、後が詰まっているんだ。僕も見ためどおり体力が無いんだから遊ぶのはやめてくれないか?」


「はい。すいませんでした」


「わりぃ……」


 さしもの2人も魔王には負けるようだ。イルマなぞまるで猫のように背を丸めてしまった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 こうして、3国の人間達の今後が定まる。


 イガリアから派遣された者達の多くはアルツへと。

 ウースの帝国住民は、魔族からの支援を。

 オズル住民は、ブランギッシュ経由で体を休めた後、自国へと戻る。


 この時、ブランギッシュ住民の多くも帰った。

 理由は、街を荒らされたくないという事と、重症人たちの介護の為。


 しかし、その中にダークエルフ達の姿もなく、またヒサオやミリアの姿もなかった。

 

 精霊樹アルフ。

 彼女が世界樹へと成長を果たす日が近づいていたのだから。

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