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第25話 手がかり

 ヒサオ達が異世界でまさかのミソラーメンを堪能している間、テラー達は、街の外で野営を行っていた。

 すぐにでも夜襲をかけたい所であるが、逃げ込んだ先のアグロの街は手出しが難しい。

 その為に、隊長であるはずのテレサが大声を上げ始めた。


「あなたが最初の攻撃で、もっと被害を与えていれば、街に逃げ込まれずにすんだものを!」


 焚火を囲むように、テラーと人間の男2人。

 そして、愛想笑いの一つもあげずに、短槍を手にし、苛立ちをぶつけるテレサが一人。


 言いがかりも甚だしいとも言える言葉であるが、それを甘んじて受けるテラー。

 聞き流したいところではあるが、テレサにそうした態度を見せると、暴言を重ねてくるので始末に悪かった。


 一番性質が悪いのは、テラーを自分の味方達を使い囲んでいる事だ。

 いつの間に覚えたのか、そうした行動だけは託宣が無くても実行するようになってしまっていた。


(自分で考え始めているのはいいが、これは困ったものです)


 内心を悟らせないように、うつむき、顔を伏せ焚火を見つめながら耳をヒクヒクさせる。

 ヒサオであれば、その耳を撫でたくなる衝動を覚えるだろうが、テレサにその趣味はなかった。テラーにとってみれば幸いである。


「あの場所は人間領土であって、人間領土ではない。それぐらいは分かっていますね?」


「もちろんです」


「なら、何故、ここにくるまで任務を果たさなかったのですが! こうなる事ぐらい分かるでしょう!」


「それは重々……」


 分かっていたからこそ、その足止めを行い、後続との合流を果たした後の一斉攻撃だったのだ。

 なのに、この街滞在の強力な魔族部隊が出てきた。


 中でも竜人達は別格。

 姿が確認された時、真っ先に逃げだしたのは人間達の兵で、その逃げ出した兵の殿(しんがり)を務めたのはテラー達。


 隊長であるはずのテレサにとってみれば『こんなのは聞いていない!』ため、自分たちが、まっさきに逃げ出すのも当然の権利だし、殿を獣人達が務めるのも、また当然という意識。

 テレサ達にとってみれば、自分達が逃げ出す前に、勝負を決められなかったテラー達が悪いという考えの様子。


「まったく獣人というのは、どこまでいっても役立たずで困る」


 ポキっと枝を折り、一緒にいた男の兵が口をはさんでくる。

 着用している真新しい胸鎧同様、若く苦労知らずの男に見えた。


「この事は当然報告に加えますが、この先の作戦はあるのでしょうね? まさか、ここでチャンスを待つとか言わないでしょうね?」


 その作戦を考えるのは、本来テレサの役目なのであるが、この部隊において彼女は単なるお飾りである。当初からアテにはしていないが、彼女から責められる筋合いもなかった。それを口にしても状況が改善されないことも知っていた。


「近くの砦に伝令を向かわせました。もちろん増援要請です。明け方までには返事がかえってくるでしょう」


「それまで何もせずに待つと? 逃げられたらどうしますか!」


「他の作戦など、私には思いつきません。もし何かしらの提案があれば、教えてもらえないでしょうか?」


「決まっています! 獣人部隊が攻め、敵を食いつかせ、そのまま村の外に誘き出します。その後、我々が確保対象である異世界人3人を拉致し撤退すれば良いではないですか」


 鼻息を荒くするかのごとく大声で作戦を口にする。誰が聞いているとも知らぬ状況で。

 テラーは託宣がなくとも作戦立案は出来たのか!と、多少の驚きを感じつつも、それを隠し眉を顰め言う。


「それは、前提条件として、異世界人を街にとどめられる手段がないと……」


「戦場に出てきたのであれば、そこで確保したらいいだけの話ではないですか」


「……」


 これは困った。


 確かに3人の匂いを頼りに戦場で探すことはできるだろうが、ただでさえ不利な人数と状況においてやれという。

 しかもその3人の匂いを探れるのは自分だけだろう。

 エイブンはヒサオの事を目視はしたが、匂いに対して自分ほど敏感ではない。


(つまり、おとり部隊の指揮を行いつつ、戦場にくるかどうかも分からない3人の匂いを探し、拉致しろと……)


 どれだけの無茶ぶりを自分に押し付ける気だろうか?

 おまけに、街中で見つけられなかった場合は、戦場に出ていたハズだと言い切り、作戦失敗の責任を押し付けることもできる。


「仮にその作戦を行うとして、潜入部隊にも危険は伴いますが、それはよろしいので?」


「も、もちろんです。そのくらいは分かっています」


 冷や水でもかけらたかのように、テンションが下がったのが目に見えた。


「例えば、私ども獣人部隊のみで先制攻撃を行い、中に人間の姿がなかっとしたら、私であればオトリ作戦を疑います。それは奴らも一緒でしょうし、そうなると全軍での行動はしないでしょう。となれば、街に予備戦力を待機させると思います」


 そして予備戦力の方が本隊である可能性もある。とは言わなかった。確率の問題なのだし。


「そ、それは……その時は、(すみ)やかに撤退を行い……」


「確保を行わず撤退ですか。いったい何をしにいくつもりです?」


「……」


 言い過ぎだとは自分でも知っていたが、この作戦を実行するわけにはいかなかった。


「貴様、()の分際で……」


 若い兵が、テラーを睨みつけてくる。

 もう一人の男は、わりと歳を経ているようで、我関せずを決め込んでいる様子だ。


「たかが獣人(、、)です。なので、万が一にも隊長や人間の皆さまを、危険な状態にするわけにはまいりません。ご理解のほどお願いします」


 自分で言っておいて、誤魔化しがすぎると思った。

 先に、何をしにいくのだ? と言っておいて、これである。

 いくらなんでも騙されないだろうと思ったが、


「立場を分かっているのならそれでいい。隊長、この場は、この()の顔を立てて、増援を待ちませんか?」


 しっかり誤魔化せてしまった。喜んでいいのやら、味方の馬鹿さに泣くべきなのか迷う。


「……それでは、逃げられる可能性が」


「それなら魔族側に通じる道に監視をつけましょう。もし出てきたら、村を襲うより確実性の高い戦いができ……」


「それは無理です」


 若い男の兵の言う事をテラーが否定した。

 自分を睨みつける男の目を気にせずに続けて言う。


「街から魔族領土へと通じる道は2つ。一つは裏にある山道。こちらは細い崖道なので馬車等は危険です。おそらく使わないでしょう」


「ならば、もう一つを見張ればいいだろう!」


「そのもう一つは街から魔族領土へと通じる隠し通路とされています。地下通路の類かと思いますが、その確証がとれていません。ただ、街から魔族領土に通じる隠し通路があるということだけが知ることができました。この情報を知るために、同胞が4人殺されました」


 息を吐くかのように口早に語るテラー。それに茫然とする他の2人。

 ならばどうする? いやすでに、その隠し通路が使われているのでは? こんな場所で話し合っている場合ではない?


「テ、テラー! それならすぐにでも動かなければならないでしょう!」


「では、どうします? 増援もなく、あの街を襲いますか? 我々だけで襲うのはできますが、高確率で敗北、あるいは全滅します。皆さまのお力を借りるにしても、ここは場所が悪すぎます」


 言われ2人は思い出す。

 この場所は人間領土でありながら、魔族領土と言ってもいい土地。

 そもそも人間領土というのは、託宣が聞こえる土地(、、、、、、、、、)の事。

 そして、魔族領土とは、ソレ(、、)がない土地。


 つまりここは、かつては託宣が聞こえた土地だが、現在は無い土地なのだ。

 異世界人である3人が、アグロの街にいなかったとしても、託宣が聞こえてこない土地なのである。


「お願いします。朝まで待ってください。せめて増援の有無を確認させてほしい」


 テラーが頼みこむかのように、疲れた声を出した。

 3人はそれぞれ目を合わせ、意思の確認をしようとするが、3人共が迷っている様子。

 テレサは、他の意見が無いようなので諦めた。


「わかりました。それでは、その増援を待ちましょう」


「……ありがとうございます」


 テラーは頭を下げつつ思う。

 増援が来るかどうかも分からないのに、テレサの中では来ることが決まっているようだ。果たして、自分の話をどこまで聞いているのか、分かったものではない。


「隊長。ならば増援がくる前に街を襲う作戦を考えませんか?」


「そうですね。こうしている間にも時間はたつのだし」


 いっそ、2人だけで話し合ってくれと言いたいテラーであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「これ、わりと美味いな」


 まさかのミソラーメンと餃子を堪能したあと、カプティーというものがテーブルに並んだ。

 なんでも、腹をすっきりさせるための飲み物らしく烏龍茶に近い気がする。

 俺の記憶が定かでないため自信がないけど。


「この茶葉もそうだが、さきほど食べたラーメンの麺も、この街の特産らしいぞ」


 フェルマンさんに言われピクリと頬を動かした。

 と言う事は、この街が襲われたら、もう食べられないのか? あ、それと、


「味噌の方は? あれもここの?」


「さぁ、どうだろうか?」


 気になり調理人である宿のオバチャンに聞いてみる。


「味噌の方はここじゃないよ。魔族領土にある《セグル》っていう街で作っていてね、もし足を運ぶ事があったら探してみるといいさ」


「なるほどありがとう」


 《セグル》か。記憶にしっかり入れておこう。味噌は大事だ、うん。


「ラーメンは美味しかったけど、こんなにゆっくりしていて良いの? いつ襲ってくるかわからないんじゃない?」


 俺同様、カプティーを堪能していたミリアが、フェルマンさんに言った。


「それならたぶん心配はいらないだろう。少なくとも俺達を襲ってきた連中だけでくるのであれば自殺行為だ。仮に人数を増やすにしても、おそらく明日、あさって以降になるだろうな」


 フェルマンさんが言い終わると、ズズッとカプティーをすすった。

 茶をすすり飲み、ホっと息をはくダークエルフというのは考えた事がなかったな。


「ミリア心配なのか?」


「そりゃそうよ。テラーには一度やられているし、油断なんかできないわ」


「そりゃそうだけどさ。そもそもここって託宣が働かない場所なんだろ? なら、安心じゃないのか?」


 先ほどフェルマンさんから仕入れたばかりの情報を口にしてみたが、ミリアには呆れ顔をされた。なぜに!


「ヒサオ、自分が異世界人なこと忘れてない?」


「なに言ってんだよ、それぐらい覚えているし、ミリアもだろ」


「そうよ。なら、分からない? 私達が行くところは全て託宣が働かない。それでも連中は追ってきているのよ。だとしたら、託宣が働くかどうかなんて関係ないじゃない」


 最後には大きく嘆息をついて、わざとらしい笑みをみせやがった。

 そりゃそうだよな! 俺が浅はかだったよ! マジすいません!


「その通りなのだが、それでもここなら安全だと思ってほしい。ここは魔族側の最前線といっても過言ではない場所なのだ。それだけの防衛準備はしてある」


「最前線? 人間側に魔族側が攻めている感じか?」


「……少し違うが、その認識でも構わん」


 うん? 違うのか? 微妙な顔されたぞ。


「この街を足掛かりにし、大森林に俺達が住むことになったのだしな……間違ってはいない」


 なんだろ?

 自分を納得させているような言い方だな。

 もっとハッキリしてほしいけど、説明が難しいのかな?


 まあ良い、ちょっとここまでの話をまとめてみるか。


 まず、人間側の領土に託宣が働かない場所が出来て、そこにあった土地を魔族で占拠し支配。

 そのまま近くの大森林にダークエルフ達が移住。


 これは魔族側が人間側を攻めてきているっていう構図になっているんだと思う。

 ラーグスとの会話があったせいか、逆かと思っていた。


 魔族すごくね?

 人間という立場で言えば思うところもあるが、この世界の人間達は好きになれないし、俺を助けてくれているのもフェルマンさん達なわけだから、そういった諸々の事は考えないようにしよう。


「仮にここが危険になったとしても、転移魔法陣をつかって魔都に戻れる。安心して大丈夫だ」


 フェルマンさんが言った瞬間、空気が固まった。


 俺は、へ~そりゃ便利だ、みたいな感じで聞いていたが、ミリアが険しい表情で固まっている。

 それにオッサンもだ。

 もっともオッサンの場合は、渋面な顔をしていることが多い。

 ちなみにコリンは、ニコニコとジグルドの隣でご機嫌でいる。


「ミリア?」


「え? あ、なに? 話ならちゃんと聞いているわよ」


 そんな事を聞きたいわけではないのだが、予想より動転しているのか?


「そう言う事じゃなくて、少し様子が変だったからさ」


 俺にしては珍しく気をつかい小声で聞いてみたが、当人はそんな俺に目を向ける様子もなく、意を決したかのように、


「すいません、フェルマンさん。今の話を、もうすこし詳しく教えてもらっていいですか?」


 と、彼女らしからぬ丁寧な口調で言い出した。

 聞いたフェルマンさんとゼグトさんが顔を見合わせる。

 ミリアの反応が気になったのだろうが、2人とも理由が分からない様子。


「今の話というのは転移魔法陣の事か? それとも別の事か?」


「魔法陣の事です。できれば作った人のこととか、どのような効果があるのか教えてもらえますか?」


「それは構わんが……」


 やはり気付いてる様子だ。ミリアが何かいつもと違う事に。


「妙に気にしているのは、どういう理由だ?」


 と、尋ねるフェルマンさんに、今度はオッサンが、


「不思議な事でもないじゃろ。ワシらは異世界人なんじゃ。転移魔法陣を理解し、もし応用できれば帰還魔法の可能性も出てくるのではないのか?」


 オッサンに言われ、2人以外が気付く。

 そしてミリアの目が俺に向かって『あんたも気付いていなかったのね。はぁ、まったく』と言っているように見えたが、気にしないことにした。

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