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第244話 狭間からの帰還

 コタの奴、かなり興奮していたな。あんな声いつ以来だろう? 

 その気持ちもわからなくはないけどな。


 とりあえず、コタの言った事を改めて考えてみる。


1.託宣の領域を素通りできる。

 素通り? になるのかどうか分からないが、元々は同一の存在だろうし、いけるかもしれないな。


2.未来世界に入っていける。

 アルフから聞いた話では、託宣というのは魔王様がいた世界の方から生まれたらしい。だから守田と衝突したわけだし、なら元勇者達と同様に内部に入っていき、切っ掛けを与える事は可能だと思う。


3.時間が消滅してもいい存在。

 消滅していいかどうかと聞かれたら、むしろ消し去りたいぐらいだ。

 切り離された一部を使うというのは、世界の中にいた経過時間を考えての事だろう。この狭間の世界にいた本体の場合だと、どういう扱いになるのか分からないしな。


 ……良い感じはする。

 だけど、本当にこれが通用するのかどうかは、俺達には分からない訳で……


「ムム……」


「ど、どうでしょうか?」


 思うだけで伝わるというのは、こういう時に便利だな。聞いたばかりの事が、そのままドーナさんに伝わっている様子だ。


「……可能性はある」


「!?」


 その一言を待っていました!


「慌てるな。可能性といった」


「それは分かっていますよ。たぶん、まだ問題があるんでしょ?」


「そうだ。当然のごとく、まず『彼女』の許可がいる」


「あぁ、まぁ……」


 本当に当然のことだな。

 チラっと横目で『彼女』の背を見ると、相変わらず俺達には無関心のようだ。


「まだあるぞ。だが、それは……」


 続けて言う前に、ドーナさんの目が俺と等しく『彼女』に向けられた。


「上手く説得ができてからにしよう。失敗すれば、それで終わりだと思え」


「え? 今じゃあ駄目なんですか?」


「説明は一度で済ませたい。君に説明し、また『彼女』に説明する時間はないようだ」


 そう言いながら、ドーナさんの顔が島のほうへと向けられた。

 何かあったのか? ……もしかしてエーラムが……


「今は考えるな。とにかく上手くやる事だけに集中するんだ」


 ドーナさんがコクリと一度頷いたあと、俺の肩へと手をのせた。


 ……やるしかないか。


 コタからもらったアドバイス。

 それを実現させるには、なんとしても『彼女』の協力が必要だろう。

 時間もないというのなら……


 よし! 覚悟を決めたぞ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――アルツ城の謁見の間において


 玉座に座っていた『彼』は『依り代』状態となっていた人間達の視界を通し、エーラムの状況を見ていた。


(魔王め。流石に限界だったか)


 光景をみていた『彼』の口角が緩みを見せる。


 自らの体を使い魔族の士気を高めていた魔王が倒れることによって状況が一変。

 ドルナードが言ったように、魔族は強者の存在があれば強さを増すが、逆もまた然り。魔王という強者が倒れたことによって彼等の士気は一気に落ちることになった。


(形勢逆転という所か。しかし、倒れた魔王を殺せなかったのは惜しい。あの場で倒せていれば勇者を作り出せたものを)


 倒れた魔王であったが、それを救いだす者がいた。影の一族全てがモンスター討伐にむかったわけではない。彼等とは別に、魔王の命に背き護衛を続けていた者がいる。


 それは影の姉妹である2人。

 以前、フェルマンが自己判断でアルツを優先した時のように、彼女達も自身の判断を優先し、結果、魔王の命だけは守られたという事になるだろう。


(思った以上に人間達がやられたが、それもこれで終わりだ。東から人間達が攻め込み、南にいる連中を挟みうちにすれば勝敗は決まる。後は、街中で戦っている竜王達を倒すのみ。逃がした魔王は……そうだな。私が直々に出向いて倒すというのも手か? 皇帝ではなく、この男を勇者にし、統治させるのも悪くはない)


 繋がっているはずの本体によって警告をされたというのに『彼』は不快な笑みを止めようとしなかった。

 それはジェイドのものでもなければ、感情の元となった守田でもない。

 『彼』自身が成長させた感情によるもの。


(我ながら良い考えだ。そうなると皇帝は、さらに邪魔になるな……魔族共々始末するのが良いか。よし!)


 意を決し玉座を立ち上がる。

 近くにいた衛兵達は何も言わない。すでに『依り代』状態へと戻ってしまっていたから。

 ヒサオ達が行った全てが無駄に終わりかと思えた時、席を立ちあがった『彼』が顔を曇らせた。


「……魔力が足りない? なぜだ?」


 エーラムへと転移し考えついた事を実行にしかけたが、何一つ反応が無い。

 普通の人間であれば当然のこと。

 精霊樹も無ければヒサオもいないのだから、魔力が無くて当然なのだが『彼』にとってみれば違う。

 狭間の世界にいる本体。ヒサオ達が接触している『彼女』から魔力を直接もらっていたのだから。


「至急、魔力を供給しろ!」


 部屋の天井を見上げて言う。そこには何もない。『彼』の目を通しても、そこには何もない。年代を経て若干汚れがついた天井が見えるだけ。それでも声を上げずにいられなかった。


「どういうことだ? なぜ反応を示さない?」


 顔の歪みが深まる。

 湧き上がった怒りが困惑へと変わり、さらに疑念という感情を『彼』は抱いた。


(感情のせいか? この程度の揺らぎで同調できなくなる? そんなハズは……)


 浮かび上がった考えを否定しようとしたが、他に思い当たる原因もなく、気持ちを落ち着かせてみる。人の真似をし深呼吸を行いつつ座りなおすと、


「……ウッ!!」

「ッ!」

「……頭が」

「あ、アレ?」


 周囲にいた衛兵たちが声を出し騒めきだした。

 誰も彼もが自身の頭を押さえ意識を安定させようとしている。

 その光景を目の当たりにした『彼』の瞳孔が大きく見開き、口を小さく開いたまま身を固めてしまう。


「なぜ!?」


 傀儡兵に戻したはずの衛兵達が勝手な行動を示しだす。

 度重なる異変に眉を大きく曲げた。

 魔力の有無に関係なく状態は維持される。だからこそ3国の人間達を支配できたのだ。

 なのに、それが勝手に解除されるという事は……


「どういうことだ! 答えろ!」


 可能なのは本体のみと知り、大声で叫びあげるが反応は皆無。

 苛立ちは収まらず手をあげ、傀儡兵の視点を映し出そうとするが、これまた反応なし。


 苛立っていた感情が焦りへと変わる。

 持っていて当然の力が、自分の手からこぼれ落ちていく幻すら見えた。

 全身から血の気がひき玉座に身をゆだね、ヒサオ達が消え去った扉前を見つめる。


「あぁぁぁ……」


 『彼』の口から嗚咽じみた声が出た。

 見てしまった事によって、いままで無かった感情を抱いた。


 それは恐怖という名の感情。

 扉前に渦を巻き現れた集団は、『彼』にとって恐怖が形を成し現れたように見えた事だろう。


 それは勿論……


「よし! 戻ってこれた!」


 消したはずのヒサオ達あった。

『彼女』にどういう話をしたのかは後日のせます。

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