第243話 コタ様乱心
遠藤 小太郎。
彼が手にしていたのは空のような青さをもつスマホだった。
そのスマホに、黒墨のようなクマが作られた目を向けているのは、届いたばかりのメールのせいである。
「……ハハハ」
ちょっと近づきがたい声と空気を出しているのもメールのせい。
久雄からのメール内容は、知ったばかりの出来事を書いているだけ。
どうしてラスボスのような存在と相対し会話をしているのか? その辺りが全く記載されていない。
そ・れ・な・の・に・だ!
『なんかいいヒントをくれ!』といった感じで問われているわけで、彼が持っているスマホがプルプルと震えているのも無理はなかった。スマホを床にたたきつけないだけ理性は残っているようだが、そろそろ限界突破をしそうである。
「ヒントが欲しいのは僕の方である気はするのだけど、それをヒサに言ったところでどうにもならないわけで、今からこれをブログにアップしても色々と愚痴やら文句やらケチやら言われて祭りが再開されるのも分かっているし、そんな事をしている時間も無い。それでも僕はこの理不尽な要求に今すぐに応えないといけない理由は、これを何とかしないとヒサだけではなく恵子も無事では済まなくなるというのが大きい。それは僕にとって将来設計が総崩れになるという最悪の事態になりかねない。という事は、落ち着いて考える必要があるわけだが、この頭の中でキンキンいっている音が非常に邪魔!」
……
……
誰もいない部屋でブツブツ独り言を口ずさむ小太郎少年。
両親が見たら不安を覚えて間違いがないだろう。
ちなみに、彼の父親は会社で働いているし、母親は階下において連続ドラマを見ている最中だ。
「……こんな事で精神崩壊している場合じゃないだろう」
かろうじて残っていた理性を総動員し正気を取り戻し、スマホをパソコン前においた。
すぐにでも久雄に通話し、文句を並べたい所であるが、その久雄が通話してこないところをみると制限時間を気にしているからだろう。まずはメールで情報を伝え、少し時間をおいたあと連絡をしてくるのかもしれない。それまでなんとか話をまとめないと……
(えーと。とりあえず元勇者達の帰還による救済手段は無理。領域とか書いてあったけど、霧のようなものかな? 目視できないのが残念だけど、それはしょうがない)
今にも通知メロディーがなりそうなスマホから体ごと目をそらし、腕を組みながら考えを進める。
(守田が戻されたという話の時点で怪しんでいたけど瞬間転移っていうより異空間、あるいは高位次元を使っての移動。と考えるべき。ヒサも落とされたとか言われたらしいし……)
考えながらパソコンを見た。
いますぐにでも指を動かしブログにアップしたいが、やっぱり荒れるだけで終わるだろうなと考え、気持ちを静める。
ちなみにそのブログで出た内容といえば、散々なものであった。
例えば、
『みんなで、別世界への移住!』
どうやる? 仮に転移でいけたとしても、そっちの世界と繋がってしまう可能性がある。
あるいは、
『神様を出そう!』
そんなのはいない。近しい感じのはいるけれど。精霊樹とか世界樹とか。
さらには、
『裏設定作ろう!』
いいねそれ! 君がつくっておくれ!
こうした意見は、後半になればなるほど増えていってしまい、小太郎と住民達の意識レベルの違いが顕著にでてしまっていた。
「連絡がこないうちに顔でも洗ってくるか」
久雄と話をする前に冷静になっておかないといけない。今の自分では時間を無駄にするばかりと椅子から立ち上がりスマホを手にしたが、
「……ヒサにしては遅いな。向こうでは1時間は経過しているはずだけど」
呟き、小太郎の動きが止まった。
(そういえば狭間の世界とかいう場所にいるんだっけ。そこも時間の流れが違うのか?)
だとしたら、もう少しだけ考える時間が……と期待したが、小太郎が気に入っているメロディーがスマホから鳴り響く。
「……」
無言でスマホを見つめ相手の名をみると、予想どおり久雄だった。
深い溜息をついたあと、スマホを耳にあて小太郎は言う。
「おかけになった電話番号をお確かめの上……」
『男の声でいうな!』
「……」
問題はそこなのか? と小太郎の顔が歪んだ。
「……で、なに?」
『わかってんだろ! どうしたらいいのか、教えてくれ!』
「さっぱり分からない」
『……マジ?』
「本気。だいたい、新しい手段を思いついても試す事ができないし、そうなると教えてもらった方法を一部変更するしかない」
『変更?』
「うん。未来世界に時間を与えるには、何らかの媒体が必要。その媒体が世界であったり元勇者達だったりするんだと思う。だから、その媒体を変えてみるってことさ」
『……つまり別手段は思いつかなった?』
「そう言う事。悪いね」
『いや、そっちじゃあ時間もなかっただろうしな……あぁ、クソ……結局それしか方法がないのかよ』
「おそらくはね。しかも一定条件の媒体が必要なわけだし、お手上げだよ」
『……ちなみに、その媒体については考えたか?』
「まるで思い浮かばない。託宣の領域を素通りできて、未来世界の中に入っていける。なおかつ存在が消滅してもいいような都合がいい相手なんて……」
『……いないな』
「……」
スマホから久雄の諦めたような声が聞こえてくる。
小太郎はといえば、ボーとしたような視線を浮かべパソコンを見つめた。
『悪い。ホント無茶言った』
小太郎が何も言わない事から、機嫌を悪くしていると判断したようだ。聞こえてきた声からは素直さが感じられた。しかし、謝罪された小太郎の耳には、その声が届いていない。
媒体……裏設定……
……これも、裏設定になるのか?
どういう扱いになるか分からないが、一つだけ思いついた。
それは、元勇者達でも世界そのものでもない。
ましてや、実体をもち狭間にいる久雄の事でも当然違う(脳裏をかすめたのは内緒だ)。
彼が思いついたのは……
「ヒサ! いま、その場には託宣がいるんだよね!」
『え? 託宣を発している奴なら……「そこはどうでもいい! いるんだろ!」……なんだよ? ああ、まぁいるよ』
「なら確認できるはずだ! これからいう事をよく聞いて、それを尋ねてみて……いや、直接聞くのも危険かな? その辺りは上手くやってくれ」
『? ……もしかして、何か思いついたのか?』
「そう言う事! だけど、言った通り危ない橋を渡りそうだから慎重に尋ねるんだよ」
『託宣にか?』
「当然だろ。確認できる相手が他にいないだろうし」
こればっかりはな~と思ったとき、スマホから、
『……あぁ、いや、世界樹も……「それだぁあああ―――――――!!!」……お、おぅ?』
即座に反応する小太郎に、久雄は驚いた。
その小太郎といえば、徹夜続きという状態も手伝ったのか、床下をドンドンと足で叩き始めている。
「いいぞ、いける! これでいける! よし! よし!」
『あ、あのコタさん? とりあえず、その思いついた事を教えてもらえれば……』
もしかすると、今の久雄には『逆らうな危険』という言葉でも聞こえたのかもしれない。爆発物を扱うような声を出している。
「託宣だよ! 託宣! 媒体に託宣をつかうのさ!」
『………はい?』
小太郎が考えついた事。
それを久雄が理解しきるまで、わずかな説明を必要とした。
小太郎が思いついた事。それは……
『守田によって切り離された託宣の一部を媒体にし、未来世界へ時間を送り込めないか?』
と、いうもの。
狭間の世界にいる託宣は分からないが、世界の中へといる一部の方であれば存在していた分の時間があるはずだ。その時間を使う事で世界の再起動は可能ではないか? という発想だった。
ちなみに小太郎は、この後、下にいた母親によって怒られることになった。
体調不良という事で学校を休んでいるのだが、元気に大声をだし、あまつさえ床を蹴りまくったのだから……




