第242話 接触
夜空の元、ドーナさんに道案内され遠くに見えていた島へと近づく。
近づくにつれ、灯台の光だけではなく港町のようなものまで見えてきたけど本物か?
「あれは君達がいた世界ではあるが、現実の姿をみせているわけではない」
「じゃあ、なんです?」
「世界を形づくる要素。それが形として見えているに過ぎない。もし、あの世界に私達が直接的に手をだせば、街の風景が瓦解するだろう」
「託宣はいいんですか?」
「アレは情報を流しているようなものだ。どう捉えるかは人間達しだいなのだが……」
言っている最中にドーナさんの足が止まった。ついたのか?
「ここ最近はやりすぎだ。いくら危険な状態だったからといっても記録への干渉やら、直接支配など許されることではない」
「……」
若干怒っていらっしゃる? 聞こえてきた声が苛立っているように思えた。
「当然だ。私のミリアにまで手をだしたのだ。やれるものなら、今すぐ『彼女』を消滅させたい」
「あ、はい」
『私の』ですかそうですか。ええ、何も言いませんとも、分かっていますから。
「心の声が聞こえてくるわけだが?」
「口では言っていないので、聞き流してください」
「そんな調子で大丈夫か?」
「問題ありません。だいたいこんな感じなので」
「……まったく、なぜこんな男に……チッ」
……気のせいか、舌打ちが聞こえてきたような。
ルインさんの姿でそんな事をするのはやめてくれよ。あの人は、優しい兄のような感じなんだしさ。
「君を義弟と認めた覚えはない!」
「何の話ですか!? それより、先を急ぎましょうよ」
「……そうだった。私としたことが…君と話をしていると、自分が崩れそうだ」
「俺のせいにされた!」
そこは否定させてもらいたいが、これ以上時間をかけるわけにもいかない。
歩きだしたドーナさんの邪魔をしないように、心の中でのみ否定しておこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『彼女』
そうドーナさんが呼ぶ存在が、俺の目にも見えてくる。
夜空の下で長い白髪で身を隠す女性"らしき"姿。
らしきというのは、ここからでは華奢な男と言われても信じそうな感じだからだ。
顔は見えないな。島の方を向いているせいで、背を覆い隠す白髪しか見えない。
「これ以上近づくと私達のことも知られるが、心の準備はいいか?」
「という事はまだ知られていない?」
「あぁ。この辺りはまだ大丈夫だ」
「……分かりました。話ができるのなら、それでいいです」
そうするしかないし、ここまで来てやめるという選択肢はありえない。
一度心を静めた後ドーナさんに頷いて見せ、一緒に動き出す
数歩進むと、
【何用】
突然思念のようなものが俺にも聞こえてきて、静めたばかりの心が騒めいた。
「君と、話をしたいという男を連れてきた。構わないか?」
【否】
即座に拒否された! 理由もきかないのかよ!
「彼の望みは双方の望みを叶える事にあるらしい。それでも聞く気にはならんのか?」
【個体名:日永久雄 所有する能力による救済は不可能】
「話あう余地はない。という事か?」
【肯定】
俺の事を知っている?
それも当たり前か。色々わかっちゃいるんだろうな。
「それは少し違う」
「え?」
「彼女が言っているのは、君のスキルに関するものだ。君自身を本当に理解しているわけではない」
「……俺自身? ……ああ、そういう事ですか。俺の能力だけを考えて、話し合う余地はないと言っているんですね?」
「そう言う事だ。だが、君は、最初からそれをアテにしていたわけではないだろ?」
「もちろんです」
唐突に聞こえてきた思念のせいか、ドーナさんの説明を聞くまで理解しづらかった。まぁ、彼女の言い方にも問題が……あっ!?
「も、もしかして、彼女にも俺の心は聞こえています?」
「それは無い。君の考えが私に聞こえているのは、記憶を覗かれたからだ。これも一時的なものと思ってくれて良い」
聞いた俺は胸を撫で下ろした。これから話をしようとする相手に、卑下するようなことは伝えられないからな。
「まるで、私に対しては良いように聞こえるが?」
「考えすぎですよ。それより、彼女ですけど……」
全く微動だにせず、こちらに興味が無い様子だが、一つ気になっていることがある。
彼女を覆い隠している長い白髪だけど、全身全てを隠しきれているわけじゃない。ほんの少しだけど、雪のように白い素肌が見えるわけで……
「大丈夫だ。ほとんど見えんだろう」
「いや、そういう問題じゃないですから!」
予想どおりかよ! なんで、何も着ないの! そういうのやりづらいんだよ!
「そんな事で狼狽えてどうする。後でミリアに伝えるぞ」
「気を引き締めて頑張ります」
「……君には呆れるばかりだ」
勝手にしてください。ミリアが知ったら何を言われるか分かったもんじゃない。
本当に気を引き締めて頑張るか……とはいっても、完全に無視されているな。ちょっとは気になってもいいと思うんだが、彼女にとってみれば、俺は小虫のようなものか?
……それなら小虫なりに頑張るしかないな。
「突然訪れてすいません」
軽く挨拶してみたが反応なし。ドーナさんには返事をしたのにな~
いや、こんな程度で肩を落としている場合じゃないな。
「俺は、貴方が託宣を発して歴史を操ろうとしていると聞いています。それは、繋がりの先にある世界を救う為と思いますが、その為に多くの命が失われています。知っていますよね?」
【必要な工程と判断】
反応はあったが工程だって?……まるで作業だな。
いや、実質そうなのか?
……おいおい。冗談じゃないぞ。さすがに腹が立つ。
苛立ちに押されるように無意識に足を進めると、突然彼女の白髪がフワリと浮き上がり海が二つに割れた。
「なっ!?」
激しい地震によって大地がわれたかのように、海面に亀裂が走る。
俺の足元にまで到達しかけたその時、半透明の障壁が現れ衝突音が鳴り響いた。
【領域侵攻による敵対行為と判断】
「……領域? ……踏み込み過ぎってことか? そういう事は早く言ってくれ」
あぁ、びっくりした……熱くなった感情が一気に覚めた。
軽く後ろを向いて、防いでくれたであろうドーナさんに頭を軽く下げ、咳を一度する。
彼女の背をみると、チラチラと見える肌がやりづらいものを感じさせるが、気にしている場合じゃない。落ち着いて話をしよう。
「歴史改変は、時間が停止してしまった世界の救済処置の為ですか?」
【否。融合時における障害緩和が目的】
ん? 違う? ……あぁ。これは、コタが言っていた事か。
世界同士の融合時に発生するであろう問題を緩和するために『彼女』がいるわけだ。だけど、俺が聞きたい事は、ソコじゃないんだよな。
「聞き方を変えます。あなたは、時間が停止してしまった世界“だけ”が救われれば良いと考えていますか?」
【否。双方の世界救済が目的】
よし! と思わず、心の中で拳を握ってしまった。
融合という形ではあるけれど、双方の世界を存続させることが大前提にあるわけだ。歴史改変は、その為に必要な事ということで間違いがなさそうだな。
なら、別の手段を提示できれば、手を引かせる事も可能か……
「他の手段を考えなかったんですか?」
【考慮された】
「その結果が世界の融合? ですか?」
【肯定】
……おかしいな??
アルフが言っていた元勇者の帰還による救済は考えていないのか?
俺だってやりたくはないが、命を考えない『彼女』ならば平気でやりかねないと思う。それに問題だった一つである、世界へ戻されるという現象は『彼女』が協力すればクリアされるだろうし。
……いや、本当にそうか?
もし、彼女が知らないのであれば教えてしまう事になりそうだけど、確認しておく必要がありそうだ。
「話を変えますが、あなたは守田 明という人物を知っていますよね?」
【個体名:守田 明 記録を確認。再生可能】
「い、いや、再生しなくていいです。俺が聞きたいのは、守田が戻されたように他の人間が繋がった世界へと帰還しようとすれば、貴方と衝突してしまうのか? という事です」
【可能性は大】
「それを貴方の意思で回避することは?」
【不可能】
「……なるほど」
だんだんわかってきた。
彼女の意思で衝突を回避することはできないから、元勇者達による帰還での救済は可能性が低いという事だろうな。低いなりにもやってみようと思わないという事は、失敗する確率が高すぎるから?
……うん? でもそれって、逆にいえば成功確率はあるってことだよな?
と、言うか何故衝突する?
目にしている『彼女』を見れば、ぶつかるような相手じゃない。それでも衝突するという事は、俺が知っている物理法則が、この世界では当てはまらないという事だろうか?
この辺りから知る必要があるのか?
時間はないが確認を……
再度尋ねようとしたが、
「待て。それなら、私が教えられる」
「あっ! お願いします!」
ドーナさんが待ったをかけてくれて助かった。
『彼女』との会話は疲れる。毎回頭に思念が飛んでくるのは結構きついんだよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女に一言声をかけ2人そろって離れた。
無視されたが、必要な事に対しては応えてくれるようだし今はいいか。
「で、どういう事です?」
「分かっている。順を追って言うが、まず目に見えている『彼女』の姿だけに惑わされるな。君が近づこうとしたとき攻撃されただろ? あれは、普通であれば『彼女』自身に侵入するようなものだったからだ」
「侵入?」
「そうだ。我々はそれぞれが領域と言うものを持っている。通常であれば制御できるかのだが、『彼女』は発生理由から我々と異なるせいで、その領域に侵入してきたものを異物として扱ってしまうのだ。その結果が、君も知っている出来事になる」
「……それは守田のことですか?」
「そうだ。君も危うかったのだぞ。他の連中と異なりすぎて、私も対応を誤ってしまった。気付くのが遅ければ、今頃君は私の中にとりこまれていただろう」
「ファ!?」
世界融合の前に、俺が融合するところだったのか! 冗談じゃないぞ!
「話を脱線させてしまったか。戻すぞ。『彼女』がもつ領域は繋がった世界に向け、かなり広がっていると考えろ」
「……それを回避するか、あるいは接触しても大丈夫にする方法とかは?」
「無い。理由は先にも言った通りだ。本来君達がこの世界にくると粒子化される。その状態では力負けするだろう。君のように実体化できるのであれば、まだ希望はあるが、元勇者達にそんな力はないはずだ」
解決策を聞いたのに完全に駄目だしされてしまった。心が折れちゃうぞ。
「あぁ……すまん。そう肩を落とすな。君という例外がある以上、なんらかの手段はあるかもしれないのだ。ここまで彼女の意識を惹けたのだから、もう少し頑張ってみるといい」
「へ? まるでどうでもいいような感じでしたけど?」
「尋ねた事に返事をもらっている。それだけでも異例だ。おそらく、君が実体化できていることが原因だろう。そんな力の記録はないからな」
多少興奮気味で言ってくれているけど、結局のところ解決になっていないよな。
そもそも、元勇者達を危険な目に合わせたくないし、この方法は元から使用できない。かといって、他の解決策は俺にもないし『彼女』にもない。
やっぱり、別の手段を考える必要があるか。
かといってヒントも何もないんじゃ……
……ヒント?
そういえば……
「どうした。何か思いついたか?」
「確か、ここでも通話が可能なんですよね?」
俺が思いついたのは、当然コタの事だ。
ここでも通話が可能であれば、あいつに尋ねることもできる。
前に教えた2つの救済方法は駄目だとしても、別のことを考えていないかな?
何の連絡も無いという事は、解決策が見いだせていないという事だろうけど……
「なるほど。ヒントぐらいは? と思ったか」
「そう言う事です」




