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第241話 狭間の世界で

「やってしまったな」


「え?」


 突然背後に現れ声をかけてきたルインさんが、意味不明な事を言い出した。


「これで、私の名はルインとして定着してしまった。言うのが遅れたが、私は世界樹。世界樹ルイン=エイド=ドーナという事になるだろう」


「……?」


 何それ?

 なんでルインさんが世界樹?

 いや、逆?


「以前使っていた名も失われて久しいし、私としても都合がいいか? おめでとう、名付け親くん」


「……誰が?」


「君が」


「……なんで?」


「君は馬鹿か?」


「いきなり罵倒された!」


 何だこのルインさんは! 口が悪いぞ! チェンジだチェンジ! まともなルインさんカムバック!


「あぁ。また、言い忘れていた。君の心の声は聞こえてくるから、変な事を思わない方がいい。でないとミリアの頼みを無視し放り出す」


「すいません。よくわかりませんが、すいません。だから見捨てないでください。お願いします」


「……」


 必死に頭を下げたら許してもらえた。呆れられたともいうが。

 フゥーといった溜息をつかれた後、彼の視線が村の風景へと向けられた。


「まったく、こんな場面を見られるとは思いもしなかった。まさか、私の記憶とも繋がるとは……」


「記憶?」


「そうだ。これは私の記憶。君も知っているミリアやルインに関する出来事しか見ることはできないようだが、それでも世界樹の記憶まで覗き見るとはな」


 それが凄いことのように言うが、実感がまったくない。俺にしてみれば、噂話をしていたエルフ達を見せられた分、損をした気分だ。


「私の記憶を勝手に覗いておいていう事か?」


「好きで見ているわけじゃないです。なぜこんな事に?」


「まぁ……とりあえずここから出よう。私も、ミリアの噂話を聞かされるのは好きではない」


「一緒ですね。では、お願いします」


 現金なものだ。同じような感情を持っていると分かった時点で素直になってしまう。

 ルインさん……いや、紛らわしいな。名前で呼ぶから駄目なのだろう。ドーナさんと呼ぶことにしよう。


「せっかくの名前が……使われる事もなく忘れられていくんじゃないだろうな?」


 また心が読まれた。

 ドーナさんが、落胆したかのように肩を落とし歩きだす。

 すると風景が後ろに向かって走り消えていった。目で追えなくなると景色が線になり色が混ざりだしていく。


 残ったのは白と黒。

 2つの色がグニャリと曲がり渦を巻くと、頭の中でキンという耳鳴りのような音が聞こえ頭痛を覚えた。


「少しきついか? 君なら耐えられると思うが……」


「これぐらいなら大丈夫です」


 初めて接続スキルが発動した時と比べれば、痒みを覚えたようなものだからな。


「痒みか――もうそこまで耐えられるようになったのか」


 ? 妙な言い方をするな。どういうことだろう?


「今は気にするな。それより出るぞ」


「ん?」


 何が? と思う間もなく、目に悪そうな光景がハッキリとした風景へと変わっていく。


 足下には広大な海原が。

 空には、暗闇と星々の煌めきが。

 遠くには小さな島のようなものが見え一つの光を灯している。あれは、灯台だろうか?

 俺がいるここは海面上という事になるんだろうけど、なんで立っていられる?


「これもあなたの記憶ですか?」


「違う。ここは君達がいう世界の外というやつだ。私達は狭間の世界と呼んでいるがね」


「外? これが?」


 思っていたのと違う感じだ。そもそもイメージがしづらいものだし、あまり考えた事が無かったけれど。


「おそらく、ここで実体を維持することができる人間というのは君だけだろう。なぜ、そうなってしまったのかは、色々な偶然が重なったというしかないがね」


 ……

 ……


 また、嫌な予感がしてきた。

 全く望んでいないのに、どうしてこう妙な事が続くんだ? 元の世界にいた時は、ごく普通に生活していたのにさ。


「普通の生活か……望めば、それも可能ではあるだろう。だが、果たしてそうなるかな?」


「え? どういう意味です?」


「仮に帰還が果たせたとしても、君自身が鍛えあげた肉体や経験はそのままだ。その状態で戻ったとして以前のままの自分でいられるか?」


「……」


「これについては、少しは考えていたか?」


「……まぁ、それなりには」


 あの世界に落ちたときから、俺は鍛えられまくっている。

 当初こそ吐いて倒れた事もあるが、今ではそれなりに戦えるようになっている。

 体力、技量、精神面。その全てが、この世界に来る前とは雲泥の差だ。


 ミリア達に基礎体力を鍛えられ、別れた後はイルマやフェルマンさんが色々と教えてくれた。

 村づくりを続ける日々を送りながら、毎日モンスターを1人で討伐。

 商人相手の交渉等で覚えた駆け引き等々も考えれば……ウッ!


「ここで、吐くなよ?」


「大丈夫です。吐いても海だし」


「それを大丈夫と思う時点でおかしい」


 そ、そうなのか! いや、吐かないけどね!


「……なぜ、こんな話を私達はしているのだ?」


「はて?」


 そういえば、そうだった。なぜ吐いても大丈夫かどうかという問題を議論しているのだろう? 人って不思議だね。


「……君という奴は……いや、よそう。時間が無駄になる」


「まったくです」


 何故俺が同意するのかと微妙な顔をされてしまう。


 どうも俺は非現実的な光景を前にすると、横道に外れようとする癖がある。現実逃避のようなものだろう。うん。思ったより、精神面は鍛えられていないようだな。前言を一つ撤回しよう。


 なぜルインさんの姿をしているのだ? とか、あの場にいた皆は無事なのか? とか、どうしてこんな状況になっているんだ? ……と、まぁ、色々と聞きたい事はあるんだが、そういった諸々の事を棚の上において、カプティーの一杯でも飲みながら世間話をしたい気分だ。


「ルインの姿をしているのは、ミリアに対する気持ちが同調したせいだ。次に、ミリアを含め、あの場にいた全員は無事ではあるが今は話ができない。最後に、こういう状況になってしまった理由は、ジェイドの体を乗っ取った託宣の一部が、君達を消し去ろうとしたせい。かろうじて守る事はできたが、今度もまた守れるとは限らない」


「……あ、はい。ありがとうございます」


 世間話なんかさせねぇよ。的な勢いで一気に教えてくれたな。


「で、皆と話ができないのは何故?」


「誰もが、君のように実体を保てるわけではない。今は私が保護している」


「……じゃあ、俺だけが実体を保てるのは何故? それも接続のせいですか?」


「それもあるが、それだけではない。通話交渉術のように、君が覚えたスキルが連結しあい、この場所であったとしても実体を保っている。先ほどの頭痛は、その為だ」


「……なる」


 ほど。と納得しかけたが、接続でえたスキル説明にはそんな事は一言も書いていなかったはずだ。どういうこと?


「通話と交渉術を連結できるような事も書かれていなかったはずだが? それと同じと考えればいい。そのような前例がないため、記録の海にも情報がないのだろう」


「あぁ、そういう事ですか」


 今度こそ納得できた。ということは、通話交渉術も俺が初めてやったってことか。


「そうそう。通話のことだが、君がもつ携帯電話が力を欲しているようだ。少しばかり協力させてもらう」


「……へ?」


 自分でも呆れるような返事をしてしまうと、ドーナさんが、


「難しく考える必要はない。この世界でも通話を可能にしたいだけのようだからな」


 軽い口調で言い終えると、人差し指を俺へと向けてくる。すると、ズボンのポケットから携帯がフワリと勝手にでてきて彼の手に収まってしまう。一瞬発光したかと思うと、すぐに消えた。


「終った。返すぞ」


「ん?」


 外見上変化はないな。見慣れた藍色のボディーのままだ。


 ……というか、今、ドーナさん何て言った?

 俺の聞き違いじゃなければ、携帯が力を欲しているとかなんとか……

 なに? 俺の携帯って意思みたいのがあるの?


「そう説明を欲する顔をするな。それについては無事に事が済んだ後、精霊樹達にでも聞け」


「え? ちょ、ちょっと待って! どういうこと!」


 ますます分からなくなった。精霊樹達は、まだ何か隠していたのか?


「さてな。それよりもこれからについて話そう。全員まとめて元の場所に戻すことはできるが、今度こそ消されかねない。よほど邪魔と判断されたのだろうが、まさか、体を乗り換えてまで消滅させようとするとは思わなかった」


 携帯の事も気になるが、彼の言う通りこれからの事も大事だな。


 ドーナさんの話から考えるに、あの場にいた全員が守られ無事でいると判断して良さそうだ。

 それは良かったけど、このまま戻ったとしても同じことの繰り返し。いや、もっとひどくなりかねない。馬鹿正直に正面から戦うべきじゃないか……


 一度エーラムに戻って作戦の立て直しを……あ、そういえば。


「エーラムが無事かどうかわかりますか?」


「無事……と言いたいところだが、そうでもない。精霊樹アルフは、竜王やダークエルフの長。それに皇帝達が奮闘し守っているが、長くはもちそうにないな」


「カリスさんやフェルマンさんが? それに皇帝……って、ドルナード? あいつも?」


「そのようだ。よっぽど、託宣の計画が気に入らないのだろう。精霊樹の側で、家に隠れていた住民達まで連れ出し戦わせている」


「……うん? それって、戦いに慣れていない人たちじゃ?」


「そうだ」


 アッサリと言われてしまったが、いいのかそれ?


「黙ってやられるよりは、とでも考えたのだろう。竜王や魔王では守ろうという意思が強すぎて、不慣れなものを戦わせようとしないが、彼の場合関係がないようだ。他人を戦場に引き釣りだすのは得意なのだろう」


 あぁ……まぁ、あいつの記録だと、亜人達と手を結んだあと魔王討伐を果たしたらしいからな。そういうの普通にやりそうだ。被害が増えなければいいけど……


「ドーナさんの方で、託宣を何とかできるという事は?」


「無理だ。私の力は守護に特化している。『彼女』を力づくでどうこうできるものでもない。かといって手を引かせる話もできなかったが……」


「……彼女?」


「ジェイドの体を操っている方ではないぞ?」


「違う? ……じゃあ、本体のほう?」


「そうだ」


「……」


 という事は、ドーナさんは本体の方と接触が可能?

 話もできなかったという事は、逆に考えれば話はできるという事だよな。

 それにアルフの話から考えれば、託宣の本体がいるのは世界の外と言うし……ここにいるのか?

 接触できて話も可能……俺1人だったら聞く耳を持たないかもしれないけど、ドーナさんがいれば何とか……


「考えていることは分かるが何を話す? 彼女が行っているのは、自分の存在理由を果たすことだけ。それを否定するという事は、彼女の存在そのものを否定するようなものだ。口で誤魔化せるような相手ではない」


 誤魔化す?

 それはないな。

 ドルナードとの交渉で学んだけど、俺はそういうのが上手くないようだ。すぐにボロがでると思う。


「では、どうするというのだ?」


「まずは会ってみたいです。何をしたいのか? それを当人の口から確認したい」


「目的確認? それなら、既に分かっているのでは?」


「色々聞いていますが、それが正しいかどうか分かるのは本人だけですよね。何を話すにしても、まずは相手の望みを正確に知る必要があります」


「……心構えはいい。だが、彼女にスキルの類は通じないぞ」


「分かっています。そんなことは考えていません」


「本気のようだな。しかし、なら一体何をもって彼女の気を変えるつもりだ?」


「変える? ……うーん。それも違うかと」


 どう言えばいいのだろう?

 たぶん、俺が考えているのは、交渉とは違うと思う。

 純粋な話し合い? あるいは、歩み寄り? そんな感じだろう。


「つまり彼女の目的を叶へ、自分達の望みも叶える? そんな方法があると君はいうのか?」


「無いなら作るしかないです。その為には、話し合う必要がある。それだけです」


「あっさり言ってくれる。自分が何を言っているのか分かっているのか?」


「もちろんです。なので、ドーナさんの力を貸してください」


「……なるほど。君も皇帝と同じ類の人種のようだ。多少手段は異なるようだが」


 心外な。

 俺のどこがドルナードと同じだというのだ。こんな正直者を捕まえて何をおっしゃるやら。


「他人を巻き込み動かし自分の望みを叶えようとする。そういう所が同じだ。良い悪いに関係なく」


「……」


 よ、よし行こう! 時間がないんだから、さっさといって状況を良くしないといけないからな! ドーナさん何をしているんですか! 余計な雑談なんてしないで、早く行動しましょうよ! 善は急げというじゃないですか!


「……いつの間にか決定事項になっている。構わないがな」


 ブツブツと言いながらもドーナさんは歩き始めた。

 固形物のような感じがする海面を歩きながら、託宣を発しているであろう『彼女』に会いに行く。

 なんとかそれは出来そうだが……


 さてさて、どうなる事やら。

 願わくば、しっかりと会話が成立する相手であってくれよ……

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