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第238話 テラーの夢(挿絵あり)

今回はテラーによる独白じみたものです


 小さな頃、私は優しさに守られていた。


 強くて尊敬されるパパ。

 優しく料理上手のママ。


 誰もが私に優しくしてくれた。

 誰もがパパを凄いと言ってくれた。

 小さな時は、何が凄いのか良く分からなかったけど、段々と分かるようになった。


 どうやら私は獣人と呼ばれる種族らしく、その中でも特殊な一族の末裔らしい。

 パパもママも、銀狼種と呼ばれる狼の一族で、現在はほとんど生き残っていないという話だ。

 だから凄い?

 最初は、そう思っていたけど、それだけじゃなかった。


 パパは、人間達の間でも有名らしく、その恩恵のようなものがあった。

 詳しくは覚えていないけど、私の近くに多くの獣人達がいてくれたのはパパの活躍のおかげだってママは言っていた。


 パパが活躍したのは戦場だった。

 戦っている相手は魔族。

 魔族は、どうしてなのか人間領土に居場所を作ろうとするらしい。

 それは許されないことだ。

 だから、私達獣人も人間達と一緒に戦っている。

 そう聞かされていたし、それは良い事だと思っていた。


 パパが戦場に行っている時は寂しい。

 だけど、それは他の皆だって一緒。

 仲間の多くは、家族の誰かを失っているのが普通。

 私は両親がいるだけでも幸運だったんだと思う。

 

 パパが家を留守にしようとすると、決まって私を抱きしめてくれた。

 パパの体は綺麗な銀毛で覆われている。私はパパの体に包まれるのが大好きだった。

 もちろんママも一緒。

 優しく抱かれる感触は凄く安らげて気持ちが良かった。


 だけど、どうしてなのか私の毛色だけは違う。

 2人の娘のはずなのに、私だけ違うのはどうしてだろう?

 ママが言うには、たまにそういう人もいるらしいけど……私も同じ方が良かったな。


 私にはイルマとエイブンという友人がいる。

 この2人とは、小さな頃からよく一緒に遊んでいた。

 近くの小川で魚を素手で捕まえようとしたり、山に入ってはモンスターに襲われたり、大人達に悪戯をしたり……今思えば、恥ずかしい事もよくしたと思う。


 この頃は幸せだった。

 人間というものを良く知らず、私達獣人がどういう扱いをされているのかも知らなかった。

 私は知らないという事で、幸せな日々を送ることができていた。


 成長すると、パパは私に戦う術を教え始め、ママが獣人の歴史について教えてくれるようになった。

 パパと剣を交えるのは楽しかったし、ママから色々教えてもらえるのも面白かった。


 そのママに教えてもらった獣人の歴史の中で不思議な事があった。

 反乱ってなに?

 どうして人間と争うの? 

 私達獣人は魔族と戦う為に人間達と仲良くしているんじゃなかったの?

 それが不思議でならなかった。


 この疑問にママは応えてくれなかった。

 聞いた時のママは辛そうに見えたので、あまり聞かないようにした。

 ……知りたくはあったけど。


 この頃になると、エイブンが私の事をテラー様と呼ぶようになった。

 最初はなんの冗談だろう? と思った。

 彼とイルマは、私にとって大事な友達だ。

 それなのに、どうして私が様?

 私は何も変わっていないはず。前のまま呼び捨てでいいのに……


 次第に仲間が減り始めた。

 何でも、大きな戦いがあるらしい。

 パパが、いつも以上に張りつめた顔をし出ていった。

 ママは、凄く不安そうだった。


 その不安が当たった事を知ったのは、パパが帰ってきた時だ。

 命は無事だった。

 だけど、パパは深い傷を負っていて、2度と戦場に立つことができなくなったらしい。


 パパが戦場に出なくなり私は喜んだ。

 家にいてくれる。それだけで嬉しかった。

 だけど、どう言う訳なのか、私にはそれまで聞こえてこなかった声が聞こえるようになった。

 それは、私がパパとママの実の娘ではないのでは? という声……


 これについてエイブンに聞いてみた。

 どうしてそんな事を言い出す人がいるの? と。

 いつものエイブンなら私の疑問に、自分なりの答えで返してくれていたのに、これだけは教えてくれなった。


 イルマならどうなんだろう? と、彼を探した。

 イルマはすでに戦場に出ているらしく、あまり遊べる事はなくなったけど、近くに居てくれる事だけは知っていた。隠れているようだけど、私の鼻を甘くみすぎ。

 彼ならきっと教えてくれるだろうと思っていたけど、その彼もまた、私の問いには答えてくれなかった。……どうしてなの?


 それを知ったのは……パパが死んでしまった後だった。


 ……

 ……


 私は父を亡くしたことで、現実を知った。

 私達が人間達にどう思われているのかを知った。

 守ってくれていた父がいなくなり、私には現実が突きつけられた。


 皆の視線が怖い。

 凄かった父の娘ではない。そう皆が言っているように見えた。

 私の耳に聞こえてきたのは最近なのかもしれないけど、ずっと前から思われていた。そんな現実を知ると、余計に皆の視線が怖くなった。


 父が死ぬと、母が戦場に出向いた。

 私達獣人は、戦場にでるのが普通。

 母が家にいてくれたのは、父が凄く強かったからに過ぎない。

 その父が死んだことで、母もまた戦場へとでるようになり……

 ある日、私は1人になってしまった。


 父のおかげでまとまっていた私達もバラバラにされた。

 元々それが普通だった。

 私が子供の頃に過ごした状況は、獣人としては異常だったのだろう。

 だけど、私にとってはそれが普通だったし、その時の事を大事に思っている。


 私は取り返したいと思った。

 私が子供の頃に過ごした日常を。


 私は証明したいと思った。

 私が両親の娘であるという事を。


 だから、私は人間達の配下となり、子供の頃の記憶にある日常と、両親の実の娘であるという証明を取り戻そうとした。


 父のように活躍し、父のように皆を守ろうとした。


 沢山の戦場を経験し、精霊騎士にもなった。

 文官長のラーグス直属の部下にまで上り詰めた。

 だけど、私はガーク海岸の監視に回された。

 最初に聞いた時、おかしい話だと思った。

 いつやってくるのか分からない異世界人に備える為、精霊騎士である私を配属するなど、何かの間違いではないのか? と。


 でも、人間には託宣がある。

 その託宣で、私の行動が決められたのであれば従うしかなかったし、報酬も望ましいものだった。

 疑問も不満も忘れ、私は命令に従った。


 結果、異世界人達がやってきた現場に遭遇することができた。

 彼等を裏切り捕らえることが出来た時、これで私は望みが叶うと思った。 


 だけど違う。

 私がヒサオ達を裏切ったように、私もまた、裏切られていた。

 精霊騎士になった事も、人間達の信頼を得ようとした事も、全て無駄な努力だったと知った時、私は文字通り何も見えなくなった。


 私の側には常にエイブンがいてくれた。

 彼は私のすることにいつも協力してくれた。


 イルマも遠くから見てくれていると思っていた。

 彼が結婚したことをエイブンから知らされた時は驚いたけど、きっと彼なりに子供の頃のことを大事に思っていてくれて、その為に動いているのだと考えていた。


 事実その通りだった。

 イルマは自分の家族を大事に思い、自分が知った現実を子供たちに味合わせたくないと動いている。


 私とは違う。

 私とは大きく違う。

 私は取り戻したいと思っただけ。

 獣人の領地をもらい、そこで昔のように過ごそうと思っただけ。

 皆と一緒に過ごせれば、それだけで良かった。


 私の考えはそこまでしかなかったけど、イルマは違った。

 彼は、自分ではなく、次の世代の事を考えている。

 だから、みんなが一緒に動いていると思う。かくいう私も同じなのだろう。

 人間からもらうのではなく、自分達で作る。そんな発想は私にはなかった。


 父と母が私にしてくれたこと。

 その夢の中に私は戻ろうとし、イルマは、自分の子供たちに与えようとした。

 この違いは大きい。今の私は、この事を知っている。


 彼と一緒に行動するようになってから、自分の甘さが良く分かるようになった。

 確かにイルマは馬鹿だけど、私はもっと大馬鹿だったと思う。


 私がヒサオに謝罪しなかったのは、自分の罪を許してもらいたくなかったからだ。

 私は甘い。

 その事を知った時、自分に対する戒めとして、ヒサオに謝罪しなかった。


 だけど……それすら甘い考えだったと、今なら思える。


 彼の方から喧嘩を仕掛けてこなければ、今の私はいなかっただろう。

 ヒサオ達と本当の意味で仲間にならなければ、私の願いは永遠に叶わなかったのかもしれない。


 多くの人々と関係し、力を合わせ戦う事。

 その結果が、今の私。

 

 この結果を残そう。

 この結果を刻み込もう。


 心と体が、そう望んでいるのだから。


挿絵(By みてみん)

テラー=ウィスパー 黛クロナ様作

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