第235話 参戦
南と東の門が同時に破壊され戦闘が始まった。
東門から雪崩こんできた騎馬部隊を、魔族の混成部隊が迎え撃つ。
竜人達は言うに及ばず、オーガやオークといった近接慣れしている種族たちが壁となり立ちふさがり、後衛にいる空をとぶ翼人たちが、それぞれが得意とする攻撃を放った。
「出過ぎるなよ! 侵入してきた連中だけを相手にしろ!」
アスドールの命に耳を傾けながら、それぞれが動く。
一糸乱れないとまではいかないが、経験不足のわりには、なかなかどうして大したものだった。
「ドル。俺達はいいのか?」
「今はいい。このまま様子をみる」
「……分かったよ。どうも体が疼いてしょがねぇけどな」
「止めてくださいよ。ここは魔族の本拠地なんですからね。いつ背中からやられてもおかしくない事を忘れないでください」
目前で行われている戦闘行為に対し、血の滾りを覚えるブロード。
それを止めようとするトーマであるが、2人の主たるドルナードは黙し空の様子を見ていた。
それは飛行船ではない。
2隻目がエーラム上空から離れたのを見た時から、ドルナードの関心は別にうつっていた。
(……どういうことだ?)
疑問が内から膨らむ。
抱いたばかりの事を確かめるかのように、戦闘が行われている光景へと目線を変えた。
(これでは話が違う)
今この場で得られる情報だけでは足りないものがある。
それを危惧した彼は、乾きだした口を動かし始めた。
「ブロード。お前は俺の側を離れるな」
「お、おぅ?」
釘でも刺されたのだろうか? とブロードが怪訝な顔をみせる。
「トーマ。お前は南門に向かい、状況を見てこい」
「え? 離れていいんですか?」
「2度も言わせるな。早くいけ」
「は、はい!」
命令されては仕方がないと、トーマが足早に立ち去った。
「……おい。また妙なこと考えてないだろうな? 一応、今は魔族が味方なんだぜ?」
「分かっている。この機会に魔族の戦力確認をしておきたいが、それよりも気になる事がある」
「気になる? なんだ、そりゃ?」
目前で行われている血潮が飛び散る光景をみながら、彼は自分の眼鏡をクイッと上げた。
「モンスター達が、まったく見当たらん」
「……そういうことかよ」
ドルナードが危惧していることを知り、ブロードが唾を飲み込んでしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
南ではオルトナスの指揮の下、魔法と精霊使い達による攻撃が始まり、門前に集まってきた人間達が一斉に葬られる。その光景が見られた直後、デュランが声高に叫ぶ。
「よし、第1から第3陣まで出ろ!」
「ぬぉおおおおおおおおお!」
エルフやダークエルフに混ざり、1人異彩を放つ全身鎧姿の男がいるが、彼の事を知っている者達は多いので苦笑いをするばかりの様子。
「オルトナス!」
「わかっておる! 魔法はやめい! 精霊使いのみが攻撃を続行せよ!」
南門から出ていく騎士隊に魔法をあてるわけにはいかない。
魔法を放つならば、壁の上か、あるいは騎士隊が空けた場所に出ていくしかないのだ。
しかし、精霊ともなれば話が異なる。
彼等は意思ある存在。
術者の意思さえしっかりと伝われば、敵味方の区別はつく。
「変化を運び、先をいくもの。汝が名は《風の精霊》! 我が願いを具現せよ!」
(シーちゃんお願い! 皆を守る力を貸して!)
「与え守るもの、汝が名は《土の精霊》! 我が願いを具現せよ!
(ノムたん! 人間達をやっつけてくれ!)
「焦がし蘇らせるもの、汝が名は《火の精霊》! 我が願いを具現せよ」
(熱いところ頼んます! イフリート先輩!)
………
リームによる教育のもと、心の中でそれぞれの呼び名を付けたようだ。
その効果があったのかどうか知らないが、一部の精霊達は張りきりだしている。もっともリームの親友である木の精霊とまではいかないようだが。
ところで、なぜ先輩なのだろうか?
独自的な関係を築き上げたようだが、効果はあったのかどうかは当人達しか分からない。
アスドールは敵を中に引き込み、少数に対し多数で戦う事を選んだが、一度瓦解すればリスクが大きい。デュランは逆に、精霊の援護攻撃と共に外で戦うことを選んだ。
これはこれで危険だ。
自分達を取り囲む敵兵の多さを見せつけられながらの戦い。
近接戦闘を生業としている騎士隊であったとしても敵の多さに心が折れそうになる。
それに、自分達の味方として現れた精霊達。
彼等の力は頼りになるのだが、その精霊達をまったく恐れず、自殺行為にも見える攻撃をくりだす人間を見てしまうと、自分達は一体何と戦っているのか分からなくなった。
「怯むな! 後衛が戦える場をつくれ! 弓兵隊も攻撃を開始しろ!」
街の中からデュランがでてきて叫ぶと、街をとりかこむ壁の上に隠れていた弓兵隊が姿をみせ、雨のように人間達の頭上へと矢を降り注ぐ。撃てば誰かしらにあたるという状況なのだから狙う必要も無い。
地上における戦いは始まったばかりだが、魔族と人間。双方ともに多数の死者が出始める事となる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、撤収するよ!」
上空に浮かぶ飛行船内で魔王が命令を下す。
聞くのは影の一族ばかりであり、すでに船体に転がっている人間達の耳には永遠に聞こえないだろう。
魔王の影に沈み隠れていく影の一族達であったが、その中において1人だけが、地上の様子を気にしている。仲間たちが消えたことにすら気付かない様子で、眼下に目を細め向けていた。
「ニア?」
「……あッ!? は、ハイ!」
名前を呼ばれた事に気づき、慌てた様子で魔王の元へと駆け寄った。
「君らしくない。疲れたのかい?」
「いえ、そう言う訳ではないのですが……」
「うん?」
自分から視線をそらすニアを見て疑問を覚える。
何か異変でもあったんだろうか? と魔王も地上へと目を向けると、戦闘が行われ始めている事が分かった。
「結界が破られたか……流石に無理があったようだね」
予想していたとはいえ、いざその時を目の当たりにすると嫌なものを感じずにはいられない。特にここは空の上なので地上の様子が一望できる。東と南の様子を見比べると、街に侵入されている東門のほうが気になった。
「グズグズしていられそうにないな。僕達もいくよ」
「ハッ!」
ニアが命じられままに影に隠れると、魔王は東門のほうに目を向け転移を行った。
地上へと戻り、戦っている仲間たちと合流しようと駆け寄ったとき、魔王の頭上で雷でも落ちたかのような音が轟く。
「……!?」
その目に、飛行船が炎上し城へと向かい墜落していく光景が映った。
城が破壊されるのはマズイ。
中には城への避難を選んだ者達もいるのだから。
「彼方にありし……」
条件反射的に空間転移の魔法を使おうとするが、今度は地上から飛行船に向かう一筋の赤光が放たれる。
「え?」
光が飛行船を貫き時を止めたかのような光景を見せたあと、空で爆発四散。
粉微塵となった破片には火がついていて、そのまま街の中へと降り注ぐが、今度は闇色の雲が出現。火の雨ともいえる光景が、現れた雲によって消し去られてしまう。
光が発せられた場所。
そこは、城に近い一つの宿だった。
仮設病棟のような状況になっていた宿には1人の老人。いや、老竜が体を休めていた。
「やれやれ、出てくるなりこれか。ワシが隠居できるのはいつになるのじゃ?」
カリスが白鬚を撫でながら首の骨を鳴らす。
宿をでるなり竜王顕現を行い一発の業炎を吐いたばかりだった。
そして……
「何を言っておられる。カリス老には、まだまだ教えてもらわねばならない事が多いですよ」
背後から声をかけたのは、フェルマンだった。
片翼を失った竜王カリス。
いまだ満足に走ることもできないダークエルフの長フェルマン。
2人は肩を並べ、青空を汚している存在を見ていた。
「さて……やれるか?」
「当然。同胞だけを戦わせ横になっていたのでは、親父に会わせる顔がありません」
2人が見ているもの。
それは、飛行船を炎上させた、空を飛ぶモンスター達だ。
かつてジグルドがコリンと共に倒した3つの首をもつ複合生物キマイラ。
悪魔とも見間違えそうな肌と姿をしたガーゴイル。
さらには、ライオンのような体に蝙蝠の翼をはやしたマンティコア。
ほとんど目撃例がない危険なモンスター達が群れをなし、エーラム上空に集まっていた。
託宣が望みしは、モンスターと魔族の戦い。
そこに人間達を混ぜたのは、魔族を弱らせ勝ち残ったモンスター達を駆逐するため。
これによって、人間という種族が歴史の伝承者となり、絶滅した魔族やモンスター達は空想上の産物として扱われることになるだろう。
真実というのは、歴史の勝者達によって語り継がれていくのだから……




