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第233話 突発的な開戦

「おい。聞いてるのかよ?」


「え? あ―…」


 やばい、聞いてなかった。イルマの奴、何を言ったんだろ?

 ここは、魔王様から魔法レッスンを受けかけた城の屋上。上を見上げれば、青空の中を泳ぐ白い雲が見える。昔は、アレをみて綿飴を連想したものだ。


「つまり、俺は甘いお菓子が食べたいのだ」


「よし、殴っていいな」


「却下する!」


 お前に殴られたら洒落じゃ済まないからやめてくださいお願いします。

 ここの所あれこれ考えすぎていて、糖分が足りていないのだろう。頭が甘いものを欲しがっているようだ。


「ったくよ。作戦決行は今晩なんだぜ? そんな調子で大丈夫か?」


「そうなんだけどな」


 前にアルフから聞いた話では、ここに人間達がやってくるまでもう少しかかる。だから、その前に、俺達の方から攻撃を仕掛けるつもりなんだけど、コタのやつ遅いな。できれば、戦う前に解決策を考えてもらいたかった……いや、流石に無茶だったか?


 戦いといえば、イルマの胸当てが新調されたんだよ。

 ここの所、オッサンが連日徹夜で頑張って色々なものを作っていて、その一つを無料で貰いやがった。色合いからしてオリハルコン製の物のようだけど、同じものをテラーやエイブン達も貰っている。俺が服の下につけているアダマンの鎖帷子だって大金払ったのに!


 だいたい、こいつの部下達は金払って武具を新調しているんだぜ。上司がそれでいいのかよ!

 ……いいんだろうな。互いに納得しているようだし……オッサン、俺にも何かくれないかな……


 ちょっと嫉妬交じりにイルマの胸当てをチラ見していると、


「……ミリアは知っているんだろうな?」


 突然、意味の分からない事を言われてしまう。


「何の話だ?」


「……おめぇ、やっぱり聞いてなかっただろ? 本当に大丈夫かよ?」


 余計に不安にさせてしまったようだ。うん、まったく聞いてなかったよ。


 イルマの話は、俺が誤魔化した魔法陣の話だった。

 どうやら俺が嘘を含んで話したという事を察しているようで、それをミリアは知っているのか? と、聞きたいらしい。


「なんでミリアが?」


「あいつが知っているなら大丈夫だってことだ」


 話の内容は分かったが意味が全く分からない。どうしてそうなるんだろう?


「で、どうなんだよ?」


「……まぁ」


 言葉を濁して返事をすると、イルマが頬を緩めて嫌な笑みを見せてくる。そのまま、俺の肩をバンバン叩いて、


「それならいんだよ。なんだ、不安だったぜ」


「いや、お前なぁ、てか痛いってぇの!」


「おっと悪い。そういや、エイブンの野郎にキツクやられたらしいな? だらしねぇ」


「おかげで筋肉痛だよ。超久々だ」


 本当にいつ以来だろう? イルマに鍛えられていた時もあった気はするけど、それ以降となるとほとんど覚えがないな。使う筋肉が違うからだろうか? と言うか、俺こんな体調で大丈夫か? イルマじゃないが自分で自分が不安になってきたぞ。


「んじゃ、俺は行くわ。夜まで時間はあるし嫁さんとガキに会ってくる」


「え? それでいいのかよ? 準備とか……」


「今更ジタバタしてもしょうがねぇだろ。んじゃあ、また夜にな」


 しょうがない奴だ。どうせテラー達が尻ぬぐい……

 そう考え、立ち去ろうとしたイルマから視線を逸らした瞬間、俺は見てしまった。


「……おい、まて」


「は? なんだよ?……てっ……」


 俺が見たもの。それをイルマも見つけたようだ。


 街の南と東にみえる土煙。あと数日はかかるはずだった人間達の軍勢だろう。完全に予想外だったけど、さらに予想外のものが見える。


 それは、写真等でしかみたことがないもの。

 土煙の上空を漂うかのように近づいてくる物体。


 フェルマンさんとドルナードが話していた飛行船だ。

 しかも、それが3隻……どうやって作ったんだ!?


「くそったれ!!」


 すぐさまイルマが走り出す。俺も後を追うように、城の中へと戻った。


 この世界における空の支配権は、絶対的なものに近い。

 精霊の力さえ及ばない場所にいられたら、一方的に攻撃されて終わりだ。

 カリスさんが無事なら、あんな風船……だけど……

 畜生! それを知った上でやりやがったな!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「地上は任せるよ」


 そう魔王様は言い残し城から飛び出していく。何をする気か分からないが、危険なものを感じ後を追いかけようとすると、肩をガッシリと掴まれた。


「待て」


「なんだよ!」


 止めたのはエイブンだった。有無を言わせないといった態度だ。


「イルマ。やるんだろ?」


「あたりまえだ」


 言っていることは理解できた。

 地上からやってくる軍勢相手だけでもキツイというのに、さらに上空からの攻撃もあれば、張られる結界だっていつまでもつか分からない。

 その状況を打破するためには、根本的原因である託宣を始末するのが一番早い。


「分かった。すぐにいこう!」


 2人に同意し、その場にアスドール王達を残し俺達は街へと向かった。


 元々合流予定としていた広場に向かうとすでに皆が集まっていた。

 ざわついていた様子を見せていたが、俺達が到着するなり緊張した顔になり押し黙る。

 まだ来ていない兵もいるだろうけど、待ってもいられないかな?


「イルマ、そろうまで待つか?」


「その時間も惜しいぜ。みろよ」


「ん?」


 イルマが言いながら南門のほうを指さす。うっすらとした結界の向こう側に飛行船が3隻見えた。もう少し近づけば街の上空にたどり着いてしまうな。そうすれば攻撃が始まるだろう。


「イルマ、兵の数は十分です。すぐに行きましょう!」


 そうテラーが言うが、肝心の転移魔法陣は……おっと?

 俺達よりも先にミリアとオルトナスさんがいたようで、すでに行動を起こしている。少し離れた場所で転移魔法陣を描き始めているのが見えた。


「よし! おめぇら、作戦開始だ! わかってんだろうが、まずはジェイドの野郎をなんとかすんぞ!」


「「「「おぉおお――――――!!!!」」」」


 イルマが掛け声を上げると、獣人達が張りさけんばかりの声を出した。


 こいつが言ったように、まずはジェイド王だ。

 あの人が持っているはずの鍵を入手しないと地下には行けないらしいからな。

 もしなかったら、その時はミリアが転移を試みるらしい。

 彼女も地下に足を運んだのは数度。薄暗かったようで、イメージが固まっていないらしく、直接転移するのは自信がないと言う。


 元から決められていた作戦だけど、時間が多少ずれてしまった。

 だけどやるしかない!

 こっちがもたついていたら、エーラムが危ないんだからな!

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