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第232話 意識を閉ざしたアルフ

 人間とモンスター達によるエーラム侵攻。


 その日が近づいてきたある日のこと、魔王の執務室にリームとゼグトが入ってきた。

 リームはともかくゼグトに対する印象は悪く、魔王が警戒心を強めると同時に影の姉妹が出現。ペリスが魔王の前に出て、ニアは腰にあった短剣を抜き走りだす。


「ニア待て!」


「……ハッ」


 魔王の声が届くと同時にニアの足が止まるが、冷たい殺意だけはゼグトに向けられたままだった。


「ノックを忘れたのは謝罪するが、物騒すぎではないか?」


 容姿からは想像できない大人びた声がし部屋の空気が固まった。


 魔王達はリームの姿を知らない。

 いつぞやのように、エーラムがリームの体を借りているだけなのだが、この事を理解するまで時間を要した。


 さて、そのエーラムがゼグトを連れ添い魔王の元へとやってきた理由であるが、


「結界を張ってくれるのか!?」


「何を驚く?」


「そりゃ驚くよ。今まで無かったんだし。急にどうして?」


 精霊樹の方から言われるとは思わずにいた為、多少の不安を感じつつエーラムへと尋ねた。


「巫女に頼まれた。大事なものを守りたいからとな」


「大事な……そう思ってくれるのか。嬉しいね。感謝するよ」


「それは、この男に言うべきだ。巫女を立ち直らせたのは、ゼグトなのだから」


「……彼が?」


 なんだそれは? と何故か共にいるゼグトへと視線を向けた。

 まるでリームの従者になったかのように後ろに立ち、申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げている。


「……よく分からないけど、守りを固めてくれるのはありがたい。アルフも協力してくれるだろうし2重結界も可能?」


 理由はどうあれ助かると思う魔王に対し、リームの顔が左右に動く。


「アルフは意識を閉ざした。しばらくの間は何も出来ないだろう」


「え!?」


 まったくの初耳だと席から立ち上がる。いったいどういうことだと尋ねた。


「彼女はもうじき世界樹への成長を成し遂げる。目を覚ますまで何もできない」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――広場にある精霊樹アルフ前


「よりにもよってこのタイミングでか……」


「成長が始まったのはいいんだけどね」


 魔王から聞かされたばかりの話を、ヒサオとミリアがしている。

 さらに魔王から、こんな話もされた。


『『依り代』状態の人間が増えすぎて、現在どういう行動をとっているのか掴めない」


 どうやら、託宣と傀儡人間達の繋がりが増えすぎてしまい、それが妨害電波のような状態になっているらしい。結界を張ってくれるのは嬉しいが、同時に嫌な報せを2つされ魔王は頭を抱えたようだ。


(一応アルフがいった事を参考に動いているけど、少し早めに動いたほうがいいのか? だけど、こっちの動きが読まれてて、守りを固められていたら詰む気がする)


 この事態に対し、見張り役を動かしたらしいが、エーラムにやってくる道というのは、有って無いようなもの。来るとすればアグロかオズル方面になるだろうが、街道を素直に使うかどうか疑問だ。どこかで合流し大軍としてくるのか? それともバラバラに来るのか? 全く不明となってしまった。   

 

 2人がそうしたことも含めて会話を行っていると、近づいてくる気配を感じ後ろを振り向いた。気配の相手はテラーとエイブンだったようで、ヒサオ達に向かって手を軽く上げてくる。


「おはようございます。2人ともアルフの様子をみに?」


「おはよう。そんなところだよ。お前らは?」


「少し訓練をしていました。イガリアでは剣頼みですからね」


 テラーが自分の腰にさしている鞘を軽く叩いて見せると、ヒサオが苦笑を浮かべる。自分も訓練をつけてもらうかな? と考えていると隣に立つミリアが、


「魔力……ね」


 ボソリと呟いたミリアに視線が集まる。


「ミリア。あなたも本当に一緒に行くつもりですか? エルフの貴方では……」


「言いたいことは分かるけど大丈夫よ」


 イガリアではすでに魔力が枯渇しているだろう。

 そこにエルフであるミリアが行くのは自殺しにいくようなものだが、そのミリアが大丈夫だと言い張っていた。


「その理由って、なんなんだ? アルフがらみか?」


「……それもあるけど、たぶんそれだけじゃないはずよ。私も確かな事が分からないから、ハッキリしたら教えるわ」


「おいおい、実験みたいなことならやめろよ? 命に係わるんだからさ」


「あら、心配してくれるの?」


「まぁ…な」


 プイっとミリアから顔を逸らすと、ミリアは軽く微笑んだ。

 2人の様子を見ていたテラーは溜息をついてから、ヒサオへと視線をかえた。


「この際だから言いますが、あなたも同じですよ。魔力がない以上スキルも使えない。何をしにいくつもりですか? 魔王がなぜ許可したのか分かりません。あの方は、あなた方異世界人が戦場に出ることを嫌っていたはずです」


「あぁ、それな」


 テラーが思ったことは、誰もが感じているのかもしれない。今まで、それを口にする者はいなかったが、ヒサオ自身は誰かに言われるだろうという覚悟はあった。


「実は、魔王様に前もって頼んでおいたんだよ」


「それだけで? よく魔王が許可しましたね?」


「当然、最初は断られたよ。だけど、まぁ……色々気になる事があって、どうしてもって頼んだ」


「気になる事? まだ、何かあるんですか?」


 ヒサオの返答にテラーが興味を示す。

 これにはミリアも同じだったが、ヒサオは笑って誤魔化し始めた。


「ちょっと、何を隠しているのよ?」


「いや、俺も曖昧だから上手く言えないだけさ。それよりも俺に稽古をつけてくれよ。勘がどうも鈍ってる気がするんだ」


 そんな軽口を叩くものだから、テラーの後ろにいたエイブンがズイっと出てきて、弓を構えいう。


「俺が相手をしてやる。放った矢を全部叩き落せるようになるまで稽古はやめないからな」


「お、おい!? そういう稽古じゃなくてだな!」


「大丈夫だ。俺は遠慮せん」


「何が大丈夫なんだ!」


「つべこべ言うな。やるぞ」


「ここでかよ!? ば、ばかやろう!」


 結果、その日はエイブンによる特訓で終わることになったようだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヒサオが引っかかっている疑問というのは、今までの託宣が行ってきていた行動と、アルツに出現したと思われる託宣の行動。その違いについてだ。


 託宣の望みは、モンスターと魔族を戦わせ共倒れさせること。

 そして勇者の手による魔王の討伐。

 この歴史を作り出すことによって未来世界に近づける。それこそが託宣が望む結果だったはず。


 だが、人間達は傀儡兵となり、モンスターと共にエーラムへとやってくる。

 傀儡兵の誰かが魔王を倒し、その者を勇者とするかもしれないが、これを歴史に刻んでいいのか? それでいいのであれば、最初からやっていればいいのでは?


 人間達を意思無き人形のように操り歴史を作ってもいいのであれば、それこそ託宣といった声なぞ使わずに、最初からやっていればよかったのでは?


 なぜ、それを行わなかったのか?


 出来なかった?


 もしかすれば、そうなのかもしれない。

 オズルを実験場のような場所にしていたという事は、可能かどうかの模索をしていた可能性だってあるだろう。


 だけど……本当に?


 この事を気にしたヒサオは、アルツにいると思われる存在を自分の目で確かめたくなっている。

 戦争という命を懸けた戦いの中、こうした出来事を確かめたいと思うのは、何かしらの邪魔になる可能性がある。もしかすれば、千載一遇のチャンスを棒にしてしまうかもしれない。


 だから、ヒサオはテラー達に言わなかった。


 コタロウからの返事がないまま。彼等が作戦を決行する”その日”がやってくる。

 しかし……その日は同時に……

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