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第229話 ゼグトに対する罰

 作戦会議が始まって4日目。


 すでに、防衛にまわす戦力については決まったが、その中から獣人部隊は外される事になった。

 全ての力を防衛に回しても、いずれは負ける。

 そう判断した魔王様が、獣人達を託宣の撃破に回すことにしたんだけど……


「倒せって言われてもな―…そのダグスという野郎を殺せば終わるのか?」


 そこなんだよな。それで終わってくれれば、魔法陣破壊について考える余裕が出てくる。


 今、この場にいるのは、俺、ミリア、イルマ、テラー、エイブンの5人のみ。基本的には、イルマ達が獣人部隊をつれてアルツに乗り込み戦うことになる。


 問題なのは、ミリアだ。

 彼女はどうしてもついてくるというけど、現在のイガリアは魔力が枯渇していると思われる。

 アルフもいないし、ユミルだって消失したんだからな。

 それを言っても、大丈夫だからの一点ばりで、どうして大丈夫なのか教えてくれなかった。たぶん杖が関係しているとは思うんだけど……


「精霊樹アルフの話では、すでに守田という男はいなく、託宣がダグスという男を支配しているみたいですね」


 悩む俺達の中で、テラーが再確認するかのように言い出す。


「それは、分かるんだが一部なんだろ? 倒したら終わり。って言う訳にはいかねぇと思うんだが」


「……まぁな」


「その辺りの事を確認しなかったのか?」


「……悪い。考えていなかった」


 エイブンのいう通り聞いておくべきだったとは思うが、そこまで頭が回らなかった。

 アルフの話を聞き、まず思ったのは、魔法陣の破壊だけは避けなければならない事。

 だけど、その理由をありのまま話すことはできないから、俺とミリアは口裏を合わせることを決めた。


『魔法陣を破壊すると、この世界が歪みを始める』

 

 という、根も葉もない話であり、アルツにいるであろう託宣の一部を倒した後に、本当の事をいうつもりだ。


 これでなんとか打倒ダグス。という方向に話を持っていくことはできたけど正直やりづらい。

 隠すことなく相談できたいた今までとは違いすぎて、後ろめたさがどうしても出てくる。


「まだ、不機嫌なままですか。ミリア、何があったのです?」


「……そう言うわけじゃないと思うけどね」


 疑心を持たれないとするために、ポーカーフェイスを気取っているんだけど、どうやら不機嫌だと取られたらしい。


「あの妙なスキルを使えよ。それでハッキリするんじゃねぇのか?」


「妙? ……どれのことだ?」


 何気に俺が言うと、テラーとエイブンが驚く顔を見せた。


「自覚があったのか」


「少しは成長しているんですね」


 2人そろって言うなよ。

 自分のスキルが、他人とかけ離れていることぐらい自覚しているわ!


「《接続》のことでしょ」


「あれか……って言われてもな」


 自分の意思で調べられるのは、自分のスキルと人物記録のみ。

 スキルについては予想していた範疇だったし、他人の未来を覗く趣味はない。

 だいたい、こういう状況で役立つことなのか?

 イルマが期待したのは、勝手に飛び込んでくる方だろうけど、あっちは……


「もう駄目なんだよ。自由に閲覧できるようになってから、自動発動は機能しなくなった」


「よくわかんねぇけど、めんどくせぇな、そのスキル」


「俺もそう思う」


 自由に閲覧できるといっても、俺が関連したことのみ。ヘルプ的な要素は助かるけど、欲を言えばもっと早くに欲しかった。今となっては、あまり意味がない気がする。


「ん~……」


「どうしたイルマ?」


「どうも調子がでねぇ」


「……わからんでもないが」


 イルマとエイブンが言葉を交わしながら、俺を見る。

 何が言いたいのか分かるんだけどさ……うーん……マズイな。

 このままじゃいけないと、席を立ちあがった。


「どうした?」


「ちょっと外いって、頭を冷やしてくる」


「ちょっとヒサオ!」


「すぐ戻るよ」


 ミリアの声が聞こえたが、振り向きながら扉を開き外へとでていく。


(慣れないことはするもんじゃないよな……)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(ん? ドルナード)


 外に出ようと城の入り口に足を向かいかけた時、部屋の扉を開けているドルナードの姿を見かけた。護衛もつけずに、よく城の中を歩けるな。恨みをもったままの魔族もいると思うんだが。


 誰かの部屋に入っていく……いや、あそこは確か。

 何かしないかと不安なので近づいた。

 聞き耳を立てているのは、何かしでかしたら飛び込むため。

 なにしろこの部屋の中には、フェルマンさんがいるはずだから。

 耳を扉に近づけると声が聞こえてくる。

 何を話し合っているんだ? もう少し近づけてみよう……


『……俺の代わりに使われたと聞いたが、とてもそうは見えないな』


『だからなんだ。用がないなら去れ』


 おっと? 今の声はゼグトさんだな。ドルナードのやつ、フェルマンさんじゃなくてゼグトさんに用があったのか?


『用ならある。そこの男が、ダークエルフの長か?』


『ゼグトではなく俺か? 言っておくが、俺は、イガリアにいたダークエルフ達の長だ』


『細かい事を言う男だ。ウースとオズルにいたダークエルフ達は壊滅寸前。貴様がまとめ上げればいいだろうに』


『そうしたのは、お前達人間のはずだが?』


『だからなんだ。その事で問答する気はない。俺がここに来たのは別の理由からだ』


 おいおい喧嘩しにきたのか? もう少し言い方があるだろうに。フェルマンさんがいなかったら、ゼグトさんは掴みかかっているだろうな。


『お前達は精霊の力を操るそうだな?』


『操る? 誰にそう聞いたのか知らないが、実際は違う。力を貸してもらっているだけにすぎない』


『魔法とは違うのか?』


『全くの別物だ。そんな事を聞いてどうする?』


『……その力を高めることはできないのか?』


『精霊の力を高める? それは……』


 聞いていたら俺も、うん? といった顔をしていたと思う。何の事だろう?

 フェルマンさんが言った通り、精霊の力を貸してもらっているだけだから、高めるも何も無いとおも……いや?


 そういえば、オッサンが最初につくった弓を使えば交感力が増しすぎて適正精霊だったか? の力が増したな。ドルナードのやつ、あの事を言いたいのか?

 でも、あれは、メリットもあるけど、他の精霊と交感できなくなるというデメリットもあるんじゃなかったか?


『俺はユミルで見た。巨木が一体の兵となりモンスター達を蹂躙する様を。あのような力があるなら、なぜ使わない?』


『……巨木の兵? なんだそれは? ゼグト。お前は知っているか?』


『聞いた事はありますが、しかし、それを言うのは……』


 途中から小声になった。たぶん、ドルナードの前だから言いづらいんだろう。


『どうやら理由は知っているようだな。それで十分だ。俺が問いたいのは、その力は誰でも可能なのか? という事だ』


『……分からない。考えたこともない』


『またか。なぜ、託宣が無かったお前達魔族まで思考停止をするのだ。それでは託宣に頼り切った人間と同じではないか』


 無遠慮にドルナードが言った瞬間、部屋の中から壁に何かがぶつかる音がした。


(あ、ちょっとまずい)


『貴様に何がわかる! 俺達の苦しみを何一つ知らずにいた貴様ら人間に!』


 思ったとおり、ゼグトさんが我慢しきれず切れた。

 流石に止めないとマズイかとドアノブに手をかけたが、


『ゼグトやめろ。その男のいう通りだ』


 俺の行動よりも先にフェルマンさんの決断が早かった。


『お前に与える罰がまだだったな。これから言う事を行ってもらう』


『……』


 完全に入るタイミングを失ったな。

 罰って、魔王様がいっていたやつか。ゼグトさん、てっきり許してもらったのだと思ったけど違ったのね。


『すぐに事の次第を調べろ。そして、可能であるなら、多くの同胞達にその事を伝えるのだ』


『お、長! それでは罰にはなりませぬ!』


『いや、罰だ。どこまで戦力を上げられるのか、お前の行動一つで変わると思え。誰かが死ぬ度に、お前にも責任が発生することになる』


 ……フェルマンさん、そう来たか。


 これは、罰というよりも罪滅ぼしをさせる気だな。

 俺に言わせれば、ゼグトさんは被害者であって罪人じゃないんだけど、当人がそれを納得していない以上、何かしらの罰を与えようと考えていたのかもしれない。


『帝国の王よ、これでいいな?』


『助かる。希望が見えてきた』


『……厳しいのか?』


『当然だ。兵力差がありすぎる。時間さえあれば、異世界の知識と魔法を融合させ、力の差を埋めるものが作り出せるのだが』


『それは飛行船のようなものか?』


『あぁ。だが、アレは時間がかかりすぎる。すでに建築に着手していたものがあれば別だが』


『……それは、お前がオズルで作らせていた飛行船のことか?』


『知っていたのか? ……そのとおりだ。今更だが、アレさえ手元にあれば……』


 口惜しそうに言うが、それってドワーフ達に作らせていたものじゃ?

 フェルマンさん激怒するんじゃ……


 そうした心配をしたけど、中から聞こえてきたフェルマンさんの声はいつもより冷静なものだった。ただ、冷静すぎて逆に怖さを感じてしまう。


『リュッケという男の最後。俺はそれを見たことがある』


『!? ……詳しく話してもらおうか』


 急に話が違ってきた。

 余裕を感じられたドルナードからも緊張を感じられ、部屋の外にいる俺まで圧迫感を覚えてしまう。

 俺も聞いた事があるが、リュッケはドワーフ達と飛行船を守ろうとしたらしいな。

 その話が部屋の中で語られているようだ。


『……』


『これが、俺が知った事だ』


『……そうか。なら、火葬もお前達が?』


『それなら、イルマだ』


『……そうだったのか……感謝せねばなるまい』


『よせ。ドワーフ達を消耗品のように扱ったお前達からの感謝などいらん』


『そう…だな。それについて謝罪する気がない以上、これは余計なことだ』


『そういう事だ』


 ……これ以上は聞く必要がなさそうだな。離れるか。

 聞き耳を立てているのが馬鹿らしくなり、その場から離れようとしたとき、


『話を戻すが、今度の戦い、勝機が無いわけではない』


 ドルナードの方から、話を続け始めた。


『なに? まだ、策があるのか?」


『違う。託宣の強みについてだ。やられていたお前達こそがわかるだろう。託宣の厄介なところは、先々を予知したかのような事を言う点にある。だが、今はどうだろうな? 俺が考えるに、その強みは消えているように思える』


 うん? ……ああ、そうか。

 物量の多さに勝てないと思い込んでいたけど、託宣の強みはドルナードの言う点にあったはずだ。

 託宣の声は届く。

 それに人間達やモンスター達が従ったとしても、必ずしもこちらの行動を予知したかのような動きではない。


 アグロ砦を襲った怪鳥類の動き。あれは統率されたものではあったが、それでも乗り切ることができた。もし、あの時、竜人達の増援や、カリスさんの出現についても知っていたのであれば……


 なるほどな。託宣ができるのは統率まで。だとしたら、こちらの変化について対応できない可能性が高い。ドルナードはそこに勝機を見出したんだろう。


 ……そうだな。

 俺ももっと考えよう。ドルナードだってここまで考えてくれているんだ。


 アルフがいった手段。

 コタが考えてくれるであろう手段。

 それとは別に俺も何かを考えよう。

 

 よし、気を取り直して戻るぞ!

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