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第228話 がんばれ小太郎!

 (外はいい天気だな~ こういう晴れた日には、何も考えずに散歩がしたくなる。商店街を見て回るのもいいよな~)


 そんな気分に浸っていると、ミリアが俺の腕をつかんでゆすってくる。


「ちょっとヒサオ!」


「あ!」


 危ない。心が現実から逃げ出そうとしている。布団にもぐって俺何も聞いていません! と、言いたいぐらいだ。


 話はまだ済んでいない。

 未来世界においてどんな事が起きるのかは分かったけど、流石にそんな世界に魔王様の仲間を帰すわけにはいかない。かといって、魔王様の願いは、そこにあるんだしな……


「打開策は!」


『あります』


「あぁ、そりゃあ無いよ……へ? ある?」


『ええ、ありますよ』


「……」


 この敗北感は、なんだろうか。

 打開策があってほしいと思ったが、こういう言い方をされると馬鹿にされた気分になるな。


「遊んでないよな?」


『極めて真面目です』


 そういうアルフの表情は全く見えないので、言葉を信じるしかなかった。


「……で、その打開策っていうのは?」


『この世界と、魔王がいた世界の融合。これによって2つの世界は1つとなり、時間が進む切っ掛けとなります』


「……は?」


 ってことは何か?

 託宣が行っているのは、魔王様がいた世界を救う"ため"でもある?


「待って! それがどういう事なのか分かっているわよね? その上で、あなた達精霊樹は、今まで放置していたの?」


『はい』


「あなたね!」


『この事で口論する気はありません。私達も喜んで放置していたわけではないのです。元々の原因を作ったのは守田でしたが、きっかけになったのは精魔戦争。この世界で起きた出来事も関係しているのに、犠牲となった世界を救う術を消すことはできませんでした』


「……」


 アルフを直視していたミリアが、顔をそむけ口をつぐんだ。

 なるほどな。そういう裏事情があったから、ユミルも魔法陣を消さなかったのか。

 でもさ……


「融合っていうけど互いの世界は異なるわけだし、色々問題がでるんじゃないのか?」


『ヒサオ……あなた、いつから頭が回るように?』


「お、おい!」


「たまに回るのよ。たまに」


「ミリアまで!?」


 こいつら意気投合してんな! ついさっき喧嘩腰になったのは誰だよ!


『ヒサオが言った通り、このままでは融合というよりも衝突になります。この世界がもつ時間を内部に送り込むどころか双方の世界が対消滅すらしてしまう。ですが、そうさせない為の託宣だということも忘れてはいけません』


「……あぁ、コタがいっていた歴史改変みたいな事か。内部に時間を送り込むっていうのは、世界を動かす“きっかけ”みたいなもの?」


『……』


 ん? 返事をしてくれないぞ。今までなら、すぐに応えてくれたのに。

 しばらく待ってみたけど、アルフが何も言わない。精霊界の方で何かあったんだろうか? と思い込んでいると、


『……実は、もう一つ解決策があります』


 判断に苦しみ、絞るような声を出した。

 なんだよ、あるならもっと早く言ってくれよ。と、この時は思ったんだけど、アルフが言うもう一つの解決策というのは………



 元勇者の帰還だった。



「え? 帰還すれば世界が動きだすのか? なら、話は早いんじゃないのか?」


『……ただし問題が2つ。1つは、守田のように託宣と衝突し、この世界に戻される可能性が大きいこと。そして、もう一つは運よく帰還できたとしても、その瞬間、元勇者の時間は拡散してしまい本人は消滅する事となります』


「……全然駄目だろ、それ」


 ――まいったな


 世界融合。元勇者の帰還。

 どちらも犠牲ありきでの救済手段というわけか。


 それに元勇者の帰還による世界救済を誰かに話して、そこから魔王様の耳にでもはいったら自分を犠牲にしそうだな……そもそも託宣と衝突するかどうかってのは運任せだし絶対に成功するわけじゃない。


 ……コタ様。

 悪いけど、別の解決策を考えてくれませんかね?


 できれば、魔法陣を消して託宣が聞こえなくしたいので……駄目?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「無茶言うなよ!」


 ヒサオからの連絡を学校帰りにもらった小太郎。

 青いブレザー姿のまま帰宅を急いでいるのは、その無茶苦茶なメールのせいである。


「ヒサの奴! なんて無理難題を押し付けてくるのさ!」


 一戸建ての自宅に帰り着くなり階段をかけあがる。いつもならきちっとセットされていた黒髪も乱れていた。着替えもせずに、赤いネクタイを緩めるとパソコンの電源を即座にいれた。


 普段は冷静沈着。

 クラスメイトの中には、影口をいうやつもいるが、彼と親しくしているものはこう言う。


 あいつは、単純な奴だと。


 面白い事が好き。面白くない事は嫌い。ただ、その2択である。

 今回の出来事は、小太郎にとってみれば面白い部類にもはいるのだが、あまりに時間が無かった。


「えっと……これ、どこまで書けばいいんだろ……ヒサ達の事は言えないし……うーん……」


 悩みながらも書いていく。今回提示された大問題と、その周囲に関係している出来事を。

 すると、


『おいおい、なんだよこれ?』

『ブログ主どうしたんです? これでは筋道がとおりませんよ?』

『勇者召喚魔法陣を破壊したら、今度はもう一つの世界が永遠に停止する? なんです、この後だし設定は』

『ネタだろ? たぶん、ラノベネタとか考えたんじゃないか? まあ、付き合ってやろうぜ』

『いつもの事か。俺はいいぞ』

『自分も構いませんよ。ですが、駄目なものは駄目と言わせていただきます』

『おお、いつもの否定派か、いいねいいね』

『だから、もっとちゃんとしたサイトを覗けばいいと……』

『なんだ、真面目ちゃんもいたのかよ。ついさっき書かれたばかりの記事に、即反応とか恐れ入る』

『おまいう』


 一気にコメントが流れる。どうやら待ち伏せていたらしい。継続は力なりというが、小太郎の頑張りは実りつつあるようだ。


『とりあえずブログ主様。このネタにおける設定を全部吐き出してください。アイディアを出したら、実はこうだったというのは、やめてほしいので』


(設定じゃないんだよ! こっちは大真面目なんだ!)


 何しろ向こうの世界には久雄と恵子がいる。魔法陣を消すという行為によって、世界の繋がりと託宣封印が可能なのは確定したが、その私兵ともいうべき人間とモンスター達が近づきつつあるのだ。


『今から状況説明と、僕が考えた解決策を書きます。ただし、この手段は使えないと思ってください』


 久雄から聞いたアルフのいう解決策。それを小太郎が考えたことにして、メールにあった文書をそのまま書き始めた。


まず状況だ。


・2つの世界が繋がったことによって双方の世界に影響がでている。

・未来世界では時間が停止、過去世界では歴史改変が行われていた。

・未来世界を再起動させるためには、時間を内部に送り込む必要がある。


そして小太郎。いやアルフが考えた手段についてだ。


・現在繋がっている世界同士の融合によって再起動は可能。ただし、かなり先の話だろうし、その過程として魔族の全滅が必須になる。


・別の手段として、召喚された元勇者達の帰還でも再起動が可能。


 しかし、問題が2つあり。


・一つは、以前帰還を試みた男と同様に、託宣が邪魔をし戻される可能性が高いという事。

・もう一つは、帰還が成功したとしても、その元勇者は消滅してしまう。




 というものであり、理解したブログ住民達が一気にコメントを流し始める。


『鬼畜な設定だな!』

『ゲスっすね!』

『勇者ってあれだろ? 前にいってた、魔族になったとかいう……』

『魔族にして、今度は世界再起動の生贄にするとか勇者に恨みでも?』

『サイテー』

『心が捻くれていますね』

『友達いませんね?』

『言っとくけど、俺達友達じゃないからな?』



 普段はコメントでバトルをしていた者達が、そろって小太郎を非難し始めた。共通の敵がいた場合、一致団結するのはどこも同じである。もはや、誰がだれなのか、さっぱり不明となってしまった。


『………あの、だから、これは使えないと……』


 せめてもの反論をするが、小太郎への非難は止まらなかった。むしろ火に油を注いだかのように、コメントが荒れ始めた。

 見方によっては、誰か個人が犠牲になるだけで世界を犠牲にする必要もなくなるという方法であるが、よりにもよってそこで魔王達を犠牲にするというのはナンセンスすぎた。そもそも運だのみである上に、第2の守田が生み出される可能性もある。


 コメントが収まるまで小太郎は黙って様子を見る事にして、少し収まりがついたあたりで、


『それと、この話についていえば、タイムリミットがあります』


 さらなる爆弾を投下するものだから、再度コメントが流れ出した。


『タイムリミット? 何かあるんですか?』

『もしかして締め切り? おいおい。ネタ話で言っていたのに、本当に作家だったのか? マジで?』

『えー ……だとしたら、これ大問題じゃ? ネット民をつかって作品作りとかいいんですか?』


(……またそれか。その話はいいだろうに)


 何度かでている話が、再度繰り返され始めた。

 否定しているし、それを裏付ける証拠の1つだってないというのに、ここの住人はネタ話が好きなようだ。だからこそ、小太郎のブログに居ついているのだが。


『何度も言いますが、そういう事ではないです。単に空想話が好きなだけです。皆さんもでしょ?』


 大事になる前に落ち着かせようとする。

 小太郎が欲しいのは、解決策であって、自分の暴露話ではない。

 そもそも、物語の1つも書いた事がない。


『いや、そうだけどよ』

『ですが、今までタイムリミットなんてなかったのに、どういう事なのか気にはなりますよ』

『同人誌でしょ。冬コミかな? そっちのほうが普通でしょ。なんでプロの作家だとおもっちゃうわけ?』

『エロか! エロ作者か!』

『やだ、きもい。異世界転移した主人公をつかって、こちらのテクニックで無双ですか? なにそれエロい。1冊ください』

『ハーレムですか! こんな難しいネタふりをしておいて、実はすでに夏コミネタに使ったとは言わないでしょうね!』


 頭痛がしてきた。

 解決策が欲しいというのに、かなり横道にずれ、いつのまにか、謎のエロ同人作者になってしまった。

 だいたい、コミケに出ている全てが、エロ雑誌と思うなよ! ちゃんとしたものだって普通にあるんだ! ……いや違う。そういう話じゃないんだ。と、思いつつも……


『コミケ会場にはいったことがありますが買うほうです。売る側ではありません』


『いったのか! 同輩!』

『おま! いや、俺もいったけどな』


 同輩と言われても困る。恵子に強引に連れていかれたのだから。

 しかし、まぁ、あの祭りムードは悪くない……って、


(こんな事を考えている場合じゃなかった! 時間がないっていうのに!)


 正気に戻ったはいいが、ここからどうやって話を戻そう? と悩みだす。

 カタカタとキーボードをたたき、流れを戻そうとする。実に涙ぐましい。ヒサオがみたら、肩にポンと手を置いてくれるだろう。


 小太郎はヒサオ達とは別種の戦いに身を投じ始める。

 ここの住人達はかなり手ごわいぞ。隙あらば、ブログ主である小太郎で遊ぶ気だ。


 果たして、ヒサオの期待に応えられるだろうか?

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