第223話 起因
ミリアの体を使い、アルフが1人の異世界人について話し始めた。
守田 明。
名前から日本人だとは思う。
もしや、魔王様と一緒にきた召喚された勇者の1人だろうか? と思ったけど違うらしい。まったく覚えがない様子だ。
『魔王にはこう言えばわかるでしょう。あなた方を召喚した、魔法使いだと』
「……え? ……今、なんて……」
魔王様が動揺したように、俺も自分の耳を疑った。
当然だろう。勇者召喚を行った奴が、俺や魔王様と同じ異世界人だとは、思いもしなかったのだから。
さらに話の続きを聞くと、この守田 明という人物は、俺と同じくガーク海岸に出現した人物ということが分かった。
アルフの話によれば、当初は世界中を旅をするだけの人間だったらしい。
しかし、その途中で人間と亜人達の間で精魔戦争が勃発。この時になり、帰還を目指すようになったらしく、当時のロックウェル王家。つまり、ジェイド王の先祖に近づいた。
戦争に必ず勝てる方法があると言い近づき、ロックウェル王家の権力を利用し勇者召喚の実験に乗り出した。
数年がたち、人間達が亜人達に押され始めたころになり開発が成功。
そして魔王様達が召喚される。
結果に満足した守田は、自身がくみ上げた魔法理論の正しさを知り帰還魔法へと手を伸ばす。
そして、帰還を達成……に見えたが、その途中で問題が発生した。
勇者28名が召喚されることで託宣を発する存在が出現。
その存在と、帰還を行った守田と衝突し一部が融合してしまった。
恐ろしい偶然のように聞こえるけど、そうではなかった。
託宣が発生したのは、魔王様がいた元の世界の方から。
その託宣と衝突したわけであり、これが何を意味するかと言うと、守田が帰還を行おうとした世界というのは魔王様がいた元の世界という事になる。
「……じゃあ、僕達は、僕達がいた世界の人間に召喚されたってこと?」
『はい』
あっさりと返事をされ魔王様は閉口するばかり。いくらなんでも酷い話だ。
当時の状況であれば、亜人達のボスが持っている品を触媒とし勇者召喚が行われるはずだが、守田の目的は帰還にある。その為に必要な世界座標の算出方法を確かめるために、自分がいた世界から魔王様達を呼び出し……まぁ、早い話が実験台に使われたという事になるんだろう。
そんな事をしでかした罰なのか、守田は託宣の一部を宿したまま300年後の時代に戻された。
今から言えば700年前の、この世界に戻されたわけだ。
魔王様から聞いた話では、守田は死んだ事になっているが、実際は術者が謎の失踪をした為、それが死んだという話にすり替えられていたという事だろうな。
あながち間違いではないと思う。
なぜなら、700年前に戻ってきた守田は、以前の守田ではなくなったのだから。
戻された守田は、託宣の補助役として行動を開始した。
託宣により、異世界研究を始めた事や、オズルという国を独立させた事。これにも当時の守田が一役かったらしい。
考えてみれば、おかしい話だった。
異世界人に関することで託宣は働かない。
だとすれば、託宣によって異世界研究は始まらないのだ。
始めたのは、守田だったという事になるのだろう。
その守田だけど、身体はあくまで肉ある身。つまり寿命がある。
寿命がつき死ぬことで、彼自身の生涯は終わった……が、
「複製人格? 守田の人格をコピーして使ったのか? なんでまた?」
アルフの話を聞けば、他人の体を託宣が乗っ取った後は、守田の複製人格に任せていたらしい。その理由がわからず尋ねてみると、
『《世界視点》というスキルを守田は持っていました。このスキルがあれば、託宣には見えない相手であっても把握することができる。託宣の補助役として使う人間には必須だったのです。彼が1人で勇者召喚に成功したのは、このスキルがあったが為とも言えます』
「……うん? スキルが必要だった。だから守田の人格も複製した? ってこと?」
『はい。あなたの交渉術もそうですが、一部のスキルには適合する人格というのが必要となりますから』
一部……か。保管術のようなものであれば、話は別ってことだろうな。これは、人の手でも複製できるようだし……って、それじゃあ今は?
「今はどうなんだ? 感情を得たといったが、この話と関係があるのか?」
『もちろんあります。託宣が得た感情というのは守田の人格を元にしています。ですが、このやり方では感情は得られても、元の人格である守田 明にはなりえない。従って《世界視点》も消失しました』
「……スキルの消失って……補助役には必須なんだろ? 今まで通りじゃ駄目だった? なぜ?」
『複製人格に魔法陣の守護を任せ続けるのは危険。そう判断した託宣は、自分が表面化することを選びました。しかし託宣のような存在が、いくら一部とはいえ世界に表面化し続けることはできません。それを可能にする為には、世界を構成する1生命体とならなければならない。人である以上、人としての感情が必要なのです』
なんだか、俺達が知らない世界のルールみたいのがあるって事か?
本の中に現実世界の人間が干渉するには、作品の中に登場するキャラにならないと駄目みたいな感じ?
俺が、考えこみ始めるとドルナードが横へと並んできて尋ねだす。
「今、危険を感じたといったな? それは、私達の行動のことか?」
『それもありますが、私達が動き出した事も理由となります』
「……君達が動きだした。それに脅威を感じたということか。具体的には何をしたのだ? それが託宣にとっての脅威であるならば、今後の参考になる」
『参考……にはならないでしょう。私とエーラムが、ミリアとジグルドに行った事は間接的なこと。ユミルのみが直接行動に出ましたが、その目的はすでに果たされています』
「なに? ワシもか?」
黙って聞いていたオッサンが、眉をピクリと動かし言う。覚えがないのか?
『エーラムからは何も?』
「聞いてはおらん……が、少しばかり心当たりがある」
言っとけよ! とツッコミたくなったが、アルフの話の続きを優先させることにした。
問題なのはユミルだ。
彼女は、他の2人以上に直接的な行動にでたという。
それがダグス。いや、託宣というべきか? その行動そのものを阻害するべく、ケイオス結晶の破壊を行った。
この世界に肉ある身である以上、力の行使には魔力を必要。
そして記録の再生というのは膨大な魔力が必要らしく、ケイオス結晶に貯められていたものを使っていた。
結晶破壊を成功し、記録の再生という手段は封じることができた。が、今度は、全ての人間達を『依り代』状態にするという暴挙に出たらしい。
「その依り代ってよくわからない。どういう事なんだ?」
『守田との衝突で得た経験を活かし、託宣とわずかに繋がりをもつ人間を作り出す。それが『依り代』です。こうなると、それがどこであったとしても、託宣からの思念を受け取るようになります。オズルは、こうした人々を作り出す実験場として利用されていました』
少し前のイガリア。それをさらに悪化させたような国。
そんなイメージだったけど、予想していた以上に酷かった。利用されまくっているな。
「ゼグトさんや、捕らえられた人間達は、その依り代だったっていうわけか?」
『はい。彼等を中継役にし、そこからモンスター達に思念を届けていたのです』
……そういう事か。
モンスター達と依り代状態の人間達が、何かしらの関係性をもっているのは明らかだったけど、そんな意味があったとは……
『最も、ゼグトという男は亜人であったため、加護精霊の力が意識を守ってくれたようですね。それでも影響は出たようですが……』
加護精霊? 普通の精霊と違うのか? また意味が分からない言葉がでてきたな。
なにそれ? っていう顔をしていると教えてくれた。ちなみに知らなかったのは、俺だけな感じだ。なんで知ってるんだよ?
『加護精霊というのは、人間以外であれば、誰しも持っているものです。これは魔族や獣人達も同じ。人間が精霊との交感ができないのは、その身に精霊力を持たない為にすぎません』
「……っていうことは、ここにいる魔族の皆も精霊との交感ができるのか?」
『はい。ただし、一般的に亜人と呼ばれている人々よりはかなり素質が落ちるので、難しくはあります』
それでも羨ましい。俺なんか不可能みたいだしな。
内心で落ち込みかけていると、隣に並んだままのドルナードが尋ねだす。
「今の話で思ったのだが、その加護精霊が託宣封印の要因だったのではないか?」
『各地で魔族が行っていた封印のことですか?』
「そうだ。魔族が住まう地では、託宣が聞こえてこなかった。これを封印と呼んでいるが、その理由についてはまでは分かっていない。だが、今の話で分かった気がするのだ」
『その考えは正しい。託宣の声が届かない場所ができたのは、加護精霊の影響があったからです』
そういう事か……だから……と、俺が納得しかけた時、今度はイルマが前にでてきた。
「ちょっと待てよ。俺達はどうなる? 俺達にだって加護精霊の力はあったはずだ。なのに、なぜ、封印できなかったんだよ?」
……ああ、なるほど。
イルマのやつしっかりと聞いているな。言われてみれば、っていうやつだ。
『疑問をもつのは分かりますが、一つ忘れています。獣人達は長く同じ場所に定住できましたか? それも多数の者達と一緒に。ほとんどの獣人達は、人間達によってバラバラにされていませんか?』
「………そういうことかよ」
『はい。いくらその身に加護精霊の力があったとしても、いくつかの条件がそろわなければ無理なのです』
理解したイルマが、顔面に手を当て悔しがるそぶりを見せた。
いや、悔しいというより、憤っている感じだ。
「アルフ。話を戻してもらっていいか? 俺としては今の託宣の方が気になる。イガリアから撤退しなければならない程の事態だったらしいけど、具体的にはどうしてなんだ?」
『まず、あの場にいた者達だけでの突入は自殺行為と考えてください。例えジグルドがいて、託宣の前にたどり着けたとしても、すぐに消されてしまうだけでした。次に、敵の戦力ですが、ウース、イガリア、オズルの人間達に加えてモンスター達もいます。これをそれぞれの街の戦力で戦えるとは思えません』
予想はしていたけど、実際に聞くとは大違いだった。
言葉を失うという事を現実体験している気分にすらなり、どうしようという考えすら浮かばない。
『私が、ここに逃げろと言ったのは、戦力の集中と考える時間を少しでも稼ぐためです。託宣の傀儡兵となった彼等は、必ずここにもやってきます』
「……」
……『依り代』状態の人間達を利用すれば魔族領土でも可能か。どこまでも、俺達をつぶしにくるってことだろう。
「その考える時間はどのくらい残っているの?」
絶望的な状況だった中で、声を出したのは魔王様だった。
酷い話を聞かされ、呆然したような様子だったけど、もう立ち直ったようだ。
『戦うという選択を選ぶのであれば、せいぜい4、5日。それを過ぎたら戦う準備に入ったほうが良いと思います。長くても一月。早ければ半月もかからずやってくるでしょう』
「選択? 他の道もあるのかい?」
『……非常手段として、一部の人々のみを、私達の世界に逃亡させることもできますが、その世界が存続できるのは、私達が存在していられる間のみ。こちらにある精霊樹がやられてしまえば、消滅は免れません』
「……それじゃあ、駄目だ。選択ともいえないよ」
魔王様のいう通りだ。仲間を置いて逃亡したという罪悪感を抱えたまま、死を待つことになるだろう。最悪すぎる。
………
………
会話が止まった。
どうしたらいいのか考えているのだろう。それは俺も同じだった。
しばらくの間、誰も口を開こうとしないでいると、アルフのほうから口を開いた。
『ヒサオ。側に』
「え?」
何故か分からないが呼ばれたので近づくと、ミリアの目蓋がゆっくり閉ざされ力なく倒れてくる。
慌てて華奢な体をしたミリアを受け止めると同時に、かすかにアルフの声が届いた。
『限界のようです。ミリアをお願いします』
「分かったよ……色々聞いて悪かったな」
皆に話を聞かせるために、ミリアの体を借りていたようだけど、少し無理しすぎたようだな。
軽いな。
俺は、こんなにも華奢な体をしたミリアに頼っていたのか。
かっこよく、俺が守ってやる! って言ってやりたいけど、結局、また守られるんだろうな。
でも、それまでは……
今は、安心して眠ってくれミリア。
これで5部が完結となります。
ここまで読んでくださった方々に感謝を。
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m




