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第221話 支配の始まり

 魔王様と別れた後ミリアに通話をかけた。

 こちらから出向くよりも、ミリアに来てもらった方が早いという判断から。


 アグロの街中でミリアと合流した後アルツへと転移。

 すでにジェイド王たちは動きだしているはず。

 ペリスさん達はどうなのか分からないが、連絡をいれ合流するのは駄目だ。彼女達には彼女達の判断で動いてもらったほうが良いだろう。ドルナードの言うように、バラバラに動いたほうが混乱させられるだろうから。


 予想以上に早くに到着したのは良いが、なんだろうか?

 街の雰囲気がどこかおかしい。何時もなら、少し歩けば誰かの声が聞こえてくるんだけど……


「初めて来たが、思ったよりも活気がないな。いつもこうなのか?」


 ドルナードに尋ねられたが判断に困る。たまたまという事もあるだろうし。


「ドル。これからどうする? 城へと直接向かうのか?」


「そのつもりだったが、まずは誰かを向かわせた方が……」


 ブロードとドルナードが並び話始めた時、突然トーマが呻く声を出し始めた。


「……うそだ。ここでどうして……うぅ」


 頭を抱え、すぐそばにあった建物の壁に手をつき苦しみだしている。

 そんなトーマにブロードが近づくと、今度はミリアが持っていた杖がフワリと宙に浮いた。


「またなの!?」


「え?」


 何がどうしたと全員が見守る中、宙に浮き始めた杖が発光し始める。


「ミリアがやっているのか?」


「私じゃないわよ。見てれば分かるわ」


 突然起きた出来事に戸惑っている俺達の前で、杖を中心に女性の姿が浮かび上がる。

 見えるのは輪郭だけで、どんな顔をしているのかだとか、服装だとかは全くの不明。


「やっぱりあなたなの。今度はなに?」


 ミリアが煩わしい様子で尋ねると、


『緊急事態です。託宣が表面化しました』


「え? どう言う事?」


 穏やかな思念のようなものが聞こえ、ミリアが相手を始めた。


『ユミルが、ダグスの体に潜んでいた存在を止めようとしたのですが、それが仇になりました。託宣自身が感情を得て活動を始めています。大至急、人間が住まう地から逃げてください』


 ひと息で告げられた内容に、声を失ってしまう。

 詳しい説明を求めようとすると、壁に背をつけていたトーマがさらに苦しみだす声をあげた。


「アルフ、どういう事?」


『いいから逃げなさい。すでにここは敵の手の中です』


 意味が分からない。

 急に出てきて逃げろと言われても、納得がいく訳がないだろう。

 だが精霊界であったアルフとはかなり様子が違う。まるで別人と話をしているようだ。


「せめて説明してくれ。俺達だって遊びにきたわけじゃないんだ。今頃ジェイド王達が……」


『説明は………? ヒサオ。あなたは私の声が聞こえるのですか?』


「当たり前だろ。それがどうかしたか?」


『……いえ、今はその事はいいです。それよりも早くお逃げなさい。そろそろ、アルツ市民が動き出します』


「は?」


 何のことだとミリアと目を合わせる。

 アルツ市民が動き出す?

 そりゃあ、動くだろ。そろそろ夕飯時だ。どこの家庭でも料理をしだす……いや、その割には何も……違和感の正体は、これか? どの家からも生活しているような物音がしない。


 異様なほどに静まり返ったアルツの街並み。気付けばすぐに理解できることではあるが、理解したことによって恐怖心が増してくる。

 アルフの言葉とアルツの空気。

 この2つが重なり……いや、もう一つ。

 後ろを気にすると、それまで聞こえてきていたトーマの呻く声が静まっていた。


「……おい」


 首だけではなく体ごと振り向くとトーマが呆然と立ち尽くしている。


「トーマの様子がおかしい。ブロード気をつけろ」


「分かっちゃいるが……」


 言われる前から大剣を両手でつかみ、剣先をトーマへと向けている。

 当人を見れば、誰に目を向けているのか分からないほどに顔をゆらゆらと動かしていて……この気配――覚えがあるぞ。

 生気といった物を感じさせない眼差し。そこにいるはずなのに、いるのかどうかも怪しい気配。

 これは……ものは試しだ。鑑定!


 レベル41 トー〇=×ィ■

 称   号 道◆を▼じ●◇士

 アイテム  スケ▼●メ◆◇。鉄●片△■。

 ステータス 一▲◎化■士

 ス キ ル 片手◆〇5 演▲◇ 潜■6


 案の定かよ!

 デルモンド親子と同じく文字バケ状態の鑑定結果。なら!


「誰も手をだすなよ!」


「どういう事だ?」


「いいから何もするな! おい、トーマ! お前が持っている剣が欲しい。取引だ!」


 尋ねてきたドルナードを無視し交渉術を発動。

 トーマの体が黄色く光ると、すぐに嗚咽のような声を上げ始めた。携帯を見るまでもない。明らかに『依り代』状態になっている!


 トーマの体を覆っていた光が黄色から赤へと変色。デルモンド達の時は焦ったが、今はこれでいい。そのまま消えてくれれば……よし!


「……うぅ」


 交渉術の効果が切れると同時にトーマの意識が戻る。

 すぐ横にあった壁に手をつき、軽く頭をふった後、俺達の様子を伺うように見てきた。


「何が……陛下。俺は一体?」


「……正気に戻ったか? ヒサオ。これはどういうことだ?」


「俺も良く分からないが、たぶん託宣が仕掛けて……いや……」


 もしかすればと、まだいるアルフへと目をむけた。


「これが言いたかったのか? 街全体に影響がでている?」


『……ええ。その通りです』


 アルフの返事に、全身が凍り付くような感覚を覚えた。

 冗談じゃない! 1人ならともかく、こんな事を街の住民全てにやっているのか! そんなのどうしろっていうんだ!


「……住民を殺すわけにはいかないし、かといってこのまま放置も……元から断つしかない? だけど託宣の元にいくまで……」


「ヒサオ?」


 ブツブツ言いだした俺に、ミリアが不安な様子で呼びかけてきた。


「……ミリア。捕縛系の範囲魔法ってないか?」


「え? ……ごめん。そういうのは私苦手で……」


 彼女にも苦手な魔法というのがあったのか。誰でも得手不得手ってあるしな。それはしょうがないけど……


「ヒサオ何がおきている? トーマは大丈夫なのか?」


「何がって、お前までわからないのか?」


 まさか、ドルナードまで分かっていないとは思わなかった。こいつなら予想するのが簡単だろう。アルフだってさっきから……あっ!


「アルフ。お前の声って、俺とミリアだけしか聞こえていないのか?」


『そうです。あなたに私の声が聞こえることこそが異常。そう思ってください』


 ついには精霊樹にまで異常者扱いされた。俺何か悪いことしたっけ?


 いや、そんな余計な事を考えている場合じゃない。いますぐに行動を起こさなければ。

 原因は、アルフが言った事だろう。託宣が表面化したとか言っていたが、それが理由で妙な事に……って!


「おい! 後ろ!」


 俺へと注意が向けられていたので誰も気づかない様子だった。たまたま前を向いていた俺が叫ぶと、トーマが後ろを振り返る。

 そこには、鍬を持った男が1人。

 麻布で出来たような衣服をきた中年じみた男が、手にしていた鍬を持ち上げていた。


「ッ!?」


 驚いた様子をみせたトーマだったが、すぐに腰にさしていた剣を抜き、振り下ろされた鍬から自分の身を守った。


「ぐぅ――てぃ!」


 声をあげ襲ってきた男を押し戻す。さらに、自分がもっていた剣を振り上げ、って、まて!


「やめッ!」


 止めるまえに、トーマの剣が襲ってきた中年男性の胸へと振り下ろされた。


「何か?」


「……」


 何も言えない。

 襲ってきたのは男のほう。トーマは自分の身を守っただけにすぎない。殺す殺されは、この世界では日常的にあることだ。俺だって同じだ……だけど……クソ!


「トーマ油断するな。そいつだけじゃねぇ」


「分かっています。すでに取り囲まれていますね」


「そういうこった。ドル。俺の背中に隠れていろ」


 ブロードとトーマがドルナードの前に立つ。この2人の前方からもだが、俺やミリアがいる後ろからも、かすかな足音が聞こえだしてきた。

 マズイな……トーマがいったように、囲まれているぞ。


「……アルフ。仮に城まで突破できたとして、今の俺達に表面化した託宣は倒せるのか?」


『無理です。人の身を使っているとはいえ、あなた方が束になってかかったとしても、姿を見た瞬間消されていまいますよ』


「……良い情報をありがとうよ」


 やる気が一気に消えた。

 アルフならば、オッサンの実力も知っているはずだ。なのに、この言いよう。

 ……本当に逃げるしかないのか?


「オイ! ヒサオとか言ったか? さっきからブツブツ独り言いってんじゃねぇ」


 ブロードが俺に……ん?

 なんでこいつ平気なんだ? ドルナードは分かるが、こいつは普通の人間だろ? トーマと同じようになってもおかしくないはずだが?


 疑問を感じていると、俺達が感じていた気配の相手がでてくる。

 もちろんアルツに住んでいる住民達だ。

 手近にあったと思われるモノをそれぞれ手にし、俺達の前に姿を現われた。

 その住民達を見るなりブロードが襲いかかる。真横に剣を走らせ、住民達をなぎ倒すように切って捨てた。


「突破するぞ!」

「了解!」


 2人が現れた住民達の前に出る。

 無差別に攻撃を始めるが、住民達はまったく怯むことがない。

 走り出したブロード達の後を追い、俺達も走り出す。

 その時、ミリアが強化魔法を全員に掛けるとトーマが軽く口笛を鳴らした。


 俺達はこんな事をしに来たわけじゃないのに、どうして住民達を切り殺しながら逃げているのだろう? そもそも、どこに向かって……


「アルフ! どこまで逃げればいい!」


 後ろから、フワフワと浮きながら付いてくるアルフらしき光の影。その彼女に向かって叫ぶと、


『エーラムに逃げなさい。あなた方だけではなく、イガリアにいる全ての魔族にも呼びかけるのです。今、とれる最善の手はそれしかありません』


「なっ!?」


 なんだそりゃ! 俺が考えていた事と全く違う。とりあえずの逃走を言ってきていると思えば、イガリアからの逃亡かよ!


「そこまでなのか!?」


『はい。それだけの事態になっているからこそ、私もこうしてここにいます。すでにユミルの住民達は知っているでしょうが、果たして……とにかく、あなた方だけでも急ぎなさい。そして、砦にある私の本体もエーラムに転移させてください』


「お前まで!?」


『お願いします。もうイガリアに安住の地は有りません』


「……クソ」


 不満を吐きながらミリアを見る。

 時間の事を考えれば彼女の転移魔法を使うべきだろうが、その時間を稼げるか?

 前を走るブロード達を見てみると、道を作るので手一杯の様子。

 叫び声一つあげるどころか、倒される瞬間ですら何一つ声をださない住民達。

 モノでも切るかのようにしているブロードやトーマ達ですら、恐怖を感じ始めている様子が見え始めた。


「ヒサオ。よくわからんが、どこまで逃げればよいのじゃ?」


「エーラムまでだとよ! しかも、イガリアにいる全員を逃がせって言われた!」


 オッサンに返事をかえすと、今度は俺の前にいたドルナードが尋ねてきた。


「言われた? お前は誰に助言をもらっている?」


「それは後で話す! とにかく時間を稼げないか? そうすれば、ミリアの力で……」


「時間か……わずかであれば……ブロード! トーマ! どこでもいい。民家の中に立てこもるぞ!」


「お、おい!」


「正気ですか、陛下!」


「言われた通りにしろ! この男の目と耳は、俺が欲してやまないものだ!」


 おいおい。こんな時にまで、そういう事いうんじゃねぇよ! だけど、そうしてもらえれば……

 横を並び走るミリアをみれば、コクリと頷き懐から緑晶水のはいった瓶を取り出し見せている。


「しょうがねぇ! あの家に飛び込むぞ! トーマ、ついてこい!」


「わかりましたよ!」


 右前方に見えた民家へと進路変更し走り出し、玄関扉を蹴破り中へと押し入った。


「陛下!先に!」


「分かった。いくぞ、お前達」


 ブロードが入り込んだ家に俺達も入ると……

 ああ、ちくしょ! ほんと躊躇いがないな!

 見たくもない光景が床にあり、思わず目を背けてしまう。顔に嫌悪感を浮かべていると、すぐに玄関扉がバタンと閉められた。


「長くはもちません! 将軍早く!」


「わかってんだよ! ほれ!」


 ガスン! という音とともに、ブロードが引きずり移動した家具が玄関扉前に置かれる。さらに、重ねるように次々と家にあった重そうなものを積んだあと、2人がフゥ―とため息をついた。

 だが、その2人がおいた家具が、すぐにズルズルと動きだす。玄関扉にどれだけの力を入れているのか知らないが中に強引に入ろうとしているのが分かった。

 さらに、家の周囲を取り囲む壁が打ち鳴らされ――これは、思った以上に時間がとれそうにないな。


「ミリア、頼めるか?」


「……ええ。気にしている余裕なんかないわね」


 俺とミリアが気にしているのは、床に転がった家の住民達と、その身体から流れた赤い液体。

 ブロードが入るなり襲ってきたのだろう。それは分かるんだが……

 感情を揺らがせながらもミリアが床に筆をおき、魔法陣を描きはじめた。

 その間にも壁を打ち鳴らす音が聞こえ、ミリアの表情がこわばっているのを知った。


「ちと、煩いの……やってみるか」


 ミリアの様子を気にしたのか、オッサンが手にしていた片手ハンマーを床に降ろす。何かするのか? と思いオッサンを見ていると壁に手を付け、


「全員、壁から離れていろ。床にまで広げるきないが、しくじったらすまんな」


 何をやる気だ? と全員が目を向ける。

 外から聞こえてくる音を気にしながらも、言われたとおり壁から離れると、


「ぬぉおりゃ――――――――――!!!」


 雄叫びのような声をだし始め、その声とともにピキピキと……ここまでくると魔法だな。


「凍った!?」


「なんじゃこりゃぁ! 鍛冶師じゃなかったのか!?」


「……」


 魔法が見慣れたこの世界であっても、オッサンの力は異常なのか。どうやら、俺の感覚は常識の部類にはいるようだ。


 オッサンの訳の分からない力で、床を除き家全体が氷で包まれる。

 外から聞こえてきていた物音も静かになるが、もしかして外にいる連中も凍らされた? どのくらい長く続くのか分からないが今のうちだろうな。

 その後、ミリアが描き完成させた魔法陣を使いアグロへと戻った。


 イガリアからの撤退か……

 どうやって、皆を説得したらいいんだろう?

 とりあえずミリアには砦に戻ってもらわないと駄目だろうな。

 そういえば、ユミルのほうはどうなったんだろ? 何かアルフが言っていた気がするが?

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