第218話 情報の共有
本当にあらかた喋ったな……驚いた。
魔王様が、これまで隠していた自分達の素性を伝えたんだけど、聞かされたドルナードが呆然としている。
「……いいのか、そこまでの秘密を俺に教えて?」
「敵である君に対してか? 確かにそうかもしれないし、これは僕の仲間たちに対する裏切りにもあたるだろう。だけど、もし、僕が託宣に関することを伝えても、それを知った理由をアレコレ聞き出そうとするんじゃないかい?」
「……」
言われてみればそうかもしれないけど、少しは隠してもよかったんじゃないかな? 今まで、黙っていた歴代魔王達の事を考えれば、言い過ぎのように思える。
「託宣に対し、君とは共闘できると思った。その相手に対して隠し事を続けても、どうせ色々と勘繰られる。最悪、託宣を背後で動かしているのは僕達かもしれない……なんて考えてしまうかもしれないだろ? そうなったら共闘どころじゃないし、例え託宣を消滅させる事ができたとしても、別の火種にすらなりかねない」
「……実際、その考えが無かった訳ではない。モンスターの事も、お前達がやっている可能性を考えていた」
「すでにかい? 呆れたね」
魔王様が、諸手をあげ肩をすくめてみせた。
「さて、ここまで話したからには、本気で協力してもらいたいわけだけど、そこの所どうなんだい?」
「今更だな。託宣を消滅させる事に関してだけは本心から望んでいる。その為なら、帝国の力を惜しみなく使わせてもらおう」
「……だけね」
「その後のことまで望むというのであれば、それはまた別の話だ」
「まぁそうだろうね。今は託宣の事だけを考えようか」
「それでいい。話を混ぜると進まなくなる」
「もっともだ。じゃ、話を詰めていこうか。お互いに忙しい身なのだし」
「わかった。では、まず託宣の消滅手段だ。魔王の話ぶりだと知っているかのようだが、なぜ、それを実行にうつさない? 戦力の問題か?」
一気に話が進む。おれなんか完全に蚊帳の外だ。もう、いなくてもいいんじゃないかな? と思えてきた。
「……まだ、不確定なだけ。たぶん、やろうとすれば、すぐにできる。だけど、その手段で託宣に影響がでるのかどうか怪しい。その上、今まで無かった出来事まで起きていて、こっちは混乱しているんだよ」
「情報の整理ができていない。そういう事か。それならば偽勇者が……いや、俺もヒサオと呼ばせてもらうが、貴様の得意分野ではないのか?」
魔王様に見せていた濁ったような目が俺へと向けられる。こっちまで泥沼に落ちていきそうなんで、向けないでほしいな。
「俺ができるのは取得までかな? その先は仲間たちに教えて、話ながら整理している感じだ」
「仲間? それは魔王の事か?」
「僕もだけど、僕だけじゃないよ。ヒサオが言ったように、彼の周りには大勢の仲間がいるから、困った時は色々相談しているみたいだね」
「仲間……それで思い出した。貴様は異世界人だったな」
「え? 何をいまさら?」
どういうことだ? 魔王様じゃあるまいし、こんな時にボケるのか?
「ラーグスの記憶というのは、あまりに膨大でな。今になって、お前と一緒にいたミリアという少女。そしてジグルドというドワーフの事を思い出した。あの2人と一緒に、この世界に来たのだったな……そうだ。これも忘れていた。異世界人というのは、勇者召喚されたものだけではなかった」
「おいおい! 本当に大丈夫か? こっちは、それも含めて知っているものだと思っていたんだぞ」
「そう攻めるな。知ってはいたさ。だが、俺が得たのは貴様の知識だけではなく、ラーグスの記憶も含めてなのだぞ。2人分の記憶を一気に得てしまい、時折忘れる事がある」
「は? え? ラーグスのも?」
「というよりも、ラーグスの記憶が先だ。その後に、あいつが所有していた貴様の記憶が流れこんできた」
「そう…だったのか。よくまぁ、頭がもったな」
「ラーグスは狂い、死んだあと元に戻ったようだが、それでも普通とは思えん」
「ああ、わかる。あいつ元から気が狂っているように見えたし」
「ククク。そうだろうな」
聞きたくないような笑い声をあげていたドルナードだったけど、突然眉をひそめた。
「……観客は引っ込んでいろ」
何の事だ? と、俺と魔王様がキョトンとした目を見せてしまう。
「気にするな。こちらの話だ」
「……?」
よくわからないが、中にいるラーグスが何か言ったのだろう。
「話を戻すよ。混ぜるとこうなるという見本はもういいだろう?」
「わざとではない。話を進めてくれ」
「うん。まぁ、君が言ったように、情報の整理ができていない。それに託宣消滅の手段だけど、これも不確定なまま。確かめる手段もなくてね……つまり手詰まり「あ、まって、魔王様」……なに?」
言い切る前に、手をあげ言葉を止めた。
「その事ですが、ダグスを問い詰めれば何か分かると思います。あいつが何らかの形で関与しているとしか思えない」
ここまできたら、俺にだってわかる。
あいつは、託宣と何らかの形で繋がっている。
なら、あいつは俺達の知らない託宣の秘密を握っていると思って間違いないと思うんだ。
「ダグスの事なら、色々な場所に似顔絵つきで手配したよ。もちろんコルクスやアルツにもだ。捕らえる事が出来れば、すぐに報せが来ると思うけど難しいだろうね。ヒサオのスキルでも駄目だったんだろ?」
「ええ、まぁ……ほんとにどこに行ったのやら」
顔を知っている人は少ないし、似顔絵を使っての手配だって、どこまで効果があるのか分からないよな。
「話の途中悪いが、そのダグスというのは、以前アルツで異世界研究をしていた者か?」
「「え?」」
何でお前が知って……ああ、ラーグスの記憶か?
「そいつがどうして出てくる? あいつはラーグスの記憶では、無能者扱いだったぞ」
「……俺達もそう思っていたんだよ。実際、研究だってやっているのかどうかも分からない感じだったし」
「らしいね。見事に騙された感じがする」
「……つまり、何かしでかしたのだな? 詳しく話せ」
「そうだね……話すのも嫌な事なんだけど、数日前にこんな事があってさ……」
魔王様が言葉通り嫌悪感を見せながら、起きた出来事を語りだす。
あの話を聞かされるのは、俺も嫌だけど、話終わるまで黙って聞いているしかなかった。
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「なるほど。それは確かにダグスという者で間違いないのだな?」
「ゼグトの記憶ではそうらしい。その記憶事態が改変されているのだとしたら、お手上げだ」
「ありえなくもないが、そんな事まで考えていては何も出来なくなる。やはりダグスという者を捕らえるべきか………少し待て」
ん? 急に眼をつぶって、体から力を抜いて椅子に背をつけたぞ。
中にいるラーグスと何か話をしはじめたのか?
「……」
長いな。何を話しているんだろう? こっちに内容が聞こえてこないのが、もどかしい。
「……」
まだか?
でも、長いということは、何かしらのヒントがもらえたのかな? だとしたら、助かるんだが。
気になる俺達を前に、瞑想じみた行為をしていたドルナードが目を開き、眼鏡をクイっと軽く上げる。
「……1つ気になることが浮かびあがった。そのダグスという男。生まれはアルツらしいが、長い間オズルに住んでいる」
「……え?」
「どういう事? どうしてオズルにいた男がアルツに戻って研究員に?」
「ラーグスの記憶によれば、当人に託宣があったらしい。それを前の王が何も言わず認めたようだ」
「また託宣か……まぁ、以前のアルツならそうなるんだろうな」
「フェルマンが調べたことだね。たぶん、ジェイド以外の王達にも、託宣は無かったんだろうね」
「……なに? それはラーグスの記憶にもないぞ。どういうことだ?」
「ああ、これは知らないのか。お互いに情報を共有しないと駄目だな。その時間すら惜しいけど、仕方がないね」
今度は、フェルマンさんが調べてくれたことが魔王様の口から話される。
また説明か。ほんとこういうの面倒だよな。
でも、大事なことだししっかりやらないと、後々困るのは自分だったりするんだよな。
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「俺の知らない情報が多すぎるな。協定を結ぶ価値が多いにあった」
「そうだね。あとは、君達のほうがどれだけ協力してくれるかだけど……もし、オズルにダグスが逃げ込んでいたら、どうする?」
「それか……オズルと戦って欲しいと言うのであれば、俺としても望ましい限りなのだが、現状正面きってやりあうのは厳しい。今は、数を揃えるので手いっぱいだ」
「……そういう状況か。悪いね、帝国の内情まで話させて」
「構わん。それでもやってほしいというのであれば戦争を仕掛けるが、お前達が望むのはそれではないだろう?」
「まぁね。できれば、ダグスだけを見つけて連れてきてほしい。できる?」
「……難しいな。やってやれないことはないだろうが……」
と、そんな話をしている2人に悪いと思いつつ、そっと手をあげた。
「何? そんな卑屈な顔をしてどうかした?」
「卑屈って……いや、なんか思いついたんで、言わせてもらっていいですか?」
「本当に卑屈だな。今更遠慮する必要はないだろう」
ドルナード。お前もか。いや、言う通りだとは思うんだけどな。
まぁ、言った方が良さそうだし、言わせてもらおうか。
「その、なんだ。俺はダグスがオズルに逃げ込んでいるという事は無いと思うんだ」
「……なぜだ? 可能性としては十分あると思うが?」
「そうだね。僕も同意見だ」
「まあ、そうなんでしょうけど、よく聞いてください。あくまで意見ですから」
俺なりにここまでの話で分かったダグスについてまとめてみると、その可能性は低いと思ったんだよな……まぁ、まだドルナードが知らない話もあるから、それも教える事にはなりそうだけど。
さて、当たっているのかどうか不安だけど、俺の推測を話すとしよう。




