第217話 会談の始まり?
岩陰に隠してあった転移魔法陣を使う。
複雑な幾何学模様の内側に、蛇がくねった絵柄のようなものが有るがエルフ文字らしい。漢字とはまったく別系統で発達した文字なんだろうけど、それでも俺の解読は発動し『エーラム』と読めてしまう。
ミリアと別れ、エーラムへと移動。場所は元から転移魔法陣を設置していた建物のすぐ隣だった。
「……思い出したぞ。昔、エルフの1人が各地を繋げる魔法を作り出したと聞いていたが、これがそうなのだな?」
到着するなりドルナードが言い出す。もしかして、オルトナスさんと母さんがやったことを言っているんだろうか? あれって人間世界にも話が広まっていたんだな。
「こんな魔法があったんですね。この術一つでも持ち帰れたら大革命がおきそうだ。陛下、これを報酬として条件につけてみては?」
「魅力的ではあるが、帝国に設置しても意味がないだろう。まずは魔力をどうにかせねばならん」
俺達がいるのに、そんな話を2人が平然とする。ブロードとかいう男は周囲をキョロキョロと見渡し、エーラムの街を観察しているようだ。
「……ドル。気付いたか?」
顔を軽く下げ、ドルナードの耳元に呟いている声が聞こえた。
俺達に聞こえないようにしているんだろうけど、地声の大きさが仇になっているな。
「分かっている。報告にはなかったが、ここも襲われているようだな」
なんだかな~内情視察されている気分だ。
ある程度は覚悟していたけど、あまりいい気分じゃない。
早く魔王様に引き合わせた方が良さそうだと、城へと向かい歩き出すと、ブロードが身に着けている鎧がガチャガチャと音をたてて煩かった。
「……少し良いか?」
「あん? なんだよ?」
「どうも気になっての。この鎧、あまり手入れをしておらんじゃろ?」
「……たまにしているが……お、おい!」
オッサンが持っていた片手ハンマーを腰にさげ、義手の中から小さなハンマーを取り出し握る。
ブロードの鎧をジロジロと見まわすと、左手をあてハンマーで軽く叩き始めた。
「なにしてんだよ!」
「応急処置じゃ。動くな……ここもか。やれやれ、なんじゃこれは? ひどいの……」
止める声に耳を貸さず、そのまま数カ所にハンマーを打ち付けているが、急に手を止めて、
「………うん?」
何かに疑問をもつような声を出すと、打ち付けたばかりの箇所を素手で触った。
「……まぁよいか」
「どうした? 俺の鎧がそんなに悪いのか?」
「それではない。状態が悪いのは間違いないのだが……」
「そこまでかよ!」
ブロードが上げた声を気にせずに、その後も数回ハンマーで打ち付けてから手を止めた。
「……まずはこんなものじゃろ。少し歩いてみてくれ」
「あ、ああ? って、なんなんだ一体」
言われるがままに歩き出すと、先ほどよりも音が小さくなった気がする。音事態はするんだけどね。
「さすがドワーフというべきでしょうか? 将軍、助かりましたね」
「……フン」
「会談中はどうせ暇になるじゃろうし、その間をつかい鎧の手入れでもしてやろうか?」
「……いいのか? 俺達は敵だぞ?」
「ワシにとって武具は武具でしかない。1人の鍛冶師として見るに忍びなくてな」
「1人の鍛冶師って……イガリアの鍛冶師って全員こんな力量なのか? とんでもねぇ話だな」
それ誤解ですから! マジで他の鍛冶職人さん達が泣くからやめてあげて!
「ブロード。言葉に甘えておけ。会談は俺と魔王。それに偽勇者の3名だけで行う予定だ。お前達はその場まで護衛してくれればいい」
「会談中は外で待機ってことですね? わかりました」
「いいのか? ここは敵国だぞ?」
「話を持ちかけたのは、そこの偽勇者だ。こいつは魔王と親しいようだしな。その面子をつぶすような真似はしないだろう」
急に話を振られると同時に、俺に視線があつまった。
「皇帝様の言うように下手な真似はしないよ。そういう方じゃない」
「……信頼しているのだな」
「会えばわかるよ」
「やれやれ。貴様を口説き落とすのは難しいようだ」
「男に口説かれる趣味はないし、お前のものになる気もないよ」
軽く言い返しながら城へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
会談が始まる。
場所は、以前ジェイド王と協定を結んだ場所。
かなり広い部屋だから、ブロード達が入ってきても問題はないんだけど、聞かれるのもちょっとな。
ぶっちゃけ、俺抜きで話あった方がいい気もするけど、そうもいかないんだろう。なにしろ仕掛け人だし。
ドルナードを案内し中にはいると、すでに魔王様がテーブル席についていた。
やっぱり青年モードか。本当に子供姿はやらなくなったな。
「魔王様。お待たせしました」
中へはいり一礼したあとドルナードに道をあけると、
「……ドルナード=ファン=エンペスだ。このような姿で申し訳ないと思うが話が突然すぎた」
魔王様を一瞥した後、黒眼鏡をクイっと一度あげながら言った。
ラフな衣服の上に胸当てを着けたままだから、確かに無礼とはいえるか。
「エーラムにようこそ。魔王をやっているサルガタナスだ。服装については、こだわらないから気にしないでくれ」
そういう魔王様を見れば、深緑を基調色とした王としての礼装姿。
青年モードでこれを着ていると、しっくりみえるけど、子供姿だと着られている感じに見える。ずいぶん見ていない気がするが。
部屋の中央に置かれた木製テーブルに俺達もつく。
魔王様の正面にドルナードが。
俺は、魔王様の隣へと座った。
「突然の話なのは僕も同様だ。ここにいるヒサオには、毎度驚かされている。君もそうなんじゃないかな?」
「それについては同意見だ。最初に交渉話をした時には、まだまだと思っていたが、急激に変化しすぎている。異世界人というのは、皆こうなのか?」
「ハハハハハ」
何て笑った後に、魔王様がボソリと『一緒されたら困るんだけどな』なんて言いやがった。それ自分の事も含めただろう!
「ヒサオについて、あれこれ聞きたい事もあるだろうけど、今回の話は別件だ。聞けば君自身も託宣を消滅させたいという話だけど……本当だろうね?」
「無論だ。手段があるのであれば、ぜひとも協力したい」
「……その理由を聞いても?」
魔王様の視線が、ドルナードの瞳の奥を覗き込むかのように変わった。
俺が教えたはずだけど、本人の口から直接聞きたいのだろう。
「元々、俺は託宣が嫌いだった。指図されて喜ぶ他人の感情が理解できん」
「……続けて」
「何かに依存する。そうしたい気持ちを抱く事は知っている。だが、それを良しとする気持ちは理解できない。なぜ、俺達は、託宣に依存し生きなければならない?」
「それを決めたのは、君達人間だ」
「そうだ。だが、俺が生まれる前に定められたものだ。そんなものに従う道理が俺にはない」
うわ~ 言い切ったよ。
そりゃあ、普通の人間でも思うかもしれないけど、それを口にする人間って初めてみたかもしれない。 あえて言うなら、ラーグスか?
……ああ、でもあいつだって、俺からの情報を神託とかいうものに置き換えて、そっちに依存したに過ぎないか。
「元々って言ったよね? 今でもその気持ちは変わらないのか?」
「当然だ。いや……変わったか? そこにいる偽勇者の知識。お前がいた世界の情景は実に興味深い。あれこそ人間の姿と思える」
「あ、え? 情景って、そういう感じで俺の知識って伝わっているの?」
「色々だ。光景として見えた場面もあるし、逆に訳の分からない単語のみの部分もある。ああ、そうだ!」
何を思ったのか、目を吊り上げて俺を睨みつけた。
「貴様、知識がいい加減すぎる。なんだ、アレは! 理屈が穴だらけではないか。学ぶなら、しっかりと学べ!」
「怒鳴るなよ! 大体、やろうと思って与えた知識じゃねぇぞ!」
そんな理由で怒られるとは思ってもいなかった。
俺を指さし怒鳴りつけてくるドルナードに、素で反論したじゃないか。
「……うん。言いたいことは分かったよ。つまり、君は、ヒサオの世界を知ることで、余計に今の世界に違和感を覚えたって事でいいのかな?」
「そう言う事だ。もっといえば、人間の想像力は素晴らしくも感じた。それを殺すような真似を託宣はしている。度し難いほどに馬鹿げた行為に思えてならん」
「想像力? それって兵器の類のことかな?」
「確かにアレも凄い。だが、俺が素晴らしいと感じたのは、娯楽物の類の方だ」
「は?」
聞いた瞬間耳を疑ってしまった。
娯楽物? なぜ、そっち?
「……どういうことヒサオ?」
「いや、俺にも……」
娯楽物ってゲームとか漫画とか? あるいは、テレビでやっていた各種のバラエティー番組?
「素晴らしいと思わないか? 全く見も知らぬ他人が作り出したものから、感動や笑いを得られるのだぞ。そんなことは、この世界にあっただろうか?」
「……あー…吟遊詩人すらいないからね~」
「言われてみれば見たことないですね」
「魔族も同じなのか? 託宣が無いというのに、お前達も残念な種族だな」
残念な……こいつ、ここがどこか分かっているのか?。
魔王様と目を合わせ、思わず意思疎通してしまう。
「うん?」
俺と魔王様が目を合わせている最中に、ドルナードが首を捻った。
「……妙だな」
「え? なにが?」
「突然どうしたんだい?」
俺達に向けている目は、疑いの眼差しと言えた。急にどうした?
「魔王よ。何故、偽勇者の世界を知っている?」
「……え?」
「惚けるのか? 先ほどから俺が話をしているのは偽勇者の世界。その世界ででてくる出来事を、まるで知っているかのように聞いている。そればかりか、兵器だとか吟遊詩人という言葉すら使ったではないか」
……あ。
まずぅいいいいい!?
何でそんな事で勘づくんだよ!?
お前、もしかして、エスパーとかじゃねぇのか!
「……それは、その……ほら――ね、ヒサオ?」
そこで俺にふりますか! 卑怯じゃないですか!
「どういう事だ?」
「ヒサオ、どういう事?」
おい! ドルナードは分かるが魔王様よ! あんたまで、そっちにつくか!
「ア―…それは、ほら。俺が教えた事があるから。うん、部下だし、一応……そ、そういう事だよ」
「だとしても詳しすぎる。兵器だとか吟遊詩人という言葉が、自然に出てきたではないか」
だぁああああ! もういいだろうが! なんで、そこに拘る!
だいたい魔王様に言えよ! 俺が悪いわけじゃないだろ!
「い、今までだって、俺以外の異世界人がこっちに来ていたし! ほら勇者召喚だって合っただろ。だから、影響を受けてるんじゃないかな? ……で、ですよね、魔王様?」
「え? そうなの?」
ちょ、おま! 人が必死に言い訳考えたっていうのに、速攻で横にそらすなよ! そこはストレートに受けてくれ!
「うん? 異世界人というのは、勇者召喚された者達のことではないのか? そいつらは魔王の敵であろう? 影響も何も話をする事は無かったのではないのか?」
「まあ、あまり話すことはなかったかな?」
そこは否定してくれよ! あんた、何がしたい!
「……魔王。貴様、暴露したいのか、それとも隠したいのかどちらだ?」
「え? いや別に。ヒサオをからかって遊んでいるだけだけど?」
「ちょっとぉおおおおお!!!!」
ドンとテーブルを叩きつけ魔王様を睨む。それを見て、魔王様は腹をかかえて爆笑し始めた。
あ、あんたね!
「いや、ごめんごめん。遊び過ぎだね」
実にいい笑顔で謝罪をしてくる。その笑顔、守りたくないわ! むしろ殴りたい!
「まぁ、最初から協定を結べたら、その事については言うつもりだったんだよ。何しろ託宣というのは、僕達に大きく関係してくる。それを消滅させるとなると、僕達のことも明かさなければならない」
「は? え? ちょ、魔王様、そうだったんですか?」
「うん。ただし、ドルナードが本心から託宣の消滅を望んでいるのであればの話だ。嘘や偽りだと思ったら、この話は即座に打ち切るつもりだったのさ」
「……つまり、これは試されたということか?」
「そう言う事。悪いね」
皇帝を試したってことか。
せめて、俺にだけは教えてほしかった……えらく疲れた感じがする。白髪ができてないよな?
「……まぁ、少し前に嫌な事があって、いい加減、隠すのはやめようかな? とも考えていたんだよ」
ゼグトさんの事か……あの人が操られた事には、魔王様の素性が関係していたしな。操る際の誘導的な言葉だったのかもしれないけど、それを利用されたと思えば、魔王様の気持ちも分からなくはない。
「俺は合格したということでいいのかな?」
「そう…だね。うん。ヒサオが言っていたように、君は今の世界が気に入らないようだ。僕も、託宣頼みの人間達は気に入らない。人間は人間として成長してほしいと願っている。託宣は……」
会話の途中で言葉をとめ、同時に目を閉ざした。
再度開いた茶の混じった瞳からは、怒り以外の感情が消えていて、
「邪魔だな」
続け放った言葉と同時に、体から冷気のようなものが放たれたのを感じた。
イルマが放つ本気の殺意とは比べ物にならない。
あいつの殺意は、わずかだけど温かみが残るから。
「……ようやく魔王としての顔を見せたな。これでようやく会談を始められる。まずは、先程の話がどういうことなのか聞かせてもらおうか。魔王サルガタナスよ」
「そうだね。皇帝ドルナード=ファン=エンペス。僕達の会談を始めようとしようか」
どうやら、会談というのは、俺が思っていたのとは違うようです。
なんで、こんな疲れる2人の間に、いなきゃならないんだろ?
……もう帰りたい。




