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第216話 自己紹介

 オッサンが快諾してくれた。

 どう言う訳なのか、説明が終わると同時に「いいぞ」という言葉がかえってきて話が終わってしまった。


 3人がそろったし、さっそくドルナードに連絡とりつけ、迎えにいくことを伝える。

 野営している大森林跡地に到着する前に、岩壁がある場所でミリアが転移魔法陣を描いた。


「あらかじめ作っておいたほうがいいでしょ」


「そうだな」


 当人達の前で作ってやる理由はないだろう。転移魔法陣が存在することですら明かしたくない情報だ。もっとも、すでに知っている可能性はあるけれど。


「しかし、ずいぶんと簡単に作れるようになったな。魔力のほうは大丈夫か?」


「消耗するのは以前と一緒よ。だけど回復量が段違いね。作っている最中でも回復してくるわ」


「え? そうなの? 杖を持っていなくてもか?」


 魔法陣を書いている最中は、流石にミリアだって杖を手放す。その杖の効果を抜きにして回復しているってどういう事?


「アルフが世界樹になりつつあるせいよ。ヒサオが倒れる前からの状態が、今でも続いているの」


「ああ、それか。その影響がここにも?」


「ここというか、すでにイガリア全土に広がっていると思うわ。今のイガリアなら、使った魔力がすぐに補充されている感じね」


「ファ!? そんな状況になっていたのかよ!」


 俺の知らない間に、イガリアって凄い状態になっているんだな。

 世界樹に成長しきる前から、そんな状況になるっていうことは成長しきったらどうなるんだろう?


「そんな場所であってもモンスター達の襲撃による被害は増えておる。ヒサオの提案が、救いとなるといいな」


「オッサン?」


「……お主なら1人で道づくりを出来そうじゃ……例外というべきか?」


 独り言にも思える声に思えた。

 俺に聞かせるというより、自分の考えを口にしているだけのような……ちょっとおかしいな? 何かあったのか?


 オッサンの声を聞いているうちに、ミリアの方が終わったらしい。目的を終えたので大森林跡地に3人ともが馬で向かう。

 そこは芝生のような草木が生えており、以前来た時とはうってかわっての様子。荒地ではなく、もう平原といった具合だった。新緑の匂いを胸に吸い込みながら、ドルナードを位置検索しながら向かうと、帝国軍の陣営地が見えてきた。


「……あれがそうか」


「帰らなかったのね」


「ここで待たせる気のようじゃな」


 判断はドルナード任せだったし、ここならイガリア住民にも迷惑がかからない。条件どおりといえば、その通りだな。


 「いた……側に2人ほどいるけど、たぶん護衛だろうな」


 見つけると同時に指差し2人へと教える。

 複数のテントが建てられた陣営地。その入り口手前あたりに、ドルナードと他の2人が顔を突き合わせ何か話あっていた。何もそんな場所で立ち話をしなくてもいいのに、と思える光景だ。


 俺達が近づくと、気付いたようでこっちを見てくる。


 まず中央にいる中肉中背の男。この男がドルナード。

 狩人がきるような衣服を身に着けている。防具的な意味でいえば、胸当てだけはあるけど、あとは普通の衣服だ。とても皇帝とは思えない。


 その衣服もそうだけど、髪や目もまた茶系が強い。

 黒縁眼鏡をかけていてインテリな感じがするけど、その奥にある瞳からは、獲物を狙う狩人のような視線を感じられる。見た目通りの優男ではないだろう。

 そもそも身に着けている衣服が、やけに似合っていやがる。こいつ、本当に皇帝なのか? 普通に弓もって獲物を狩って過ごしていると言われても信じてしまうぞ。


 隣にいる背丈がでかく肉付きがいい男。ドルナードと比べると頭2つ分ほど離れている。

 そこにちょっとした岩があるかのような存在感。肩にかついだ抜き身の大剣。頬にある十字の傷が、彼自身の人生を物語っている気がした。

 こいつが、前に鑑定したことがあるブロードとかいうやつだった。


 でもって、もう一人。こいつは誰か不明。

 だけど、側につけているということは信頼を置いているということなんだろうな。

 背丈や体躯はドルナードとほぼ変わらなく、髪の色も同じ。目の色だけは、ブロードと同じく青い。ミリアやユミルのような透き通った感じがする青さではなく、深く濃い色をしていた。

 足をくみ、両手を頭の後ろで組みながら、俺達の事をどうでもよさそうに見ているけど、内心ではどうなんだろうな? 腰にぶら下げてある鞘は、結構年期が入っているように見える。

 詳しく鑑定してみたいけど、すでにドルナード達は目前。後にしておこう。


 そんな3人に近づいてから、俺達が馬からおりた。

 オッサンは片手ハンマー。ミリアは世界樹の杖をにぎりしめながら、俺の後からついてくる。


「……初めまして。でいいよな?」


 ドルナードの前に立ち、俺のほうから口を開いた。

 近づき話かけた俺達に、両隣にいた護衛の2人が目を光らせてくる。

 ああ、名乗るのを忘れた。でも、声で分かるだろうな。事実そんな目で見られている。


「そうだな。実際こうして会うのは初めとなる。貴様が扱うスキルのせいで、あまりそういう感覚もないがな」


「俺も同じだ」


 俺とドルナードの間で、挨拶替わりの言葉を交わしていると、両隣に立っていた2人からの殺意に近い感覚が鈍った。


「魔王と会う前に、貴様とゆっくり話をしたい。その時間はもらえるのか?」


「話? ………いや、それはやめておこう。魔王様のいない場所で面と向かって話し合うのは避けたい」


「なぜだ?」


「信用の問題だよ。俺は魔王様の配下だからな。その信用を失うような事は嫌だ」


「通話とかいうスキルはいいのか?」


「あれは、どうしたって2人での話になるし、面と向かうわけでもない」


 話事態には興味があったけど、それは会談中でも出来る。

 魔王様がいないところで話をしたいという事は、聞かせたくない事だろうし、それをこの場で言われても困るだけだ。


「わかった。では、急ぐとしようか。ここからエーラムまでは距離がある。道中に話をするのも良かろう」


「あー…いや」


 転移魔法陣の事を口にしたとき、ドルナードの隣にいた男が口をだしてきた。


「陛下。まずは紹介してくれませんか? 護衛としては、そちらさんの面子の事も気になります。ドワーフがいるなんて聞いていませんよ?」


 俺達に対して値踏みするような目をむけつつ、わざと聞こえるような声をだしているな。


「ワシか? 気にする必要もないのじゃが、そういうのであれば自己紹介をしよう。名はジグルド。どこにでもいる鍛冶師にすぎん」


 ……うん。最後の事に突っ込まないぞ。

 オッサンの場合、本気で思っているから性質(たち)が悪い。他の鍛冶師が聞いたら落ち込むぞ。


「次は私ね。名前はミリア=エイド=ドーナ。ヒサオの護衛として思ってください。ただ、すぐに離れると思います」


「離れる? エルフの娘よ。エーラムまで付いて来るのではないのか?」


「そうしたいのは山々ですが、こちらにも事情があります。それとすぐに離れるとはいえ、エルフの娘という呼ばれ方は好みません。ミリア。もしくは、ドーナでよろしくお願いします。皇帝陛下」


「わかった。そうするとしよう」


 おやおや? 俺やオッサンと違って丁寧だな。普通はこんなものだろうけど。

 次は俺かな? と一つ咳をしたが、


「では、次はこちらの2人を紹介するとしよう」


 あら? 俺なしか。

 それに、ドルナードのやつ自分自身の事を言う気はないようだな。


「先ほど口をだしたのが、トーマ=ウィス。色々と便利な奴なので同行させる事にした。俺の小間使いと思ってくれて構わん」


「トーマ=ウィスです。先ほどは失礼しました」


 紹介された男が、最初に会った時のような態度を改め、オッサンに頭を下げた。


「普段は軽薄なやつだが、この通りの男だ」


「へ、陛下!?」


 バっとドルナードを向き非難じみた声をあげたが、その声は無視され左にいたブロードの肩に手をポンとのせた。


「あん?」


「このバカでかい男はブロード=マキウス。見てのとおり戦いでしか役立たん。将軍をやらせてはいるが、その実、部下達に任せっきりという無能ものよ」


「お、おい!」


 ひどい紹介だな! トーマに関してもそうだったけど、そのブロードという男って、お前の友人じゃないのか?


「いざとなったら見捨ててやろうか、まったく……ああ、ブロードだ。道中よろしく頼むわ」


 言葉ほどには怒っていないようだな。ジャレあいみたいなものか?

 鑑定した時も思ったけど、イルマに似た感じがする。


「さて、互いの紹介もおわったな。案内よろしく頼むとしよう」


 ドルナードがそういうなり、護衛の2人が近くにいた馬へと向かい歩き出したけど、


「あー 馬は必要ないよ」


 設置した転移魔法陣までは、歩いてでもすぐに行ける場所だ。あそこまで馬で行く必要もないだろうし、エーラムにいったらすぐに戻ってこれるわけでもない。俺達の馬も、ここにおいていくか。


「それは、お前達が連れてきた馬に乗っていくという事か?」


「いや違う。すぐ近くに、エーラムまで転移移動できるものがあるんだ。それを使おうかと……」


 説明している俺の横を、オッサンが2頭の馬を連れて陣営内に歩いていく。察するのが早いな……


「……まぁ、俺達が乗ってきた馬も置いていくから好きにしてくれ」


「……どういうことなのかよく分からぬが、信じて良いのだな?」


「これから会談しようとする相手に嘘はつかないよ。とりあえずいこうぜ。場所はすぐそこだ」


 言った通りドルナード達を連れて、魔法陣を設置した岩陰に向かった。


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