第214話 約束の報酬
早朝になり軽く訓練してみる。
竜人さん達に相手をしてもらったんだが、手を抜かれている感じがした。
多少は強くなった感じがするんだが、彼等からみれば、ほとんど変わらないレベルなんだろう。
汗をタオルで拭った後、ミリアと一緒に朝食をとる。
その後、どうしても気になるダグスについて考えた。
あいつはしっかりと問い詰めないといけない。これは絶対といってもいい。
かといって、どこにいるか分からないし……
「ミリア、心当たりないか?」
「え? 何の?」
「ダグスだよダグス」
「ああ……えーと、そうね……アルツは?」
「戻ったってか? ありえるのかな?」
「さぁ?」
「……」
どうも様子がおかしい?
いつもなら、もうちょっと説得力のある事を言ってくるんだが?
「コルクスはいないだろうし、アグロ行の馬車に乗りかけていたなら、アグロに?」
「かもね」
「……」
まるで、気持ちがこもっていない。心ここにあらずって感じがする。
「も、もしかしてブランギッシュに!?」
「ありえるわね」
「……」
自分で言っておいてなんだが、それは無いと思うんだよな。
ここはもう一つ……
「もしかしてオズルに!」
「きっとそれよ」
「……」
うん。確実に聞いてないな。
これはお約束のセリフをいわねばなるまい。
「ミリアって可愛いよな」
「まぁ……へ?」
あ、聞いてた。
今、何を言おうとしたんだろう? ちょっと残念。
「な、なによ!? 突然、変なこといいださないでよ!」
「いや、なんか、聞いてない感じだったし、どう返事するのかな~と」
「そんなの知らないわよ! 馬鹿!」
怒鳴ってから立ち上がって、厨房へと食器を持っていく。
怒らせてしまったかな? また、なだめないと駄目かな?
しかし、なんで変なんだ? 昨日までは普通だったと思うんだけど。疲れがでてきたのかな?
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居場所がわからないんじゃ、やりようがない。
このまま砦にこもって精霊樹を守るのもいいけど、後手に回りすぎている気がする。
どうせなら、こっちはこっちで、別の手を打った方がいい気がするな。
「ちょっと通話する」
「わかったわ。聞いていてもいい?」
「うん? ああ、もちろんいいよ」
「そう。なら側にいるわ」
「え? ……あ、うん。いいけど」
やっぱり、おかしい。
普段ならこんなこと言わないのに……本当に大丈夫か?
「なに?」
「いつもと違うからさ。熱でもあるのか?」
「無いわよ。あったら、自分で治せるし」
「そうだったな」
病気や怪我なんかは治癒できたんだったな……じゃあ、単に疲れている?
「あんまり無理はしないでいいからな?」
「な、なによ! あんたこそ、変なんじゃない!?」
「……心配した俺が馬鹿だった」
もう、いいや。黙って通話しよう。
相手は約束をしていた、あいつだ。
トゥルル―…ガチャ
「ドルナード。聞こえるか?」
『……貴様か。ああ、聞こえている』
「なんだ、元気がないな?」
『世間話なら余所でやれ。俺は忙しい』
「いつも忙しそうだな。まあ、世間話をしたいわけじゃないのは俺も一緒だ」
『そうか。なら手短に話せ。移動の最中だ』
「移動? ユミルはどうした?」
『むろん助けた。しかし、そのまま居座るわけにもいくまい』
「……ああ、アルフヘイムのことがあるからな」
『そういうことだ』
思わなくても分かることだが、帝国はアルフヘイムを滅ぼしている。
その事があるかぎり、帝国との和解は簡単な事じゃないだろう。
「そういえば、何でユミルを助けたんだよ?」
『なに? ……貴様どういうことだ? 知った上で、俺に頼んだのではなかったのか?』
「俺が知っていたのは、あの場にお前たちがいた事。そして助ける気があったこと。あとは、お前自身が本来たどるべきだった道筋についてだ」
『……少しまて。皆を止める』
どうやら、こっちの話に興味をもったようだ。じっくりと話をする気になったんだろう。
『よし。全て話せ。それが報酬だったはずだ』
「話せる範囲で話すよ」
『全てといったはずだ』
「知らなくてもいいことってあるだろ。自分の未来とか知りたいか?」
例えば、外に妻を作っているのに城で死んだとかさ……もうちょいやりようがあったんじゃねぇの?
ちょっと奥さんと子供が可哀想な気がする。
『先にも言ったな。どういうことだ? お前は、俺がどのような未来を行くのかわかるというのか?』
分かる。と言おうとしたが、俺が知っているドルナードと、今のドルナードは違っているんだな。
「悪い。違った。俺が知っているのは、別のお前の事だった。今のお前が、どういう未来を歩むのかは分からない」
『話が見えん。もっと詳しく言え』
「そうだな……まずは、俺が《接続》というスキルを得たことから話そうか」
腹をきめて、ドルナードに話し始めた。
最初の交渉時に感じた恐怖感。それはもうない。
思い返せば、あの時は小細工しまくりだったし、それがいけなかったんだろう。
ずるがしこい悪徳商人相手ならまだしも、ドルナードのような相手に対しては逆効果なのかもしれない。
そんなことを考えながら、ありのままを話終えた。
もちろん、別のドルナードが送った人生については隠したけどな。
『……ククク。貴様には毎回驚かされる。恐るべきスキルを得たものよ。貴様1人で国をつぶせそうだ』
「それは、過大評価すぎる」
『そうでもなかろう。俺に、もし貴様のようなスキルがあれば、この大陸全てを制覇できるやもしれん』
「……お前の望みって結局それなのか?」
だとしたら、これ以上話すことはできない気がする。
魔王様と謁見させて、話をさせてみたいとも考えていたけど止めようかな?
『いや、そうでもない。今の俺は、それよりもやらねばならぬ事をみつけた』
「やらねば? なんだそれは?」
『託宣を失くし、この世界を俺達の手に戻す』
「……託宣を?」
なぜこいつが、こんなことを言い出したのか分からなかった。
人間達にとってみれば、託宣は必要なものだという認識があったから。
それが、帝国であったとしても、この点については同じだと思っていた。
だけど、俺がもっと気になったのは『俺たち』という言葉のほう。
この言葉。
この言葉の意味。
俺もまた、この言葉の意味をはき違えていたことがある。
バァちゃんに諭されて、間違っていたことを思い出した。
ドルナードは、どういう意味で考えているんだろう?
『どうした? もう言う事は無いのか?』
「いや……その前に聞きたい。俺達ってのは誰のことだ?」
『そんな事か? むろん、この世界にすむ住民すべてだ』
「へ? 住民すべて? じゃあ、獣人や魔族もか?」
『残念だがその通りだ。託宣によって振り回される人間も、その前に敗退する魔族達も、見ていて反吐がでる。なぜ、この世界で生きている俺達が、不確かな存在の言葉で生き方を左右されねばならん。そんな世界のどこが面白い?』
「……面白い? ……て、お前……え?」
参ったな……こいつ、俺が考えていた以上に……
「ハハハハ――なんだ、そうなのかよ」
『どうした? 急に笑い出して?』
いや、これ笑うしかないだろ。
なるほどな。こいつが勇者として歩む道筋があるわけだ。
こいつは、どこまでも自分自身の力で歩みたいんだろう。
そして、それを他者にも求めている。
他人すら強くする。そんな力をこいつは持っているんじゃないだろうか?
「お前、やっぱり魔王様と会わないか?」
『前にも聞いたが、本気か? だとしたら、願ってもない』
「本気だ。今のお前なら、魔王を討伐して勇者になろうとはしないだろう」
『それは実際に会ってみなければわからぬぞ』
不安になる様な事を言うんじゃない。
でも、実際に会うか……
そうだな。こいつと魔王が戦った世界では、両方とも面と向かって会っていないんじゃないか?
話し合いの場も持たずに、戦って、ドルナードが勝った。そんな感じじゃないのかな?
俺が知らない魔王。
俺が知らないドルナード。
この両者がぶつかりあったのは、もう別の世界の歴史になっている。
その世界と、この世界は違うんだ。
これは可能性。
全く別の未来をつくりだすための道が、今、俺の手の中にあるんじゃ……
「うぉ! ちょっとゾクってきた!」
『なんだ? やはりやめる気になったのか?』
「い、いや。むしろ逆かな? やっぱりお前、魔王様と会ったほうがいい」
『……よくわからないが、それが叶うのであれば、俺としても望ましい』
「よし! 段取りはまかせろ!」
意気込みよく通話をやめようとしたけど、
「ところで、お前って今どこなんだ? もうウースに帰り着いていたりしないよな?」
『……それを今になって聞くのか? 今は大森林跡地だ。ここまで来たのだ。どうせならジェイド王と会うのも一興だろう』
「……軍勢つれてか?」
『そうだが?』
「……戦争になるって考えなかったのか?」
『今は、国境沿いに兵が配置されている。戦いにすらならんだろう。こちらとしても戦う意思はないが、それでも向かってくるなら叩き潰す』
「それ一興じゃないだろ! 普通に侵略しようとしているんじゃないか!?」
『俺は会ってみたいだけだ。向かってくるなら戦うが、それ以上は望まん』
駄目だこりゃ。このままじゃ、厄介な事になりかねない。
仕方がない。
「魔王様と会う段取りはするから、その交換条件ということで大森林跡地で待っていてくれよ」
『貴様! 後だしで交換条件をつきつけるとはどういうことだ!』
「これ決定な。守ってくれないなら、魔王様との謁見はなしってことで!」
『言い出したのは貴様ではないか!』
全く持ってその通りなんだが、もう決めた。
「決まったらまた連絡いれるから、誰にも迷惑かけずにおとなしくしていろよ」
と言い捨てて、ガチャっときった。
……
俺、とんでもないこと言った気がするが、気にしないでおこう。俺自身のために、その方がいい気がするし。




