第208話 砦での決着
「ぐぅ!」
銀狼の突進攻撃をくらい、カリスが砦の門へとぶつかる。
「ウォン!」
さらに、倒れたカリスの上へと銀狼が覆いかぶさってくるが、右拳をカウンター気味に打ち当て吹き飛ばす。
崩れる壁から背をはなし、起き上がると頭を軽く振るった。
(以前とは違うぞ)
自分が覚えているロイド=ウィスパーと比べ、苛烈な攻撃性が薄れ、隙を伺っている様子が増えてきた。
(……ロイドは、こうではなかった)
ロイドと戦った時に感じた高揚感。
それは、互いに互いを高めあうような、心地よい戦闘だった。
己が力を遠慮なしにぶつけられる相手。
互いの力を引き出しあい、限界すら超えていき自然に笑みすら浮かんでくる。
ロイドにとってみれば、蓄えていた力の制限時間を気にしていたのだろう。
力の出し惜しみを一切せずに、最初から最後まで全力を貫いていた。
それは純粋なまでの力の行使。
ぶつけられたカリスもまた、負けじと力をふるう。
共に高みへと登っていくかのような感じすら覚える戦いだった。
それが、カリスとロイドの戦い。
しかし、今戦っている銀狼からは一切感じ取れなかった。
(楽しんでいる場合ではないが、これほど感じないとはどういう事じゃ!!)
楽しむとは真逆の感情。怒りすらわく。
感情を捨て、空から攻撃を仕掛けることもできたが、砦の中に入っていかれる可能性もあり出来ずにいる。
立ち上がったカリスは、両腕を握り距離を近づけると、体を横に一回転。
尻尾を叩きつけるように振り回すと、銀狼が後ろに飛び跳ね回避した。
「甘いわ!」
よけた銀狼に、火炎のブレスを放つ。
回避されるのは知っていた。
カリスが狙ったのは、飛び跳ねよけた瞬間。
尻尾を叩きつけると同時に、ブレス攻撃の準備をしていた。
後ろに回避した銀狼の姿が、火炎の中に消えるかに見えたが、ブレスが消えた場所に銀狼の姿は無かった。
消し炭……になるような火力ではない。
怯ませ、さらなる攻撃へと繋げるつもりだったが、視界から見失ってしまった。
どこじゃ? と周囲を見渡すと、背に激痛が走った。
「――――ツ!!!」
痛烈な痛みにより、よろめき倒れる。
カリスの背をみれば、そこに有ったはずの片翼が引き千切られていた。
「き、貴様……」
「グルルルゥ」
口に咥えていたカリスの翼を地面に捨て、勝利を確信したかのような嫌な笑みをみせる。
それは、あざ笑うかのようのだった。
この時確信した。
ロイドでは無いと。
全く別の個体だと。
銀狼が騙したわけではない。
だが、再戦を願っていたカリスにとって、銀狼という存在はロイドを思いださせてしまう。
それが、意図的なものではないとしても、カリスにとってみれば願いを利用されたかのように思えた。
「たわけがぁああああああああ!」
怒声をあげ、地にふしたまま燃え広がる業炎を吐いた。
怯ませる為の火炎とは違い、砦にすら被害を及ぼしかねない。
勝利を確信していた銀狼は、驚く顔を見せ退避を行う。
銀狼がカリスの様子をみる。
後どれほどの力が残っているのかを観察しているかのように。
(負けぬ! 貴様なぞに負けるわけにはいかん!)
銀狼の表情が、カリスの力を増幅させる。
どこにあったのか分からない力を奮い起こさせる。
それは怒りによる力の発露。
口を開き、両爪を前にし、銀狼へと飛び掛かる。
自分へと向けている表情が憎い。その一心で。
「クッ!」
銀狼は、感情的な攻撃を繰り出したカリスの真横へと飛び跳ね、そのまま体当たり。重心を崩され、大地に倒されてしまう。
「グルルルゥ……」
またもあざ笑うかのような声。
倒れたカリスに伸し掛かれば勝負がつきそうなものを、まだまだ弱らせようとしているのか、距離をおきジーと見ている。
(こやつに負けたら、ロイドに顔むけできぬ!)
それだけは、断じてできないと、再度力を奮い起こし立ち上がるが、吐く呼吸音が切れ切れになっていた。
もはや、気力のみの状態。
怒りによって湧き出た力は残っているが、徐々に消失していく。
態勢を立て直しつつ、怒りを抑える。
残された力をどうやってぶつけようかと考え始めた。
冷静さを取り戻したのはいいが、同時に湧き出た力も消えていく。
一点突破を狙うかのように、カリスの目から獰猛さが消えていった。
怒りを抑え出したカリスが、次なる攻撃手段を講じていた時、
『カリスさん、スキをつくります。力を貯めてください!』
頭の中に唐突に声が響き、張りつめていた緊張が緩んだ。
「……ヒサオか。どういうことじゃ?」
『話は後で。上手くいくかどうか分かりませんが、合図をするまで何もしないでください』
「お、おい? 何もするなじゃと?」
このような状況で、攻撃一つできないのか?
そう考えたが、すでに体が動いていた。
銀狼との距離を詰めず、逆に後退。
それを銀狼は勘違いしたようで口角を緩ませ、牙を見せた。
(似ておるのは力や姿のみか。どこまでも苛立たせるやつめ)
距離を取ったのは、本能的なもの。
恐れからではなく、ヒサオの声に従うことを選んだから。
ジワリ。
獲物との距離を保とうと銀狼が一歩つめよる。
これ以上の力を使わず、カリスを狩ろう。そう考えているのが透けて見えた。
そのカリスといえば、力を貯めこもうと息を整え始めた。
いつ飛び掛かってくるかも分からない銀狼を前にし、息を吸って吐くという行為を意識する。
その度に、カリスの目に覇気が戻っていく。
カリスの目つきが変わったのを感じたのか、銀狼が低い唸り声を上げた。
頭と態勢を低くし、やってくるであろう攻撃に備えだす。
空気が圧迫され弾け飛びそうな程に2人の間で緊張が高まる。
そんな緊張が唐突に崩れたのは、銀狼の目つきが変わったことによるものだった。
「グゥ?」
何が起きたのか全くわからないが、銀狼の様子が急に変わった。
低くしていた態勢を元に戻し、普通に立っている。
鋭くカリスを観察していた目は、ボヤーとした虚ろな目つきになった。
何が? いや、理由はどうでもいい。今なら、最高の攻撃チャンスでは?
と、思い動きかけたが、ヒサオからの合図がない。
(何をしおった?)
全く意味が分からず、砦のほうへと顔を向けると、すでにモンスター達の姿がなく砦前に人々がいる。
観客とも言える人々の中にヒサオの姿を確認すると、携帯を持って耳にあてていた。
(何を? それより、合図はまだか?)
ええい、こうなったら!
顔を銀狼へと戻し、貯め込んだ力を開放しようとしていた瞬間。
「キャン!」
まるで犬が泣き叫ぶような声を出し、その場で「ウェ」っと嘔吐。
「な、なんじゃ!?」
1つの事を理解する間もなく、さらに様子が変わってしまい、貯めこんだ力が漏れ出した時、
『いまです! やっちゃってください!』
「ええい! くらぇい!」
待っていた言葉に対し、納得しかねるような返事をしつつも、残された力の全てを口から解き放った。
ゴゥ!
という高音すら出し、カリスの口から業炎が吐き出される。
戦闘中つかっていた燃え広がる炎ではない。
空中戦闘時にみせた、一点突破のレーザーのような炎。
嘔吐までした銀狼は、業炎が放たれた瞬間に気付くことが出来たが、体に力が入らなく左半分を消滅。 銀狼の体を消し去った業炎は、そのまま大地を削りとり、爆音すら鳴り響かせいくつもの火柱を立ち上がらせた。
「……終わりか?」
唖然とした声をだしたのは、カリスであった。
確かに手ごたえは有ったのだが、勝ったという感覚が湧き上がってこない。
そんなカリスとは違い、砦前にいる人々の中から歓声があがると、ようやく勝てたという意識が膨れ上がる。
終わった。
そう考えると、急に体から力が抜け落ち、カリスの体が小さくしぼんでいく。
元の体に戻ると、その場で膝をつき倒れかけるが、カリスの右手がガシッと掴まれた。
掴んだのは、ヒサオであった。
「ミリア、頼む」
「分かってるわよ。《回復》」
ミリアの神聖魔法が、翼をもがれた傷口をふさいでいく。
元に戻すことはできないが、これ以上の出血を防ぐ意味で行ったのだろう。
2人の次に、今度は若い竜人達や、エルフ達がカリスを取り囲み始めた。
勝利を祝うかのように、皆の顔に笑顔が灯っている。
(……勝てたのだな)
満足がいく勝利とは言うには遠いものがあったが、自分が守るべき存在達を目にし、これで良かったのだろうと、カリスが安堵の息をつく。
「おっと!」
カリスの体から力が抜け、ヒサオに全体重が圧し掛かった。
「「「カリス様!」」」
集まってきた竜人達が、カリスの体を支え起こす。
見れば、目蓋を閉ざし気を失っていた。
「砦に運ぶぞ!」
「急げ!」
「いや、ゆっくりとだ! あまり揺らすなよ!」
「どっちだ!」
「いいから、ゆっくりと急げ!」
「お、おう!」
加減がわからない竜人達が、いそいそと揺らさずにカリスを砦内へと向かい、ヒサオとミリアも後をついていく。
ヒサオが使ったのは通話交渉術。
これで4人目?の犠牲者という事になるだろうが、本来の使用方法から離れていくのはどういう理由からなのだろう……
ヒサオ「4人目? あれ? 3人目じゃないのか?」
フェルマン「俺、門番A、銀狼。のはずだな」
ヒサオ「そうですよね? 作者のやつ間違えたかな?」
門番A「(忘れてる。この人達しっかり忘れてる。ペナルティーを含めれば、
一番の被害者が誰かという事ことを)」




