表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/273

第207話 忘れられない敵

 ――アグロ砦


 カリスは忘れない。

 その姿を決して忘れはしない。


 体を覆う銀の美しい毛並み。

 他者の心に恐怖と魅了を同時に与えるかのような姿。

 吐く息は全てを凍てつかせ、全力疾走する姿を近距離で目視するのは困難。

 鋭く生える牙は、顕現化したカリスの鱗すら易々と突き破り、致命傷すら与えられる。


 カリスの好敵手にして、テラーの父。

 ロイド=ウィスパーが《吸精石(ドレインストーン)》を使って変化した姿。


「なぜじゃ! なぜ、お前が生きている!」


「グルルルゥゥ!」


 竜王として顕現したカリスが砦の外にいた。

 相対しているのは、一頭の銀狼。


(わからん! なにがどうなっているのじゃ!)


 攻め入ってきたモンスター達の中から突然、銀狼が出現した。

 その姿を目視したカリスが、眼前に立ち塞がり戦いを始めている。


「グッルウウ!」


「クッ! 相変わらず早い!」


 大地を蹴り上げ、跳ね飛びまわる。

 速度の強弱を意図的に使う事で、その場から消えたかのように見せる。


「グラァアア!!」


「させんわ!」


 大きな口を開き、カリスの首を食いちぎろうと覆いかぶさった。

 カリスは突き出された2本の牙を両手で掴み地面へと投げつける。

 叩きつけられた衝撃で地面が揺れ、アグロ砦にいた生存者たちが身を震わせてしまう。


「くらえぃ!」


 相手が身を起こす前に、カリスが業炎を吐き出す。

 一点集中型ではない。拡散させたものだ。

 炎が届く前に、銀狼が跳ね飛び躱す。


「今は、貴様との勝負を楽しめる場合では無いと言うのに! ええぇい!」


 さらに業炎を吐くが、銀狼は身を引きカリスから距離を取り……息を大きく吸った。


「ぬっ!」


 何をするのか悟ったカリスも再度息を吸い込む。


 一瞬早く、銀狼が大地すら凍てつかせる氷のブレスを吐き出す。

 地面が凍り付き、周囲の温度が急激に下がる。

 氷の散弾すら混じったようなブレスが、カリスへと襲い掛かったがカリスの口からも業炎が吐き出され、炎と氷のブレスが激しく衝突。

 2人の息が途切れると、そこには、凍てついた大地と焼野原となった両極端な場所が出現。


 そんな状態になったことを気にも留めず、2人はさらに戦闘を続けた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ……なんだありゃ?


 砦にやってきた俺達は、まず、中を襲っていたモンスター達を目撃した。

 前に見た時は怪鳥類が多かったが、今回はまったくの別系統。

 そのほとんどが野獣タイプであり、俺達とは組みやすい相手だった。

 このタイプは、わりと遭遇率が高いやつなので対応策だけなら結構ある。


 こっちの方はなんとかなると思うんだけど、砦の外で竜王顕現しているカリスさんと、銀毛をした巨狼がぶつかり合っていてさ……なにあれ? って言いたくもなる。


「どういうこと? ダグスがいるんじゃないの?」


「俺に聞かれても……」


 ゼグトさんを操ったと思われるダグス。あいつは、アグロ砦にむかう駅馬車に乗りかけていたという。

 だから、砦にある精霊樹を狙ってくると思っていたんだよ。

 だけど実際きてみれば、何がどうしてこうなった? と、口から勝手に出るような状況になっている。


「まずは、こっちをなんとかしようぜ」


「それもそうね」


 銀狼のことはカリスさんに任せ、まずは砦内部に入り込んでくるモンスターの処理が優先だろう。

 アルフヘイムにいたエルフ達はかなり少なくなっているけど、アグロにいると思っていた竜人さん達が砦にいてくれたようだ。そのおかげもあって、戦闘態勢が整っている。


 前衛を竜人さん達が。

 後衛をエルフ達がやり、上手いこと守れている。

 おまけに、竜人さん達自身も火炎のブレスを吐き出せるので、砦に侵入してきているモンスター達の処理がスムーズに行われていた。

 こうなってくると、外での戦闘結果次第か?


 あの銀狼が、もしカリスさんを……いや、そうさせないための手段を考えないと……

 見る限りでいえば、互角の勝負という感じがするが余裕をもたせたい。


 砦の中から、カリスさんに向かって強化魔法……無理だな。距離がありすぎる。

 じゃあ、モンスター達を突破して近づいて……こっちが危険になりそうだ。


 地形すら変えて戦う場所に下手に近づいたら、こっちがやられかねない。魔道砲が連射されている場所に向かうようなもんだし、うーん……


 出来ること……

 俺ができること……

 ミリアにもかなり以前に言われたことだが、まずは、自分ができることを考える。


 鑑定、解読、通話、交渉術、通話、接続。後は……バクダン?


 まぁ、最後のは駄目だろうな。

 あんなに動きまわる相手に当てられる気がしない。下手したら、カリスさんを巻き込みそうだ。

 となれば、鑑定かな?

 あの銀狼を鑑定して扱える能力を探って、カリスさんに通話して教えれ……ッツ!


 ピーン――――――――


 まただ!

 突然の耳鳴りのあとに、表示される文字。


 {銀狼・弱体・再生者・同質・記録の海・力・消去}


 相変わらず意味が分からない。

 これが文書に置き換えられると、意味が分かるのだから不思議だ。


 出現した文字が、ぐにゃぐにゃと曲がりだし黒い球体へと変化。

 空中に浮かぶ文字の塊が動き出し、俺の胸元めがけて飛んでくる。

 そして、激しい頭痛が……クソ!


 モンスター達がせめてきている砦の中庭で転がり悶える。

 周囲の人々が何が起きたのかと声をだし始めた。


「またなの!」


「ぐぅううう!」


 ミリアの声が聞こえる。

 2度目なので流石に分かってくれたか。

 そんなミリアの声が耳に届いたあと、さらに痛みが増した。


「――ツゥ!!!!」


 出す声すらおかしい。

 2度目の痛みは、さらに文字が入って来た為だろう。その証拠に、頭の中に追加情報が浮かび始めた。


 必死に割れるような頭の痛みに耐えながら、変換されていく文書を読み取る……が、


「ちっくしょ!」


 まだ頭痛はするが、怒り狂ったような声をだしながら立ち上がった。


 1度目の文面はこうだった。


『銀狼は記録の海から再生された存在。同質の力による消去。あるいは弱体が可能』


 これはこれで、ありがたい。

 俺が怒鳴ってしまったのは、これが理由じゃない。

 後にやってきた、取説じみた追加情報に対してだ。


『《接続》《極通訳》《真解読》《極鑑定》保持者である、日永久雄は、現時刻をもって記録の海への《接続》資格を有すると判断。配布済みの接続マークから、一部の記録のみが閲覧可能』


 文面の意味はなんとなく分かる。

 記録の海にある情報を自分の意思で閲覧できるって事だろう。

 それはスゲェと思うんだが、「配布済みの接続マークってなんだよ!」って話だ。

 そんなものを、貰った覚えはないぞ!


「ヒサオ、何か分かったの!?」


「分かるには分かったが……」


 まだ痛む頭を抑えながら事の次第を伝えると、彼女の顔が徐々に険しい物へ変わった。


「なにそれ? カリスさんと戦っているのって、アンデットみたいな感じ?」


「……微妙に合っているような、違うような」


 俺とはまったく違う点を気にした。

 ミリア的には、まず銀狼をなんとかしたいのだろう。その気持ちは良く分かるので、俺なりに考えてみた。


 あの銀狼は、記録から再生され実体化した存在。アンデットとは若干異なると思う。

 どちらかといえば特撮シリーズに出てくる、再生怪人のようなものじゃないだろうか?


 だけど、あっちは、主人公ヒーロー達に、あっという間に倒されていくんだけど、この銀狼はまったく違うな。カリスさんと対等に戦っていて、すでに砦の外壁が破壊され始めている。


「カリスさん押されてない?」


「……俺にもそう見える」


 考えてみれば、俺が眠った時から、この砦は何度となく襲撃を受けている。

 その度に、カリスさんは戦っていたわけだから、疲労が溜まっているんじゃないだろうか?

 だとしたら長期戦はマズイ。ただでさえ、あの人は老人なんだし……


「こっちが片付いたら、すぐに手助けにいくわよ」


 ミリアの言う通りだとは思う。

 砦の中に入り込んできているモンスター達は、もうじき片が付くだろう。

 そのあと手助けに回るのがベストだとは思うが、下手に手をだしたら被害者が続出しそうだな……


 何か良い手は……


 ……

 ……

 ……あったわ。

 なんでこれを思いつかなかったかな?

 通用するかどうか怪しいけど、やってみて損はないはず。


 よし! 今行くよ、カリスさん!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ