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第206話 操られし者

 魔王様がいる。


 それは当然だ。彼を探して来たのだし。

 だけど、フェルマンさんまでいて、彼の背中から剣先が突き抜け出ていた。


「あんた、なにしてんだよ!」


 叫ぶ俺。相手は……





















 ゼグトさんだった。


「おぉ………」


 叫ぶ俺の声なんかまるで耳に届いていないかのように、持っていた剣を手放し、フェルマンさんから離れていく。


「どけ!」


「ッブ!」


 イルマが、呆然となっていたゼグトさんを殴りつけどかす。

 倒れかけたフェルマンさんを片手で支え、ミリアを睨みつけ叫んだ。


「早くしろ!!」


「分かってるわよ!」


 互いにやるべき事が分かっているように動いてくれる。

 その場にいた魔王様は、持っていた日本刀のような物を、倒れこんだゼグトさんに突きつけていた。


「……やってくれたね」


「……」


 ゼグトさんは突きつけられた剣先に無反応。

 それよりも、自分の両手を見て、付着した血に怯えているかのようだ。

 明らかに動揺している。これは……

 いや、まずは魔王様に聞いてみよう。


「いったい何があったんです?」


「モンスター達と一緒に、この男がいてね。フェルマンが問い詰めたら、僕の事で口論をし始めて……」


 魔王様のことで口論?

 フェルマンさんと?

 それで、あんな出来事が?


 今度は、治療にあたっているミリアを見ると、額から汗を流し何度も神聖魔法を使っていた。


 まだモンスターがいる場所での治療行為。

 そして、魔王様はゼグトさんに剣をつきつけたまま動かない。

 この状況はやばいな。今襲われたらマズすぎる。

 時間がないけど、試した方が良さそうだ。


「ちょっと失礼」


「なに? ヒサオ?」


 聞かれても無視して、青ざめ怯えているゼグトさんを直視。


「おぉ……おま……えは?」


 反応がやっぱりおかしい。

 こんな状態でも効果があるのか分からないが、


「取引だ。何があったのか全部話せ」


 交渉術を発動。

 体が、黄色く光だすのと同時に、服にしまってあった携帯がブルッと震える。

 取り出して見ると、



 交渉相手:ゼグト=バーリアス

 取引目的:現状こうなってしまった理由について

 交渉選択:現在依り代として利用されている為、交渉不能



 また依り代?

 ユミルの時と一緒か?

 しかし、ゼグトさんの様子を見る限りでいえば、あそこまで酷くは無いと思うんだが……


「……ッ!」


 突然、ゼグトさんが転がりだした。

 体は黄色く光っていてスキル効果中だというのに、頭をかかえ悶え苦しんでいる。


「ヒサオ、何をしたんだ?」


「交渉術で尋問をしようとしただけです。でも、これは……」


 デルモンド親子の時と様子が違うな。

 彼等は正気を取り戻したけど、ゼグトさんはどうなるんだ?


 しばらくし、ゼグトさんの体がピタリと止まる。

 交渉術の光が消えると、顔だけを起こして俺達を見た。


「う、うゎああああああああ―――――――――!!!!!!」


 悲鳴なのか、嗚咽なのか、良く分からない叫ぶ声を出し、目の前に突き出された剣先をはねのけた。


「貴様!」


 魔王様がいう声が耳にはいらないのか、そのままフェルマンさんの元へと駆け寄ると、全身を震わせながら涙をポロポロ出し始めた。


「な、なんてことを。俺が、俺がぁああああ――――おさぁあああああああ――――!!!」


 叫ぶゼグトさんの声からは、殺意的なものは全く感じられなかった。

 もし微塵でもあれば、イルマと魔王様が即動いていただろう。

 そんなゼグトさんを見ていたイルマが近づき、襟元をグイッと掴みあげ立たせる。


「てめぇ、何をしたのか、わかってんだろうなぁ!!!!」


 殺気を放っているのは、むしろイルマのほうだった。

 襟元を引き締め、絞め殺しそうな勢いだ。


「イルマ、待ってくれ!」


「うるせぇ! こいつがやった事を、てめぇも見ただろうが!!」


「ああ。見たよ。だから試す」


「試す?」


 イルマに軽く頭を下げ、再度ゼグトさんに交渉術をかけた。

 デルモンド親子の場合は、効果が無かったけど……よし!


 交渉相手:ゼグト=バーリアス

 取引目的:現状こうなってしまった理由について

 交渉選択:無。


 無。

 これは、交渉材料なしで聞き出せるってことだろうな。

 こういうケースもあるのか。


 術を終わらせ喋ってもらうか? そう考えたが今のままの方が良さそうだ。

 スキルを解除したら、また精神的な不調におちいりそうだし。


「何があったか、教えてくれ」


「……知ったんだ。魔王達が元人間であり、それを隠しながら俺達を操っていることを。この世界における戦乱の原因は全て魔王達にあると言われ、俺に本当の勇者となれと……」


 言われた?……そう言う事かよ。

 ここまで知った俺は、苦虫をかみ殺したような顔をしながら、地面に唾を吐いた。


 フェルマンさんとの口論内容は、ゼグトさんが言った魔王様達の素性についてだろう。

 その事で、あんな出来事に繋がったんだろうけど、いくらなんでも普段のゼグトさんならあり得ない。


 勇者か……


 これには心当たりがある。

 魔王様はまだ知らないが、俺が《接続》で知った出来事と繋がってきた。


「誰だ? 誰が、そんなことを吹き込んだ?」 


 ゼグトさんは、デルモンド達と違い記憶がある、ならこの質問に対しても答えられるだろうと聞いてみると、途端に表情を青くそめ全身を震わせ始める。


 何かに怯えている?

 それとも怒り?

 あるいは、そのどちらでもない?

 何を感じているのか分からないが、続いてでたゼグトさんの言葉に、俺は息を飲む事になった。


 だって、ゼグトさんに、魔王様の事を教えたのは……


「…………ダグス……だ」


 名が出た瞬間、近くで魔法を使っていたミリアが「え?」っと、小さな声を漏らした。

 ここで、あいつの名前が出てくるとは思わなかったのだろう。

 俺も全く頭になかったよ。


「……ちょっと、どういう事?」


「悪いけど、今は治療を優先してくれ」


 今ミリアに手を止められたら、フェルマンさんが危ない。

 すでに剣は抜かれ、血止めも終わりかけているようだけど、傷口が塞がっていないのだから。


「ヒサオ、どういうことだ?」


「説明はあと。今は、フェルマンさんを何とかしないと……ゼグトさんは、もう大丈夫だ」


 襟元をつかみつづけているイルマの手をそっと触る。

 力任せに握りしめていたイルマの腕が、わずかに緩みを覚えた。

 俺を怪訝な顔をしながら見るイルマに、小さく呟くような声で告げた。


「……この人が負った傷が、一番深いかもしれない」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ミリアの魔法によって応急処置が終わった後、イルマにフェルマンさん担いでもらい城に戻った。

 意識が戻らないフェルマンさんの事を治癒の一族に任せると、謁見の間に皆が集まる。

 一緒にゼグトさんもいるんだけど……


「………殺してくれ」


 そんな言葉を吐き続けながら、ボロボロ涙を流し座り込んだまま動こうとしない。


「君の事はフェルマンに任せる。それが君への罰だ」


 フェルマンさんの名前が出た瞬間、ピクリと体を震わせ床に顔を押し付けた。

 土下座というよりも、床にすがりつき泣いているかのよう。


「……ヒサオ。君が言った事のほうが気になる。どういうことだい?」


「俺もだな。話せよ」


「説明……になるかどうか分からないけど言うよ。まずは、俺が覚えた《接続》というスキルについてだけど」


 現時点で分かっている、スキル内容について触れてみる。

 

 俺が経験した事をそのまま伝え、内容についても話す。

 今問題なのは、その中にあった情報の1つ。ドルナードという男の存在についてだ。


「勇者が魔王を倒す。これも実際に起きた歴史の1つ。そして、本来、その役目はドルナードだったらしい」


「え? どうしてそこで?」


「確か帝国の皇帝だよな? そいつが勇者だぁ?」


「……ヒサオ、続けて」


 ミリア、イルマ、魔王様とそれぞれの反応が違っていた。

 魔王様に限って言えば、思うところがあるように見える。


「言った通り、ドルナードが魔王を倒すはずだった。でも、その魔王は、今ここにいる魔王様のことじゃない。俺達が知らない別の魔王だ」


 名前も知ることができたが、聞き覚えのないものだった。

 もしかしたたら、魔王様のクラスメイトの誰かなのかもしれないけど、そこまでは流石に分からない。


「つまり、ドルナードが魔王を倒したという歴史は存在していて、託宣は、それをこの世界で再現しようとしていたんだよ」


「……それって、コタロウ君の?」


「はい。同じ類の話ですね。魔王様がいた世界で起きたことが元になっています」


「モンスターだけじゃなくて、勇者と魔王の戦いもか……じゃあ、いままで召喚された勇者たちも?」


「魔王討伐の話を作り出すために? ……すいません、たぶん彼等は別の理由からだと思います」


「違う? それはどうして?」


「……必要が無いことを、ゼグトさんが証明しました」


 まだ頭を上げずにいるゼクトさんを横目で見る。

 どう声をかけていいのか、全く分からない。

 どれだけ、自分を責めているだろうか? その気持ちを考えるだけで、俺も痛みを覚える。

 フェルマンさんにしてしまったことは、もう取り返しがつかないと思うけど、その行動のおかげで一つの事実が分かった。


「魔王を倒すもの。それが勇者となる。それは、ドルナードでもゼグトさんでも、倒せる可能性があるものなら誰でも良かった。なのに、異世界から召喚する必要がありますか?」


「……わからない。正面切っての戦いならやられたりはしない。だけど、今回のような場合ともなると、話が違ってくる」


 魔王様の言う通り、どれだけ強くても味方に対しては油断をする。無防備な時を狙われたら、誰だって致命傷を負いかねないだろう。


「誰かを操って、そんな真似がができるなら、なぜ今まで行っていないのか? それは、必要だったのは、この時期にいる魔王様の討伐のみだから」

 

 その最有力候補がドルナード。

 今まで行われた勇者召喚については、この時期に15代目魔王を存在させておくのが理由だったんじゃないだろうか?


「ちょっと待てよ。なんで、ドルナードなんだ? それにあいつ生きてんだろ? だったら、あいつを動かせばいいじゃねぇか」


 おっと、イルマも理解していたのか?

 てっきり話が理解できずにいると思ってた。


「ドルナードである必要はないんだよ。だけど、託宣が知る歴史の中では、ドルナードだったってだけ。だけど、前とは別の存在になってしまって託宣の声が届いていない」


「届かない? どういうこった?」


「ラーグスだよ。前に話しただろ。ドルナードのスキルにラーグスの名前があったって。あれって、どうやら憑依みたいな感じらしいぞ」


「……はぁ? 憑依って、精霊憑依みたいな感じか? あいつ死んで精霊になったのかよ!?」


 イルマ……お前、頭がいいのか悪いのかどっちかにしてくれ。

 あんなやつが精霊になるとか勘弁してほしいわ。精霊たちから嫌われても、俺知らないからな。


「ヒサオ。その情報は《接続》というスキルで得られたって言ったよね? それってもしかして、託宣じゃないのかい?」


 魔王様のいった事は、オルトナスさんが言った事と同じことだな。

 それについて言えば、確かに疑われても仕方がないのだけど、経験してみて初めて分かった事がある。


「コタと魔王様の話を組み合わせて考えてみると、託宣との違いは明らかです」

 

 託宣は、魔王様達が勇者召喚された時に、発生したものだという。

 世界衝突の際におきるであろう被害を最小限に食い止めるのが存在理由。


 だけど、俺が《接続》したものは、そんなレベルのものじゃない。


「俺が《接続》したものは、世界が始まった時から存在していて、数多の世界の、過去、現在、未来。すべての記録を保存し続けている、いわば、とんでもなく大きな図書館。精霊樹ユミルの言葉を借りれば、記録の海らしい。託宣とは異なり、目的もなく、ただひたすらに記録を保存しつづけている存在……いや、空間かな? そのあたりは、俺も良く分かりませんでしたし、その全てに接続できたわけじゃない。俺が知ることが出来たのは、ほんのさわり程度です」


 これは《接続》が発動した時、同時に流れてきた基本情報。取り扱い説明書のような感じだった。


 俺が知っていることを全て話し終えると、3人ともが黙った。

 教えたばかりの事を整理していると思う。


「ちょっと待ってよ。今の話が全部本当だとしたら、ゼグトさんは託宣に操られたの? 亜人なのに?」


 まずは、ミリアが飲み込んだか。しかも、現実的な問題に話を戻した。

 頭の切り替えが早いな。こういう話に慣れているんだろうか?


「違うよ。ゼグトさんが記憶している最後の相手は誰だ?」


「……それこそあり得ないわよ」


 俺もそう思う。

 だけど、そのあり得ない事が続けて起きている。


 オズルにいた人間達は、託宣によって操られたと思う。

 『依り代』というのが、今一つ分からないが、ああなってしまった人間は、託宣が聞こえない場所でも操り人形のような状態になるんだろう。

 ゼグトさんは、そんな彼等とほとんど変わらない反応を示した。

 ……と、言う事はだ。


「もし、ゼグトさんを操ったのがダグスだとしたら、あいつも託宣と似たような力をもっているのかもしれない」


「どうしてよ?」


「それは、『依り代』……ああ、魔王様達にも教えておきますね」


 ユミルで起きた出来事を含め、その時知った事を全て話す。

 

「……モンスター襲撃時に捕らえた人間達や、ゼグトが似たような状態だった? そして、ゼグトを操ったと思われるのがダグスという男……だとしたら、モンスター達を操ったのもダグスというやつなのか?」


「俺もそこまでは分かりません。まずは捕らえた方がいいかと思います」


 これに関しては全員が一致の顔を見せる。やっぱり相談は大事だな。


「ゼグト。聞いているよね? そいつがどこにいるのか、分からないのかい?」


「……」


 ゼグトさんが、うな垂れたまま首を横に振った。

 たぶん、魔王様の秘密を告げられたあたりから、記憶が曖昧なんだろう。

 デルモンド達とは違い、完全に記憶が消えていないのが哀れだ。自分がやってしまった事を覚えているんだから……


 今のゼグトさんに話かけるのは気が引けるんだけど、そんな事を言っている場合じゃない。


「ゼグトさん。最後にダグスを見たのはどこです? 記憶に残っている限りでいいですから、教えてもらえませんか?」


 頭をあげようとしないゼグトさんに尋ねてみると、


「……アグロに向かう駅馬車に乗りかけていたのは覚えている。なぜ、アグロに行こうとしたのか気になり、問い詰めようとして駅馬車から降ろしたはずだ」


 そんな事を聞かされた直後、俺とミリアが顔を見合わせた。


 ユミル達が言っていた事を思い出す。


 今回のモンスター襲撃は、ユミルとエーラムだけじゃない。

 アグロ砦でも始まっていて、そこにはカリスさんがいるから大丈夫だと言っていた。


 そして、彼女達は同時に『あいつ』という言葉を口にしていた。

 それが、ダグスの事だとしたら……もしかして、精霊樹達にとって警戒に値する相手だった?


 ……おい、まてよ。じゃあ……


「ミリア!!」

「やってるわ!」


 俺が言う前に、ミリアが床に魔法陣を描きだしていた。


 場所がどうとか言っている場合じゃないぞ。完全に後手にまわっているじゃないか!

 

 間に合えよ!

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