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第203話 勇者

 無事にかえってこれた。


 木の精霊(ドライアド)とかいうのと喜々として遊んでいたらしく、非常に名残りおしそうだったけど、リーム共々帰っててこれた。

 それはいいが、


「あれ? 誰もいないぞ?」


 あれだけいた観客たちが誰もいない。ユミル達が言っていた事と関係しているのか?


「まずは、外にいってみましょう」


 よし、外にいって様子を……みるまでもなかった。

 精霊樹の前にある研究室。そこには、いつものように複数の研究員達がいて、俺達が帰ってくるなり、事の次第をしることになった。


「やっぱり、モンスター達が……」


「はい。現在騎士団が対応していますが、なにぶんリーム様がいないので……」


「リーム……様?」


 聞き返したのは俺。なぜにリームが様づけ?


「先……いくね……」


 トコトコと俺達よりも先に研究室をでていく。俺達も急ぐとしよう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 城の外にでて、街の入り口へと入った。

 すでに戦闘が行われていて、被害が甚大なものになりつつある。

 騎士団が対応していようだが、戦いづらそうにしている。


「いかんな。騎士団の動きがまとまっておらん。これでは、森まで追い込めんぞ」


「森? そこまで追い込めばなんとかなるのか?」


「うむ。恐らくはな……」


「私達も加勢しましょう」


「……そうだな……けど」


 ユミルとアルフの話を思い出す。

 ここもそうだが、エーラムのほうもヤバイらしい。魔王様が出張っているというからには、追い詰められているのだろう。

 俺としては……


「ヒサオ、どうしたの?」


「ちょっとな」


「魔王殿が心配か? それなら、ここはワシ等に任せてもよいぞ?」


「そう言ってもな」


 正直俺一人がいったところで、どうにかなる問題とも思えない。

 かといってどうしたら……いや、考えているだけじゃ何もできないな。


「分かった。オッサン、ミリア。悪いけど、俺はこのままエーラムに向かうよ」


「それなら、私もいくわ」


「ミリア?」


「あんた1人でどうする気? ここから森の中にはいって師匠の家に戻るのも無理でしょ。魔法陣をつくるから、それをつかってエーラムにいくわよ」


「あっと、そうだよな。忘れていた」


 ここの転移魔法陣はオルトナスさんの家――跡地にあるわけで、戻ることすら命がけになるか。忘れていたわ。


「じゃあ、城に戻って魔法陣を作るわよ。ここじゃあ、危険だし。ジグルドはどうする?」


「ワシはここに残る。ユミル達に頼まれた以上、誰かは残るべきじゃ。お前たちも気を付けてな」


 そう言い残し、街へ向かって走り出した。って、オッサン空手だぞ? いいのか?

 まあ、なんとかなるだろう。適当に転がっている武器を拾うだろうし。


 俺とミリアは城へと戻りだす。

 この状況をなんとかする打開策があればいいんだが……何かないだろうか?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ピーン―――


 モスクを思わせる城にはいった瞬間、耳鳴りのようなものが聞こえ、足をとめる。

 何の音だ? 街で起きていた戦闘が、城にまで近づいているのか?


「どこがいいかしら?」


 ミリアの声が聞こえ、そっちに目がいった。魔法陣を描くための場所を考えているんだろう。


 ピーン―――――――


 まただ。

 耳鳴りがひどい。

 笛の高音が割れたような? あるいは、風鳴りが耳に届いたような……


「ヒサオ、あっちにいってみましょ。たしか、広い場所があったはずよ」


「あ、ああ」


 先を歩くミリアの後を追おうと、一歩足をだした瞬間、その足元がグラついた。


「んあ!」


「ヒサオ?」


 まるで地面が揺れ動いたかのように感覚を覚え、態勢をくずし腰を落とす。

 石床に尻もちをつく形となり、ちょっと恥ずかしい。

 打ち付けた尻をなでながら、顔を起こすと、目前に文字が浮かび上がった。


{導く・結界・託宣・勇者・綻び・帝国兵・魔王}


 はい? なにこれ?

 意味が全く分からない。文書にすらなっていないだろ。


「どうしたの? 突然転んで」


「あー うん……ミリア、これが見えるか?」


 眼前に浮かんだ文字を指さしいうが、何を? という顔をされた。やっぱり見えてないのか。


「また、何かやったの?」


「やってねぇよ!」


 口喧嘩が始まりかけたが、浮かび上がった文字が変化し始めた。

 黒く浮かんだ文字が、紐を解かれたようにほぐれだす。文字から線へとなったソレ等が混ざりだし、一つの黒い球体が作られた。


「おい?」


「なによ?」


 いや、ミリアの事じゃなくて――って、まてぃ!

 声を発っしようとした直後、球体になった黒い塊が俺の胸へと飛び込んでくる。


「あ、おい! なんだ!」


「ヒサオ、どうしたのよ?」


 球体が消えた胸元に手を当て探る。何ひとつ違和感がない。

 そんな俺をミリアは怪訝な顔をしながら見ている。


「……いや、なんか変なのが見えて…ッ!」


 唐突に頭に痛みが走った。

 ズキンといった痛みから、鈍痛のようなものへと変わっていく。


「ッ――!!」


 声にならない呻き声を出し、その場で頭を抱え込む。


「ヒサオ! ちょっとどうしたのよ!」


 ミリアの叫ぶ声が聞こえるが、それどころじゃない。

 頭が熱をもち破裂しかけている感じがする。


「グゥォ―――!」


 もう、何を言っているのかわからない悲鳴を城の中で出す。

 その場で体を横にし、頭を抱えながら転がりだす。鈍痛なのか、破裂するような痛みなのか、その感覚すら鈍くなっていく。


「ヒサオ! 《回復(ヒール)》!」


 ミリアの神聖魔法がかけられ、俺の体がわずかな光を発するが、まったく痛みが引かない。

 頭だけではなく、首筋にまで痛みが走った。さらに背骨を通っていく。


 ピ――ン――――


 再度の耳鳴り。

 またも意味不明な文字が浮かび、球体へと変化し俺へと飛び込んでくる。

 痛みがまし、頭の天辺から、体の中心にそって衝撃が走った。


 痛みで体が反る。

 床を転がるのをやめ、その場でピンと体が反る。

 

 意識を手放しかけた。

 あまりの痛みに、口から泡すら出かけた。

 もだえ苦しむ俺に、ミリアが何度も魔法をかけてくれたが、それより、ミリアの声のほうが助けになってくれた。


 和らぐ。

 感じていた鈍痛が引いていき、脳裏に何かが浮かびあがる。


「……そういうことかよ」


 さっき自分の中にはいってきた文字。それが文書として構築され、俺の頭のなかで意味をもつ。

 文字だけじゃだめだ。

 あれは、パーツの一部にしか過ぎない。

 文書に変換され、ようやく意味を理解できる。


 これが《接続》

 オルトナスさんがいっていた母さんが保持していたというスキル。

 若干聞いていたのとは違うが、その理由も分かった。

 

 母さんは、解読をもっていない。それどころか、通訳も初期状態のままだった。

 俺が獲得した《極通訳》によって、はじめて文書として成り立つ。


 そして《真解読》


 オルトナスさんが言っていた『読み取れん文字』というのは、解読できなかった文字があったが為。

 おれがデルモンド達を鑑定したとき、文字バケしたような部分をみたが、あれと同じようなものを見たんじゃないだろうか?


「ヒサオ、大丈夫なの?」


 頭に手をあて、その場で立ち上がると、ミリアが不安そうな顔をしながら聞いてきた。


「大丈夫だ。今のが、オルトナスさんがいっていたスキルのようだぜ」


「師匠が? ……それって、メグミさんがもっていたっていう?」


「ああ。それを確かめる意味でも……」


 携帯を胸裏にあるポケットから出した。

 なんら変わらない機能画面をみたあと、アドレスを選択していく。

 そして、通話を発動。

 相手は……




 ドルナード=ファン=エンペス。




 この世界で誕生した、本当の勇者だ。

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