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第201話 ユミルの話

 精霊樹達が、俺達の前で頭をさげる。

 一体何がどうして頭を下げているのか、それすら分からなく、どうしたらいいのかと顔を見合わせた。


「とりあえず話を聞こう」


「そうよね。これじゃあ何も分からないわ」


「一方的に謝られても困る。事情を話してくれ」


 それぞれの意見がでると、精霊樹達がそろって頭を上げた。

 ホッと胸を撫で下ろすと、ユミルの目が俺に注がれている。


 なんで?


 疑問を感じた瞬間、俺から目がそれ、ミリアへと向けられた。


「謝罪する理由は、あなた方をこの世界に落としたのは、私だからです」


 ユミルが言うなり、エーラムとアルフが口出しをしようとしたが、ユミルが黙って首を横にふり止める。何か事情がありそうだな。


「落とした? それって、ガーク海岸のことよね?」


 ミリアが尋ねると、ユミルが代表として顔をコクリと倒した。


 さっきの謝罪は、そういう意味か。

 ユミルは自分のせいといっているが、両隣にいる2人は不満そうだな。


「話を聞くよ。何か事情がありそうだし」


 聞いた瞬間、怒鳴ってもよさそうな事だったけど、アルフとエーラムの様子を見て冷静に聞いてみようと判断した。ミリアやオッサンも同様のようだ。


「その為に呼びました。事の発端は、メグミとの間で行われた魔力の移譲行為にあります」


「ブッ!?」


 ここで、また母さんかよ!!

 しかも魔力の移譲行為って、もしかしなくても母さんがやってしまった例の話だろ?

 ……嫌な予感しかしないぞ。


 ユミルの話は続き、母さんがやった事を再度聞かされることになった。

 母親の黒歴史を聞かされているみたいで誰とも目を合わせられない。


「多くの人々の尽力によって私は命を繋げることができました。しかし、それまでの私と、それからの私とでは大きく異なってしまった」


 皆の目から逃れるように顔を動かしているうちに、話が終わりにさしかかる。


 ――異なったか。


 ユミルの精霊樹としての姿だけを見れば、そう言えるよな。

 歪に曲がってしまった枝や、地面からでていた数本の根。

 精霊樹というのは、神聖なものというイメージがあるし、アグロ砦にあるアルフはイメージ通りともいえる。

 それを考えれば、ユミルというのは、歪んだしまった存在なのかもしれない。原因を考えると、どこかに隠れたい気にもなるが。


「私に戻された魔力。それと同時に、メグミの記憶と想いが流れてきてしまったのです」


「え?」


「……なんじゃと?」


 オッサンとミリアが意味を理解し俺を見た。

 ……もしかして、そういう事?


「メグミが、どれほど我が子に会いたかったか。それを一番理解したのは私でしょう。オルトナスでも、魔王でも、アスドールでもない。私こそが、彼女の一番の理解者になってしまったのです」


 言いながら、ユミルの目が俺へと向けられる。

 この場に来た時から、目の端で見られていたのは感じていたが、もう隠す気はないかのように俺を直視してくる。


「え――と……」


 つまり、さっきの話って、ユミルが母さんになったってこと?

 ……そんなアホな事はないよな? せいぜい母さんと混ざったような程度だろ?  そうだと言ってくれ。


「あなた……メグミさんなの?」


 おれの疑問をミリアが尋ねてくれる。聞きづらかったから助かった。


「もちろん違いますよ」


 ホっと溜息をつく。そんな俺の様子をユミルは見ていたようで、クスっと小さな笑みを見せた。


「ですが、純粋な精霊樹でもいられなくなりました」


「……」


 ジーと俺のほうへと視線が注がれる。

 ミリア、オッサン、ユミルに、エーラム。それにアルフ……ムリエルはぐーすか眠っているな。鼻提灯でもだして、パンとわってくれないだろうか? この空気をなんとかしてほしい。俺のせいじゃないというのに、なんだろう、この罪人のような気持ちは?


「メグミの記憶にあるヒサオは、本当に赤ん坊で、眠っているか、笑っているか、泣いているかという、単純な反応しかありませんでした。それが可愛らしくて、つい手を差し伸べたくなるのです」


「今と大違いね」


「ほっとけ!」


 16の俺と、生まれて2か月ぐらいの俺を比べてないでくれ! なんの罰ゲームだこれは!


「日を追うごとに、私は私で無くなっていく。人という生き物は、私達にとってみれば、見守るだけの存在。のはずだったのに、そんな私の気持ちは変わってしまった」


 困ったような微笑を見せるユミルを、苦い顔をしエーラムが見て、アルフは無表情のまま隣に立っている。ムリエルは――うん。言わずともわかるな。


「最初は、この世界で生まれる多くの子供達を見ていました。どのような種族であったとしても、愛おしくて、その顔を見るたびに、記憶にあるヒサオの事を思い出す」


 掌を合わせ母性的な微笑みを見せた。

 愛おしいというユミルの顔が非常に嬉しそうに見える。


「思い出すと会いたくなる。今のヒサオは赤子の頃とくらべ、どう変わった? 食事は? 友人は? 生活は? ちゃんと愛されている? メグミがいなくて寂しい思いをしていない? そんな事を考えている自分に気付いた時には遅く、私の心は、ヒサオの世界へと飛び立っていました」


 途端にユミルが悲しそうな表情をする。

 しょんぼりとしたような仕草をみせ、聞いていた俺達まで気落ちした。


「……ヒサオの世界を見つけた私は狂ったようにヒサオを求めた。そして世界を……一瞬だけ繋げてしまいました」


「「……」」


「あとは、わかりますね。繋がった瞬間通路ができ、この世界に隣接していた世界まで巻き込んでしまった。ジグルド……あなたがやってきたのは、これが理由です」


「えっと?」


「つまり、オッサンは……」


 今度は俺ではなく、オッサンへと注意が向けられる。

 向けられたオッサンは、不機嫌そうな顔をしながら「フン!」と鼻息を一度だした。


「ヒサオの世界と繋がった通路上にジグルドの世界があり、しかも、ジグルドはその道中にいた……ってことなの?」


「その通りです」


 当事者から答えと思われることを聞いたが、これは……


「なんじゃ、その目は?」


「いや、なんというか……」


 強く生きろよ! というべきか、あるいは、巻き込んでごめん? ……違うな。俺がしたわけじゃないし。……かける言葉が見つからないぞ。


「もしかして、それ、私も?」


 ミリアが尋ねると、ユミルへと視線が戻される。

 そうだよな。俺達3人は、ほぼ同時にこの世界にきたわけだし。


「……あなたの場合は、少し異なります」


「異なる? って、どういう事?」


「何かあったのか?」


 俺が尋ねると、ユミルが言いづらそうにする。


「ユミル。本人も知りたがっている。教えるべきだ」


「アルフのいう通りだ。言ってやれ」


 両隣にいる2人からも言われたせいか、悩んでいたユミルが口を開いた。


「……確かに、ミリアさんの世界も、私が作り出した通路上にありました。しかし、あなたの場合はジグルドとは異なり、その線上にはいなかった」


「え? じゃあ、違うの?」


「ええ。あなたの場合は、あなた自身が行っていた転移実験が理由となります」


「……それって、まさか」


 思い当たる出来事があるのか、ミリアの表情が青ざめる。

 元々色白い肌をしているせいか、変化が手に取るように分かった。


「はい。申し訳ありませんが、タイミングが最悪でした。いえ、良かったといえるのでしょうか? もし、あのタイミングでなければ、あなたは今頃、存在ごと消滅していたかもしれません」


「「ファ!!」」


 俺とミリアがそろって吹き出した。

 オッサンは、やれやれといった顔をして嘆息をついている。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少し話をまとめてみる。


 俺に会いたかったユミルが、俺をこの世界へと引きずり落とした。

 その時にできた通路上にオッサンがいて一緒に落ちた。

 さらに、その時転移実験をしていたミリアが勝手に通路上に紛れ込み、一緒に落ちた。

 簡単にいえば、こうなるわけで、ミリアに限っていえば自業自得な面がある。


 なぜ、ミリアの場合は自業自得といえるのか? 詳しい話を聞くと、こうだった。


 ミリアが行っていた転移実験というのは、本当に実験的なものだったらしく、この世界にある転移魔法とは異なるもの。


 魔法陣を作り、転移する。


 ここまでは同じなのだが、出口となる場所に魔法陣が出現しない。

 魔法を発動させる時イメージを作りだし、その場所に瞬間転移するという――漫画やアニメなんかで見かけるような、超便利だな~っていう感じのもの。


 だが、この魔法、かなり重大な欠点がある。

 術者のイメージが曖昧だと、どこに飛ばされるか分からないわけで、そのあたりは魔法を扱う人々にとってみれば基本的に行える事だった。

 当然、ミリアも知っていたし、そのイメージも出来ていたわけだが、


「……あの時、故郷の事を考えちゃったのよね」


 行われた実験の最中に、自分がいた本来の世界のことを思い出したようで、それが失敗の原因へとつながった。


 元々、行われた転移実験というのは、別世界への転移ではない。

 同じ世界の中で行われるものであって、帰還魔法の類ではなかった。

 なので、本来の用途とは違う使い方をしてしまった為、魔法陣が誤作動を起こす。


 オルトナスさんが、入り口と出口を重要視する理由はここにある。

 こういった事故がおきたとしても、別空間へと飛ばされないための安全措置ともいえるだろう。何しろアレは、魔力を込めるだけで誰でも扱えるのだから。


「ミリア……」


「分かっているから言わないで……ほんと嫌になるわ。危険なのは知っていたのに、ついね……」


 言った後、彼女は自分の顔を両手で隠した。文字通り恥ずかしいのだろう。


「あの時、もし世界樹の杖を持っていなかったら、そのまま消滅していました」


「……消滅。さっきもそんな事いっていたな。世界の外って、やっぱり危険なのか?」


 この世界の外側。狭間の世界というべきか?

 言い方は様々あるだろうが、そういった場所というのは、宇宙空間のように危険ものなのだろうか? と考え尋ねてみた。


「あなた方にとってみれば、危険という言葉ではすみません。文字通り消滅し”記録の海”に帰るでしょう」


 妙な言い方だ。それは何かの例えだろうか? 聞きたくもなったが、そこでまた説明されると、さらに頭が混乱しそうだったので躊躇した。


「事情はわかったが、ワシは怒る気にはなれん。したがって謝罪もいらぬ」


「俺もかな? 元はといえば、母さんが関係しているようだし」


 オッサンと俺が、謝罪を受ける必要がないと判断。

 ミリア?

 ……黙って、手をふっている。何も言いたくないようだ。


「あ! まって。今、杖の事いったわよね? それがどうして関係するの?」


「分かりませんか? 通路を作ったのは私。私は精霊樹。そしてあなたが持っていたのは世界樹の杖。同質の力による引き寄せによって、あなたの命は助かる事になりました」


「……この杖で、誰かを殴るのは止める事にするわ」


 信じられない発言を聞き、俺は歓喜した!

 これで、もう被害者はでないだろう! 主に俺だけだった気がするが!


「ユミル。謝罪はいらないというのだし、これ以上は不必要だと思います」


 隣にいる長身の女性。無表情のままムリエルに肩を貸していたアルフが言ってきた。


「いいえ。やっぱり、知らせておいた方がいいと思うわ」


 知らせる? 何を?


 こっちとしても、まだ知りたいことがあるが、それに関係することなのかな?

 どうも話を知る限りでいえば、彼女達は多くの事をしっているようだし、この際だからアレコレ尋ねたいんだけど……俺の頭がついていけるかどうかが心配だ。

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