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第199話 不具合

「……接続じゃと?」


「はい。それが?」


 文字バケの話をしている途中から、俺の推測話になった。

 それ繋がりで、新しく覚えたスキルの事も口にしたんだけど、オルトナスさんが怪訝な顔を浮かべた。


「このような事があるのか? 例え息子とは言えど……」


「息子? ……オルトナスさん、何か知っているんですか?」


 呟き漏れた言葉を聞き逃さなかった。独り言のつもりでいたようで、返答を迫る俺の態度に驚いている。


「ぬ、ぬぅ……」


 唸り声をあげても駄目だ。

 息子という言葉を使った時点で母さんが関係してくることが分かる。

 オルトナスさんは、母さんの師匠。ということは、母さんが何をできたのか、知っていてもおかしくはない。


 俺が覚えた《接続》というスキル。

 これに反応し、息子といったオルトナスさん。

 どう考えても、何かを知っているとしか思えない。


「母さんが関係しているんでしょ? 教えてくださいよ!」


 逃がさない! ずっと話を逸らされていた感じがあったが、今回は逃がさない!

 ここまで来たら、教えてもらわないと気が済まないぞ。


「……分かった」


 よし!

 諦めたようだ。俺だけじゃなくて、ミリアの興味もひいていたからな。2人そろって迫っていたし、逃げられないと悟ったのかもしれない。


「簡単に言うと、お前の母メグミは、その《接続》というスキルの保持者だった」


「……え?」


 話はじめたことによって、俺達はわずかに距離を置く。


「母さんが使っていたスキルが俺にも?」


「そう言う事になる」


「じゃあ、師匠は使い方や、スキルの内容を知っているんですね?」


 俺の横からミリアが尋ねてきたけど、オルトナスさんの顔が横に振られた。

 知らないのか?


「残念じゃが、良く分からん。これはワシだけではなく、メグミもそうじゃった。ただ、時折、妙な情報が頭の中に入ってくるとは言っておったな」


「妙?」


「人間を裏切ったのも、魔王殿との謁見を求めたのも、その情報によるものらしい。帰還研究がワシ等の手によって比較的早くすすんだのも、その影響。一時期は託宣なのではないか? と思ったほどじゃ」


「……そういう事情があったのか」


 オルトナスさんの話をきけば、託宣と疑ってしまったのも分かる。

 母さんは人間だし、託宣が聞けたとしてもありえそうだ。

 しかも、その情報によって、母さんは自力での帰還に近づけている。


 だけど決定的に違うのは、それは情報でしかないという点。

 託宣とは異なり、何かをするようにという話ではなかったらしい。


「オルトナスさん。よく分からないと言うのはどういう事です?」


「言ったままじゃ。発動条件も不明。知れる情報も望む事ばかりではなかった。当人は、よく頭を悩ませておったよ」


 つまり、得られ時と情報内容が操作不能? ――なんだそりゃ?


「師匠。メグミさんは、この世界に来た時には、もう、そのスキルを持っていたんですか?」


「そうらしいの。その点についていえばヒサオとは異なるようだ」


「……もしかして、それが理由で、メグミさんは選ばれた?」


「え? ミリア、どういうことだ?」


 突然話がそれた。何を気にしているんだ?


「ずっと不思議だったのよ。メグミさんて一般人だったんでしょ? なのに、勇者として選ばれた。兄さん達のように関係者じゃないし、だったら何か理由があるんじゃないの? って思っていたの」


「……その事か。ありえそうだな」


 素質があった。簡単にいえば、そうなのだろうな……

 つまり、この《接続》というスキルは、それだけの効果があるってことになる。

 だけど、聞く限りだと扱いが難しそうだ。


 ――いや、その前に、俺はオルトナスさんが言うような情報なんて何も取得していない。扱う以前の問題じゃないか?


「俺には、そういう事が無いですけど?」


「まだかもしれんな。メグミも、時折程度といっておった」


「どういった感じかは?」


「直接、体に文字が飛び込んできて、その後、脳裏に浮かぶらしい。読み取れん文字も多かったようじゃし、ひどい頭痛にも苛まされておったな……」


 マジカ……交渉術を使われたような感じなんだろうか? あれをもしかして、経験することになるの? ちょっと勘弁してほしいんだが。


「話を割ってわるいのですが、そろそろ行動しませんか? 精霊樹を待たせるのも、どうかと思いますし」


 ヒュース君に言われ、話あっていた俺達がハっとなる。特にオルトナスさんが慌てだした。


「そ、そうじゃった! 行くぞ、ヒサオ!」


「いえ、その前にやることが……」


 まだ、捕らえた人間2人に交渉術を使っていない。駄目かもしれないが、試す価値はあると思うので、急ぐオルトナスさん達を止めて、デルモンドという男に目を向けた。

 鑑定結果が気になるが、まずやってみよう。


「デルモンド=オーキス。お前がやったと思われる、モンスター襲撃について話してほしい。取引だ」


 取引目的と取引という言葉を使うことによって交渉術は発動する。

 相手の名前は不要なようだが、その時の気分次第で呼んでいるな。

 何度か試しているので、ここまでは間違いがないはず――よし! 黄色に光った!


 発動が確認できたので、携帯をポッケから出してみると……あれ?



 交渉相手:デルモンド=オーキス

 取引目的:モンスター襲撃に関する情報

 交渉選択:現在、依り代として使用されている為、交渉不能。



 交渉できない? 理由が、依り代として使用されている?

 ……依り代っあれか? 神降ろしとかに使われる体のことか?

 じゃあ、こいつは、精霊や神様的な感じのものを、その身に降ろしている?

 ……良く分からないが、このまま続けてみよう。


「えーと……デルモンド。返事ができるか? できるかぎりの望みを聞こうと思うが、お前のほうから希望はないか?」


 携帯からの情報がないから不安だったけど、デルモンドの体は黄色く光ったままだ。まずは続けてみようと試みると、


「……あ……え……」


 突然、目を大きく見開き、嗚咽のような声を漏らした。


「なに!? 反応があったじゃと!」


 後ろでオルトナスさんの声がし、牢屋の中で反響する。やめてほしいですけど!

 

「聞こえるか? 意識があるか? 答えられるか?」


 とにかく意識を俺のほうに向けないといけない。そう考え声をかけ続けると、デルモンドの体を覆う光が赤くなった。


「聞け! モンスター襲撃に関する情報だ! 分かるか? 希望する物をいえ!」


 こっちも必死。赤くなるということは、もう交渉が決裂寸前なのだ。このままでは、何も情報を引き出せなく終わってしまう。焦りが俺の声を荒げた。


「おい! デルモンド!」


「……ウッ!」


 名を再度読んだ瞬間、赤い光がスーと消えていった。

 こういう失敗は初めてだけど、それだけでは終わらなかった。


「……さむ! ……って――なにあんたら?」


 交渉術を掛けられていたデルモンドが、身震いさせたあと俺達を見て怯えた声を出した。


「お、俺を取り囲んで、どうしようってんだ! って、親父まで! おい、しっかりしろ!」


 いきなり騒がしくなった。さらに隣にいる中年男性をみて親父という。


「お、お前らがやったのか! なんだよ一体! 俺達が何をしたっていうんだ!」


「いや、それ、こっちが聞きたいんだけど……」


 正気を取り戻したのはいいが――


「オルトナスさんこれは……」


 隣に立っていたオルトナスさんに声をかけると、額に指先をあて考え込んでいる様子だった。


「芝居だとしたら、大した役者じゃろうな」


「そう、思いますか?」


「いや。まったく見えん。だが、まぁ……試さねばなるまい。ヒサオ、もう一度交渉術を使うことはできるか?」


「もう一度ですか? 同じ相手に即座に使ったことは……ありました。やってみます」


 考えてみたらゼグトさん相手に実験した時、何度も使ってた。忘れかけていたな。


 しゃがみこみ格子牢越しに、デルモンドへと目をむける。

 俺のそうした動作一つで怯えた様子を見せた。明らかに、状況が掴めていないのだろう。

 そりゃあ気付いたら牢屋にいて、俺達のような集団に囲まれていたら恐怖でしかないからな。


「デルモンド。モンスター襲撃事件に関して知っていることを話してくれ。これは取引だ」


 取引という言葉を使った瞬間、デルモンドの体が黄色く光る。そして彼の眼から再度光が消えかけたが、すぐに――


「ハッ! え? なんだ今の!」


 光がきえ、デルモンドが正気に戻った。

 ……なんだこれは? 今回は異常な事が多すぎるぞ。


「……駄目です。スキルは発動したけど、すぐに解除されました。理由はわかりません」


「なんじゃと? 発動したのに解除されたというのか?」


「はい。オルトナスさん。そういう事って経験ありますか?」


「……ないな。少なくともワシは知らん。あるかもしれぬが――同じ相手に2度は使えないというわけではあるまい?」


「ええ。すでに経験ありますから」


 ゼグトさんだけではなく、イルマでも立証済みだ。どっちも有効だったし、それを考えればオルトナスさんのいうような制限はないはず。


「これも新しいスキルの影響?」


 ミリアが言うが、言った本人が疑問を感じているようだ。

 スキルを覚えたことによって、それまで覚えていたスキルに悪影響がでるとか、ちょっと考えにくい。原因は別にあると思う。


「お、おい、あんたら! さっきから何だよこれは! 俺達親子をさらってどうする気だ!」


 また、デルモンドが騒ぎ始めた。煩い人だ……って、今って普通なんだよな? だったらさ。


「オルトナスさん。何も交渉術つかわなくても、普通に尋問してみてはいいんじゃないでしょうか?」


「……うぉ! 言われてみればじゃ!」


 オルトナスさんが驚くと同時に、皆が「「「ああ!」」」と口にする。

 リームだけは違っていて「ユミル……ちゃん……まだ?」と言っていた。

 ごめんなさい! もうちょっとかかりそうだよ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 結論だけを言うと、デルモンドという人は何も知らなかった。

 オルトナスさんが持っている薬品(自白剤みたいなもの?)を使ってみたが、何の情報も得られなく、この男からの情報入手は諦めた。


 だけど、交渉術を使うことによって正気にはなったわけなので、その親父という人にも使ってみる。

 親子が一緒だと邪魔されそうなので、それぞれ別の場所でのこと。

 やってみたら、案の定、正気を取り戻したけど、こちらもまるで知らないご様子。

 

 もしかして、何も知らないから、それに関する交渉術が中断された? ってことか?

 情報を得ようとしたけど、その情報事態がこの2人にはない。だから、すぐに中断されたんじゃ?

 そう考えれば辻妻が合う気がする。だとしたら、完全にお手上げだな。 


 これ以上は無駄かと、再度2人を同じ部屋に戻すと、


「あんたら、モンスターとか言っていたが、何かあったのか? 俺達の牧場付近でもよく見かけていたが、ついに暴れだして、それを俺達の責任とか思っているんじゃないだろうな?」


「なに?」


「え?」


「こやつら……」


 デルモンドの言葉に、俺、ミリア、オルトナスさんと反応。

 オッサン達もその場にいて、それぞれ顔を見合わせあっていた。


「な、なんだよ? 珍しいことじゃないだろ?」


「ちょ、ちょっとまて! お前の居た所では、モンスターが普通にいたのか?」


「なに言ってんだよ。当たり前だろ? ただ、急に増えだしたけどな」


 モンスターを見かけるのは確かに普通だ。

 だが、それは半年以上前までの話。

 街道整備が始まったあたりから、その数は日を追うごとに減っている。

 これは、イガリアと魔族領土どちらも一緒だ。ということは、この男がいたのは……


「お前、どこの人間だ? 地名は?」


「さらってきておいて言う事かよ!」


 デルモンドが怒りだす。

 事情を知らなければ、まったくいう通りだよなと思ってしまった。


「言っておくが、お前達は、自分の足でここまできたんだ。しかもモンスターを多数引き連れてな。だから、こんな状況になっている」


「……何言ってんだお前。俺より若そうなのに、頭がおかしいのか?」


 等というデルモンドに、通話+交渉術のコンボを使いたくなった。お前もフェルマンさんみたいに、脳に手をつっこまれて、グリグリされる感触を味わいたいか? ……交渉術が有効かどうか知らんけど。


「ヒサオ。顔が、ニヤついているわよ。また変なこと考えたでしょ?」


「おっと!」


 ミリアに読み取れるぐらい顔にでていたらしい。まずいな。表情をなおそう。

 グリグリと自分の頬を撫でて、整えてから再度話しかけてみる。


「よく俺達の事を見てみろ。この状況が笑いごとに見えるか? マジなんだよ」


「マジに見えるような行動には思えないが……それより、お前人間だよな? なんで、エルフと一緒にいるんだ?」


 哀れオッサン。この世界の人間にまで無視されたか。

 いや、もしかして、人間と思われたのかもしれないな。


「ここはユミル。そしてイガリアだ。聞いた事がないか? 今、この国では、魔族と人間が一緒にいることも珍しくはないんだぜ?」


「イガリア! 敵国じゃないか! だから、託宣が聞こえないのか!?」


「こんな状況でも、託宣頼みか?」


 そこに呆れてしまうが、


「やった! 解放された! これで、自由だ! 親父、やったぞ!」


「「「「「「ハァ!?」」」」」」


 その場にいた6人全員が呆気に取られてしまった。

 今度はリームまで驚いたぞ。

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