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第194話 予感

 ロナン帝国の状況について変化があった。


 反乱によって生じた国力低下については、いまだ回復しきれていないが軍に関して言えば、一応の体裁を取り戻しつつあった。

 そこへ、アルツに繋がる道に兵の駐屯地が作られているという報せがドルナードの元に届く。


「アルツが動いた?」


「ああ。俺も見てきたが、けっこうな数だ。国境からこっちには踏み込んではいねぇが、黙っているわけにもいかなく、対応できるだけの人数を配置させたぞ」


 報せにきたのはブロードであった。

 重鎧姿のまま執務室にはいってきた彼が、ドルナードと話をしている。


「戦争の準備か? 弱った帝国ならばと考えた? ……あるいは魔王の命か?」


 目を通していた書類から視線を外しながら考えこみだす。


「ブロード。兵の練度は?」


「まだ、足りねぇ。以前に比べたら動きがおせぇ」


「どのくらいかかる?」


「元に戻すまでか? 少なくとも、あと半年以上はかかるな。新兵が一気に増えすぎた」


「一朝一夕にはいかんか……当然だな」


 帝国の主戦力である騎馬戦車(チャリオット)隊は勿論の事、指揮が発せられてから動きだすまでの時間。各自の武器の扱いに対する熟練度や、各部隊の効率的な運用に関する理解度。

 そういった経験面ともなると、どうしても時間がかかる。

 反乱は帝都にいるドルナードの首筋まで届きかけていたのだ。失われた兵の数を考えたら頭痛もするだろう。


「ここでアルツか。発展していただけあって、こちらの内部事情を知ったか?」


 実際のところはまったく的外れの予想であるが、そう思われてもおかしくないタイミングではある。


「そういや、アルツで思い出したが、数日前から妙な事がおきてるな」


「ん? アルツがらみでか?」


「アルツっていうか、イガリアか? 南の方から、モンスターたちが時折やってきている。数は少ないし、兵達の練度を上げるには最適だから、利用しているが……」


「モンスター達が? なぜ南から?」


「わかんねぇよ。あいつら、急に数を減らしたとおもったら、イガリアで隠れていたんじゃねぇのか?」


 これもまた誤解であり、現在の帝国における情報伝達の質の悪さがでている。

 表面上は元の状態にもどりつつある帝国だが、その内面を見れば、以前とまったく違っているのだろう。


「モンスターか……いるのが普通なのだろうな」


「あん? なんだよ今更?」


「先日話をしただろ。俺は、異世界の知識を得たのだ。それによると、モンスターや魔族が存在しない世界もあるらしい。それを考えれば、この世界は異常ということになるのだろう」


「狂人の話かよ」


 すでにラーグスの件は、ブロードにだけには話をしている。

 そこから得た情報については興味を示さないブロードであったが、ラーグスの件ともなれば別だ。


「おめぇ、本当に大丈夫だろうな? 影響されすぎてねぇか?」


「情報を得ただけだ。俺の本質はなんら変わらん」


「だといいがな――まあ、俺からの報告は以上だ。何かあるか?」


「……そうだな」

 

 報告がおわり、ドルナードが考えだす。

 国境沿いに置かれた兵達。南からやってきているモンスター。

 どちらも、今のうちに手をうっておいたほうがいい案件ではありそうだ。

 さて、どうするべきかと考えた時、ふと疑問が浮かんだ。


「妙だな……なぜ、南からモンスター達がやってきている?」


「なに言ってんだよ。だから、報告してんだろうが」


 ウースで自然発生しているのではなく、イガリア方面からやってくる。このことに奇妙さを覚えたブロードが報告に上げたわけだが、ドルナードが考えたのは別にあった。


「アルツからの道筋には兵がおかれているのだろう? なぜ、それを素通りしてやってくる?」


「あ? だから、イガリアだって言っただろ。アルツからじゃねぇ」


「……まて。ならば、南西の方角ということか?」


「そうだぜ?」


 それがどうした? と言わんばかりの態度だ。


 帝国からの南西といえば、ユミルやアグロがある場所にあたる。それならば、アルツから帝国への道筋を通らずにすむ。

 なら、モンスターの件は魔族達によるもの?

 自分達の領土において出現したモンスター達をこちらに誘導した? 少しでも疲弊させるために?

 これが続くようであり、もし徐々に数を増やされたら……


「誰かを派遣し、アグロ周辺の状況を調べさせろ。大至急だ!」


 ドルナードにしては珍しく、大声で指示を出し始めた。


「お、おい? アグロなのか? アルツじゃなくて?」


「そちらも気にはなるが、目に見える脅威でしかない。人同士の争いならば、まだなんとかなるが……いやいい。まずは、アグロだ。周辺地域を徹底的に調べさせろ。もしユミルも調べられるなら、それもだ」


 ブロードもあまり見ることのない不安に駆られるような表情だった。

 自分の知らない大問題があったのか? と思い、理由を尋ねてみたい心境になるが、


「わかった。数人を調査にだす」


「頼むぞ。最悪、この調査一つで、帝国の今後が変わるかもしれない」


「そこまでなのか!?」


「わからん。わからんが、今まで感じたことのないほどに、胸騒ぎがする」


 一種の勘のようなものが働いたのか、ドルナードの心中は落ち着かなかった。

 自らが得意とする手口。それに似た何か。

 気のせいか、ドルナードの目には、暗闇の淵から這い出てくる手が見えるようであった。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 フェルマンがコルクスへと戻り、そのままブランギッシュへと帰還。


 本来エーラムへと向かい、魔王に対して報告するべきだが、コルクスからエーラムへの直接転移はいまだ禁じられている。魔力不足による連続転移はできず、その合間を使いヒサオの家へと向かうと、ヒサオ達が家から出てくるのを見かけた。


 ヒサオは、いつかエーラムで買った民族衣装のような姿。中にはしっかりとアダマンで作られた鎖帷子をつけている。

 ミリアは、いつもの天の長衣を着用し、世界樹の杖を手にしている。ヒサオの家で寝泊まりしていたので、衣服一式を置いていたのだろう。あくまで介護のためである。押し掛け女房を狙ったわけではないはずだ。


(目が覚めたのか。ちょうどいい)


 足早に近づくと、ヒサオ達も気付いた。


「ヒサオ、久しぶりだな」


「ええ、本当に。もしかして、俺への見舞いでしたか?」


「そのつもりだったが、無駄足だったようだな」


 ヒサオと一緒にでてきた面子を見ながらいう。

 どうやら家の中にいた全員がでてきたようで、ヒサオを取り囲んでいた。


「とにかく無事でよかった。ミリアもこれで、落ち着くだろう」


「ちょっと! あんた何を!」


 突然話をふられたミリアが動揺をしだす。フェルマンをあんた呼ばわりできるのは、彼女だけかもしれない。


 ミリアの怒声をいっさい気にせず、ヒサオに視線を向けたまま、両肩にポンと手をのせ、よかったと嬉しそうな表情をみせた。

 そんな様子にミリアはそれ以上何もいえなくなったが、ヒサオがまったくの無反応なのが気に入らないのか、少し頬を膨らませている。


「それで何が原因で寝ていたのかわかったのか?」


「いえ、それがさっぱり」


 愛想笑いを浮かべながら言うヒサオの肩からフェルマンの手が外れる。


「不明なのか? だが、まあ、これで魔王様も喜ぶだろう。ついでに報告しておいてやろう」


「ん? どういう事です?」


 報告? 何のことだと尋ねると、


「そういえば、お前達の耳にもいれておきたかったのだ。少し長い話になるが良いか?」


 アルツで知った出来事を伝えようとしたが、魔王の元に向かうのはヒサオ達も同じであった。

 この事を知ったフェルマンは、ならば同じ話を2度もする必要がないだろうと、同行することを決めた。


 もちろん、アグニス夫妻は異世界亭へともどっていく。客がいようがいまいが、店を開店状態にしておかないと落ち着かないのだろう。

 そんな夫婦をむりやり引き連れてきたのはイルマであったが、当人達は恨み言を口にする気はない。彼等の食事によってヒサオは目を覚ましたようなものだから。内心では役に立って嬉しいようである。


 ヒサオ、ミリア、ジグルド、イルマ、フェルマンの5人が転移を行いエーラムへと向かう。


 小太郎が魔王に大至急伝えたいという内容。

 フェルマンが知った異世界研究の奇妙さ。

 精霊樹の呼び出しは何を意味する?

 アグロに放たれた調査員は何をドルナードに伝えるのか?


 目覚めたばかりのヒサオを待っていたかのように、全ての物事が新たな局面へと向かいだした。

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