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第186話 ユミルでの攻防戦

 一方ユミルの状況はと言えば。


「中央、出過ぎるな。右翼はもっと前に! 左翼は現状維持だ!」


 デュランの指示が次々に飛び交い、前衛を務める騎士隊が指揮に従いながら戦線を守っていた。

 クロスは中央部隊を率いる部隊長となっており、はやる気持ちの部下たちを抑えるのに苦労している。

 デュラン達が出てきた時には街の中にまで侵入されていたが、現在ではオルトナスの家がある森林地帯にまで押し返している様子。エーラムとは異なり、軍としての機能を存分に働かた結果だろう。


「これでどうじゃ!」


 ジグルドが借り受けた両手ハンマーを振り下ろし、トーチタスという亀形モンスターの甲羅に一撃を入れる。


 ガツーン!


 といったような反響音が響く。

 甲羅にはヒビ一つはいらないが、打ち込んだ先からピシピシと凍り付いていき、次の打撃で強固な甲羅が割れた。


「ジグルド殿こちらも!」


「わかっておる!」


 このトーチタスというモンスターが厄介すぎた。

 エルフ達が扱う武器の多くは剣や弓。甲羅の中に隠れられると直接攻撃で仕留めることができなくなるため、どうしても後衛からの攻撃を待つ必要があった。

 戦線を押し戻したいユミル陣営にとってみれば足止めされてしまうし、そのトーチタスに構っている間に、別種のモンスター達による攻撃が繰り出されることになる。


「ジグルド殿、今度はあっちに!」


「ええい! 魔法使い達の攻撃はまだか!」


 自分から手を貸していたジグルドであったが、徐々に嫌気がでてきているようだ。

 現在ジグルドがいるのは中央部隊。

 そこは突出している事もあり、右翼と左翼に魔法的な援護が優先されていた。

 従って、その魔法的とも思える攻撃手段をもつジグルドが、引っ張りだこ状態になっている。


「どっせい!」


 再度の氷結攻撃によりトーチタスの一体が砕かれ潰された。


「腹がへってきおった……」


 戦闘が始まってすでに半日以上。

 朝にコリンの料理を食べて以来、何も口にしていなかった。

 戦いに参加した当初は、派手な攻撃を繰り出していたジグルドであったが、時間もたち今のような状況になっている。ジグルドの腹がグゥ~~~~と鳴り出したのは無理もないだろう。


「……確か、亀肉というのは食えたな」


「ジグルド殿?」


「……焼いてみるか。案外うまいかもしれぬ」


「え? ちょっと?」


 突然なにいっちゃってんの? ここ戦場なんですが? などと思いながら、顔つきが微妙に変わったジグルドの肩に手をおく。


「あつ!」


「今のワシに触るなよ、少し離れておれ」


 言われるまでもないと、戦いながら聞いていたエルフ達が彼から離れていく。

 気のせいか、トーチタス達も短い足を動かしながら離れようとしているようにも見える。


「ぬぉおおおおおお――――りゃさ!」


「!!!」


 奇声をあげ、手にしていたハンマーをトーチタスの顔に打ち当てようとする。

 狙われたトーチタスは、慌てて手足を甲羅にひっこめた。

 ジグルドのハンマーが当たりゴイ~~ンなどという音を鳴らすが、ぶちあてたポーズのまま、ジグルドとトーチタスが固まって動こうとしない。


 数秒まつ。


 すると、ジグルドがあてた箇所から甲羅がドロっと溶け出し、中にいる亀本体が露出するが……


「いかん!」


 肝心の亀肉が内部でドロドロに溶けていた。

 とても食えるような代物ではない。


「力を入れ過ぎたか。加減がいるな……どれ、次は」


 幸運なことにトーチタスの量には困らない。何度でも実験はできよう。この機会に亀肉というものを存分に味わってやろうかと思い残っていた力を使い始めた。さすがヒサオの仲間というべきか。いや、空腹なだけなのだが。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 前線にいる騎士隊達の働きによって、後衛にいる魔法隊は安全を確保できている。

 数多くの攻撃魔法や強化魔法が前線へと飛び、モンスターの駆逐に役立っているのだが、中には回復に回っている者もいた。


 リームの弟であるヒュースもまた、その一人。


「至高なる光の祝福。《回復(ヒール)》」


 傷を負い後衛にまわされた騎士達の怪我を、次々と治療していく。

 神聖魔法による回復は怪我や病気などに役立つが、蘇生や体力回復まではできない。

 だからこそヒュースは言う。


「怪我ぐらいならなんとかなりますから、絶対死なないように!」


 言いたいことは分かるのだが、誰も死にたくて死ぬわけではないので、治療されたばかりの兵が苦笑をしつつ自分の剣を手にし前線へと戻っていった。 


 さて、そのヒュースの姉であるリームであるが、戦場へとやってきたジグルドと出会い、すでに杖を渡されていた。

 名もつけられていない杖であるが、受け取ったリームは気に入った様子。


 ただし、この場所にくるまで使われることがなかった。

 交感力が増しすぎて、最初に交感を果たした木の精霊(ドライアド)の嫉妬をかい、他の精霊達がリームの声に反応しなくなった為である。


 だが、ここは森林地帯。木の精霊(ドライアド)を扱うには最適の場所。

 手になじんだ杖を背に回し、もらったばかりの杖を布袋からだすと、ニコっとした笑みをうかべ、


「安らぎと迷いを与えしもの、汝が名は《木の精霊(ドライアド)》! 我が願いを具現せよ!」


 いつも以上の大声をあげ、手にしたばかりの杖を天高く掲げる。

 そうする必要などまったくないのだが、彼女の感性がそうさせたのだろう。

 唱え終わると、前線において変化が生じた。


「な、なんだ?」


「森が……お、おい!」


 木々が急激にざわめきだす。

 一本だけではない。

 森中にある木々が強風に吹かれたかのように騒めきだし、根を自らひきぬくと、隣接しあった他の木と枝と樹皮を融合させ大木へと変わる。さらに、その大木同士が重なりだすと巨木へとかわり、表面が怪し気に蠢きだした。


 驚く騎士隊の前に、ソレが出現する。


 巨木兵士(ツリーソルジャー)


 身の丈10mはあるであろう巨木兵士ツリーソルジャー達が、足元にいるモンスター達を蹴散らす様子は圧巻の一言。


 前線にいた騎士隊は、巻き添えを食らわぬようにと距離をおき、何事が起きたのだと背後にいる魔法隊へと目を向ける。

 それがリームによる精霊召喚だといち早く気付いたのは、杖の作り手であるジグルド。

 リームが木の精霊に愛されているのは知っていたし、もしあの杖を使い始めたら、このような現象が起きても不思議ではないと考えていた。


 ただし、予想外の事もあるのだが。


「ぬ? ま、まずい!」


 前線にいてトーチタスの調理……もとい、殲滅をおこなっていたジグルドが、突如として声をあげた。

 巨木兵士(ツリーソルジャー)達が暴れている近くに、オルトナスの自宅が見えていて、どういう理由からなのか向かって歩き始めていた。

 中には、ジグルドが帰るのに必要な転移魔法陣があるわけで、もし……


「ノォオオ―――――――!!」


 意味不明の絶叫をジグルドが上げたときには遅く、巨木兵士(ツリーソルジャー)の一体が、家に躓くような形で倒れこんだ。まるで「あ、転んじゃった。テヘ」などといった感じである。

 もちろん、無事で済むわけがなく2階部分が全壊。1階は半壊状態となってしまった。


「あっ……」


 後方で状況をみていたリームが、小さな声をあげたが、彼女が悪いわけではない。

 召喚した木の精霊に頼んだのは、がんばってモンスター達を倒してという願いだけなのだ。

 ただ、どういう訳なのか、頑張り具合が予想以上であり結果的にオルトナスの家が潰れただけ。

 決して、何かしら嫌なことをされたから、この機会に恨みを晴らそうなどとは木の精霊も思っていない……と考えておこう。


 結局戦いは夜更けまで続くことになったが、いると推測された人間達の姿はどこにも見当たらなかった。

 最初からいなかったのか、それともどこか離れた隠れていたのか、それすらも分からないまま、ユミルで起きたモンスター襲撃事件は終わりを迎える。


 ちなみに、この戦いが終わった後一つの出来事があったが、それが終わった後に、ジグルドは無事に帰れた。転移魔法陣があるのは、地下にあるのだから、損害があるわけではない。


 ただ、オルトナスの家は建て直すか引っ越すことになるだろうが……

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