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第181話 カリスとロイド

(人間を乗せて飛ぶトカゲだと? ……ふざけおって)


 竜を模したような顔をし、爬虫類特有の冷たく滑らかな肌。大きな翼を広げたワイバーンが、砦の上空を滑空している。

 人間達にとってみれば脅威に値する、竜種とも扱われるモンスターだ。

 その実態は違えど、人を乗せて飛ぶような生き物ではない。

 その異常さが、カリスを動かした。


「GARUUUUUUUU!」


「雑魚はひっこんでおれ!」


 ワイバーンに体を向かせた瞬間、グルフォン種が襲ってくる。

 精霊樹や地上に攻撃を加えていたグリフォン達が、次々とやってきて、徐々に面倒さを感じてきた。


「ええい!」


 埒があかんと、大きく息を吸い、一点集中させたブレスを吹き出す。火炎を吐き出しながら横へと動かすと、扇型をした火の花が青空の中に描かれた。


「フン! ……さて」


 ジロっと目標のものをみる。

 黒雲だったモンスターの群れは散らばりはじめ、そのうちの数体がワイバーンを守ろうと襲ってくるが、なぎ倒しながら近づいた。


 そしてついに、ワイバーン達が動きだす。


「UGYAAAAAAAAAAA!!」


「GURUUUUU!」


 数体いるワイバーンのうち、2匹がカリスへと襲い掛かるが、


「吠えるな、トカゲが!」


 左右に別れ、同時に襲ってきたワイバーンの頭を、両手でガシっと捕まえ握力のみで潰す。


(まったく、飛竜王の血を受け継ぐなどと、誰が言い出したものやら)


 こんなトカゲ達に対して、知らなかったとはいえ、その名を使ってほしくないとカリスは思う。

 かつて天空の覇者といわれた飛竜王は、カリスの前代である竜王と一騎打ちをしている。

 この話は、前代から幾度と聞かされたことであり、特別な記憶だという事が伝わってきた。

 カリスは、何が嬉しいのか分からないがと、黙って聞いていた記憶がある。

 なぜ何度も同じ話をするのか?

 その理由を知ったのは、ロイド=ウィスパーとの戦いを経たあとだった。


 銀毛の獣人にして、テラーの父親。

 獣人たちがアグロに攻めてくることは、珍しいことではない。

 だが、その時ばかりは違っていた。


 軍を率いたロイドは、カリスとの一騎打ちを所望。なにをトチ狂った事をと、その時は思った。

 すこしばかり顕現してやれば、恐怖によって軍は瓦解するだろうと思い、ロイドの前で今の姿を見せた。


 だが、ロイドは恐怖に怯えるどころか、喜々とした顔を向け、懐から出した石を頭上高くかざす。

 石に蓄えていた力を開放したロイドは、その肉体を変質させ巨大な銀狼へと姿を変えた。


 疾風ともいえる速度。

 竜の鱗も、ものともせず貫く強靭な牙。

 口からは氷のブレスをはきだし、カリスの炎すら凍てつかせる。


 人外の戦いと呼ばれるものを、見せつけられた部下たちは一歩も動かず、その戦いが終わるのを待った。

 カリスと互角に戦う相手なぞ、それまでいなかったこともあり、戦いが進むにつれ彼の中で、味わったことのない高揚感が湧き出る。

 唯一、ロイドができない空を飛ぶという利点を生かし、攻撃をすることも出来たであろうが、カリスはそれをしなかった。


 竜王としてのプライドではない。

 相手と同じ場所で戦いたいと望んだから。


 勝敗が決したのは、ロイドに許された時間が切れた事による。

 石に蓄えていた力がきえ、戦いは終わりを迎える。

 ロイドは命ごいといったものはせず、ただ頭をたれ竜王の采配をまった。

 カリスはこの時、自分が味わった高揚感をもう一度味わいたいと考え、ロイドとその部下たちを見逃した。


 これが、カリスとロイドが戦った結果であり、その決着はつかないまま、ロイドの死という終わりを迎える。


 だから分かる。


 前代が飛竜王と戦ったことを、なぜ誇りとしたのか。

 その話を何度も自分達に聞かせた理由を。


 竜王カリスにとって、飛竜王の名は、軽率に扱われてほしくないもの。

 それは、自分の好敵手であったロイドを侮辱されたものに近いのだから。


(あまつさえ、人をその背に乗せるとは、もはや言語道断)


 襲い掛かってくる雑魚に、その怒りをぶつけるかのように、なぎはらい、焼き殺し、つかみつぶす。

 膨れ上がる殺意を胸にひめ、旋回を続けるワイバーン達へと近づいた。


 ここで、カリスは妙な事に気付く。

 なぜ、逃げようとしないのだろう?

 同じ場所で飛び続け、最初に襲ってきた2匹以外その場から動こうとしない。

 人を背にのせた2匹のワイバーンがいるが、そちらも同様だ。


 おそらく、この2人が原因で、こんな状況になっているとは察することができた。

 だが、人間であれば、恐怖に怯え撤退命令の1つもだすはず。

 あるいは、自分の近くにいるワイバーン達を動かし、カリスへと向ければいい。


 なのに、まるで動きをみせない。

 近づくにつれ、人間の表情も目にとれるようになった。

 表情から思考を読み取ろとすると、さらに奇妙な事に気付いた。


「……なんじゃこやつら?」


 目が自分へと向けられていない。まるでいないかのよう。

 2人の人間が見ているのは、眼下で繰り広げられている戦いの方であった。

 その目は、生きるという希望を失くしたかのように虚ろであり、死人を感じさせるものがある。


 試しにと、その場で咆哮を1度放つ。

 イルマの精霊憑依を打ち消した咆哮だ。

 何かしらの魔法や精霊が関係していれば、これで解けるのだが、


「かわらん? なんじゃこれは?」


 さらに近づくと、待ちきれなくなったのか、それとも本能的な恐怖からなのかワイバーン達が襲ってきた。

 それを子供でも扱うかのように無造作に捻りつぶす。

 さらに近づくと、人を乗せていたワイバーン達が威嚇の声を出すが、それ以上の行動を起こさない。


「やかましい。だまっておれ!」


 カリスは人の言葉で発した。

 通じるとは思わなかったが、声に込められた感情から察したのだろう。

 ワイバーン達が一斉におとなしくなる。

 また、同時に、それまで邪魔をしていたモンスター達も襲い掛からなくなった。


(こやつらが操っていたのは、間違いないと思うのだが、なぜワシを無視する?)


 即座に殺せる距離にいるというのに、無反応の状態。

 疑問を感じたカリスは、ひょいっと指先を動かし、2人の人間をワイバーンの背中から引きはがした。

 軽く力をいれただけで、死んでしまいそうだと考えながら、地上へと降りていく。

 その途中で体を小さくしていくが、モンスター達が襲ってくることは無く、何かの枷を外されたように散らばり始めた。


(やはりこの2人が原因か――しかし、いかにして?)


 地上にたどり着いたカリスは、2人の人間を地面におき、自らの顕現状態を解除。


 そして彼はしる。


 地上における戦闘中、ヒサオが倒れ昏睡状態になっているという事を。

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