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第180話 格の違い

 戦闘は続く。

 次々降りてくるのを手当たり次第に倒しているが数が減らない。元々の数が多すぎて減った感じがしないだけだが心が折れそうだ。


「もう、矢がないぞ!」

「私も、誰か頂戴!」

「みんな同じよ!」


 ……矢までつきかけてるのか。まだ上空高くに群れたモンスター達が大勢いるのに。

 しかし、ワイバーンとかいうやつが降りてこないな。頭上を旋回してまわっているだけだ。なんであいつらは降りてこないんだ?

 まあ、降りてこないのは助かるし、今は地上にきた連中だけを気にするか。


 地上か……なら、あの手がつかえるけど、大丈夫かな?

 ちょっとどころか、かなり不安だけど、やってみるか。

 保管術でしまってあったボーリング玉のようなものを取り出すと、少しの間で赤くなる。


 えーと……あそこがいいかな?

 右手前方にある、砦の入り口に集まりだしたガルーダ達。数にして4匹ってところか……十分いけるな。


「そこ、誰も近寄るなよ!」


「え? はい」

「なんだよ?」


「いいから! って、よし!」


 チラっと手にした玉を見たら、赤からピンクに変わった瞬間だった。

 右手にもった魔力検知珠を勢いよく投げる。見た目に反し軽いから遠くまで投げられるのがいい。

 ガルーダの胴体にドスンとぶつかったが、大したダメージじゃない。ただ怒らせただけのようで、俺の方へと獰猛な目をむけた。


「GAAAAAAAAAA!!!」


 威嚇の声をあげたが、もう遅い。


 チュド―――――――――ン!


 足元に落ちた魔力検知珠が、タインミングよく大爆発。よし、4匹まとめて仕留められた!


「……なにあれ?」

「ヒサオさん……だよな? なにした?」

「あんな道具あった?」

「また、変な事を」


 誰だ、変な事とか言った奴! そっちに投げたろか!

 ……まったく。


 何を隠そう、ボルさんが仕入れセグルで売っていた魔力検知珠は、ピンクになった後、大爆発をおこすのだ。

 本当は、ピンク>茶色>黄色になったあと大爆発を起こす。

 以前魔王様から借りた時に黄色くなった後、彼が保有する空間にしまわれてしまい、どうなったのか分からないままだった。それが気になって調べてみたら……まぁ、ああいう結果が分かったというね……

 ――魔王様の保有空間の中身が気になりはするが、考えたくないようにしている。たぶん、大丈夫だろう……とは思いたい。


 普通は赤までいくことすら珍しいらしもので、ピンクともなると異常レベル。

 茶色ともなると人外らしいが……う、うん。それはどうでもいい話で、とにかくボルさんが扱う魔力検知珠は別なのだ!


 だって不良品だから!

 だって粗悪品だから!


 その不良品で粗悪品の品も、俺にとってみれば実に有効な攻撃手段になるわけで買い占めている。

 ちなみに、すでにボルさん印の魔力検知珠は、俺の中ではバクダンと呼称ずみだ。

 というわけで、2発目いってみようか!


 再度、《魔力検知珠(バクダン)》を取り出し、どこに投げればと見れば大鷲の顔をし、体はライオンみたいなグリフォンとかいうのが、砦の壁際に集まりだしていた。

 ……誰もよらないようだし都合がいいな。

 安全を確認し、《魔力検知珠(バクダン)》を見ると、すでにピンク……って、早すぎるだろ!?


「こなくそ!」


 慌てて投げると、なぜかそこにエルフさん達が集まりだし――ちょい待てや!


「そこどいてぇええええええ!」


「え?」

「なに? あっ!?」

「やばい! にげろ!」

「一声かけてよぉおおおお!!」


 先ほどの大爆発の光景を見ていたらしく全力で逃げ出した。ご、ごめんなさい。

 そして、


 チュド―――――ン!!


 魔導砲の一発にも匹敵する爆発によって、2匹のグリフォンが血肉を巻き散らかす。慌てていたもので狙いが甘かったな。ガルーダよりも、でかかったせいもある。欲をいえば、もう少し巻き込みたかった。もちろん、エルフさん達のことではない。


 しかし、なんであんなに早くピンクになった? 急に早くなったぞ?

 もしかして、さらにひどい不良品がまじっていた?……ありえそうで怖い。他のやつ大丈夫かよ。


「ヒサオ様! 考えてください!」

「そうですよ!」

「それ駄目! 絶対!」


「……はい、すいません」


 怒られてしまった。うん。もうやめよう。


 しかし、増援が遅い。何してんだ!

 この砦に住まうエルフ達なんて100人もいないんだぞ。すでに戦死者が続出中だ。

 砦の中にはいって対処しようにも、精霊樹を守らなければならない。すでに上のほうに取り付き始めているのもいて、エルフ達による弓や魔法の攻撃によって、何とかなっている状態。

 せめて、精霊使いがいてくれれば……それだって、1人や2人じゃどうしようもないが。


「我が意思に(くう)あり。我が手に(はざま)あり。我が行く手を遮るものに、理の歪みを与えん! みなどけぃ!」


 んぁ? オルトナスさんの声だ。

 精霊樹傍にいた彼が、張り裂けんばかりの声を出した。

 彼が見る方向にいたエルフ達が、戦闘をやめ逃げ出す……なぜに?


「よし!《空間歪曲(ディストラクション)》」


 魔法か!

 突き出した手の方向にいたガルーダ達が周囲の景色ごと歪み、グシャッと……

 すげぇ!?

 オルトナスさんが空間魔法の使い手なのは知っていたが、攻撃系としても使えるのか。


「師匠、大丈夫なんですか?」


「うむ。この魔力量。回復が普段と段違いじゃ。魔法陣を描いた分がもう回復しおった」


 オルトナスさんの横にいたミリアが心配した声をかけている。

 そういえば、あの転移魔法陣って描くだけでもけっこうな魔力を消費するんだったな。

 でも、あれだけの魔法を放てるほどに、すぐに回復できる? ってことは、魔法を乱発できるってことか?

 精霊樹の異変が、俺達に味方してくれているって感じか……なら、魔法の連発ができそうだな。


 俺同様、オルトナスさんとミリアの話を聞いていた奴らが、どんどん魔法をつかいだす。

 矢が尽きた連中も魔法にきりかえ、砦の中でモンスターの死体ができていく。

 ただ、それはこっちも同じで、被害者が増えるのが止まらない。


 それに精霊樹。

 しだいに取り付く数が増えていっているな。

 地上と精霊樹。この2つを同時に攻撃されている状態で、いったいどうしたらいいんだ。

 砦本体も壊されはじめているし。負傷者が逃げ込む場所も危険になるぞ。


「ヒサオ! もう一度、通話じゃ! カリスの爺め、遅すぎる!」


「分かりました!」


 オルトナスさんのいう通りだ。すでに設置が完了してから10分以上は立っている。いいかげん誰か――――きた!!

 魔法陣の上に、鉄鎧に身を包んだ、竜人さん達が5人出現。


「こ、これは! みないくぞ!」

「「「「おぉおおおお――――――!」」」」


 一瞬、驚いた様子であったが、出現した5人の竜人達が剣を抜き走り飛び立つ。

 さらに、その5人が消えたあと別の5人が出てきて、これまた同じく手近なモンスター達に襲いかかった。


 さらに、魔法陣が反応……って、カリスさん!?


「爺! 貴様もきおったか!」


 オルトナスさんが、喧嘩でも売るかのように言う。

 普段と同じく、鎧というものは来ていない。

 ふわっとした長衣姿で、顎にはえた髭をさわりながら、爬虫類のような目を空へと向けている。


「ヒサオの様子がおかしかったからの。しかしこれは……来て正解じゃったな」


「アグロはいいのか?」


「少しだけなら大丈夫じゃろ。お前達。ワシのことは気にするな。思う存分戦うがよい」


「「「「ハッ!」」」」


 カリスさんと一緒にきた、竜人4人がバッサバッサと翼を羽ばたかせ、精霊樹にとりついていたモンスターたちを駆逐し始めた。


「まだ増援はくる。手当たりしだいに集めたからな。しかし、なんじゃこの群れは? ここまで多数のモンスターが種類関係なしに集まるとは聞いた事もないぞ」


「ワシも同感じゃが、今は、そうも言っておれん。カリス、頼めるか?」


「ちと多いの……若いころならいざ知らず……まあ、やってみるか」


 何を? と思い見ていると魔法陣から出てきて、グっと体に力をいれていく。

 瞳孔が薄れ、次第に体が大きくなり長衣が破れ青いウロコが露出。

 さらに大きさがまし、8m前後まで巨大化。

 そこにいたのは、まぎれもなく青いドラゴン。

 目に宿っていた理性的な光はきえ、凶暴性を垣間見せる。

 背中にあった翼を一度羽ばたかせあたと、


「オルトナス。ワシは、あの群れをやる。砦のことは任せるぞ」


「わかった。それとミリア。強化を」


「はい師匠」


 返事をしたあと、世界樹の杖を竜王とかしたカリスさんにむける。


「《防御増幅(プロテク)》。《敏捷性増幅(クイック)》。《攻撃力増幅アタック》」


 3種の強化魔法。個人バージョンを与えると、


「ふむ。多少は若返った気分じゃ。すまぬな」


「いえ、よろしくお願いします」


「では、いくぞ。少し離れろ」


「は、はい」


 慌てて、周囲にいた者たちが離れる。

 翼を羽ばたかせると、周囲に土埃を発生させた。

 その場でホバリングのような状態になったかと思うと、ブンと大きく翼を動かし、空高く舞い上がった。

 向かった先は……雲のように密集していたモンスター達……いいのか?


「大丈夫なんですか? 相手も結構大きいのがいますよ?」


「問題なかろう。竜と並みのモンスターとでは格が違う。あやつが竜王などと呼ばれている理由を見れるじゃろ。もっとも、ワシ等に見ている暇があればの話じゃがな。ほれきたぞ!」


「ああ、ミリア俺達にも!」


「そうね!《全体防御増幅(オール・プロテク)》。《全体敏捷性増幅(オール・クイック)》。《全体攻撃力増幅オール・アタック》」


 周囲で戦い始めていた竜人達にも、効果がでて一斉に気勢があがる。

 俺も剣をかまえなおし、戦場へと身を躍らせた。

 やってやらぁ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(ひさしぶりじゃの。1人で戦うのは)


 青竜となったカリスは、単身で群れの中へと突っ込んでいく。


「GRUUUUUU!」


「GYAAAAAAAAAA!」


「GUOOOOOO!」


 次々にカリスへと襲い掛かり、彼へと攻撃を開始するが、爪も嘴もカリスがもつ鱗にはじかれた。


(そんなものか。数ばかりそろえおって)


 腕をふり口から炎をはく。

 焼かれたガルーダを地上へと落ちる前につかむと、がぶりと噛み千切った。


(焼き鳥もたまにはいいの)


 もぐもぐと数回かんだあと、ごくりと飲み込むと、ポイっと手をはなし地上へと落とした。


 怒りを露わにした同種のガルーダ達が襲ってくると、その場で一度羽ばたき、さらに上空へとカリスが飛んでいく。逃げたと思ったモンスター達が追いかけるが、少し距離が離れたと見るや、


「愚か者が!!」


 大きく息を吸い、まるでレーザーのようなブレスをつられたモンスター達に放った。

 それは火炎の息を一点集中したものにすぎない。

 それを、棒のように細くなった群れに向け放ったのだ。

 一本の火柱が空中にて描かれ、綺麗に散っていく。


「わっはっはっは! 甘い、甘いぞモンスターどもが!」


 竜としての口から大きな声をだしながら急降下。


(たぎ)る! 竜の力、思う存分、味わうがよい!)


 身をもって力の差を知るが良いとばかりに、カリス1人による戦いが始まった。


 腕を一振りすれば、手直にいた哀れな鳥たちが地上におちる。

 人間サイズのハーピー達など、近づくどころか、怯え殺されるのを待っているかのようだ。


(グハハハハハハ! 楽しい! 楽しいぞ! 貴様ら! もっと、ワシを楽しませろ!)


 ミリアの強化魔法の影響なのか、それとも竜王顕現した影響なのか、カリスは若いころを思いだすかのように、その力を惜しみなくふるった。

 そこにいるのは、一匹の暴君と、狩られる為に存在している獲物たち。


 腕をふるい、火炎をはき、しっぽを叩きつける。

 それだけで、空にあった黒雲がうすれていく。


 3m。あるいは4,5mの体躯のモンスター達。かたや8m前後の竜王。

 体躯でいえば負けているが、たかが2倍程度であれば、一斉にかかれば落ちないわけがない。

 なのに、まるで真逆の現実をモンスター達は見せつけられていた。


 攻撃を加えようと近づけば、爪を振り下ろされ、背後をつこうとすれば、しっぽを叩きつけられる。かろうじて攻撃が出来たかと思えば、鱗によって遮断され生きたまま捕まり食われる。

 距離を置けば火炎のブレスが飛んでくるという光景を見せつけられていた。


 たかが2倍程度の一匹。

 なのに、その身に秘めた力の差が大きすぎ、恐れを抱かずにはいられなかった。


 モンスター達は見る。

 空を飛び交う怪鳥類達は、恐れ抱いたことによって見てしまった。

 その視線が集中したことによって、カリスもそちらへと目を向ける。


(そういう事か……)


 群れから離れ、砦上空で旋回し続けるワイバーン達。

 かつて存在していたという飛竜王の血筋を受け継ぎしモンスター。

 そういわれ続けているが、その実態はまるで異なる。


 翼をはやした知性なきトカゲ。

 カリスが守っている若い竜人達とはわけが違う。

 竜の血なぞ一滴たりとも受け継いではいない。


 群れからはぐれ、ただ旋回し続けるトカゲを、カリスは無視していた。

 戦うにも値しないと決めつけ、より楽しいほうを選んだだけ。


 だが、そこに。


(頭がいるのなら別だ)


 ワイバーンだから見たのではない。

 怪鳥たちが視線を向けたのはそれが理由ではない。


 カリスは、ワイバーン達をこの時初めて注視した。

 そして、彼は知った。

 ワイバーンの背にのる、2人の人間の姿を。

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