第177話 完成の宴
――ブランギッシュの城建築現場
「でてきたぞ!」
ブランギッシュの城建築現場において歓喜の声があがると、その場に集まっていた皆が、城の門前へと視線を一斉に向けた。
すでに外見は出来上がっていて残すは内部のみ。そして本日、完成予定であり、中にはいっていた作業員がでてきた所となる。
陽が落ち、そろそろ晩飯の時間だというのに、誰も帰ろうとしない現場前。
そんなところに戻ってきた作業員たちの1人が、
「できたぞ! 完成だ!」
歓喜の声を上げた瞬間、皆が大声で叫びだした。
「うぉおおお―――――!」
「やったぞ!!!!!」
「よっしゃ――――!」
「祭りじゃぁああああ――――!」
「酒樽をあけろぉお――――!」
「祝い酒だぁあ―――!」
「あ、酒はちょっと……」
「誰だ! 祝い酒を飲めないとかいうのは!」
「ふざけたやつだ! それでもブランギッシュの住人か!」
「こいつだ! こいつ! 人間のくせしやがって!」
といった声がした途端、俺に注目があつまる……酒が飲めなくてすいません。
「おい! ヒサオ様じゃねぇか!」
「お前、ちょっとこっちこい! ヒサオ様をこいつ呼ばわりとか、教育がなってねぇ!」
あ、まって! その獣人さん悪くないから! 悪いの俺だから! どこ連れていくつもり!
手をあげ、止めようとした俺の肩にポンと手でも置かれた感触があって、振り向くと、
「ヒサオ。お前、まだ酒がのめねぇのか?」
イルマが、実に楽しそうな顔を見せて立っていた。
「……やめろよ。あの悪夢はもう嫌だからな?」
大森林跡地での宴の時はひどかった。
こいつと、馬野郎。それにゼグトさんまで加わり、力任せに飲まされた。
次の日は……ウッ!
「飲んでもいねぇのに!」
「思い出したら気分わるくなった。帰るわ」
「させねぇよ! おい、おめぇら!」
「「「「「へい!」」」」」
周囲にいた、作業員A-Eの方々が俺を取り囲んだ。
ヒサオは逃げられない。
などといったメッセージでも流れるような状況になり、あ――な展開に……なってたまるかよ!
保管術を発動させ、中から金貨のはいった小袋を取り出し、紐で結ばれた口を開けた。
「お、おまえ!」
「一度はやってみたい事その1つ!」
おりゃぁああ! と叫び声をあげ、小袋を宙に投げると中から金貨がバラバラと落ちる。
「か、金だ!」
「ひろえ!」
「それ俺のだからな!」
「踏むな!」
「いてぇええ! 誰だよ!」
「まてまて、落ち着け!」
「そういいながら、拾ってんじゃねぇよ!」
カオスだ。
なんか囲んだ人達以外のもいるが、気にしないでおこう。アディオス!
金貨を拾い集めている人々を余所に、その場を去ろうとするが、俺の前にイルマが先回り。あ、くそ!
「甘いっての」
「あ、イルマ、奥さんがきたぞ!」
「な、なに!?」
いるわけがない。というか、俺も顔を知らない。
注意がそがれた瞬間、その横を通りぬける。やったぜ、どっちが甘いんだが!
と、考えた瞬間が俺にもありました。
「あっ」
通り抜けたはずの俺の足が宙にういてプラプラ。
首根っこをつかまれ後ろから持ち上げられています。
「だから甘いって。まだまだ修行が足りねぇな」
「……しっかり引っかかったくせに」
「う、うるせぇ!」
こうして、俺は悪魔の宴に招かれました……トホホ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
酒というのは、人間を狂わせる。
それは、人間ばかりではなく、獣人や亜人達も一緒なのだ。
なぜ、そこまで飲みたがるのか、俺には皆目分からないわけだが……わけだが……ゴクリ
「いただきます!」
我慢しきれず、たき火によって焼かれた、ラクセイ肉の串焼きに手を伸ばす。
人を狂わすのは酒ばかりではないのだよ。
「あっつ!」
「アホか」
当たり前なことだが、いくら木製の串とはいえ熱いものは熱い。
だが、そんな事はどうでもいいのだ!
眼前がからただよう串焼き肉の匂いに耐えられる若人がいるだろうか! 否だ! 断じて否だ!
ガブリとかみつくと、懐かしき味わいがする。
こっちの世界にきたとき、最初に食べた肉がこれ。
肉を食べた! という満足感を与えてくれる歯ごたえとボリューム。
脂身が多い肉というのもいいものだが、俺はすぐに飽きてしまう。個人的には赤身肉のほうが断然良い!
「おめぇ、そこまで肉が好きだっけか?」
食している最中にイルマに尋ねられ、肉を口にしたまま、うんうんと頷いた。
魚と肉といわれたら、魚のほうが好物ではあるが、肉もまた好物だ。
「まぁいいが、宴の席で肉ばっかりというのは駄目だろ。酒ものめよ」
「断る!」
ごくりと肉を胃に通したあと即答すると、イルマの眉がピクピクと動いた。
城の建築現場前が、そのまま宴の席となり、あれよこれよと思っている間に、たき火を囲んでの宴が始まったわけだが、どこから嗅ぎつけたのか、その場にいなかった連中までいる。
そんなわけでテラーやミリアもいて、今はお代わりとなる、つまみを取りに行ってくれている。
オッサン?
たぶん、どこかで飲んでいるだろう。
さっき、コリンとヒガンを連れてきたのを見たし。
ところで、ヒガンちゃんを連れてきていいのだろうか?
まさか、もう酒飲みの英才教育でも? ドワーフ半端ねぇ……
「しかし、おめぇ。こんな場所でもカプティーはないだろ?」
「フッ。塩焼きにはこれがいいんだよ。消化を助けてくれるからな」
「ハァ……酒の楽しみ方を知らないとか、人生を損してるぜ」
「ほっとけ。俺の人生だっつうの」
ネギが挟まった串焼きを一本食べつくすと、カプティーをゴクリと口にいれた。
ふー と一息ついたあと、完成したばかりの城に目を向けた。
「……なぁ、イルマ」
「なんだよ?」
「前から気になってたんだけど、あの柱模様の壁ってなんなんだ?」
「あれか……まぁ、ちょっとした願いのようなもんだ」
「願い?」
左右の端から中央にいくほどに高さを増していく柱が願い? なんだそりゃ?
「何かの願掛けか?」
「そんなところだな。おめぇは、柱で背丈を測ったことねぇか?」
「あるな。よく、ジイちゃんが線をひいてくれてたよ」
「そうか……」
「ん? どうした?」
急にしんみりしたな? 自分で言いだしておいてどうしたんだろ?
「ハァ……まあ、酒の席で言う事でもないが、俺達獣人っていうのは、ずっと人間達に奴隷や道具のように扱われていたわけだ」
「……ああ」
そういう事が関係しているのか? 目の前で焼かれている串焼きの匂いが、急に落ちた気がした。
「中には家族なんてものを知らない奴らだっている。そういう奴らは、柱で背丈を測ったような想い出もねぇわけよ」
「……」
「俺やエイブンは、テラーの親父さんがいたから、そういう想い出もあるが……まぁ、そういう意味もあって、柱模様にしてみた」
「話がとんだな!」
「わかれ!」
「わからん!」
とはいうが、なんか意味あいは分かった。
ただ、それを言葉として出すのは難しいものがあるな。気持ち的な意味合いは分かったけど。
こいつ、急に恥ずかしくなって言うの止めただけじゃないか?
「もってきたわよ」
おっと、テラーとミリアがお代わりとなる、串肉セットをもってきた。
イルマにひょいひょい渡して、地面に突き刺していく。
イルマの隣にテラーが座り、俺の隣にミリアが座る。
「イルマ、私にも一杯ちょうだい」
「私にも一杯お願いします。少しでいいですよ。弱いので」
「おお、飲め。そこのアホたれは、肉ばっかり食ってつまんねぇんだよ」
俺へと爪先を向けるな。それに肉だけじゃねぇし! 間に挟まっているネギや玉ねぎも食べてるぞ。
「ヒサオ。まだ飲めないの?」
「飲めないわけじゃない……」
馬鹿にされた気分を覚え、前回の出来事をミリアに教えた。
「なるほどね。でも、お酒っておいしいわよ?」
「うーん……まぁ、美味いらしいな。ジィちゃんもよく晩酌していたし」
死んだジィちゃんが、どうやって飲んでいたのかを思い出す。
よく、バァちゃんが作っていた酒盗とかいうのを食べながら日本酒を飲んでいたな。
酒のほうには興味がなかったが、酒盗のほうは気になって食べたことがあるが、生臭いだけだった。
これがいい。とジィちゃんは言っていたが、俺には全く分からないままだったな~
他には……ああ、鮎の塩焼きを食べながら、焼酎とかいうのを飲んでいたな。
鮎のほうは好物なんで、出るたびに横から箸をのばしてつまんでた。
酒か……これもまた、料理のように組み合わせによって変わるのかな?
串焼きだとどうなるんだろ? ちょっと一杯だけ試してみるか?
「イルマ。気が変わった。俺も一杯だけくれ」
テラーとミリアの分を用意したイルマに言うと、俺へと嬉しそうな感じで猫目をむけてくる。
「てめぇ、ミリアに言われて方針変えか! この野郎!」
「は? あ、いやそういうわけじゃなくて、ジィちゃんのこと思い出しただけだ。いいから、一杯よこせ」
「ちょっと待ってろ。ほれ。獣王の手酌だぞ」
「まだ正式じゃないだろ。城も完成したし、建国式を早くやれよ」
「わかってるって。明日には告知して、それから……テラーいつだ?」
「……一週間後ですよ。あれほどいったじゃないですか」
「ああ、そうそう。そう言う事だ」
「……テラーも大変ね」
「もう、ほんとに。エイブンがいると、さらに大変になるんですよ」
「う、うっせぇ!」
談笑を始めた3人をよそに、注がれた酒の匂いを軽く嗅いでみる。
ふーむ。前に飲んだ獣王殺しとかいうやつや、夢女とかいうやつより匂いが弱いな。また別物か?
嗅いでいても仕方がないな。どれ……ん?
「水?」
会話をしている3人が、声に反応し話をとめた。
「水か……まあ、そう思うかもな」
「ですね。これは飲み口がすっきりしていますし、結構危険な気がします」
「冷で飲むからかもね。ちょっと温めたほうがヒサオには分かるんじゃない?」
ん? 3人はまた違うのか? 俺には匂いが無ければ水にしか思えないんだけど。
「俺のだけ違うとか無いよな?」
「ねぇよ。同じもんだ。見てただろ」
「だよな……」
こういう酒もあるのか。前に飲んだ奴は、ちょっと甘辛かったきがするが。
うん。でもこういうのなら俺でもいけそうだ。串焼き肉の塩辛さともあいそうだ。どれ、もう一つ……まだ生焼けだった。水みたいな酒でも飲みながら待つことにするか。
グイっとコップを高くして、残っていた分を飲み干すと、胃の中に熱を感じた。
「うーん……よくわかんね。イルマ、もう一杯」
「お、おう。あまり一気にいくなよ?」
「んあ? なんで?」
「……いや、いい。ほれ」
トクトクと俺が差し出したコップに酒が注がれていく。
ラベルをみようとしたが張られていなくて、なんという名前なのか分からない。
ちょっと鑑定してみよう。
カスミ
黒曜米を原料に作られた酒の1つ。
精米という手段を知った酒職人が試作品として作ってみたもの。
現在は、ブランギッシュの一部でしか知られていない。
購入 販売はされていないため、酒造元と直接交渉する以外手段はなし。
用途 飲んで楽しむだけのもの。
備考 水のようなスッキリとした飲み口と、臭みの少ない匂いが特徴。
最初に飲んだ職人が、霧をイメージしたため、この名前が付けられた。
ただし度数は平均的な高さであるため、注意が必要。
度数ってなに?
わからないんだけど、そこの意味も鑑定してくれないかな?
「お、おい」
「ん?」
「ヒサオ……ちょっとまた……」
「なんだよ?」
「飲んじゃいましたね」
「あ? ……あぁ、これか」
注がれたばかりのカスミとかいう酒を、鑑定している最中に飲みほしてしまったらしい。
ツマミがないのが悪い。串焼きは……お? 端にあるのが焼けたみたいだな。どれ。
手を伸ばし取ったあと、酒が無いと気付き、
「イルマ」
「……いいのか。これ?」
「いいから、早く」
何を躊躇しているのか分からないが、早くしてくれ。この串焼き肉との組み合わせを試してみたい。
差し出したコップに酒が注がれていく。黒曜米が原料とかでていたが、この場合は透明になるんだな。どうやって作ってるんだろ?
「俺は悪くねぇからな?」
「なに言ってんだ?」
意味がわからないが、ほっとこう。
まずは肉を頬張り……
うん。この肉汁が口の中でジュワーと広がるのがまた。塩もちょうどいい加減だ。
ここに、カスミとかいう酒を入れてみると……ほう!なんだ、急に酒の味が口の中で広がったぞ。
ミリアがいっていた、温めると分かるってこういうことか? これはこれで、面白いな。
「うんうん。いけるな」
続いて飴色に焼けている玉ねぎをほおばり、酒を……うーん、こっちは今一つ。
じゃあ、ネギは……なかなかどうして、いいね~ ネギと酒の匂いが鼻から出ていく感じがする。
ガツガツ食べて、グビグビ飲む俺を3人が不安気に見ているがどうしてだろ?
「イルマ、そろそろ……」
「あ、ああ。でもよ……」
「私は知りませんからね。注いだのはイルマですからね?」
「テラー!」
なにいってんだ? 美味いは正義なんだぞ。正義に抗うのは悪いことだ。だから俺は飲む。
「誰も食べないのか? なら、俺もう一本もらうぞ? イルマ、もう一杯くれ」
「はや!」
「ヒサオ。もうちょっと飲む速度緩めたほうがいいわよ?」
「へ? そう? んじゃもうちょっと………」
といいつつ、俺はこの後も、飲み食いを重ね、色々なことを口走ったらしい。
らしいというのは、この先の記憶がアヤフヤで、何を言ったのかさっぱり覚えていないからだ。
気付いたら家のベッドに横になっていて、玄関を開けたら吐いた後があった。
誰だ! こんなことをしたやつは! と、後でイルマに聞いたら、俺がやっちまった後でした。
酒怖い。飲みすぎ駄目。絶対。
ヒサオ:ところでエイブンがいなかったけど、どうしたんだ?
イルマ:そういや、いなかったな。テラーがいるのに。
ミリア:言われてみればよね。テラー知らない?
テラー:さぁ? 数日前から見ていませんね。いい相手でもできたのではないでしょうか?
イルマ:……それ絶対、本人の前でいうなよ? いいな?
テラー:え? え? なぜ? どうして皆さん、そんな白い目で見るんですか?




