第172話 リームの感覚
リーム=カイベル
ユミルの騎士団の1人にして、数少ないエルフの精霊使い。
桃色の髪と瞳をし、若干丸みがある顔をした少女。弟であるヒュースとは双子であるが、姉として支えるのではなく、むしろ甘えることが多い。
普段は片言喋りをするが、いざ精霊に対して問題が発生すると流暢に話だす。そうなると危険だと弟のヒュースが言っていた。
精霊暴走。それを、リームは起こしてしまうらしい。
この言葉は、ユミル住民たちに忌まわしき過去を思い出させる。
エルフ達の中に精霊使いが少ない理由の一つがこれだ。
メグミによって引き起こされた大災害は、当時を知るエルフ達の心に、根強い恐怖を残したままでいる。
当時の事を知らない、リームのような若い世代にとって、精霊との交感は楽しいものでしかなかった。
いくら止められても、一度覚えてしまえば、そうそう忘れることができないし、魔法を習得するより手軽。なにより友として語り合うことが、出来るのだから。
その覚えるということにかけて、リームは他者と大きく異なった面がある。
彼女は誰にも教わっていない。
師と言えるものもいなく、子供が手足の動かし方を覚えるように、精霊を友としてしまった。
初めに接触したのは、木の精霊。
リームいわく、向こうから話かけてきたというが、それをできる感覚を有していたからであろう。
これを知ったミリアは、リームに目をつけていた。
彼女なら、自分が世界樹に選ばれたように、精霊樹に選ばれるのでは? と。
今はまだ年若いこともあり、力不足なのかもしれないが、ジグルドが作るという武具を身に着ければ、あるいは?
そうした願いを込めて、ミリアはリームの元へと仲間たちを案内した。
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「あれ、この子は?」
城にきた俺達の前に、リームという子がいる。
顔とどうよう可愛いらしいデザインの服装姿。両手で握りしめている杖は、綺麗に磨かれた棒のよう。先端についている紫の宝石がなければ杖だとわからないだろう。
「久しぶりね、リーム」
「うん……久しぶり……帰ったの?」
「そう言う訳じゃないわ。ちょっとあなたに、会いたいっていう人を連れてきただけ」
「会いたい?……リームに?……なんで?」
分からないようで、杖を握ったまま顔を横に倒した。
「会いたいのはワシじゃ。ふむ? 年若いの。ミリア、本当にこの子で良いんじゃな?」
「ええ。それで、どう?」
「しばらく、話をさせてくれ」
その場で膝を曲げ態勢を低くする。目線をリームと合わせながら尋ねた。
「ということらしいけど、リームいい? 駄目なら、遠慮なく言って良いわよ」
「別に……いい……爺ちゃん……優しそう」
優しいといわれオッサンが動きを止めた。年甲斐もなく照れているようだ。
「すまんな嬢ちゃん。ワシはジグルドという。見ての通りドワーフじゃ。こやつらと一緒で、こことは違う世界からやってきた」
「うん……聞いてる」
「ミリアからか? それなら話は早い」
自己紹介を済ませた後、オッサンの質問が始まる。
「嬢ちゃんは精霊樹の事は知っとるか?」
「うん」
「では、もし、その精霊樹と話が出来るとしたら、どうしたい?」
「話?……友達……なりたい……一緒……遊ぶ」
「ほう? そうか。なるほど」
精霊樹と友達……か。この子ってそういう感覚でいるのか。
俺にとってみれば、ただの木だし、普通のエルフ達にとってみれば、大事な存在って感じだ。そんな所から違っているんだろうな。
ミリアは、どう感じて……あれ?
「どうした?」
「え? なに?」
心ここにあらずといった呆けた顔をしていたもので、つい声をかけてしまった。
「なんだか、悩んでいるっていうか、考え込んでいるっていうか……」
「少し、違うわね。初めて世界樹を見た時のこと思い出していたの」
「昔の事か。どんな感じだったんだ?」
「たぶん、リームと一緒よ。すっかり忘れていたわ」
声をだしながら、リームへと眼差しを向けている。何かを懐かしむかのようだ。
「おねぇちゃん?」
「え、あ、ごめん。話の邪魔しちゃた?」
「ううん……おねぇちゃん……いいの?」
「? なにが?」
何を言いたいのか分からなく、3人ともが返事をまつと、
「……おにいちゃん」
「今度は俺? なに?」
話がとぶな~ なんだろ?
「メ」
眉をつりあげ、ちょっと怒ったような顔を見せると、持っていた杖で俺の頭を軽く叩いた。
「あいた! なに? 俺なにかしたか?」
さほど痛くはないが、なぜに怒られる?
意味が分からずミリアを見る。彼女も意味が分からない様子だ。
「どうしたのリーム?」
「……いじめ……よくない」
は? 俺が? 誰を? ミリアをか? ますますわからん。
「私が虐められていると思ったのかしら?」
「みたいだけど、どうしてだ?」
普通に会話していただけだというのに……
意味が分からず、リームへと目を向けると、不機嫌そうな顔を向けてくる。
「おねぇちゃん……無理させる……それ駄目」
「無理?」
俺が無理させている? どういう意味だ? わからず再度ミリアを見てしまう。
「リーム、どうしてそう思うの?」
「わかる……だって……」
ジーとミリアをみながら、ちょいちょいっと手を上げ下げして、かがむようなジェスチャーをした。
「なに?」
内緒話でもしたいのか? と俺は思ったが、近づいたミリアの頭に手をのせ、
「元気だす」
ポワーンとした顔をし言いながら撫で始めた。何が起きているんだ?
「リーム。あなた、もしかして……」
「うん……がんばって」
「ありがとう。元気でたわ」
まるで分からない光景を見せつけられたが、2人の間では、会話が成立しているようだ。俺には分からないけど、オッサンはどうなんだろ? とみると、
「ふむ。リームの才能は桁違いのようじゃな。これは、心して作らんといかん。下手をしたら、足をひっぱりかねん」
「オッサン、分かるのか!?」
まさか、魔族にしか分からない会話だったのか! ここにきて、俺の通訳スキルがポンコツだと判明したとでも!
「いや、分からん」
「どっちなんだよ」
違ったようだ。通訳スキルをポンコツだと思ってすいません。
「分からん。分からんが、2人の様子を見るだけで、リームの才が飛び抜けている事だけは分かる。これは、思った以上に難しいわい」
と、言いつつ、顔が凄く楽しそうなんですけど?
ああ、俺も魔王様に言われた時、こんな顔をしたのか。なんか分かるわ。
「あ、ごめん。リーム。私とじゃなくて、ジグルドと話をして」
「爺ちゃん?」
リームが顔を動かして、オッサンの方を見た。
「いや。よい。もう十分わかった。イメージも沸いたしの。さっそく帰って作りたくなってきた」
「あら? いいの?」
「うむ。リーム、楽しみにしておれ。きっと精霊樹と話が出来るようにしてやる」
「ほんと?……嬉しい」
うわ~ オッサン断言しちゃった。それでいいのか?
でも、オッサンの高揚した気持ちに水をさすのも嫌だな。
オッサンの目的もすんだようだし、帰るか。
「ばいばい……爺ちゃん……お願いね」
「任せておけ!」
帰る間際にリームが見ていたのはオッサンのみだった。
それがなんだと言うわけではないんだが、会うたびに変な事を言われる俺にとってみれば、どうしてこうなった? と言いたくもなる。
釈然としないものを感じながら、オルトナスさんの家へ向かい歩き出す。
帰る途中、リームとの会話が何を意味していたのか、ミリアにそれとなく尋ねてみた。
「たぶん、私のことを心配しているんだと思うわ」
心配。うん、それは何となくだけど雰囲気で分かった。
ミリアの心配か……研究のこと? そんな感じではなかったな。じゃあ……
「おれ、ミリアに無理させているようなことしているのか?」
「そう…ね。たまに煮え切らない態度に我慢する事があるわ」
「え? そうだったの?」
一人で悩むことは多いけど、もしかしてそれ? ミリアの前でよくしてたか?
「冗談よ。それはもう慣れたわ」
「そうか――って、結局、俺のせいじゃねぇか!」
「あら、わかった?」
笑い声をあげながら、俺をからかう声で言う。
冗談なのか、本気なのかよくわらない。誤魔かされている気もするが、その理由がさっぱりだ。
――いかん。こういう所が悪いのか。
「ヒサオ。あんまり考えるな」
「オッサン?」
突然、前を歩くオッサンが、前を向いたまま言ってきた。
「ミリアもな」
「……わかっているわよ」
2人の会話は、リームとの時のように、俺には全く分からなかった。
……なんだか、疎外感はを感じてしまう。
会話が止まり、オルトナスさんの家につく。
そのまま転移したあと、ブランギッシュで分かれた。
オッサンは、さっそくとばかりに鍛冶場へといき、ミリアはテラーの家にかえって、きょうは休むという。
俺は――
(なんだかな~)
ちょっとした孤独感のようなものを感じて、その足で異世界亭に向かった。
気分なおしに、旨い物でも食べるとしよう。
今度は、ちゃんと味わって。




