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第172話 リームの感覚

 リーム=カイベル


 ユミルの騎士団の1人にして、数少ないエルフの精霊使い。

 桃色の髪と瞳をし、若干丸みがある顔をした少女。弟であるヒュースとは双子であるが、姉として支えるのではなく、むしろ甘えることが多い。

 普段は片言喋りをするが、いざ精霊に対して問題が発生すると流暢(りゅうちょう)に話だす。そうなると危険だと弟のヒュースが言っていた。


 精霊暴走。それを、リームは起こしてしまうらしい。

 この言葉は、ユミル住民たちに忌まわしき過去を思い出させる。

 エルフ達の中に精霊使いが少ない理由の一つがこれだ。

 メグミによって引き起こされた大災害は、当時を知るエルフ達の心に、根強い恐怖を残したままでいる。


 当時の事を知らない、リームのような若い世代にとって、精霊との交感は楽しいものでしかなかった。

 いくら止められても、一度覚えてしまえば、そうそう忘れることができないし、魔法を習得するより手軽。なにより友として語り合うことが、出来るのだから。


 その覚えるということにかけて、リームは他者と大きく異なった面がある。

 彼女は誰にも教わっていない。

 師と言えるものもいなく、子供が手足の動かし方を覚えるように、精霊を友としてしまった。


 初めに接触したのは、木の精霊(ドライアド)


 リームいわく、向こうから話かけてきたというが、それをできる感覚を有していたからであろう。


 これを知ったミリアは、リームに目をつけていた。

 彼女なら、自分が世界樹に選ばれたように、精霊樹に選ばれるのでは? と。

 今はまだ年若いこともあり、力不足なのかもしれないが、ジグルドが作るという武具を身に着ければ、あるいは?

 そうした願いを込めて、ミリアはリームの元へと仲間たちを案内した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あれ、この子は?」


 城にきた俺達の前に、リームという子がいる。

 顔とどうよう可愛いらしいデザインの服装姿。両手で握りしめている杖は、綺麗に磨かれた棒のよう。先端についている紫の宝石がなければ杖だとわからないだろう。


「久しぶりね、リーム」


「うん……久しぶり……帰ったの?」


「そう言う訳じゃないわ。ちょっとあなたに、会いたいっていう人を連れてきただけ」


「会いたい?……リームに?……なんで?」


 分からないようで、杖を握ったまま顔を横に倒した。


「会いたいのはワシじゃ。ふむ? 年若いの。ミリア、本当にこの子で良いんじゃな?」


「ええ。それで、どう?」


「しばらく、話をさせてくれ」


 その場で膝を曲げ態勢を低くする。目線をリームと合わせながら尋ねた。


「ということらしいけど、リームいい? 駄目なら、遠慮なく言って良いわよ」


「別に……いい……爺ちゃん……優しそう」


 優しいといわれオッサンが動きを止めた。年甲斐もなく照れているようだ。


「すまんな嬢ちゃん。ワシはジグルドという。見ての通りドワーフじゃ。こやつらと一緒で、こことは違う世界からやってきた」


「うん……聞いてる」


「ミリアからか? それなら話は早い」


 自己紹介を済ませた後、オッサンの質問が始まる。


「嬢ちゃんは精霊樹の事は知っとるか?」


「うん」


「では、もし、その精霊樹と話が出来るとしたら、どうしたい?」


「話?……友達……なりたい……一緒……遊ぶ」


「ほう? そうか。なるほど」


 精霊樹と友達……か。この子ってそういう感覚でいるのか。

 俺にとってみれば、ただの木だし、普通のエルフ達にとってみれば、大事な存在って感じだ。そんな所から違っているんだろうな。

 ミリアは、どう感じて……あれ?


「どうした?」


「え? なに?」


 心ここにあらずといった呆けた顔をしていたもので、つい声をかけてしまった。


「なんだか、悩んでいるっていうか、考え込んでいるっていうか……」


「少し、違うわね。初めて世界樹を見た時のこと思い出していたの」


「昔の事か。どんな感じだったんだ?」


「たぶん、リームと一緒よ。すっかり忘れていたわ」


 声をだしながら、リームへと眼差しを向けている。何かを懐かしむかのようだ。


「おねぇちゃん?」


「え、あ、ごめん。話の邪魔しちゃた?」


「ううん……おねぇちゃん……いいの?」


「? なにが?」


 何を言いたいのか分からなく、3人ともが返事をまつと、


「……おにいちゃん」


「今度は俺? なに?」


 話がとぶな~ なんだろ?


「メ」

 

 眉をつりあげ、ちょっと怒ったような顔を見せると、持っていた杖で俺の頭を軽く叩いた。


「あいた! なに? 俺なにかしたか?」


 さほど痛くはないが、なぜに怒られる?

 意味が分からずミリアを見る。彼女も意味が分からない様子だ。


「どうしたのリーム?」


「……いじめ……よくない」


 は? 俺が? 誰を? ミリアをか? ますますわからん。


「私が虐められていると思ったのかしら?」


「みたいだけど、どうしてだ?」


 普通に会話していただけだというのに……

 意味が分からず、リームへと目を向けると、不機嫌そうな顔を向けてくる。


「おねぇちゃん……無理させる……それ駄目」


「無理?」


 俺が無理させている? どういう意味だ? わからず再度ミリアを見てしまう。


「リーム、どうしてそう思うの?」


「わかる……だって……」


 ジーとミリアをみながら、ちょいちょいっと手を上げ下げして、かがむようなジェスチャーをした。


「なに?」


 内緒話でもしたいのか? と俺は思ったが、近づいたミリアの頭に手をのせ、


「元気だす」


 ポワーンとした顔をし言いながら撫で始めた。何が起きているんだ?


「リーム。あなた、もしかして……」


「うん……がんばって」


「ありがとう。元気でたわ」


 まるで分からない光景を見せつけられたが、2人の間では、会話が成立しているようだ。俺には分からないけど、オッサンはどうなんだろ? とみると、


「ふむ。リームの才能は桁違いのようじゃな。これは、心して作らんといかん。下手をしたら、足をひっぱりかねん」


「オッサン、分かるのか!?」


 まさか、魔族にしか分からない会話だったのか! ここにきて、俺の通訳スキルがポンコツだと判明したとでも!


「いや、分からん」


「どっちなんだよ」


 違ったようだ。通訳スキルをポンコツだと思ってすいません。


「分からん。分からんが、2人の様子を見るだけで、リームの才が飛び抜けている事だけは分かる。これは、思った以上に難しいわい」


 と、言いつつ、顔が凄く楽しそうなんですけど?

 ああ、俺も魔王様に言われた時、こんな顔をしたのか。なんか分かるわ。


「あ、ごめん。リーム。私とじゃなくて、ジグルドと話をして」


「爺ちゃん?」


 リームが顔を動かして、オッサンの方を見た。


「いや。よい。もう十分わかった。イメージも沸いたしの。さっそく帰って作りたくなってきた」


「あら? いいの?」


「うむ。リーム、楽しみにしておれ。きっと精霊樹と話が出来るようにしてやる」


「ほんと?……嬉しい」


 うわ~ オッサン断言しちゃった。それでいいのか?

 でも、オッサンの高揚した気持ちに水をさすのも嫌だな。

 オッサンの目的もすんだようだし、帰るか。


「ばいばい……爺ちゃん……お願いね」


「任せておけ!」


 帰る間際にリームが見ていたのはオッサンのみだった。

 それがなんだと言うわけではないんだが、会うたびに変な事を言われる俺にとってみれば、どうしてこうなった? と言いたくもなる。


 釈然としないものを感じながら、オルトナスさんの家へ向かい歩き出す。

 帰る途中、リームとの会話が何を意味していたのか、ミリアにそれとなく尋ねてみた。


「たぶん、私のことを心配しているんだと思うわ」


 心配。うん、それは何となくだけど雰囲気で分かった。

 ミリアの心配か……研究のこと? そんな感じではなかったな。じゃあ……


「おれ、ミリアに無理させているようなことしているのか?」


「そう…ね。たまに煮え切らない態度に我慢する事があるわ」


「え? そうだったの?」


 一人で悩むことは多いけど、もしかしてそれ? ミリアの前でよくしてたか?


「冗談よ。それはもう慣れたわ」


「そうか――って、結局、俺のせいじゃねぇか!」


「あら、わかった?」


 笑い声をあげながら、俺をからかう声で言う。

 冗談なのか、本気なのかよくわらない。誤魔かされている気もするが、その理由がさっぱりだ。

 ――いかん。こういう所が悪いのか。


「ヒサオ。あんまり考えるな」


「オッサン?」


 突然、前を歩くオッサンが、前を向いたまま言ってきた。


「ミリアもな」


「……わかっているわよ」


 2人の会話は、リームとの時のように、俺には全く分からなかった。

 ……なんだか、疎外感はを感じてしまう。


 会話が止まり、オルトナスさんの家につく。

 そのまま転移したあと、ブランギッシュで分かれた。

 オッサンは、さっそくとばかりに鍛冶場へといき、ミリアはテラーの家にかえって、きょうは休むという。


 俺は――


(なんだかな~)


 ちょっとした孤独感のようなものを感じて、その足で異世界亭に向かった。

 気分なおしに、旨い物でも食べるとしよう。

 今度は、ちゃんと味わって。


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