第171話 ジグルドの帰り
――ブランギッシュ
皇帝との交渉――と言えるかどうかも怪しいが、終えた翌日の朝だった。
「ヒサオはおるか?」
今の声はオッサン? 帰ってきたのか?
「はいはい。いるよ」
「入るぞ」
言葉どおり、玄関をあけてオッサンが入ってくる。
あちゃー 服が汚いな。
戻って、そのまま来たのか? 荷物を背負っているし、たぶんそうだろう。
「久しぶり。どっか言っていたみたいだけど、大丈夫だった?」
「大丈夫ってなにがじゃ?」
「いや、服がさ」
視線を服に落とし言うと、自分で見た後、今になって気付いたかのような声をだした。
「すまんすまん。いや、戻ってきたばかりでな。それより、ミリアはおらんか?」
「なんで、俺のところにミリアがいると思ったんだ? テラーの家か、研究所じゃないかな?」
「テラーの家にはおらんかった。だから、ここだろうと思ったんだが研究所かの? ヒサオ、魔力をかせ」
「最初からそれ目当てだろ? というか、オッサンなら転移できるんじゃないの?」
「いや、わけありでな。今はほとんど魔力がない。とにかく、コルクスにいってミリアと会うぞ」
「まったくしょうがないオッサンだな――って、ミリアに会うって、例の件か?」
「うむ。目途が付いた。それでじゃ。つべこべ言わんで行くぞ」
目途がついたって、もうかよ! 早いな~ さすがオッサンだ。
そうと決まれば、コルクスだな。よし、行こうか!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オッサンを連れ添って外にでると、あることに気付いた。
城が――もしかして完成したのか?
だいぶ前から、元訓練所跡地で城建築が始まっていたんだけど、初めて獣人がもてる城ということで、色々と難航していたんだよ。主にデザイン関係で。
それが、どうやら完成? したのかどうか知らないけど、外見的には出来上がったようにみえる。
中央は、西洋風の建築スタイル。とがった屋根がつけられていて、わりと見慣れた感じだ。
だけど、その左右が変わっている。
それぞれの端から徐々に伸びていく柱が並びたっている。
柱とはいったが、おそらく壁として使えるんじゃないかな? 模様的な感じになっているし。何か意味があるんだろうか? 今度誰かに聞いてみよう。
しかし、城ができたということは、いよいよ、イルマが正式な王になるわけか。あいつも忙しくなるだろうな。相談を持ち掛けても邪魔するだけかな?
「ヒサオ、どうした?」
「あ、ごめん。ほら、城がさ」
「ああ、外面はできたようじゃな。だが、中はどうかの? まだ、住めるようには思えんが」
「そんなもの?」
「さてな。ワシは巨大建築物にはかかわったことがない。むろん、そうした事が得意なドワーフもおったが、ワシ自身は苦手でな」
「へー オッサンにも作れないものがあるのか」
意外なことが分かった。オッサンなら、何気ない顔をして「ほれ」といって作ってくれるイメージなんだよな。
「色々ある。ワシのような鍛冶師が作れるものなど限られる」
「そんなものなの?」
「ヒサオも作る側の人間だろうに、わからんのか?」
「おれ?」
何か作ったか? こっちに来る前なら、夏休みの工作なんかで色々作ったけど。あれって結構好きなんだよな。
「物流を通じてアルツの人間達を変える。この事を聞いた時のお前は、物づくりの喜びをしっておる顔じゃったぞ」
「それのことか」
魔王様の命令で始めた事ではあるけど、確かに面白かった。もちろん、今でもそう思っている。
「ワシには、そうしたものは作れん。城の事も一緒じゃ」
「わかったような、わからないような」
「やれやれ。時間をつぶしとらんで、さっさとミリアの所にいくぞ」
「わかったよ。んじゃいこうか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コルクスにつくと、さっそくと研究所へとむかった。
玄関扉を開けて中へとはいると、ミリアとエルマ君に出迎えられる。
「ジグルド? 帰ってきたの?」
「うむ。つい先ほどな。目途がついたぞ」
「目途って、精霊樹の件? ――よね?」
「それ以外あるまい」
「相変わらず凄いわね。それで、どうしたの? 作ってほしいのは杖っていったはずだけど……まさか、もうできたとか?」
「そんなわけがなかろう。お主のいう、心あたりとやらに会わせてほしい」
「そういうこと。わかったわ。ちょっと待ってて」
理解したらしく、研究所の奥へとひっこんだ。
戻ってくるのを2人で待っていると、
「ヒサオさん。僕、話がみえないんですけど」
エルマ君に尋ねられ、ミリアは話しをしていない事を知った。
同じ研究所の仲間だし、別に喋ってもいいだろうと、教えてあげる。
「ミリアのやつ、そんなことを頼んでいたんですか」
「ワシも好きでやっておるし、別に構わんぞ」
「ありがとうございます」
礼儀正しい子だな~ 俺よりも年上なんだろうけど……あ、そうだ。
「エルマ君って、人間でいえば、いくつぐらいなの?」
「僕ですか? そうですね……12,3ぐらいじゃないですかね? まだまだ子供ですよ」
首を横に傾げ、あどけない笑顔を見せながら教えてくれた。
「オルトナスさんぐらいになると、見た目では分からなくなるもの?」
「はい。だいたい、25歳前後あたりから外見はほとんど変わらなくなりますよ。ええ、外見はね」
大事な事を2度いうのは、異世界でも同じらしい。
「ちなみに、ミリアはですね――」
「エ~ル~マ~」
またお約束のタイミングで、ミリアが戻ってきたな。いつもの天の長衣に着替えてきたようだ。
「ほ、ほら、ヒサオさんが気になるっていうから!」
そこで俺をだすか。気にならないといえば嘘になるけど、このタイミングで持ち出さないでほしい。
「ヒサオが? 気になるの?」
「嘘だよ。エルマ君が勝手に言ってるだけ」
「だそうよ、エルマ」
「そこは、嘘でもかばってほしかった!」
言うなり、俺の横をすり抜け、外へと走っていった。よっぽど怖いのだろう。ミリアは一体、彼に何をしたんだろう。
「まったく、あの子は」
ミリアは追いかけようともせずに、腕を組みながら言った。
「……ヒサオ。本当に気にならない?」
「ん? んー まったくっていうわけじゃないけど、ミリアはミリアだし。それでいいかな? とは思った」
そもそも、女の年齢を気にして聞くとか、そんな怖いことできません。
「そ、そう。まあ、別に言われてもよかったけどね。人間でいえば、ヒサオとあんまり変わらないと思うし」
「へ? そうなの?」
「そうよ。だいたい、17,8ぐらいかな?」
「あ、そうなんだ。ほとんど変わらないな」
「そうよ。なんだと思っていたの?」
「いや、ほら「ウッホン!」――オッサンどした?」
突然オッサンが咳をした。風邪か?
「そうした話は、2人だけの時にでもしろ。横で聞いていて、こっちが恥ずかしくなる」
突然不機嫌そうな声をだしてくる。
そんなに恥ずかしい会話だったか?
……普通だよな?




